31.決意
そんなことを思い出しながらちょびっとだけ罪悪感を覚えるオリビア。いくらオリビアにとって最低野郎でもエリザベスにとっては理想の優しい男だったわけで。
それこそ本性を知らずにうまくやっていくことだってできたはず。なぜなら彼は完璧な外面を持っているから。
とはいうものの、あんなクソ男が王女の夫になって権力を得るのは虫唾が走るのでやはり阻止したいというもの。
「私……ジオのこと子供の時から好きだったの。他国に行っちゃったけどその気持ちは消えなくて……。彼が帰国してお父様にお願いして婚約が決まったときは嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった」
オリビアはエリザベスの顔を直視することができずそっと顔を逸らす。罪悪感がじわじわと湧いてくるのが自分でもわかる。非常に気まずい。
「高貴な血筋なのに誰にでも優しくて穏やかで笑顔が素敵で頭が良くて顔が良くて私をたくさん甘やかしてくれて……本当に素敵な人」
ジオを想うのかとても穏やかな顔で微笑むエリザベス。
誰のことですかな、それは?と言いたいところだがその表情を見ては流石に言葉にするわけにはいかない。喉元まで出掛かる言葉をゴクリと飲み込むオリビア。
『 見る目のない女ね。外面に騙されちゃって。本質を見極めなさいよ本質を 』
背中から移動したマリンがオリビアの肩にあごを乗せながら口を開く。ドラゴンの声が聞こえないのはわかっているが思わずその口をギュムっと掴む。ブンブンと顔をふられ振り払われてしまった。
「全部……嘘だったのね」
「全部嘘というよりも、自分より優秀な人が許せないタイプなのでしょう。そんなものは人の自由なので構いませんが彼の問題点は人を引きずり下ろそうとするところでしょうか」
「私がジオよりまた下になれば優しくしてくれるかしら?」
『 はあ?相手のために自分の価値を下げるなんてバッカじゃないの?王女がそんなんでどうするのよ! 』
「ふふ……そんなのダメよね。自分の価値を下げるなんて王女のすることじゃないわよね」
おお、マリンと王女の会話が成立した。言葉が聞こえているはずはないのに不思議なものだとオリビアは一人感心する。
「……そんな愚かなことは二度としないわ」
「二度と?」
その口ぶりはまるで前にもそんなことをしたかのよう。エリザベスの目がす…と下を向く。
「あなたも知ってると思うけれど、我が家はお兄様がとても優秀ですぐになんでもできてしまう方なの」
ああ、確かにそれは聞いたことがある。皇太子のレオナルドは頭もよく、ユーモアもあり、人を惹きつける魅力もある、まさに時期王に相応しい、と。
「それに比べて私は色々とできるようになるまで時間がかかってね。色々な人にお兄様は優秀なのになんで私はできないんだって言われてからやる気がなくなってしまったのよ」
「時間をかけてでもやれるようになるのであればなんの問題もないではないですか。いろいろ言う奴らなんてただ性格が悪い愚か者ですよ」
吐き捨てるオリビアにエリザベスはそうね、と軽く笑う。
「ジオには無理しなくても大丈夫って言われてね。私はそれを優しさだと思っていたけれど、今思えば優しさでもなんでもないわよね」
だってただ楽な方に逃げただけなのだから。
ただ頑張ってるよと認めて欲しかったはずなのに。
「私……彼と婚約解消するわ」
「やっとですか」
「気づくのが遅くて悪うございますね。人より色々と時間がかかるものですから」
そう言ってクスクスと笑うエリザベスは吹っ切れたのかオリビアから見てもとても清々しく美しかった。
『 やれやれ、全く手のかかる小娘ね 』
「………………」
このドラゴンは何目線でこんなことを言うのだろうか。まだまだ生後数カ月の赤ちゃんだというのにこの上から目線での言葉選びのセンス。
イラッとしたオリビアは無言でマリンの口元をムギュッと掴む。
突然のオリビアの行動にマリンはバタバタと翼を羽ばたかせた。
エリザベスとオリビアはその様子に声を上げて笑った。




