19.察しの悪い男
真っ赤になった顔で俯きながら全身をブルブルと震わせるリリス。いつからいたのか複数のドラゴン達が周囲におはり、彼らは涙を浮かべながら仰向けになり腹を抱えながら笑っている。
そしてナギールは顔を真っ赤にし、口をパカパカと餌を求める金魚のように開閉している。
え?何?何があったの?
「お、お姉様……お、お腹が……捩れるっ……!」
『『『 ウーケールーーーー 』』』
はあ?皆何を言っているのか。
『 オリビアオリビア。私のお母さんはその人が考えていることを人の頭に映像化して送ることができるのよ。いやぁ、なかなか気持ち悪い絵面とオリビアの本音、面白かったわ~ 』
目の前で翼をバッサバッサと動かすのは3日前に王宮の訓練場帰ったはずの赤ちゃんドラゴンだ。その言葉にオリビアはピシリと固まる。
それはそのー、つまり……私の脳内リプレイと気持ちがダダ漏れだったということ?
「な、な、な…………」
ナギールは怒りか羞恥なのか顔を真っ赤にしたまま言葉が出ないようだ。
恐らく羞恥だろう。
だって第三者としてちゃんと見たら気持ち悪いし。その時はカッコつけてるつもりでも映像で見てみると現実が見えるというものだ。残念ながら脳内は勝手に美化できるが映像は美化されない。
一人うんうんと心の中で頷いているとナギールの怒鳴り声が聞こえてきた。
「ふざけるな!!!お前なんかもう結婚してやらないからな!?」
「超幸せ!……じゃなくて構いませんよ。というよりも婚約解消は成立しておりますから」
いかんいかん本音が。
「後悔するぞ!」
「どんな?」
「は、はあ?どんなって……」
「金無し、顔タイプでなし、性格悪し、根性悪し、妹に手を出そうとするヤバイ奴。そんな人間とは結婚した方が後悔すると思いますが」
「失礼なやつだな!」
「事実です」
しれーっとお茶を飲むオリビアにナギールのイライラは募っていく。その様子にリリスとドラゴン達は再びゲラゲラと笑い出す。
「うちは公爵家なんだぞ!俺の方が偉いんだ!俺に無礼を働いたんだから陛下に罰してもらうからな!」
ほお。
のどが渇いたので紅茶でも。ごくりと一口飲んだ後ことりとカップをソーサーに戻す。
ナギールの家は現在貴族手当とうちの支援で生活していたはずだが……。王宮務めもしていない、陛下に愛想をつかされている公爵家のわがまま坊ちゃまがどうやって陛下と話すつもりなのか。
「うちは確かに侯爵家であなたより下の地位です」
オリビアの言葉に腕を組みふんぞり返りながらそうだろう!俺の方が偉いんだ!と顎を突き出すナギール。
「ですが、私聖女なのですが……」
「それがなんだ?そんなもん俺たちの間柄になんの影響もない」
まじか。
先日も今もドラゴンに色々やられたのにそんなことを言うとは。もしかしてもう忘れちゃったとか……?
予想外の言葉に一瞬言葉が詰まってしまう。
「………………王国には聖女を虐げたものは処刑とありますが、あなたは気にならないと?」
「は?そんなもんばれなきゃ大丈夫だろう?お前が黙ってりゃいいんだよ!お前は俺より下の人間なんだから俺の言うことを聞かなきゃダメなんだよ!」
この男、まともな言葉を持ち合わせていないのだろうか。
「普通に言いますよ。ていうかもう言っちゃいました」
「はあ!?何をチクってんだお前は!婚約者を売るとか最低だな!このクソ女が!」
どの口が言うのだろうか。あー……その口縫い付けてやりたい。ばっちいから触りたくないからやらないが。
「うん?待てよ……。でも俺はこうやって生きてる。牢屋にも入れられてない。ははっ!陛下は聖女よりも俺の方が大切なんだよ!思い知ったか!?」
あはははは!と顎を上げご機嫌に笑うナギールは空気が冷めきっているのに気づかない。オリビアもリリスも使用人達も呆れた視線を彼に向ける。
ドラゴン達でさえ彼の摩訶不思議な思考に、怒りを通り越し呆れていた。
「……そうですね」
おめでたい頭ね。
陛下は暴言や暴力などなかなか悪質な行動を繰り返しオリビアにしていたナギールを処刑しようとしていた。だが一応公爵家の者だし、彼の両親から処刑という形で息子を奪うのもどうなんだと思い止めたのだ。
グフ、グフフフとまだ笑い続けているナギールをオリビアはじっと見つめる。
それにしてもなぜこの目の前の男は処刑はさておき、今ドラゴンに囲まれながらも危害を加えられないことを不思議に思わないのだろうか。先日オリビアを殴ったときにドラゴンの怒りを目の当たりにしただろうに。
まあ、精神攻撃は先程喰らっていたがあんなものはただのドラゴンのイタズラに過ぎない。
聡いものなら気づいたのかもしれない。
何かドラゴンを納得させられるだけの罰が自分に与えられるからだ――と。




