18.婚約者との胸糞悪い思い出
ある日は……
「おいクズ!さっさと消えろよ!」
「ここは私の部屋ですが」
「お前の部屋ぁ?ここの奴らはお前のこと家族だなんて思ってねぇんだよ!さっさと消えろ!」
無茶苦茶な暴言。
まあ、婚約者の部屋に女を連れ込むイカれたやつの言葉としてはお似合いだ。この男が自分の部屋に女を連れ込むのは何回目だろうか。
プライドだけ高い彼の両親は頭が非常に硬く、お高くとまっている。手入れがされていない公爵邸はボロボロ。こんな家は人には見せられないと人を連れてくることを禁じているらしく、ここに女を連れ込むのだ。
怒鳴っても動く気配のないオリビアに見せつけるかのようにイチャイチャし始める二人。ふふん、と笑われても別に羨ましくもなんともない。
一つの絵としても少々頂けない。美男美女の絡みであれば恍惚としてしまうかもしれないが、2人とも見た目があれなのでちょっと……。
何を言っても無駄だろうなと放っているうちにリリスが部屋に入ってきて、ナギールが慌てて女を蹴飛ばしリリスに駆け寄り弁明する。
何度こんなことが繰り返されただろうか。
またある日は……
「おい!尻軽女!この前の夜会の態度はなんだ!?婚約者がいるくせに他の男としゃべったり、夜会の料理に手を付けるなんてありえねぇんだよ!豚かお前は!?卑しい女の婚約者なんて俺が恥をかくだろうが!」
「人として挨拶をしない方が恥かと。料理はリリスも手をつけておりましたが……?」
カッと顔を赤らめたナギールが唾を飛ばしながら叫ぶ。
「お、おおおお前は家族に見放されたクズなんだよ!そんなやつが普通の人間と同じようなことをしようとしていることが恥ずかしいんだよ!下を向いてほこりみたいに隅に蹲ってろよ!」
「隅にほこり……?」
そんなものは使用人が片付けるからない。部屋は役人が来た時の為にとてもきれいに保たれている。この前の夜会の会場も隅々までキラキラと輝いていた。
なんだその例えは?
……ああ、禄に使用人がいない公爵邸には埃が溜まっているのかもしれない。
「なっ!?う、うるせえんだよ!」
考えていたことが顔に出ていたのか頬をたたかれる。鼻から息を吐きだしながらやってやった感を出した後、部屋を出ていった。
一切運動しないただの脂肪の塊とはいえ、それなりに頰が赤く染まったが、オリビアは何事もなかったかのように机に向かい勉強を始めた。
またある日は――
「リリス、ああリリス。本当にお前は可愛いなぁ。ザイルの婚約者でなければ俺のものにできたのになぁ」
おや、庭園にリリスとナギールがいる。
どうせ近づいていっても暴言を吐かれるだけだし……そっと回廊の柱に隠れ様子を伺う。リリスに襲いかかるようなことがあったらヒールで大事なところを踏みつぶしてやろう。
「なあリリス。お互い婚約者のいる身だがそんなものは愛の前には無意味だと思うんだ。それにバレなきゃなかったことと同じ。なあ…………どうだ?この後部屋に行って二人でベッドに」
二チャァと笑う様は濡れたハンカチで顔を押さえてやりたいほどおぞましい。婚約者がいる相手に迫るなんて正気だとは思えない。
何よりもリリスも自分のことを好いていると思えるその頭の足りなさが一番理解不能だ。
「おほほほほ、ナギール様。私はザイル様を愛しておりますの。あなたには心惹かれておりませんし、これっぽっちも好きではありません。むしろ嫌いです」
こんなにはっきり毎回言われているのに実に不思議である。
「あんな女の為に自分の心を偽る必要はないんだよ?リリス」
優しい声音でわかってると言いたげな包み込むような笑顔。
ナギールがそんな表情をしても絵にならないし、的外れな言葉にリリスが貼り付けていた笑みを完全に消す。
ガタリと席を立つと歩き出すリリス。
ナギールがその手を掴もうと伸ばすが、猛ダッシュをかましたリリスに触れることは叶わなかった。
ナギールが動いたことで隠れていたオリビアと目が合う。
にやぁと勝ち誇るような笑いを浮かべドスドスと去っていくナギール。
…………え?
今のは一体なんの笑み?
とにかく彼がやることなすことは全て的外れなのだ。
女を人の家や部屋に連れ込んだら私が傷つくと思っているようだが、嫉妬なんてするわけなし。だって好きでもなんでもない。むしろ嫌いだ。
ただただ頭のおかしな非常識な人間としか思わない。
リリスのことにしてもあんなにあからさまに嫌がられているのに自分の都合の良いように解釈するなんてあり得ない。お花畑脳にしても限度というものがある。
アピール上等
好意上等
たが嫌いな奴にされてもただ嫌悪が募るばかりだろうに。
……………………………………ん?
なにか、変なような。
過去への思考の沼から抜け出たオリビアは周囲の様子がおかしいことに気づく。




