34.愚者の末路
王の間に控えていた衛兵達がジオの身体を拘束する。
「お、お待ちください陛下!こ、こんな奴らのために優秀な私をお捨てになるのですか!?私は将来国の要になる男ですよ!?」
「何を言っているのかわからないな」
多少学園の成績が良いくらいでなぜそんな自信があるのか王であるリカルドにはわからない。彼よりも学業の成績が振るわなくても国に貢献しているものは幾人も既にいるわけで、なんの実績もないジオが国の要になる未来が現状で見えるわけがない。
王が手を振れば衛兵達がジオを王の間から引きずり出す。
ぎゃあぎゃあと騒いでいたがパタンと扉が閉まれば聞こえなくなった。声も気配も消えるとノロノロとエリザベスが顔を上げる。
一歩足を引くとゆっくりとオリビアに向かい頭を下げた。
「あんなやつの言葉に騙されあなたを虐げたことを謝罪するわ。自分の愚かさを……痛感しているわ」
「お気になさらず。王女様は大丈夫ですか?」
オリビアの言葉にポロポロと涙をこぼし始めるエリザベス。
「ごめんなさい。あの男と縁が切れて嬉しいはずなのに……な、なんか胸が痛くて。変よね…………ふふっ」
無理に顔を笑みの形にしようとするエリザベスにオリビアは近づくとその背をそっと撫でる。
「王女様にはあんなサイコパスではなく素敵な方が現れます。――――たぶん」
エリザベスの涙がピタリと止まる。
たぶんて。
いやまあそんな相手に出会えるかは運だし、家柄、その時の情勢、父である王が国に必要とするものなんかで自分のお相手は決まるわけなのだが。
でもこんな時にたぶんて。
普通はきっと出会えますとか言うものじゃないのだろうか。ほら、父も兄もバリー隊長も微妙な顔をしているじゃない。マリンなんかお腹を抱えてクルルクルルと笑っているような気が。
あ……
自身の口元を触れば口角が上がっている。
「あーあ!なんか悔しい!ガツンと華麗に振ってやろうと思ってたのに!あそこまで清々しいクズには天罰がくだれ!って感じよね」
「処刑にしちゃいます?」
聖女をいじめた罪で。
王女に無礼を働いた罪で。
「それについては私に任せてほしい。あやつの使い道を今決めた」
王がそういった後皇太子と何やらコソコソと話し始めたのでオリビアとエリザベスは首を傾げた。
~~~~~~~~~~
「父上!どういうことですか!?」
ジオの父であるシャドー公爵は自宅の執務室に飛び込んできた愚息を睨みつけた。彼はオリビアとも面識のある宰相だ。息子とは違い正しく誰もが認める優秀な御仁。
宰相はオリビアが聖女と判明する前に行った息子の所業を聞き、気絶しかけたが気合で意識を保つと侯爵邸まで赴き土下座した後、息子をどうしようが構わないとオリビアに宣言していた。
国を滅ぼすような愚行をし、それだけでは飽き足らず王女への暴言。そこまでやらかした愚息に現在愛情なんて一欠片もなくただただ冷淡に対応する。
「陛下からもたらされた新たな縁談をお前ごときが断るというのか?命があるだけありがたく思うべきだろう?」
あの後ジオは一時的に牢にぶち込まれたものの翌日には釈放され自宅で謹慎処分となっていた。なぜ釈放されたか――彼には使い道があるから。
「で、でも新しい婚約者があんなのだなんて……」
「お前は自分より劣っている人間でないと無理なんだろう?王女様に成績を追い越されただけであんな態度を取るなど……まあいい。わざわざ陛下がお前の為に選んでくださったんだ。感謝しろ」
「感謝できるわけないでしょう!?完全に陛下の嫌がらせじゃないですか!?父上は宜しいのですか!?優秀な私がここからいなくなっても!?」
無言でジロリとジオを睨む公爵。
こいつは何を言っているのだ?
