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ドラゴンの親玉聖女になりましたが今日も振り回されています  作者: たくみ


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40/64

40.ドラゴンがやってきた

 バリーと婚約したオリビアは翌日竜騎士団の訓練場で何度もため息を吐いていた。


 普段であれば特にやることもなくぼーっと騎士の訓練を眺めたり騎士と話をしたりドラゴンの言葉に耳を傾けたりしているのだが、今日はもんもんと考え込んでいた。 


 あー……


 なんかバリー隊長と顔を合わせづらい。


 昨日はリリスと共に王に叱責されながら手続きを進めた後解散となったのだ。みっともない姿だけ晒して、よろしくもなしに解散。


 でも婚約者という立ち位置になったわけで……どんな顔をすれば良いかわからない。幸いなことに今バリー隊長はどこかに行っているようで不在だ。


 このまま今日は現れないでほしい。


 オリビアは訓練場に来てからずっとそう念じていた。



 婚約者になった人に対してそんなことを思うくらいならもういっそのこと帰ってしまうのもありかもしれない。


 それにバリー隊長のことだけではない。


 ちら、と俯いていた顔を少し上げれば騎士達が視線を逸らす気配。隊長との婚約が成されたことはもう騎士達にも伝わっているようで何やらコソコソと言われているよう……


 まじで帰りたい。



 はぁ。


 今日何度目いや、何十回目かのため息を吐き再び俯けばざっと土を踏む音と共に目の前に誰かが立つ気配。


 のろのろと顔を上げればそこにいたのは以前突っかかってきたジョーだ。


 ああ、もしかしたら文句でも言いに来たのだろうか。聖女の名を利用して隊長と婚約するなんてみたいな。だって彼はドラゴンだけでなくバリー隊長にも心酔しているようで、とても彼のことを慕っている。


 ドラゴンだけでなく、バリー隊長までもと思ってもおかしくない。


「……あっと…………」


 オリビアの想像とは違い、目を彷徨わせ口籠るジョー。


「いや、やっぱりなんでもない………っす……」


 驚きで反応できなかったオリビアに対し早々に背を向けトボトボと去っていくジョー。その後ろ姿はいつものような溌剌とした元気がなくしょぼんと背が丸まっている。


 背中を叩いて背筋を伸ばしたいほどに。


 え?いやいやいやいや何?めちゃくちゃ気になるんですけど。とはいうものの追いかけていくのは余計なお世話というもののような気がして見送るしかないオリビアだった。


 

 結局その日バリー隊長が訓練場に顔を出すことはなくほっとしたオリビアだったが、帰宅途中の馬車の中でその脳裏に浮かぶのはしょげた様子のジョーの姿。

  

 親しい仲どころかむしろただの同僚?もはやそれ以下の関係であるのだがいつも元気で明るい人が暗くどよんとした空気を纏わせていると気になるというもの。


 まして何か自分に言いたいことがあるようだし。 


 うーむ……


 御者の手を借り馬車から降りる。



 侯爵邸に入ろうとしたオリビアは背後に感じた気配にピタリと足を止める。振り返ればバッサバッサと翼を羽ばたかせる雄々しい水色のドラゴンの姿。


『 お、オリビアぁ…… 』


 まあその声は弱々しく顔は眉尻が下がりなんとも情けないが。


「あなたは……アオだったかしら?」


 そこにいたのは以前訓練場でオリビアに水をかけた水色のドラゴンだ。そして彼は


「ジョーのパートナーだったわよね?」


 オリビアの言葉にコクリと頷く水色ドラゴンもといショーの相棒ドラゴンのアオ。




~~~~~~~~~~



『 よく入ったわねぇ…… 』


 今日は侯爵邸で留守番をしていたマリン。オリビアの帰宅に気づき玄関ホールにやってきた彼女は目の前の光景に呆れたように呟く。


『 やればできるものだな 』


「うちがお金持ちの貴族で良かったわね」


 広々としたリード侯爵邸の玄関ホールには数人がかりで押し、玄関の扉をなんとかくぐったアオがちょこんと床にお尻をつけ座っている。


 その前にミルクが入った大きめのタライが置かれると前脚で器用に持ち上げ口づけるアオ。ゴクゴクと一気に飲み干すとぷはぁと息を吐く。


『 うまかった。でも外で話しても良かったんだが 』


「もうすぐ雨が降りそうだわ」


 ちらりと窓を見れば空は雨雲に覆われている。


「それでどうかしたの?何か用があるなら訓練場で話せば良かったのに」


『 う、うむ……。ジョーに聞かれたくなかったのでな 』


「あなたが私に何かを言ってもジョーは理解できないでしょ」


『 それはそうなんだが。でも俺がオリビアに何か話してることはバレるだろう? 』


「まあ……」


 バレるのか?


 微妙なところだとオリビアは頭を捻る。 


 失礼しますと側によってきた侍女数人がタライにミルクを注ぐ。トポトポと注がれるミルク。その場は誰も言葉を発することなくしんと静まり返る。


 ちらとアオを見ればぼーっと大人しく注がれるミルクを見ている。なんか巨大なヌイグルミみたいで可愛い。


 ジョーに聞かれたらお前がアオの何を知っているのかと言われそうだが、オリビアのアオに対するイメージは優しいドラゴンだ。


 オリビアを心配して水をかけてきたのもそうだし、ジョーの世話を受けているときも彼がやりやすいように自ら身体の向きを変えたり、ジョーが乗り降りする時も身を屈めるなど気遣いのできるドラゴンだ。  


 ジョーの様子も変だったし、アオがジョーにバレないようにオリビアに相談したいとくれば



「ジョーに何かあったの?」



 それしかない。


 オリビアの言葉にアオはゆっくりと頷いた。






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