44.パパ
そういうことならばバリー隊長と共に密会現場に駆けつけたいところだが、騎士達に囲まれている中事情を説明するわけにもいかない。
ジョーは今相棒のアオと共に老朽化した家が倒壊したという知らせを受けて住民の救助にあたっているので不在。けれどここにいる騎士達に聞かれたらジョーの耳に入る可能性も高くなってしまうというもの。
可能であれば避けたい。
「あの、バリー隊長。少しお話があるのですが」
「なんだろうか?」
うむ。話を聞いてくれるのはありがたいが、場所を変える気はなさそう。少々恥ずかしい気がするが二人で話したいと直球で言お……グルリ。
うん?
えっとこれは一体どういう……
「オリビア嬢!」
バリー隊長の焦った声と表情が視界に入る。
「レイチェル!オリビア嬢を離すんだ!」
視線を少々下に向ければ腰に真っ白な鱗に覆われた尻尾がグルリと巻き付いている。なぜここに尻尾が?などと呑気に眺めていれば
「え、ちょ、うぉっ!」
足が地面から離れ色気のない悲鳴が口から漏れる。
「あ、こら!レイチェルダメだ!」
オリビアを尻尾で抱えたまま飛び立ったレイチェル。慌ててバリー隊長が手を伸ばすがあと僅かというところで人の手が届かない高さへと飛び上がるレイチェル。
『 しっかり掴まっているのよオリビア!行くわよ! 』
「ま、まままま待って!うわあっ!?」
ハイスピードで移動し始めるレイチェル。
『 何ぼんやりしてるのよオリビア。落ちちゃうわよ? 』
レイチェルとマリンの言葉に慌てて尻尾にしがみつくがいつ落ちるかと気が気でない。
「レ、レイチェル降ろして!ちょっと怖い…かも……」
『 大丈夫大丈夫 』
そう言ってレイチェルは笑うが何せ足がブラブラと宙を彷徨っているのだ。どの辺が大丈夫なのか是非教えていただきたい。
『 来たわ!ママ計画通りね! 』
『 あらあら流石バリー。必死な顔もかっこいいわね 』
は?何を言っているのか。
よくわからないながらも二頭の視線の先を見ると黒いドラゴンに乗ったバリー隊長が追いかけて来ている。あの見覚えのあるドラゴンは家に来たもののはず。
「え……まさか、バリー隊長をカフェに連れて行くためにこんなことしてるとか……………?」
『『 もちろん! 』』
満面の笑みで答える二頭に意識が遠くなりそうになるオリビア。なるべく気にしないようにしていたが……ちらと下を見ればオリビアとドラゴンを指差し騒ぐ人々。
そして後ろを振り返れば必死な形相もイケメンなバリー隊長と黒いドラゴンが猛スピードで飛んでいる。
こんな大騒ぎを起こした原因がただカフェに連れていきたいからなどとはきっと誰も思ってもいないことだろう。流石ドラゴンはやることが違うというのかなんというのか……。
『 オリビアあそこのカフェよ。ちょっと離れたところに降りるわね 』
驚きを通り越し呆れてしまったオリビアにレイチェルはそう言うと先程までの猛スピードは何だったのかと思う程ゆっくりと地面に近づくと優しくそっと地面にオリビアを下ろした。
「オリビア嬢大丈夫か!?」
足が地面につきほっとしたオリビアの前にドサッとバリー隊長が降ってくる。見事な着地をすると慌ててオリビアに駆け寄り怪我はないかと全身をジロジロと見られる。
ちょっと恥ずか『 パパありがとー! 』
パパとな!?バリーを降ろした後再び空へと飛び上がった黒色ドラゴンを見ながら発されたマリンの嬉しそうな言葉に恥ずかしいなどという思いは頭の中から飛び出していった。
「あのドラゴンがあなたのパパ!?」
気付けば言葉も飛び出していた。
『 あれ?知らなかったかしら?あの黒色のドラゴンは私のパパよ。竜騎士団には所属していない野生のドラゴンだけど、他のドラゴンをまとめたりする凄いドラゴンなんだから! 』
えへんと胸を張るマリンはどこか誇らしげだ。
「へ、へー……」
似ていない親子だ。レイチェルとはどう見てもそっくりだが黒いドラゴンから受け継いだところはどこですか?と聞きたくなるほど全く似ていない。
でもよく考えればドラゴンとて雄と雌がいてこそ子供は成せるもの。マリンにパパがいてもそしてあの黒色ドラゴンがパパとてなんらおかしくはない。
そんなことを考えているうちに黒色ドラゴンを追うように空に舞い上がったレイチェルは二頭仲良く並んでどこかへ飛んでいった。ちなみにマリンは二頭について行くことなくいつものごとくオリビアの背中にピトリとくっついた。
「これはオリビア嬢と私をカフェに連れてくる作戦だったということか?」
「みたいです」
「そのようだな。オリビア嬢がレイチェルに連れ去られて追いかけようと思ったら黒色ドラゴンが目の前に現れて背中を向けて止まるものだから不思議だと思いながら乗ったのだが……マリンの父親であれば納得だな」
オリビアの言葉から色々と察したバリー隊長がそんなことを言いながらす、と手を差し出してきた。
なんだろうか?戸惑いがちに隊長を見上げればふわりと微笑まれる。
「せっかくここまで来たんだ。マリンの計画に乗るのも一興というものじゃないか?」
仕事は大丈夫なのかと聞こうと思ったが……まあせっかくの申し出だし。そっとバリー隊長の手に自らの手を置く。
背中からマリンのバクバクといういつもより速い心音が伝わってくる。なぜマリンがドキドキしているのか。
バリーは一歩足を踏み出すがオリビアの足は動かない。どうかしたのかと思いオリビアの顔を覗き込めばルビーを嵌め込んだかのように美しい瞳とばちりと目が合う。
「先にお伝えしたいことがあるのです」
オリビアの言葉にバリーはゆっくりと頷いた。