ここまできても理解できないのか?
宰相ご自慢の長男は既に結婚し男子も生まれ次期宰相候補と言われているし、努力家の次男は新たな事業を始め大成功して婚家の伯爵家に大層大事にされている。
結果を出し人から求められる本物の優秀なこいつの兄達。
昔からそれなりに顔が良く、それなりに頭の良い三男のジオ。ただ一人持って生まれたものに胡座をかきなんの努力もしなかったジオ。
たまたま王女様との婚約が整い、余計に勘違いしてしまったのか、ただただプライドの高い男と化してしまったジオに愛想を尽かし始めたのは数年前のこと。
幸いなことに王女様が薄っぺらい仮面に騙されていたから助かったが……。やはりペラッペラの仮面はぺろりと剥がされ吹き飛んでいってしまったよう。
「お前に求めたのは王女様との結婚。婚約までして結婚もできないような出来損ないは我が家に不要だ」
「で、出来損ない!?僕が出来損ない!?」
目を剥き出しにして叫ぶ様は非常に醜い。公爵は愚息から目を逸らした。
「それにお前は聖女様の怒りを買ったのだ。処刑されなかったことをちゃんと感謝しているのか?」
父としてはいっそのこと処刑にしてほしかったぐらいだ。オリビアが望まぬのであればいっそのことドラゴンがぱくりとしてくれたらと心から思っていたりする。
「感謝?なぜ?生意気な女を窘めてやったのが虐げたことになるわけないでしょ?あの女が悪いんです。僕は何も悪くない。僕より上に行こうとするヤツが悪いんですよ」
ジオの顔を見れば冗談でも強がりでもなく、心からそう思っているよう。兄弟分け隔てなく同じように育てたはずなのになぜ三男だけこんなふうになってしまったのか。
まあいい。
「なんにしても新たな婚約者、いや1週間後には結婚しお前は王配となるんだ。3日後には出発だ。身支度を整えておけよ」
「い、嫌だ!絶対に行かない!」
子供が駄々をこねるかのように首を左右に振るジオ。
「決定事項だ」
これ以上の話は無用と使用人に追い出すように合図する。両腕を掴まれたジオがどれだけ叫ぼうと暴れようと屈強な使用人の力には敵わず部屋の外へと引きずり出されていく。
パタンと扉が閉まったあと、机の中から手紙が入った封筒を取り出す公爵。中身を取り出し読み終えるとサラサラと手紙の返事を書く。
宛名はジオが嫁ぐある国の女王様だ。
異常な女好きの先代が他国の王妃を無理矢理ものにしようとし、返り討ちに遭い滅ぼされかけた国に誕生した新たな女王。野蛮な先代にそっくりな非情で我儘な娘。もともと小さな国の国民は戦争で多くの者が命を失い、生き残った者はほとんどが他国へと逃れた。土地は荒れ果て、無事な田畑はいくつあることか。
そんな人もまともな土地もない国を存続させよと命じたのは戦勝国。要するに、飢えて滅びろということだ。無情ともとれるかもしれないが戦勝国の王の怒りは先代の王だけではなく、彼を止められなかった者たちにも向かった。
そんな国の女王の王配になる。
非情で我儘で国民から嫌われている女王の王配になる。
それはある意味夢がある。
再興させられる可能性も無ではないのだ。よほどの才覚があれば、だが。
父親にそっくりな横暴な女王と人を陥れることだけ考え向上心のないジオが再興できる可能性はどれほどあるのか――。
オリビアのように規格外の力を得られれば話は別だが……彼女の助力など得られるはずもなし。
飢餓……
暗殺……
果てさて
「いつまで愚息は生き残れるだろうか」
処刑は免れた?
とんでもない。
王国で処刑されていた方がどれだけ息子は幸せだったか。
きっと遠くない未来に息子は気づくだろう。
それとも気づく前にその命は失われるだろうか。




