24.久しぶりの学園
翌日、馬車で学園へ向かうオリビアは窓からひょいと顔を出す。
『 また何かやられたらすぐに呼べよ! 』
『 あいつら消してから行こうぜ! 』
『 学園なんか消しちゃえば? 』
馬車の側を飛び回るドラゴンたちがギャアギャアと騒いでいる。言っていることは少々乱暴だがドラゴン達が自分を心配してくれているのはわかる。思わず口元が緩む。
だが、
…………やけに数が多いような。地面スレスレを飛ぶもの上空を飛ぶものと様々だがとにかく数が多い。竜騎士団で見たことのあるドラゴンも何頭かいる。
あの暑苦しい程のドラゴンへの愛を抱える騎士達がドラゴンの不在に気付き泣いていないことを祈ろう。
うん。
うん。
心配をしてくれるのは嬉しい。それに守ろうとしてくれているのであろうその気持ちも理解している。
が――
これはちょっとやり過ぎでは?
学園に到着すると戦闘配置につくかのように学園の上空や周囲を飛び回るドラゴンたち。心なしか目も鋭い気がする。何かあったら即座に窓……いや、壁さえ突き破って学園に入ってきそうだ。
そんなことを思いながら教室の扉を開ける。
廊下にまで聞こえていたざわめきは一瞬にして消え、皆入室してきたオリビアに黙って視線を向ける。
うむ。相変わらず美男美女の集まりだ。
オリビアが所属するクラスは伯爵以上の高位貴族か金持ちか貴族平民問わず上位10位までの成績を収めたものしか入れないエリートクラスだ。
そしてなぜかエリートというのは顔が良いものが多い。
彼等から視線を浴びることはよくあることなので、気にせず教室に足を踏み入れ自分の席に座る。シーンと静まり返る教室の窓からはバッサバッサと翼を広げるドラゴンの姿が見える。
「あ、あの……」
話す相手もいないし持ってきた本でも読もうと鞄から本を取り出すと一人の女生徒から声をかけられ顔をあげる。ああ、彼女は確か侯爵邸にも謝りに来た伯爵家のご令嬢のはず。
顔面蒼白で緊張により引きつる頬、彼女は口にきゅっと力を入れた後口を開く。
「い、今までごめんなさい。オリビア様のことを無視したり、ものを盗んだり、み、水をかけたりして……」
「え?ああ、前にも言ったけれど別に気にしていないから大丈夫よ」
どうでも良いやつからされる無視なんてどうでも良いし、盗られたものだって外面というものがあるから両親は何回でも新しく買ってくれた(ただ殴られたりムチで打たれた)。水なんていつか乾くのだから何の問題もない。
オリビアの言葉に緊張が解けたのか目から涙が溢れる。顔を覆うと何度も何度も本当にごめんなさいと呟きが聞こえる。
「お、俺もすまなかった!その……鉛筆を折ったりして……」
ああ、確かにそんなこともあった。その鉛筆には次兄が皮膚を気触れさせる薬を塗っていたので、鉛筆を折った数分後彼の手がボンボンに腫れていた。
目を白黒させる彼はちょっと面白かった。
「わ、私も教科書黒塗りにしたり、破ったりしてごめんなさい……」
あー……あの時はニヤニヤとしているので何かと思ったら教科書の中が黒塗りにされていた。中身は全て覚えているので、教師に当てられても何の問題もなく答えられた。彼女の顔を見れば目を真ん丸くして驚いているようだった。これくらい貴族ならできて当然じゃないの?と逆に驚いてしまった。
その後も出てくる出てくる謝罪の声。それはクラスにいる全員から出てきた。そう。オリビアはクラスの生徒全員に大なり小なり嫌がらせをされてきたのだ。
その全てをオリビアは許すと口にした。
ここにいる者たちを全員処刑にしたら、人数もいるし、権力者の家のものや優秀な者ばかりなのでちょっと後味が悪い。リード侯爵家にもよくない影響が出るかもしれない。
それに本当に気にしていないのだ。言われてもああそんなことあったなとしか思えないのだ。ちょっと人とはズレていることは自分でも自覚している。
謝罪を受け入れたオリビアの前ではクラスの全ての生徒たちが冷や汗をかいたり涙を流したりしながら安堵の表情を浮かべている。
これだけ多くの人の前で許しの言葉を得られたというのは彼らにとって大きな意味を持ったよう。
彼らの嬉しそうな表情を見て……マリンを連れてこなくて良かったと改めて思う。マリンもついていきたいと言ったのだがこの光景を見ればきっと暴れ出していたかもしれない。
ふざけないで!と。
図々しいわよ!と。
何様なのよ~!と。
その様が想像できて思わずくすりと笑ってしまう。
けれどマリンは連れてこなかった。彼らを許したと示すためにも。そもそもすんなり彼らを許した一番の理由は自分が気にしていないからとかではない。
一番の理由は――――




