14.竜騎士団とハプニング
「こちらが聖女のオリビア・リード侯爵令嬢だ」
昨日両親が処刑されたばかりの令嬢。だが目も腫らさず暗い顔もせず平然とした様子で大勢の人の前に立っている令嬢を人はどう見るのだろうか。
気の毒そう?
気まずい?
薄情者?
変人?
答えは全部だ。
ずらりと並ぶ数十人の騎士とゆったりと寛ぐドラゴン達。
翌日王宮に向かったオリビアは王と共に竜騎士団の前に立っていた。今日から自分はこの団に所属することになっている。
ドラゴンの背に乗って戦う?救援活動でもする?ドラゴンの世話?
違う。
ドラゴンから要望があったときにそれを伝える役目だ。とはいうものの気高きドラゴンが人間に何かお願いすることなどほぼないと思われる。
世話ぐらいしたいと申し出たのだがドラゴンの世話もそれぞれのパートナーがきちんと世話をするからから手を出してはいけないそう。日々のそういった交流が絆を深めるんだとか。
となるとただ彼らの訓練場でぼーっとする自分の姿しか浮かばないというもの。
もはやそれは邪魔というものでは?と思ったが自分がいるとドラゴンたちの機嫌が良いらしくそんなことはないらしい。
何より竜騎士団に所属してくれないと色々と不安らしい。
竜騎士団のドラゴンが王宮から去ってしまったり…
謀反とか、
謀反とか……
謀反とか――
昨日陛下がぶつぶつと言っていた。
「わが誇り高き竜騎士団によもやレディを蔑ろにするような愚か者はいないと信じているが。レディはレディでも彼女は聖女だ。諸君が敬愛するドラゴンが最敬愛する聖女。皆……わかっているな?」
虐めたら…………。
「「「は!」」」
ギロリと殺気を纏う陛下からの視線に身体をこわばらせる騎士たち。ちらりと彼らを見ると複雑そうな顔をしているものが多い。まあ当然よね、と思っているとではと去っていくリカルド王。
騎士たちもぞろぞろと動き出し、ドラゴンたちはオリビアを見ながらペシペシと尻尾を地面に軽く叩きつけている。ご機嫌なようだ。
………自分はどうすれば?
「オリビア嬢。隊長を務めさせてもらっているバリー・ゲルトンだ」
おお、銀色の髪の毛とスカイブルーの瞳をもつイケメンさんがさわやかな笑顔を浮かべて現れた。高身長で程よく引き締まった身体。年齢は恐らく25歳くらい。これはモテそうだ。
それにゲルトン家と言えばめちゃくちゃお金持ちの伯爵家。確か三男が竜騎士だと聞いたことがある。
「オリビア・リードにございます。何も役に立たぬ身ではございますがよろしくお願い致します」
ペコリと頭を下げ、上げる。
おや?バリー様の顔が険しくなっていらっしゃる。
なぜに?
そんなに自分の顔はお見苦しいだろうか。かなりの美人だと自負しているのだが。それともやはり存在が迷惑とか?
「その……騎士達は皆ドラゴン達に対して深く愛情を抱いており、彼らに選ばれたことを誇りに思っているものばかり。だから君に少し嫌な思いをさせることがあるか“ドーン!”」
ドーン?
バリーの話の途中でした音の発生源を見れば真っ白なドラゴンが怒りのオーラを立ち昇らせて勇ましく座っておられる。
そしてその右前足の下の地面が見事に凹んでいる。
騎士たちは言葉を失い、その場はシーンと静まり返る。
えー…………。皆青褪めているではないか。勘弁してくれ。ただでさえ厄介者っぽい視線を向けられているというのに。
「大丈夫ですわ。意見の相違、時にはぶつかりあうときもあります。そんなことでいちいち火を吹いたり、地面に穴をあけたりはしませんから。何か言いたいことがあればどんどんおっしゃってください」
ニコリと微笑んで言えば、引きつっていた顔からほっとした表情を浮かべ穏やかに微笑むバリー隊長。
うーむ。かっこいいのになんだろう。癒される笑みというのか……。
いかんいかん、殿方の顔をじっと見つめるなんてはしたない。真っ白なドラゴンに視線を向ければ一生懸命穴を埋め、地面をならしている。塞ぎ終わると穴の部分に伏せ何もなかったようにゆらゆらと尻尾を振っている。
そのおすまし顔……ちょっと面白いんですけど。
皆が呆ける中笑うわけにもいかず軽く咳払いし誤魔化しておく。
その後は本当にやることもなく、訓練場にある台に適当に腰かけドラゴン達や彼らを世話する騎士たちの様子を見つめ続けるだけの時間がすぎる。
それにしてもチラチラチラチラと……あっちからもこっちからも向けられる視線が痛い。
嫉妬、羨望、不満、好奇、好意、尊敬
数は多くないが好意的な視線を混じっていることにほっとしたものの、色々な視線に頭がくらくらしてくる。
ビシャッ!
「……………え?」
ポタポタと髪の毛からドレスから零れ落ちる水。
一体なぜ、私は全身水浸しになっているのでしょうか?
騎士たちも口をぽかんと開け、唖然呆然だ。
『 おい、大丈夫か?顔色が悪いぞ 』
皆の耳には聞こえないだろうがオリビアの耳にははっきり聞こえた素敵な重低音ボイス。
なんと。
これはドラゴンなりの気遣いらしい。目の前には人を水浸しにしてくれた水色のドラゴン。心配そうにこちらを伺っていたが周りの様子が自分の思っていた反応と違うことに気づいたのか尻尾がしゅんと下がりオロオロしだす。
『 え?え?え?だ、ダメだったか? 』
「ダメではありません。顔色が悪いのを心配してくださったのですね。ありがとうございます。ですが少々水が多かったようで皆さん驚いてしまったようです」
『 あっ!そうか!そうだよな!身体も小さいもんな! 』
皆に敢えて説明するように発されたオリビアの言葉。その言葉に状況を理解した騎士たちはなるほどと緊張を解く。だが冷静になった途端彼らは別の意味で身体を強張らせ、顔を真っ赤にしながら慌ててオリビアから視線を逸らす。
ちらりと下を見ればべたりと身体に張り付く淡い水色のドレス。下着が透け身体のラインが丸わかりだ。恥ずかしいという思いよりも視線を必死に逸らす彼らに申し訳なくなってくる。
「こ、これを……」
ふわりと肩から温かいものがかけられる。自らの上着をかけてくれたバリー隊長は視線をこちらに向けぬまま顔を赤くして直立不動になっている。
「まあ、ありがとうございます。明日は来られませんので洗濯をして後日お返ししますね」
「そんなに使わないから、いつでも大丈夫だ」
少々ひっくり返り気味の声を出すバリー隊長。こんなにイケメンでモテそうなのに女性にあまり免疫がないのだろうか。意外である。
そんなことを思いながらこれ以上この場にいない方がいいと考えたオリビアは訓練場を後にした。




