38.ドラゴンの推し
眼尻をつり上げ兄に対し怒りを露わにするエリザベスにレオナルドは困ったような苦い笑みを浮かべる。
「まぁまぁ落ち着いてエリザベス。そんな怖い顔をしたら男が逃げていくよ」
「まぁお兄様、ではさっさとここから出ていってくださいませ」
妹の言葉に仕方ないなぁと肩を竦めると立ち上がり、じゃあねと部屋の外へ出ていくレオナルド。その後にバリー隊長が付き従う。
隊長は部屋を出る寸前で足を止めると一瞬こちらを振り返りペコリと頭を下げ去っていった。
自分のような小娘にわざわざ頭を下げるなんて律儀だなぁと思っていると何やら耳元で囁く声に気づく。
『 はぁ……本当に素敵。ああいうちょっとした気づかいができる男って案外いないのよね。男の方が偉いんだ強いんだ、そこに女は魅力を感じるんだとか思ってる勘違い野郎が多いこと多いこと、本当に貴重な男よねぇ……。やっぱりバリー隊長しかいないわ。ママのお気に入りだし 』
「マリン、ちょくちょくバリー隊長を推すのやめてくれないかしら?」
「あら、マリンはバリーをオススメしているの?」
オリビアの言葉に目をキラキラと輝かせた王女がオリビアに顔を近づけ迫ってくる。
「……は、はい」
「ふぅ~~~~~~~~~~ん……」
更に目をキラキラさせ口元をニヤつかせるエリザベス。
なんだろう。とてつもなく嫌な予感がする。
「あの、王「あ、リリスが馬車で待っているから行ってあげてね」」
遮られてしまった。なんかわざとらしかったような……。
物申したかったが相手は王女。ぐっと堪え退出の挨拶をすると城をあとにするオリビアだった。
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1週間後
(で、王女様これは一体どういうことなのでしょうか?)
エリザベスに呼ばれ王宮に馳せ参じたオリビアは飛び出そうになる言葉を飲み込み目の前の光景に眉根を寄せる。
『 あらぁ、この女嫌いだけど意外と役に立つじゃない 』
今日は太ももではなくオリビアの背にくっついているマリン。
最近飛ぶよりも足やら背中にくっついてばかりのような気がする。せっかくの翼が劣化しないか心配である。
「オリビア嬢よく来たな」
「オリビア嬢今日もとても美しいね」
ベシッ
「エリザベス、兄の頭をはたくのはどうかと思うよ」
「ご機嫌麗しゅう陛下、皇太子様……王女様」
オリビアは案内された応接室にいた王と皇太子そして王女に挨拶する。そしてゆっくりと王家の人々の前に並ぶ二人の男性に視線を向ける。
「ご機嫌ようオリビア嬢」
ふわりと柔らかい微笑みを浮かべオリビアに声をかけてくる男性。銀色の髪の毛にスカイブルーの瞳をもつイケオジ。
「お久しぶりにございますゲルトン伯爵」
彼はゲルトン伯爵。バリー隊長の父親である。そしてその隣に座るのはバリー隊長だ。これまた父親とよく似た柔和な笑みを浮かべ会釈をしてくるがその顔はどこか緊張しているというのかソワソワしている。
こちらへと言われ王女の隣に腰掛ければバチンと片目をつぶられる。
えー…………なんだろう。この任せて的な合図は。何を任せろというのか。
「んんっ!オリビア嬢エリザベスから聞いたのだが、そちらのベビードラゴンがバリーを推しているとか」
「………………」
これはなんと返せば良いのか。陛下の質問に無言など失礼なことは承知だが言葉が出てこない。出てくるのは冷や汗のみ。
ダラダラと汗をかき始めたオリビアに皆ぎょっとする。
「だ、大丈夫か?答えにくければ答えなくても良いぞ」
「……恐れ入ります」
部屋の中に妙な空気が流れるが一人、いや一頭だけ空気を読まないものがいた。
「おお!」
「おやおや」
「まあ!」
「ちょっと、マリン……!?」
マリンがオリビアの背中から離れ羽ばたいたかと思うとバリー隊長の胸にピトリとくっついてその逞しい胸に頬ずりしている。
『 絶対にオリビアとくっつけてやる!くっつけー…くっつけー…くっつけー! 』
赤ちゃんらしく甘えているのにその口から出るのは可愛くないお言葉。もはや呪いをかけているかのような光景に見えてくる。
「オリビア嬢」
「はい、ゲルトン伯爵」
わなわなと震えるオリビアに穏やかな声がかかる。伯爵に視線を向ければ微笑んでいるのにその瞳の奥に笑みは見えず思わずゴクリと唾を飲み込んでいた。
「実は陛下からオリビア嬢とバリーを婚約させてはどうかと話をいただいてね……まぁ、言わずとも察していただろうが」
「はい……」
気まずげに目を彷徨わせるオリビアに軽く笑う伯爵。
「うちとしては受けたいと思っているがオリビア嬢の気持ちはいかがだろうか?父親の贔屓目というものかもしれないがなかなかいい男だと思うのだが」
「それは……素晴らしい方だとは思いますが」
本当にそう思っている。でも婚約と言われると気が進まない。あのろくでなしの元婚約者に未練があるから?いやいやそんなわけではない。
でも婚約者というもの自体にあまり良いイメージがない。あんなのが婚約者だったからそう思うのだとは頭では理解している。
理解してはいても気持ちが追いつかないというのか、また蔑ろにされそうという思いもある。自分の身近な存在になった人はリリスを除きいつも自分のことを嫌ってしまうから――。




