47.直接対決
なぜ?なぜなの?
自分がすべきことが見えてきて、あとはジョーの問題だと良い感じで結論づけられたはずなのに。
自分は王宮の竜騎士団の訓練場に馬車で向かっていたはずで、今は王宮まであと数分という場所で動かぬ馬車に乗っている。なぜ動かないか?自分が停めるように御者に言ったから。
停めたくなどなかった。普通にスルーしたかった。だが目の前の光景をスルーするわけにはいかない。
王宮へ至る道の途中にある広場。普段であればわいわいと人がたくさんおり賑わっているのだが今は少ない。少ないというか皆隅の方であるものを遠巻きに見ている。
「その男は誰っすか!?」
ありきたりな浮気を疑う文句。
「何怒ってるの?友達よ?」
これまたありきたりな言い訳文句。
「異性の友達と腕を組んだり、抱き合ったり、く、くくく口にキ……キスしたりするっすか!?」
「普通するでしょ」
「普通するっすか?」
おい、しっかりしろ。
「そんなわけないでしょう」
気配を消すなど高度なことができるわけないオリビアは普通に馬車を降り言い争う男女の側により声をかけたのだが、言い争いに夢中になる二人は驚いたのかビクリと身体を跳ねさせる。
「オリビア嬢!?」
「あんた昨日超かっこいい男と一緒にいた女じゃない!?」
二人の男女――ジョーとその恋人は叫ぶ。
「おー本当だ。昨日カフェで隣に座ってた別嬪さんじゃん」
少し離れたところに立っていた男――浮気相手も声を上げる。
「ご機嫌よう」
そう言いつつ彼らではなく上を見るオリビアに恋人と浮気相手は不思議そうな顔をしたがジョーだけはああと納得顔だった。
上空にはジョーの相棒ドラゴンであるアオが怒りの形相で下を見ていたから。オリビアが自らの眉尻をぐっと指で下げればほんの僅かにその表情は和らいだようだがまだ怖い顔をしている。
「あんたが変なこと言ったんでしょ!?ジョーにあることないこと吹き込んだんでしょ!?」
なぜそうなる?
急に激昂し意味のわからないことを言い始めた彼女にオリビアだけでなくジョーまで訝しげな表情を浮かべる。
「いや、オリビア嬢からは何も聞いてないっすよ。ていうか今目の前でその男といちゃついてたのを見てたんすから。ちゃんと説明をして欲しいっす」
「はあ?あなただってその女といちゃついてるじゃない」
ほお。世間では名前を呼んだだけ、話しかけただけでいちゃついているというのか。
「何を言って「わかった!その女と浮気してるから人のこと疑うんでしょ!?」」
「「!?」」
思いもよらぬ言葉に思わず沈黙してしまうオリビアとジョー。だがそれがよくなかった。
「あ!黙った!図星なんでしょ!?」
「まあジョーはエリートだものね。他に女が寄ってくるのは仕方ないわ」
「ああ、あなたを責める気はないから安心してジョー。悪いのはちょっと美人だからって調子に乗って人の男を誘惑したこの女よ!あんなカフェにいたくらいだし貴族といっても大したことない家でしょ?昨日はイケメン侍らせてたし、この尻軽女が!顔に底意地の悪そうな性根が現れてるわよ!」
「いや、オリビア嬢は侯「ジョー、許さないと言いたいところだけど私が本命ってことはわかってるから許してあげる。そういえばこの前可愛いバッグ見つけてそれ買ってくれたらなぁみたいな……」
ジョーの言葉を遮り矢継ぎ早に生み出されていく醜くただ彼女が作った一つの事実もない嘘だらけの言葉。
これはもしや勢いだけで誤魔化してこちらが悪いような流れに持っていこうとしているのだろうか。
「ちょっと聞いてるの!?何か言いなさいよ!男をひっかけようとするなんてどこの貧乏貴族よ!?家名は!?名前は!?訴えてやるから!悪評ばらまいてやるから!覚悟しなさいよ!」
呆れて言葉が出ないオリビアに食ってかかるジョーの恋人。
「ないわぁ」
「ふざけてんの!?」
何か言えと言われたから思ったことを端的に一言で表したのに酷い。じゃあ……
「ジョーこの人のどこが良くて付き合っているの?」
「えっ!?」
突然オリビアから矛先を向けられおろおろと視線を彷徨わせるジョー。ごくりと唾を飲み込んだ後に口を開く。
「行きつけの飲み屋で働いていた彼女に声をかけられて、告白されて……そこの店他にもたくさんの竜騎士が通ってて、それなのに俺のこと選んでくれたのが嬉しくってみたいな感じっす……それにああして欲しい、あれが欲しい、これが欲しいって甘えられるのが嬉しくって……」
ちょろい。ちょろいぞジョー。
きっと彼女は一番落とせそうだと思ったジョーに目をつけたのだと容易に想像できる。何せあれだけ馬鹿にしていたのだから。
「あなたが何を信じるかはわからないけれど、私は昨日そこの二人がカフェでできてる感満載の話を聞いたわ」
ジョーを馬鹿にしていたことはとりあえず黙っておく。
「…………」
いきなりこんなことを言えば信じないかもしれないが、先程二人の浮気現場を目の当たりにしたジョーには信憑性の高い話だろう。
「はあ!?適当なこと言うんじゃないわよ!ただの友達よ!ていうか人の会話を盗み聞きするなんてキモいのよ!」
自分でしたこととはいえ確かにそれには同意する。でもその為に隣の席に座ったのだから仕方ないではないか。
「バリー隊長も聞いていたから尋ねてみるといいわ」
「バリー隊長も……」
「ちょ、ちょっとジョー!私のことを信じるわよね!?」
ガシッと凄い形相をした恋人に両腕を掴まれたジョーがよろける。
「いや、でも……」
「どうして恋人である私の言うことを信じてくれないの?」
まじか。
先程までの勢いはどこへやらハラハラと涙を零し始めるジョーの恋人。
怖い。
女って怖い。
先程あんな無茶苦茶理論を展開し、凶悪な面を晒したというのに涙を流せば男が言うことを信じると思っているのか。
…………と、ぞっとしている場合ではない。
「アオもあなたのことを心配していたわよ」
「アオが……?」
ジョーの目が見開かれ揺らめく。
いける!言葉を言い募ろうとしたオリビアだったが先に言葉を発したのは恋人の方だった。
「アオって確かドラゴンよね?ジョー、今のでわかったでしょ!?この女は頭がおかしいやつよ!だって人間にドラゴンの言ってる言葉がわかるわけないじゃない!頭がイカれてる女だわ!あっちに行けっ!」
ばっとしゃがみ込み、道の砂利を掴んだかと思うと思いっきり顔に向け投げつけられた。
咄嗟に腕で顔を覆ったので大丈夫だったが――。
「ダメよ!」
「ダメだ!」
オリビアとジョーの叫び声が重なった。




