45.確定
マリンに連れてこられたカフェは貴族も平民も利用するようで賑やかだ。
貴族といっても下級貴族ばかりがいる中で上質な服、洗練された動き、何よりも圧倒的な美を持つバリーとオリビアは注目の的だった。
なんとなく視線は感じるもののそちらを気にする余裕はオリビアにはない。ちらと前を見れば優雅に紅茶に口をつけるバリー隊長の姿があるからだ。
店内に入る前にジョーの相棒ドラゴンであるアオから聞いたことやマリンが何をしたかったのかを説明をすれば「なるほど。そういうことだったのか」と納得した様子を見せていたバリー。
その後カフェに入りジョーの恋人の席にどう近づこうか考えていなかったと思ったもののラッキーなことに彼らのすぐ隣の席が空いていたのでそこに腰掛ければなぜかギロリとジョーの恋人に睨まれた。
怖……。
その後特に会話するでもなく注文した紅茶とケーキを二人して黙って食べていたのだが。
『 ちょっとオリビア!何か話しなさいよ!黙ったままなんておかしいでしょうが! 』
オリビアの足元からそんな声が飛んでくる。
もちろん声の主はマリンだ。彼女は今オリビアのスカートの中に隠れている。
わかっている。
確かに何も会話をしないのは変だ。
けれど……周囲を見回せばほぼほぼカップルで埋まっている席。その状況がなかなか緊張させるというのかなんというのか、何を話せば良いのかわからない。
“ ねぇねぇ今日も家に泊まっていくでしょ? ”
“ 今日はやめとくわ ”
“ 他に連れ込む相手がいるわけ? ”
“ かもしれないな ”
“ サイテー。でもそこが素敵 ”
まあ、隣からは明らかに男女の関係にあるであろう言葉が色々と聞こえてきているから浮気は確定のようだしちょっと……いやかなり早いがもう店を出てもいいかも――。
「オリビア嬢……仕事は慣れたか?」
「……え?あ……雰囲気には慣れたと言えますが、仕事に慣れたかと言われましても何もしておりませんので……」
急に話しかけられたものだからびっくりしてしまった。彼の前にあるお皿を見れば乗っていたケーキがなくなっている。
「オリビア嬢はいてくれるだけで十分役目を果たしている。最近のドラゴンたちの機嫌がとても良いのか色々と協力的だしな。だがあの方の命とはいえオリビア嬢が男社会で嫌な思いを感じていてはいけないというものだ。慣れてくれて嬉しいと思う」
最初はどの騎士達からも距離を置かれている感じではあったが、最近は彼らもオリビアがいることに慣れてきたのか普通に話しかけてくる。世間話はもちろんのことドラゴンに聞きたいことがあるときに通訳してくれと頼まれることもある。
「彼らからすれば私に色々と思うところがあるかもしれませんが、皆様ドラゴンに気に入られるだけあって良い方ばかりですもの。気遣って話しかけてくれる皆様には感謝しています」
そういえばこの前はたくさんお菓子を作ったからとクッキーをもらった。とても可愛らしいラッピングに驚き、騎士がクッキー?と思ったがレシピを聞いてしまう程にその腕前は見事だった。
「……まあ男の下心というものかもしれないがな」
「え?」
「いや、なんでもない」
何かぼそりと呟いたような気がしたのだけれど。バリーの呟きはオリビアの耳には届いていなかった。
“ そういえばお前騎士の坊っちゃんとはどうなってんだよ? ”
隣から聞こえてきた男の言葉に思わず指がピクリと動く。これはきっと――。
“ ああジョー?相変わらず私にメロメロよ。なんでも言うこと聞いてくれるし、欲しいものは買ってくれるし、私の言いなりよ ”
そう言った後アハハと笑う声には明らかに馬鹿にするかのような響きがある。
“ はあ平民でも金持ってんだなあ ”
“ じゃなきゃあんな馬鹿そうなガキと付き合わないわよ。ああいう素直なガキってムカつかない? ”
“ おいおい酷い言い方だな。結婚も考えてるんだろ ”
“ そりゃあお金持ってるもの。結婚した後も上手くやるわよ。鈍いから他の男と会ってても気付かないだろうし。完全に私のこと信じてるし。馬鹿男サイコー! ”
うるせえ馬鹿女と叫び水を顔にぶっかけてやる
……ことはできないので想像だけでなんとか気を収めるオリビア。そういえばきっと彼らの会話が聞こえているであろうバリー隊長はどう思っているのか。そんなことを思い前をちらりと伺えば、薄っすらと微笑んでいるのにどこか怖い。
これは怒っているのかもしれない。
は!
不穏な気配を察知し足に力を入れるオリビア。
『 グエッ……ボ、ボディに食い込んでる!ちょ、ちょちょっ!食い込んでるっつの!オリビア! 』
「オリビア嬢?マリンが呻いているようだが……」
スカートの中でオリビアの足に挟まれグルルルグルルルと呻く声がバリーにまで聞こえたよう。さっと周囲を見回せばガヤガヤと騒がしいため他には誰にも聞こえていないよう。
であれば
「お気になさらず」
秘技素知らぬ振りだ。
「そ、そうか」
そんなことはないだろうとバリーの顔は引きつっているが色々と察したのか引いてくれたよう。
「そろそろ戻ろうか」
「そうですね」
『 ちょっとぉあなた達まだなんにも進展してな……グエッ、またしまってるしまってるから! 』
これ以上ここにいない方がいいと判断した二人はカフェの外に出ることにした。
オリビアはマリンがスカートから飛び出てこないか心配だったが二度も身体を挟まれたマリンは暴れることなくオリビアのふくらはぎにがっしりと掴まって大人しくしていた。
よしよしいい子と内心頷いていたオリビアは知らない。
マリンがオリビア怖えと呟いていたことを。




