43.マリンの作戦
うむ。思ったより大きい紙だ。自分が腕を広げてもちゃんと開げることができないかもしれない。よくこんな大きなサイズの紙を持って飛べたなと思いながらマリンを見れば早く早くと目を輝かせている。
その様にクスリと笑った後、紙を地面に置きシュルシュルと広げる。離れたところから様子を伺っていた騎士達も何が書いてあるのか気になったのかわらわらと寄って来る。
「これは……マリンが描いたの?」
『 そうよ! 』
広げた紙には幼子が描いたような絵が描いてある。
『 初めて描いたからちょっと時間がかかっちゃったんだけど、上手に描けているでしょう? 』
「え、ええ」
確かによく描けている。すごい上手とかいうわけではないが何を描いているかはなんとなくわかる。
「複数のテーブルや人…ケーキとカップ。カフェか?」
「この真ん中に描いてある大きめのテーブルでお茶する二人の男女は誰っすかね」
騎士達がマリンが何を描いたのか解読を始める。ざわざわと訓練そっちのけでマリンの絵に群がる騎士達。
「んー……そりゃあマリンちゃんが関係ないやつの絵なんて描くわけないから女性はオリビア嬢だろ」
「そうか。じゃあこっちの男性はオリビア嬢の婚約者になった隊長じゃないか?」
ある二人の騎士の言葉におーっと皆納得の声を漏らす。
「あ!じゃあこの絵は隊長とオリビア嬢にデートに行ってこいってことっすか?」
『 大・正・解~! 』
クルルル~クルルル~とご機嫌に喉を鳴らしながらデート云々発言をした騎士の周りをくるくると飛び回るマリン。彼女の様子を見て騎士達はおーっ!恐らく当たってるだろうと湧き立つ。
「隊長ー。たぶんマリンちゃん、デートしてこいって言ってますよ」
「隊長ー。オススメのカフェはこの前できたばかりのすぐ近くのところっすよ」
「隊長ー。いやぁドラゴンにお膳立てされるなんて流石ですね!まじ尊敬です!」
それ以上は本気で勘弁願いたい。
これ以上騒ぎ立てないでほしい。気まずい上にバリー隊長の反応が怖くて彼の方を見ることができない。
そりゃあ婚約者になったのだから交流はするべきだとは思うけれど、こんな風に皆に囃し立てられて行くなんて恥ずかしい以外の何物でもない。絶対に次の日にどうだったか聞かれるパターンなのは容易に想像がつく。
ゴクリと唾を飲み込む。
怖い、怖いが……今感じているのは怖いもの見たさというものなのか……
恐る恐るバリー隊長に視線を向ければ何やら腕を組み考え込んでいるようだった。
「……む、確かに婚約したというのに禄に会話すらしていなかったな。マリンは心配してくれたのかな?」
爽やかな笑顔を惜しげもなくにこりとマリンに向けるバリー隊長。真っ向から受けたマリンは目をハートにするとその胸に飛び込みクルルルゥと喉を鳴らしながら頬を胸に擦り付けている。
『 ああもう本当に素敵……。人間だったら絶対にものにしてるわぁ 』
人間のマリン……
人間のマリン…………?
あ、なんか角が生えた白髪の女の子が頭に浮かんだ。いやいや角がある時点で人間じゃないし。
「オリビア嬢」
マリンを胸に抱き優しくその背を撫でていたバリー隊長から突然話しかけられオリビアはビクリと身体を震わせた。
「だ、大丈夫か?」
「少し考え事をしていたものですから失礼いたしました」
『 オリビアダサい 』
誰のせいだと――!ギロッとマリンを睨めばその顔をバリー隊長の胸元に埋めるマリン。
もう。
「よくわからないが……オリビア嬢とは交流をほとんどしたこともないし、迷惑でなければ今度の休みの日にでもカフェに行かないか?」
さ、誘われた。殿方にデートに誘われるなど初めての経験である。前のあのろくでなし婚約者とは必要最低限のパーティに同行するくらいだったから。
カフェに誘われるとか……ちょっとドキリとしてしまった。
「……オリビア嬢?ちょっと気が急いてしまっただろうか?」
はっ!
緊張のあまり言葉が出ない間にバリー隊長の表情が悲しげなものに変わっている。へ、返事をせねば。
「い、いえそんなことは……。ぜ『 ちがーーーーう!!! 』」
「「「!?」」」
バリーの腕から飛び出しギシャーーーー!と突然吠えたマリンに騎士達はビクーッと身体を跳ねさせる。
「ち、違うって?マリン何を言ってるの?」
オリビアの言葉にその場はガヤガヤとざわめき始める。
絵の解釈が違うのか?
デートじゃないのか?
そんな声が聞こえてくるがオリビアにも何が違うのかわからない。
『 オリビア違うわよ! 』
「だから何が?」
『 今度とか言ってる場合じゃないわよ!すぐに行くのよ! 』
「は、はあ?私は構わないけれどバリー隊長はお仕事中なのよ?無理よ」
自分も仕事中といえばそうなのだが、所詮抜けたところで支障はない。だが隊長はそうはいかないはず。
『 でも今行かないと!帰っちゃうじゃない! 』
「は?誰が?」
『 はあ?しっかりしてちょうだいオリビア!ジョーの恋人と浮気相手よ!奴らの関係を確認するんでしょう!?ご令嬢が一人でカフェに行くなんて目立つでしょうが!隊長とお茶しつつ会話を盗み聞きしちゃいなって言ってるの! 』
「あ……」
そういえばマリンはジョーの恋人の浮気問題を任せろといって家を飛び出したのだった。
自分とバリー隊長の仲を深めさせようとしたわけではなかった。そりゃそうだ。その事に気づいたオリビアは少し恥ずかしくなった。
『 あ、オリビア。恥ずかしがる必要なんてないんだからね。私はあなたに幸せになってほしいんだから。隊長もあなたもせっかく婚約者になったっていうのにデートの一つもしないんだから!全く最近の若いものは草食系ね! 』
デートくらいさっさとしなさいよ。二人のために一肌脱いじゃったわと笑うマリン。
ほんの僅かにオリビアの頰が赤く染まったことに気づいたマリンの内心を見透かしたフォローにオリビアは更に頰が熱くなるのを感じる。
『 ジョーのことはもはやついで!このデートには二人の仲を深めさせようというバリバリな私の魂胆が含まれてるわ!名付けて!オリビアと隊長の仲を深めつつ、ついでにジョーの恋人問題の調査もしちゃうぞ作戦よ! 』
ま、まんまだ。
マリンのセンスのなさにオリビアはぽかんと口を開けてしまった。




