17.婚約解消しちゃった
ナギールが帰った後、白いドラゴンが赤ちゃんドラゴンを迎えにやって来た。
『 ほら、帰るわよ! 』
『 嫌よぉ!オリビアと一緒にいるの! 』
母ドラゴンが声をかけるが、赤ちゃんドラゴンはオリビアの背中にしがみついて離れない。爪がドレスに引っかかり少し破れてしまい、慌てて離れる赤ちゃんドラゴン。
オリビアから離れた我が子にずいっと顔を近づける母ドラゴン。
『 何言ってるの!まだ生まれたばかりなんだからママのお乳がいるでしょう! 』
『 オリビアにもらうもの 』
『 出ないわよ! 』
『 冗談に決まってるでしょ! 』
ガオガオと何やら言い争う巨大なドラゴンとちっこいドラゴンにちっこいドラゴンが食べられたらどうしようとオリビアを除く人々は息を呑む。
声が聞こえるオリビアはドラゴンも人間と同じように喧嘩するのだなぁと呑気にその様子を眺める。
その後もギャアギャアと騒ぐ二匹だったが、賢いようでもやはり生まれたばかりの赤ちゃんドラゴン。母ドラゴンに言いくるめられ、渋々王宮にある訓練場に帰って行った。
短い時間を共に過ごしただけだが、仲良く空を羽ばたいていく姿を見ると少し寂しい気持ちになるオリビアだった。
その日から3日後
庭園でリリスと二人でお茶を楽しんでいたオリビアのもとに新たに雇った護衛が走り寄ってくる。
「オリビア様!門のところに婚約者を名乗る不細工で態度もデカい変な男が来ておりますがいかがなさいましょう!?」
ぶっ!
元気いっぱいに叫ぶ若き護衛の声にオリビアは口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになる。
「通していいわよ」
「ですが……まともに話もできなさそうな本当に変なやつですよ?」
「大丈夫大丈夫。いざとなればドラゴンもいるし」
上を向けば今日も羽根を広げ悠然と羽ばたくドラゴンの姿がそこにはある。同じく視線を空に向けた護衛は頷くと走り去っていく。
「リリス、あなたは部屋に戻る?」
「お姉様一人に頭のおかしいやつの相手をさせるわけにはいかないわ」
うむ。自分も人のことをとやかく言えないが皆失礼なものばかりだ。
ジャリッジャリッと砂を踏む音がどんどん近づいてくる。もう少し丁寧に歩いてくれればいいのに……。あの男にそんな気遣いができるわけがないけれど。
「おいっ!どういうことだ!?」
護衛に連れられ姿を表した変な男――ナギールはそう叫ぶといきなりオリビアの後ろにそのまま垂らしていた髪の毛を引っ張り無理矢理椅子から立ち上がらせた。
キェーーーー!
ガオーーーー!
ギャア!ギャア!
ドラゴン達がけたたましく叫び声を上げる。ビビったナギールは即座に手を離すが乱暴に離されたので髪の毛が何本か千切れたり抜けたりした。
地味に痛い。
「レディになんて乱暴なことをするのよ!最低!」
リリスがガタンッと椅子を倒しながら立ち上がり慌ててオリビアに駆け寄り彼女の頭を守るように抱きしめる。
「違うんだよリリス!そ、そいつが悪いんだ!だって勝手に婚約解消の書類を王宮に提出するなんておかしいじゃないか!?」
ダンッとテーブルに叩きつけられる書類――婚約破棄成立書類。先程オリビアのもとにも王宮から届いたところだ。王にも婚約破棄が認められたのだから二人はただのお知り合いの関係となった。
そっとリリスの手に手を添え大丈夫だと撫でるオリビア。心配そうな表情を浮かべるリリスに大丈夫だと軽く微笑めば彼女はゆっくりと席に戻っていく。
自らも椅子に腰掛けると荒い息を吐きながら仁王立ちするナギールを真っ直ぐに見上げる。
「私は送られてきたものにサインして出しただけですわ。無理に書かせたわけでもないのに失礼な」
「あれは破棄しろと言っただろう!」
ダンッダンッと地団駄を踏むナギールに子供かとオリビアは呆れる。
「私は破棄することに同意しておりません。もともと私も婚約解消しようと思っていたのでちょうど良かったのです。助かりました」
「な……な………」
ぶるぶると震えるナギールにオリビアは首を傾げる。
「なんでだよ!?なんでお前が俺と婚約解消したがるんだよ!?生意気だぞ!?」
なんでだよ!?
こちらこそなんでだよ?ってなんでだよ、だ。
高貴な血は認めるが、それを鼻にかけ他はないない尽くしの男。しかも結婚した可愛い妹を狙う変質者と妹を親戚関係にしたがる者がどこにいるというのか。
どうしても結婚しなければならない理由なしにこんなやつと結ばれようと思う方がおかしいだろうに。
それにこの男…………
自分に何をしてきたのか覚えていないのだろうか。
自分は覚えている。
あんなことやこんなことがあったものだ。




