28.お願い
しーん……と静まり返る室内にポツリとリカルドの声が響く。
「これはオリビア嬢の命令ではないのだろう?」
「左様にございます……陛下」
「だろうな。そなたはこの愚かな私の娘とは違い自分の問題に人を巻き込むようなことはしない賢い娘だ。ドラゴン達にこんな命令は下すまい」
ジロリと父に睨みつけられ身を竦めるエリザベス。だが王の目は怒りではなく悲しみに彩られているように見えるのはオリビアの気のせいだろうか。
「私の判断が間違っていたようだな。そなたを信じたかった。だがそなたはオリビアに謝罪の一つもできぬ。それどころかいつまでもオリビアへの態度を改めようとせぬ」
「でも父上!元はといえばオリビアが私のジオに手を出そうとしたのです!」
エリザベスが必死に叫ぶ。悪いのは自分ではなくオリビアだと。
「……それはそなたの勘違いだと言っておろう。ちゃんと調査もしたではないか。ジオの方から近づいていたとオリビアは拒絶していたと証言があっただろう?なぜ理解せぬ…………」
ほお。自分が知らぬ間に陛下は調査をしていたよう。流石優秀な国王仕事が速い。
でも……
「私はジオを信じます」
でしょうね。
あの男にメロメロな王女。誰に何を言われようとそれを受け入れることなどできるはずがない。やつは王女の前では本当に良い婚約者だし、オリビアがされたことを証明する手立てはないのだから。
「お前は……自分の罪の重さが処罰せねばわからぬようだな」
その言葉に僅かに王女の瞳が揺れる。いけないことだとはわかっているが……というところかもしれない。
「父上……」
皇太子が声を上げようとするが王は首を振りそれを制する。
「外を見てみろ。ドラゴン達の怒りはオリビア嬢が諫めようと収められぬほど膨れ上がっている。このままでは国に害が及ぶかもしれない」
王の言葉に再び室内がしん……と静まり返る。
「………………エリザベスを牢へ」
とても小さな声だったが誰の耳にもその言葉は届いた。動き出す王の護衛達。迫りくる護衛達に王女は言葉を失い首を何度も振ることしかできない。
「陛下恐れながら少々お待ちいただけないでしょうか?」
「…………どうかしたか?オリビア嬢」
陛下の言葉には力がなく、侍女たちの口からお労しいと言葉が漏れる。
「少々考えがございまして……」
そう言った後オリビアは窓に近づき開けるとバルコニーに出る。ドラゴン達を見上げると一頭の黒いドラゴンがオリビアの目の前に進み出てきた。以前オリビアと人間に手を出さないと約束したドラゴンだ。
『 や、約束は破っていないぞ?た、ただここで皆で寝ていただけだ。我らはドラゴンだ。どこで寝ようと自由だろう?罰しようとしたわけではない。ただ寝ていただけだ 』
そう言いつつそのドラゴンの目はキョロキョロとどこか落ち着きない。
はーっと息を漏らせばビクリと震える巨大な身体。
「怒っているわけではないわ」
オリビアの言葉にほっとした表情になるドラゴン達。王は何やら勘違いしているようだが、こんなものただの嫌がらせに過ぎない。ちょっとしたイタズラ。
国をどうこうしようだの王女をどうにかしろだなんて思ってやっているわけではない。オリビアが聖女だとわかったのに謝罪一つしない王女への嫌がらせ。
ではなぜオリビアはそれを王たちに伝えないのか。
それは先程あることが閃いたオリビアにとって今の状況はとても好都合なことだから。
「…………ちょっと」
ヒョイヒョイと手招きすれば首を伸ばし顔を近づけてくる黒いドラゴン。ちょっと失礼して。ドラゴンの耳に口を寄せゴニョゴニョと周りに聞こえないようにある企みを話せばどんどんその目は面白いとばかりに細まっていく。
『 承知した。復讐とは己で成し遂げてこそだからな。なかなか面白そうな企みだと思うぞ?では成功を祈る 』
オリビアから離れたドラゴンはそう言ってにっと笑う。
『 撤収だ! 』
バサリと黒いドラゴンが翼を羽ばたかせると全てのドラゴンが彼に続くようにバサリと翼を広げ王宮から飛び去っていく。
一頭もいなくなると部屋の中から誰の口から漏れたかほうと安堵の息が聞こえた。
バルコニーから部屋に入れば目に涙を浮かべ固まる王女と目が合う。何か言いたいことでもあるのかその口が少し開くが、結局言葉が出てくることはなかった。
「オリビア嬢。礼をいう」
「滅相もございません陛下。ドラゴン達は引きました。そして王女への処分は必要ございません。それでドラゴン達も同意致しました」
「そうか。本当にありがたい。罪を犯した者を罰しないなど王として失格かもしれぬ。だが、こんな娘でもやはり私のかわいい娘なのだ……」
陛下は良き父親だと思う。何があろうとも娘は娘。それにただ甘やかしているわけではない。ちゃんと叱るところは叱る。全てを思い通りに動かしたい自分の亡き父親とは全く違う。
その娘を思う気持ちをちょっとばかり利用させてもらおう。
「ただ……」
「「ただ?」」
目を逸らされ呟かれたオリビアの言葉に怪訝な顔をする王と皇太子。
「陛下にお願いしたいことがございまして」
「ほお。なんでも言ってくれ」
「…………………………」
力強く頷く王と目を細める皇太子。皇太子から探るような視線をひしひしと感じるがポーカーフェイスで乗り切ろう。
「では――――――」
オリビアの言葉に王と皇太子は目を丸くし、
王女は目を見開いて固まった。




