55.事情?
そのような感じで何か事情がありそうな様子だったので、大事にはしたくなかったのだが、やはり無理があったようだ。
一応化粧で誤魔化そうと思ったのだが無駄な努力で終わってしまったのですぐにやめた。それに王の呼び出しを急に断ることなんてオリビアにはできやしない。だって学園に王宮の馬車が迎えに来ちゃってたし。
そもそも同じクラスの生徒達が見ているのだから起こったことをなかったことにすることなどできないだろうと思ったオリビアは逆に堂々となんてことない顔をして過ごそうと決めたのだ。
まあ結果はこの惨事だったが。
汗を流し続ける大将軍とオリビアにかける言葉が見つからない騎士達はオロオロとすることしかできない。
誰かなんとかしてくれ!
そんな騎士達の願いが通じたのか……
「オリビア様!まだここにおられたのですか!?あっ!大将軍もこんなところに!陛下がお呼びでございます!」
訓練場に駆け込んできた陛下の侍従の言葉にビクゥゥゥと身体を跳ねさせるものあればこの事態が動くことにほっと息を吐く者あり。
前者である大将軍とオリビアは俯きがちに侍従の言葉に頷いた。
「ちょっと待ってくれ。陛下にお願いしたいことがあるんだが」
そしてバリーは侍従に近づくと口を開いた。
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「いやぁ実に面白い光景だ。そうは思わないかいバリー?」
「全く思いませんが」
クスクスと一人笑う皇太子のレオナルドにそう返すのは、オリビアが心配だから婚約者として側にいさせて欲しいと頼み同席を許されたバリーだ。
彼らが今いるのは王の執務室。
そしてその中は今異様な雰囲気が渦巻いていた。
「えー面白いじゃないか。いつもは偉そうにふんぞり返って皆に指図するオヤジ三人衆が揃って項垂れる姿なんてなかなか見れるものじゃないよ?」
ニコニコと笑みを浮かべる皇太子の視線の先には王であるリカルド、宰相、大将軍がソファに腰掛け深く項垂れていた。
「まあオヤジ三人衆がそうなる気持ちもわかるよね。何せ3人共子供が聖女であるオリビア嬢にやらかしちゃってるんだから。聖女をいじめる奴なんて全くどんな教育をされてきたんだか……親の顔が見てみたいよね。あ、そこにいた」
レオナルドのおちょくりに三人はギロッと彼を睨みつけるが楽しそうな表情を浮かべるばかりのレオナルドに効果はない。
笑顔のレオナルドと殺気を宿したオヤジ三人衆のにらめっこはレオナルドがひょいっと視線を逸らしたことで終わった。
「オヤジ三人衆はほっとくとして……オリビア嬢大丈夫かい?顔色が優れないようだが」
大量の汗はなんとか収まったものの、どんどん問題が大きくなっていることに焦るオリビアの顔は青褪めていた。
ここで言わねばやばい。どうして人とは時として言葉が出てこないのか。もう少し早く言わねばならなかったのに。
「あ……いえ、私は大丈夫なのですが……。その少々気になることがあるので聞いていただきたいのですが」
オリビアの言葉に沈み込んでいたオヤジ三人衆の瞳がぎらりと鋭く光った。
「――――なるほど。頬は張られたものの何か事情があるような気がしたと言うことだな」
オリビアからセレナとのやりとりとその時に感じた違和感について聞いた王は腕を組みながらふむ、と何やら考えこみ始めた。
「私が彼女の何を知っているのかと言われるかもしれませんが、もともとセレナ様は正義感が強く真っ直ぐな方だと私は思います」
学園でも王女であるエリザベスからの命令があった為、オリビアと積極的に関わろうとはしなかったが何かを仕掛けてくることは一度もなかった。本当にたまにではあったが大切な連絡事項などは話しかけてくることがあった。学園でオリビアが話したことのある数少ない生徒のうちの一人だ。
それに彼女が学園で王女にオリビアへの虐めをやめるように直談判している姿を何度か見たことがある。
結果としてうまくいくことはなかったし、彼女が表立ってオリビアを庇うことはなかったが、オリビアの中で彼女は正義感が強い真っ直ぐな女性という印象となった。
「ですから……ドラゴンを敬愛すると言いながら彼らを軽んじるような言い方をしたりすることにも違和感を覚えますし……。その……表情もどこかおかしくて、心の中と出している言葉が一致していないような気がしたのです」
だから、手が震えていたのではないのだろうか。
いや、それだけではない。その手の震えは何というのか……覚悟のようなものも感じたのだ。だってあんな真っ青になって今にも倒れそうなのを必死に堪えているなんて普通ではない。
そう。
「まるで自らの身を滅ぼさんとしているかのような…………」
…………………………
…………………………
…………………………
あ。
室内にいる自分を除く全ての人間が息さえしていないかと思われるほどの静けさにオリビアは気づく。
もしや――
心の中で呟いたつもりだったが口に出ていた?
恐る恐る目だけを動かし辺りを見回す。
皆目を見開きオリビアを見ている。やばい。なぜこうなるのか。泣きそうだ。
ドンッ!
「オリビア嬢。今のはどういうことだろうか。我が娘がなんだって?」
大将軍が目の前に置かれたテーブルを拳で思いっきり叩くと静かにそう問いかけた。
違う。そう言いたかったが、オリビアは口を開くことができなかった。
いつものような快活さは一切なく、背中に覇気を纏う大将軍。オリビアを真っ直ぐに見つめるその瞳には不安?怒り?負の感情といったものが渦巻いている。その圧がオリビアに向けられたものではないことはわかっている。
だが――――怖い。
「大丈夫かオリビア嬢?大将軍、私の婚約者にそのような視線を向けるのはおやめいただきたい」
そんな言葉と共に目の前が真っ暗になると共に目元に温もりを感じた。
「……すまない。オリビア嬢を責めたいわけではなかったんだが。セレナがそんなことを考えていたら……と思ったら感情が溢れてしまったようだ」
その瞬間身体に感じていた圧迫感が消える。そしてオリビアの目元を覆っていたバリーの手も離れていく。
「オリビア嬢すまなかった。なぜそう思ったのかもう少し詳しく教えてもらえないだろうか?」
再び真っ直ぐに向けられる大将軍からの眼差し。だが先程とは違い圧はなくその瞳にあるのは真剣な思いのみ。
口を開くために軽く息を吸う。
「ちょっと待った。申し訳ないが先にオリビア嬢を呼び出した理由を話させてもらってもよいだろうか」
オリビアが話そうとしたのを遮ったのは王であるリカルドだった。




