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ドラゴンの親玉聖女になりましたが今日も振り回されています  作者: たくみ


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53/64

53.苛立ち

 王都の見回りから戻ったバリーは竜騎士団の訓練場へと繋がる回廊を急ぎ足で歩く。


 今日は学園の帰りに王に呼ばれたとかでオリビアが王宮に来ると聞いている。王の元へ行く前に少しだけ訓練場にも顔を出すらしい。


 先日負った顔の怪我はドラゴンによって綺麗に治療されたと聞いたが自分の目でもちゃんと確認したい。すれ違う人々が振り返って見てくるが気にせず早足で急ぐ。


 訓練場に到着するもののオリビアの姿は見当たらない。だが騎士達が訓練もせずに何やら集まっている。サボるような者達ではないので何かあったのかと近づけば道をあけられ歩を進めたのだが、ピタリと止まる。 


 上がる腕。ブルブルと震える指先で信じがたいものを指さしてしまう。


「お、オリビア嬢……その頬は一体?」


 騎士達に囲まれていたのはオリビアだった。そして彼女の真っ白な美しい左頬にジョーのときに見たような真っ赤な手形がくっきりと浮かび上がっている。


「隊長!レディに指さしはダメっす!」


 慌てて近づいてきたジョーにぼそりと囁かれやばいと手を下ろす。


「す、すまない!」


「いえ、構いません。そんなに目立ちますか?」


 焦る自分に対してふわりと安心させるかのように微笑むオリビア。


「目立つといえば目立つが……そういうことではないだろう?」


 日に焼けた浅黒いジョーの頬についた手形はああ恋人に別れ話でやられたのかと思わずくすりと笑えるものだったが……


 オリビアにつけられたものはひたすら痛々しい。真っ白な頬に浮かぶ忌々しい手形を見ているとちゃんと消えるのだろうかという不安と誰がこんなふざけたことをしたのかと沸々と怒りがこみ上げてくる。


「痛いだろう?」


 そっと触れようと手を伸ばすが、触れれば痛みを更に感じさせてしまいそうで、触れそうで触れない距離で手を止める。


「冷やしたからでしょうか。見た目ほど痛みはありませんから大丈夫です」


 そう言って微笑むオリビアの言葉には嘘はないようだが、そのことが逆に心をざわつかせる。自分が見てきたご令嬢などはほんの少し何かに身体をぶつけただけで大袈裟に騒ぎ使用人に手当てさせるというのに。


 彼女は痛みに慣れすぎている。


「バリー隊長?」


 オリビアが怪訝そうな顔で自分を覗き込んでいるのに気づきはっとする。なんでもないと誤魔化し手を下ろす。


 今は自分の感情などどうでも良いのだ。


「オリビア嬢これは誰にやられたんだ?」


 優先すべきは事実確認だ。


「……言わないとまずいでしょうか?」


 こちらの反応を伺うかのようにオリビアが上目遣いで見上げてくる。

 

「君は聖女だ。君を傷つけたものはその責任を取らなければならない。それにその頬でここまで来たんだろう?きっと誰かが陛下に報告している」


 黙って何もなかったことになどできない。


 それに自分自身も見知らぬフリなどできない。彼女を傷つけたものを放置することなどできない。じっとオリビアを見つめるもののなかなか合わぬ目と目。


 オリビアの目がキョロキョロと彷徨う。


 ――――なぜ相手を庇う?


 無性に苛立つ。


 思わずオリビアの二の腕を両手で掴んでしまう。


 ざわめく騎士達。オリビアの目が不安そうに揺れる。


「オリ「オリビアじょーーーーーーーう!!!」」 


 !?


 彼女の名前を呼ぼうとした時に聞き覚えのある声で先に彼女の名が呼ばれた。彼女の名を叫んだものは凄い足音を立てながらこちらに向かって走ってくる。


「……大将軍」


 オリビアがポツリと呟いたので彼女を見れば、なぜかゲッとした表情をしている。


「?オリ「オリビア嬢!」」


 またか。再び大将軍によって遮られてしまった。オリビアの前でデンと仁王立ちする熊のような男――大将軍。一体何なのだ。


「オリビア嬢!誠に申し訳ない!!!」


 !?


 地面に急に膝をつき、ガバリと額を地面に擦り付けながら謝罪する大将軍の姿にその場は騒然となる。


「大丈夫ですから頭をお上げください」


 オロオロと困っているようだが、ただ一人動揺している様子のないオリビア嬢。


「そういうわけにはいかない!そんな簡単に許されることではない!!!誠に!誠に申し訳ない!!!」


 謝っているのに迫力がありすぎて若干オリビアの頰が引きつっている。そりゃあ強面の巨体のおじさんに大声で謝罪とはいえ叫ばれたら怖いに決まっている。

 

 そっと2人の間に身体を滑り込ませる。


「大将軍。オリビア嬢が怖がっておられるようなのでお立ちください。そして冷静にお話ください。少々声が大きいかと」


「あ、ああ……そうだな。ちょっと動揺してしまってな。すまない」


 そう言って立ち上がればでかいおじさんがオリビア嬢を見下ろす構図の出来上がり。立ち上がった瞬間にビクリとオリビアの身体が一瞬震えるが真っ直ぐ大将軍を見つめる。


 大丈夫だろうか?


「オリビア嬢先程聞いたのだが……我が娘が………その……そなたの頬を…………た、たたた叩いたと…………」


「なっ!?」


 大将軍の娘が犯人とは。意外な犯人に自分もだが皆驚きすぎたのか言葉が出てこない。その場はシーン……と妙な空気が漂う。


 ダラダラと汗を全身から流す大将軍。




 そっとオリビアの反応を伺えば





 こちらもなぜかダラダラと汗をかいていた。

 


 

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