36.寝顔
煌めくシャンデリア、豪華な食事、参加者たちの気合いの入った華やかな装い――相変わらず王宮で行われるパーティはその辺の貴族のパーティとは桁違いにキラキラと光り輝いている。
目が痛いほどに。
「ご機嫌ようオリビア嬢」
「ご機嫌よう」
挨拶をされたので挨拶を返す。
「リード侯爵令嬢、私とダンスを……」
「またの機会に」
ダンスに誘われるが断る。
「オリビア嬢、こちら私の自慢の息子ですの~。あらぁ二人並ぶと本当にお似合いだわ~」
「………………」
お前の息子40代の薄らハゲだろうが、お似合いって…何言ってんだババアとは言えないので無言の微笑みで誤魔化す。
…………………………はぁ。
実際に口から出すわけにはいかないので心の中で盛大なため息を吐くオリビア。
現在オリビアは王宮で行われているパーティに参加している。今までは嫌われものということもあり、あまり話しかけられることはなかったのだが今日はひっきりなしに誰かに話しかけられるので疲れる。
皆聖女と縁を結びたくて必死なのだ。
ザイルが様々な人に声をかけているようで、オリビアが新しい婚約者を探しているという噂が社交界に広まり是非自分を息子を孫を兄を弟をとアピールが凄い。
こんなに人の相手をすることなど初めてなので疲れてしまった。もう、帰らせてもらおうか。
少し離れたところにはオリビアの婚約者を探しをしていることがバレ、リリスにそっぽを向かれて涙ぐむザイルの姿がある。
そりゃあ色々な人に声をかけているんだからリリスだって気づく。
とはいうものの義弟が自分の婚約問題のせいで涙ぐんでいる姿はこちらが居た堪れない。
こんな状況で帰りたいと話しかければほらお姉様はあなたのせいで迷惑していると姉思いのリリスがザイルを責めかねない。それはちょっと可哀想というかもはや不憫だ。
だが、
「オリビア嬢、うちの息子はそれはもうモテモテでね。たくさんのお声をかけていただいているのだけれど、なかなかピンとくる女性がいなくて困っていたの。今あなたと息子を見て確信したわ。息子はあなたと結ばれるために――」
その後もごちゃごちゃごちゃごちゃと話を続ける40代薄らハゲの母親。いい加減にしていただきたい。やっぱり帰りたいかも。
あー、だけどザイルも可哀想だし……。
「オリビア」
カツンとヒールの音を立て現れた一人の女性に皆が一斉に頭を垂れる。
「エリザベス王女様ご機嫌よう」
話しかけられたオリビアが代表して挨拶すれば頭を上げるように言われ頭を上げる。
「皆さん少しオリビアをお借りしてもよろしいかしら?」
王女の問いかけにオリビアの周囲にいた人々は軽く頭を下げると散っていく。一人残らず離れていったのを確認したオリビアはエリザベスに向き合う。
「エリザベス様助かりました。ありがとうございます」
「あなたには色々と恩があるもの気にしないで。私があなたにしたことは一生をかけても償えないでしょうけれど……できることだけでもしていくつもりよ」
まっすぐ向けられる瞳は揺れている。自分がしでかしたことを後悔しているのは明らかで、オリビアはなんと返せば良いかわからず無言で頷くしかなかった。
「ふふっ。それにしても大変そうね」
「ええ、たくさんの人に囲まれることに慣れていないので少し参っています」
「でしょうね。酷い顔色をしているわ。よければ部屋を用意するから休憩した方が良いわ。こちらよ」
「お気遣いありがとうございます。ではお言葉に甘えまして……」
エリザベスの後を追い、広間から出ていこうとするオリビアに広間には残念な空気が漂う。その空気を肌で感じ、今日はもう広間には戻るまいと誓うオリビアだった。
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エリザベスはオリビアを王宮の一室に連れてきた後少しだけ話をするとリリスにも伝えておくからゆっくり横になって休んでいてと去っていった。
誰もいない部屋はしんと静まり返り、疲れた心を癒してくれる。
扉の前には二人の衛兵が立ち誰かが勝手に入ってくることほできない。ほっとしたオリビアはエリザベスの言葉に甘えソファに身を横たえることにした。
自分が思っていたよりも疲れていたのか目を瞑れば睡魔が襲ってくる。王宮で寝られるなんてなかなか自分も図太いなと思いながら完全に意識を失った。
数分後
目を覚ましたオリビアはソファから身を起こし、
固まった。
「おや、お目覚めかい?麗しき聖女殿」
ソファの側にある一人掛け用の椅子に腰掛け、にこりとオリビアに爽やかな笑顔を向けるのは
「こ、こここ皇太子様」
皇太子のレオナルドだった。
「君の顔色が悪いことは私も気になっていてね。様子を見に来たんだよ。気持ちよさそうに眠っていたから起こしたらいけないかと思って黙って見守ってたんだよ」
いやぁ、美人は眠る姿も美しいねと微笑む皇太子だったが、オリビアは顔から身体から火が出そうなほど顔も身体も熱を帯びる。
「な、なな…ななななな…」
いつからそこにいたのかはわからないが話の感じからして今来たというわけではなさそうである。寝顔を見られていたなどと恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ない。だがいつからいたのかを確認するのは更に恥ずかしい。
「ああ、二人っきりじゃないから安心してね。何人も侍女がいるし、ほら竜騎士団のバリー隊長もいるから。誓ってふらちな真似はしていないから安心してくれたまえ」
安心とはなんぞや?
そんな言葉では心は安らがぬ。
ぎ、ぎぎっとぎこちなく皇太子の視線の先、自分の背後を振り返ると確かにそこには3人の侍女、そしてバリー隊長がいた。
侍女たちは同じ女性だしまぁいいとして……
バリー隊長にも呑気な寝姿を見られたということ。
呆然と彼を見ていると目が合った。僅かに赤く染まる頰と申し訳なさそうな表情がオリビアの目に映る。
い、居た堪れない。
ぼっと耳まで赤く染まったオリビアを見つめていた皇太子はゆっくりと口角を上げた。




