37.冗談?
「ねぇねぇオリビア嬢、今なかなか大変みたいだね。これはもう早急に新しい婚約者を決めるしかないよね」
「皇太子様面白がっておられませんか?」
長い足を組みその上に手を乗せながらニヤニヤとオリビアを見て笑う皇太子を軽く睨みつければ更に深まる笑み。
「心情としては面白いが、真面目な話、君の婚約者は慎重に選ばなければならないと思っているよ」
胡散臭い笑みを浮かべながらまともなことを言う皇太子。なんなのだろうこの人は。
「大前提として君の価値を正しく理解し、君を大切に扱う人間でなければならない。君の力を己のもののように使う愚か者など選んだら最悪だ」
「まあ、そうですね」
とはいうもののその見極めが難しいというものではないのか。聖女という名がついた今、それを利用しようと下心満載のやつばかりのはず。
逆に下心のない人をどう見極めろというのか。
「あとは親王派の人間にしてもらわないと」
「……それ必要です?」
「必要だよ。君だって王家と対立したくはないだろう?」
「それはそうですけど」
この国は王家が割と力を持っている。だがそのことに不満を持つ貴族もそれなりの数がいる。確かにドラゴンという武器が反王派に渡れば王家としても厳しい状況となる。
「で、その条件を満たした良い相手を私は見つけたんだよ」
「ありがとうございます?」
なぜだろう。嫌な予感しかしない。
「私なんてどうだい?」
「………………は?」
私?
皇太子の言葉にオリビアだけでなく、部屋の空気までぴしりと固まる。
「ご覧の通り顔もそれなりにいいだろう?お金も権力もある、君に権力も与えてあげられる、ドラゴンの脅威をよく知っているから君を大切にするよ。女性に優しくがモットーだから甘えさせてあげるよ?」
色っぽい眼差しをまっすぐ向けてくる皇太子の手が頬に近づいてくる。
「皇た『 ちょっとー! 』」
身を引き冗談はおやめくださいと口にしようとしたオリビアの声を大声で遮りズボッとオリビアのスカートの中から飛び出してきたのは赤ちゃんドラゴンのマリンだ。
「ド、ドラゴン!?」
オリビアの頬に触れるはずだったが何やらポヨンとした感触が。それがドラゴンのお腹だと気づいたレオナルドは慌てて手を引っ込める。
『 ヤダこいつレディのお腹触ったわぁ!セクハラよセクハラァァァァ! 』
言葉がわからないながらもギャオギャオ騒ぐマリンの様子に危機を感じたのか部屋の隅にいたバリー隊長がレオナルドを守らんと動き出す。
や、やばい。
まさか刺したりはしないと思うが、殴られでもしたら大変である。
慌てて胸に抱きかかえればとりあえず胸に収まってはくれたものの……
『 オリビア!こいつはダメよ!こいつ婚約者いるんだから!そのくせ他の女にも手を出すような女ったらしなんだから!絶対に絶対にぜぇっっっっったいにダメなんだからね!!! 』
非常にうるさい。
ギャオーーーーーン!と一際大きく声を上げた後シュンと静かになったマリンに警戒をゆっくりと解くバリー隊長。
「オリビア嬢…………君ずっとそのスカートの中にそのドラゴンを入れていたのかい?」
「……はい。陛下には許可を得ています」
王宮のパーティに行くと聞いたマリンが行きたいと騒ぎ出したのだ。料理が食べたいなら持って帰れないか聞いてみると言ったのだが、オリビア自身が心配だから付いていきたいとのこと。
王に相談してみたところ赤ちゃんドラゴンとはいえドラゴンがいては恐怖を感じる人もいるだろうし、皆落ち着かないだろうということでやんわりと諦めるように言われたのだがマリンが納得するわけもなく……。
王の前でギャアギャア騒ぐマリンを見た王の側に控えていた宰相がじゃあスカートの中に入れておけば良いのではと提案し無事マリンはオリビアに同行することを許された。
「意外と気づかないものだね」
「スカートがふんわりしていますし、ずっと太ももにくっついていましたから」
「それは想像するとちょっとエロ「 グルルルル 」……足がしんどかっただろう?」
「大丈夫です。それよりも皇太子様これ以上のお戯れはお控えください。あなた様には隣国に婚約者がおられるのですから」
皇太子のレオナルドは幼き頃から隣国の王女と婚約関係にある。
「うーん……私の婚約者はどうも意志が薄いというか私の言うとおりにしますと言う感じで面白みがないんだよ」
「だから他にも女性を囲っておられるわけですか?」
「いやいや、それは側室候補……って君よく知ってるね」
だから振られちゃったのかなと笑う皇太子にオリビア含め部屋の中にいた者の冷たい視線が彼に突き刺さる。
「まあまあ皆そんな目で見ないでくれ。もちろん冗談に決まっているだろう?まあ……オリビア嬢が私と結ばれたいと言うのであれば話は別だけれど」
「御免被ります」
「そんな食い気味に……酷いなぁ」
ガチャッ
全然酷いと思っていなさそうな皇太子の笑い声だけがクスクスと部屋の中に響く中、扉が開く音がし……
「ちょっと!なんでお兄様がここにいるのよ!?レディが休憩する部屋に入るなんて何考えているのよ!?こんのエロ魔人が!」
入室してきたエリザベス王女は兄がいることに気づくと顔を真っ赤にして叫んだ。




