27.緊急事態
『 オリビア……? 』
「あらマリン起きた?休校になったからさっさと帰ってきちゃった」
眠りから覚めたマリンはゴソゴソと起き上がるとベッドにちょこんと腰掛け前脚で顔をクシクシと掻いた後、オリビアを見上げる。
『 知ってる。私もいじめっ子たちの頭をかち割ってやりたかったわ 』
「割ったのは窓ガラスだけどね」
見た目は可愛いのに言うことは凶暴だ。流石ドラゴンの赤ちゃん。
『 つまんないわー。で、オリビアは何をそんな難しい顔をしているわけ?お姉様に話してみなさいよ 』
お姉様って。
この前生まれた赤ちゃんにそんなことを言われるとは思わずくすりと笑みが溢れる。
「どうやって嫌いな奴をやっちゃおうかなと考えてただけよ」
『 ママ達に頼めば? 』
「んー……そういうことじゃないのよ」
ドラゴンに頼めば早々に消してくれるだろう。その牙で爪で炎で雷でその他諸々でそれはもう一瞬で成し遂げてくれることだろう。
首を傾げるマリンに手を伸ばし撫でると気持ちよさそうに目を瞑る。
「もちろんあの世にさっさと送ってやりたい気持ちもあるけど、それじゃあつまらないじゃない?もうワンクッション欲しいのよ」
『 ワンクッション? 』
「あの世に行く前に苦しみを与えなきゃ」
に、と笑うオリビアにマリンは目を輝かせた。
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その後昼食を食べている間もトイレの時間も勉強や読書の時間も夕食を食べている間もずーっとどんなことをしてやろうか考えていたが全く何も浮かばなかった。
就寝時間となり自室のベッドにゴロンと寝転がり深夜まで考えたが閃かないものは閃かない。隣で眠るマリンの規則正しいスースーという寝息に誘われ結局眠りについてしまったオリビア。
「……様、…ビア様、オリビア様」
そしてまだ薄暗い早朝、侍女に揺さぶられ起こされた。リリスを除く家族が処刑されてからこんな早朝に起こされたのはザイルがリリスと婚姻できると聞き来訪したとき以来だろうか。
今度はどんな非常識野郎の襲来かと侍女の顔を見ればなにか焦っている?
侍女から聞こえた言葉に慌てて布団から飛び出し、ささっと着替え玄関までヒールで猛ダッシュをかます。
玄関には落ち着かなさげにウロウロと動き回る非常識野郎ならぬこの国の皇太子レオナルドがいた。汗をダラダラかきながら現れ頭を下げるオリビアにレオナルドはとても申し訳なさそうな顔をして頭を上げるように言う。
「オリビア嬢すまない。こんな非常識な時間に」
非常識……!?ビクリとオリビアの身体が跳ねた。え、心が読まれた?いやいや待て自分。そもそも人間は人の心など読めないし、皇太子は礼儀としてこんな時間に非常識だったと仰っているだけのはず。
寝不足からか正常に働いてくれぬ思考に悪戦苦闘していると
「申し訳ないが緊急事態なんだ。早急に王宮に来てほしい」
眉尻を下げた皇太子からそんなことを言われオリビアは慌てて皇太子と共に馬車に乗り込んだ。
王宮に到着し、馬車から降りたオリビアは開いた口がふさがらなかった。
「この状態をどうにかして欲しくてね。急ぎ君を呼びに行ったんだ」
皇太子御自ら呼びに来るなんてどんな事が起きているのかと疑問だったが、納得した。
目の前には薄暗いなかでも華麗で荘厳な見事な王宮が聳え立つ。
そしてその周囲には巨大なドラゴンの群れが城を取り囲んで寝ていた。空に浮かんでいるもの地面に寝転ぶものと様々だが皆一様に目をつぶっている。
まあいくらドラゴンとはいえ寝たまま宙を飛ぶことはできないので寝たふりというものだろうが。
問題はなぜ彼らがこんなことをしているのかということだ。
「とりあえずオリビア嬢こちらに」
そう言われ皇太子の後についていくと王の間でも執務室でもなく応接室でもない初めて見る部屋の扉の前に辿り着く。ここはどこだろうという疑問は中を見て晴れた。
広い室内に置かれた最高級の家具、品の良い女性らしいレースカーテンが窓から吹き込む風にゆらゆらと揺れる。
そして部屋の真ん中には国王であるリカルドと彼に抱きしめられる王女のエリザベスがいた。
オリビアが案内された場所はエリザベスの部屋だった。
「おお!こんな早朝にわざわざすまないオリビア嬢」
オリビアが入室したことに気づいた国王の顔が明るくなる。
「ご機嫌よう陛下、エリザベス王女様。恐れながら……この状況は一体どういうこと「あなたのせいでしょ!」」
王の胸元から顔を上げたエリザベスがきっとオリビアを睨みつける。
「あなたがドラゴン達に命令したんでしょ!力を得た途端に報復?こんなことをするなんて卑怯よ!それにこれは我が王家に対する謀反よ!お前なんか処刑に“パン!”」
「やめんか!」
「エリザベス!」
パンという音と共に王と皇太子の口から鋭い声が放たれる。
「これは全てお前のせいであろうが!」
エリザベスは目を見開くと父から張られた頰におずおずと触れる。そして立ち上がった父を恐る恐る見上げる。
「私もレオナルドも地位に驕ることなく、いや、この地位にいるからこそ法を遵守してきた!そして偉大なる先祖達の教訓のもと一人でも多くの民を幸せにせんと邁進してきた!」
王の咆哮に皆心の中で平伏する。そう。国王リカルドは誰よりも民を愛する国王だ。それは皆わかっている。人々の幸せを願い、1日も休むことなく執務をする偉大なる国王。
「この国の模範となるべき王女であるお前が率先して虐めをしていたのだ!処刑されるべきはオリビアではなくお前だ!」
「お、お父様……」
父の言葉にエリザベスの目に涙が浮かぶ。
「オリビアの温情により助かった命だというのに……!お前というやつは……どうしてそんなに浅はかなのだ……」
リカルドの言葉が揺れる。悲しそうなその顔からオリビアもレオナルドも控えていた使用人たちも視線を逸らす。とても見ていられない。
エリザベスは口を開こうとするが結局閉口する。




