56.引きこもり
王の言葉に皆頷くが
「大将軍、王である私にそんな目を向けるものではないぞ」
一人だけ大将軍は明らかに嫌そうな顔をしながら王を見ていた。
「ですが……いでっ」
王であるリカルドに物申そうとした彼の後頭部に隣に座っていた宰相の手の平がヒットする。ギッと宰相を睨みつけた後、イライラした様子で腕を組み口を閉じる。
「すまんな。そう苛つくな。もしかしたら今から話すことが関係しているのかもしれないと思ってな」
リカルドの言葉に皆の視線が彼に向かった。
「実はな、今日オリビア嬢を呼び出したのはこの熊男が当主を務めるガーネ侯爵家について相談事があったからだ」
「陛下!そのことは我が家の問題で……!」
大将軍が焦った声を上げるのをリカルドは右手を上げ、それを制する。
「お前が優れた軍人であることは認めるが、ドラゴンが関連することでオリビア嬢に勝るものがいるとは思えん。それに進展はあったのか?」
リカルドの問いにゆっくりと大将軍の首が左右に振られる。
何やらよくわからないが、ドラゴン関連の問題がガーネ侯爵家で起きているらしい。二人の様子を見ていればそれなりの深刻な問題のような気がする。
全然気づかなかった。訓練場にいるドラゴンたちもその辺を飛び回る野生のドラゴンたちも特に何か気にしている様子はなかったし。
それも当然のことと言えるのかもしれない。基本ドラゴンは人間のことに興味などないから。
「陛下、オリビア嬢に話したいことというのはもしやアレンのことですか?」
「ああそうだ」
うん?バリー隊長も知っている話のよう。どんな話なのだろうか。探るような眼差しをバリーに向けたオリビアの目とその視線に気づいたバリーの目がばちりと合う。
あ……
「ちょっと君たちいちゃつかないでくれるかな。ムカつくから」
「なんだレオナルド目が合ったくらいで。ああ、羨ましいのか。お前の婚約者はいつも俯いているからな。目が合ったこともないのか……実に哀れな……」
「そうですね。私の顔が眩しくて直視できないそうですから」
「そうか。お前の顔はテカってるのか」
「脂ぎった中年オヤジの父上じゃあるまいしテカってませんよ」
「親子喧嘩はあとでゆっくりなさってください」
薄暗く微笑み合いながら話を脱線していく親子を宰相が嗜める。
「……んんっ。まぁでも若いというのはいいものですな。目と目が合うだけでドキリとは……」
うちの妻は目が合えば何見てんだと不機嫌になるように……うう、と目元にハンカチをあてる宰相。
「「話を戻し……」」
オリビアとバリーの口から同時に出る言葉。気づいた二人はこれまた同時に閉口する。それに気づいたオヤジたちがニタニタと声なくニヤつく。
恥ずかしすぎる。
顔を真っ赤にしたオリビアに王はやり過ぎたかと頬をかいた後話をもとに戻す。
「オリビア嬢。そなたはこの熊男の次男であるアレンのことを知っているだろうか?」
「はい。存じ上げております。確か竜騎士団に所属している方だったかと」
あれ?
自分で言っておいてなんたが即座に首を傾げるオリビア。
アレンのことは知っている。父親譲りの赤茶色の目と髪をもつイケメンにして、高身長、竜騎士団所属、実家は権力も金も持つガーネ侯爵家というパーフェクトな男。彼は騎士としてよく功績をあげており新聞にその活躍が掲載されている。
言葉を交わしたことはないものの社交の場で何度か見かけたことがあるが、とても目立つ人だったので顔は覚えている。
そういえば……
「訓練場で一度もお見かけしたことがないような……」
そう一度も見たことがない。目立つ人だから気づかないなんてことがあるわけがない。
「アレンはオリビア嬢が聖女だとわかる1カ月程前から家に引きこもっておる」
ということはもう結構経っている。が、アレンが引きこもっているとは聞いたことがない。
「竜騎士以外の者には特別な任務についていると適当に隠しておるので現状を知っているものは多くないのだ」
なるほど。納得だと頷くオリビアにリカルドもうむと頷く。
「そしてアレンが引きこもった理由なのだが……アレンにはリョクという相棒ドラゴンがおったのだかな。訓練場から消えてしまったのだ」
「それは何かしらトラブルに遭ったのでしょうか?」
「いや、無事見つかったし怪我をしている様子も無かったんだが。問題はリョクが戻ってこないことだ」
ああ、話が見えてきた。
「リョクに嫌われたと落ち込んだアレンはショックで家に引きこもるようになったというわけだ」
なるほど。竜騎士になる人はドラゴンを愛してやまないものばかり。それは訓練場にいるとよくわかる。本当に大切に……心から大切に思っている人ばかりだから。
「相棒のドラゴンが消えるということはよくあることなのでしょうか?」
「いや、滅多にないというよりもそのようなことは聞いたことがない。だからアレンは余計にショックを受けているわけなんだが」
ジョーの件で思ったがドラゴンは気まぐれそうな印象だが認めた相手にはそれなりの情をもつ。よほどのことをやらかしたのでは……?
「……大将軍の前で失礼ですが、その……こう性根が変わられたとか……何かやっちゃったみたいな……」
「いや、何も変わらぬ良い男だし。やらかしもしていない」
今はしょげておるがと眉尻を下げるリカルド。
大将軍とバリーも特に変わった様子はなかったと同意する。
うーーーーーん……わからぬ。
「というわけで考えたところでわからぬ。であれば聞いてみようぞ。ということでリョクというドラゴンに話を聞いてきてくれぬか?」
「承知致しました」
確かにそれが早いだろう。
では解散でという雰囲気となったところで
「陛下」
大将軍が手を挙げる。なんだとリカルドが視線を向けると口を開く。
「我が娘の件はどうなさいますか?」
「「「あ……」」」
忘れていた。
執務室にいた者たちはそっとオリビアに視線を向ける。
ああ。はい。そちらも調べるなり対処しろということですね。
オリビアは出そうになる息を堪え、ゆっくりと頷いた。




