12.ドラゴンへお説教
オリビアの背後からゆらぁりと何かが出てきたのが見えたドラゴンたちはビクリと身体を震わす。
「あのさぁ」
あのさぁ?
え?なんで怒ってるの?辛い目に遭わせた奴らに復讐しようって言って何が悪いの?ドラゴンたちの目が動揺であちこち泳ぐ。
「簡単に復讐とか言うけど、それって大変なことだからね。わかってる?」
『 大変?我らが行って八つ裂きにすればおしまいで大変なことではないと思うが…… 』
「そういうことじゃない」
はあとため息を吐くオリビア。先程まで雄々しく広げられていたドラゴンの翼は縮こまり力なく下を向いている。どのドラゴンも一回り小さくなったように見える。
「うちの両親と兄はいなくなったって問題ない人たちだったわ。むしろリリスの婚約者が跡を継ぐのに邪魔だったからさっさと消えてもらったわけ」
仕事はしない、人に迷惑ばかりかけるような奴らがいなくなっても誰も困らない。使用人は多少困るかもしれないが……自分を虐げていた人たちだしどうでも良い。
それにいつの間にかいなくなっていた。処刑される前に逃げたのかドラゴンにでもやられたのかまではわからない。興味がないので確認する必要もない。
だが
「私を虐げてた人って言ったらかなりの人数になるでしょ?彼らの家族まで含めたら何人がこの世から消えることになるか。この国がまともに機能しなくなっちゃうじゃない」
『 そんなことは我らの知ったことではない。そもそも人を虐げるようなクズが全て消えた方が世のためではないか。それを生み出した奴らもな 』
まあ一理あるが、学園でのオリビアのイジメには少々理由があるというか……皆が皆クズではないのだ。オリビアは罰など望んでいない。
この世は王族と貴族が回しているのだ。たくさんの貴族が消えれば残された者たちの負担が大変なことになる。
それに。
「復讐は復讐を呼ぶものでしょう?嫌がらせしてきた人たち全員を殺っちゃったら、どんな仕返しがあるかわかったものじゃないでしょ?私がいるうちはいいかもしれない。でも私が死んだら?リード侯爵家は潰されてしまうかもしれない。そんなのは嫌よ」
これからリリスが盛り上げていく侯爵家。自分たちの死後早々にグシャっと潰されるなど御免である。
『 む、むむ……だが 』
「じゃあ皆の命が尽きるまでリード侯爵家を守ってくれるわけ?」
『 嫌だ。なんでただの人間のためにそんなことをしないといけないのだ 』
「でしょうね。そうそう私思うんだけど、イジメって傍観者も良くないよね。あなた達だって見て見ぬふりしてたじゃない」
『 そ、それはそなたが聖女だと知らなかったから…… 』
「わかってるわよ。だからこれからの行動を見ましょう?私が聖女だと理解した上で嫌がらせするような奴は叩きのめせばいいじゃない。それはあなた達も侮辱しているようなものだし」
そんな奴は余程頭が悪いか、おかしな奴だ。そんな奴はさっさと消えてもらえばいい。
『 む、むぅ…… 』
「何よ、文句あるわけ?」
『 いや……ま、まあお主が良いなら良いのか?とりあえず勝手に手を出すのはやめよう…… 』
やめようと言いつつムスッとした表情の黒色のドラゴン。その他のドラゴン達も何やらぶーたらぶーたら垂れている。
「ありがとう」
ふわりと微笑めばざわつくドラゴン達。
それは先程とは違い嬉しそうな華やかなざわめきで――
非常に近所迷惑だ。
しーっと人差し指を口元にあてればドラゴン達も自らのお口を塞ぐ。何これめっちゃ可愛いんですけど。絵に残したい。
残念ながら自分の絵の腕は壊滅的に下手くそなので無理だが。
口を抑えたまま飛び去っていくドラゴン達。
「あ……名前くらい聞けばよかったかも」
そう気づいたもののその場には既に黒きドラゴンの姿はなかった。
「てな感じです」
「そ、そうか」
なぜか顔を引きつらせているリカルドにオリビアは首を傾げる。はは、と笑って誤魔化すリカルドだったが内心冷や汗をかいていた。
これが聖女というものなのか。
自分はドラゴンに囲まれたら可愛いなんて絶対に思わない。言葉がわかるから恐怖心も薄らぐのだろうか。
それはさておき
「こんな言い方はよくないかもしれないが、今回は国に被害がなく幸いだった。初めての偉業だ」
こんなことを言って虚しいが、国内だけでなく世界的に見ても聖女の誕生時にどこも禿山にならなかったり血まみれにならなかったり燃やされなかったりしたのは初めてのこと。
「オリビア嬢はいつもと同じく虐げられていた。なのに今回は国は無事でいられた。その理由はなんだったと思う?今後のためにも教えてくれないか?」
真剣な眼差しを向けてくるリカルドに真剣な眼差しで応えるオリビア。それは自分もドラゴンに聞いたのだ。
「それは私の表情が乏しいからかと」
「ん?」
聞き間違えだろうか。
「私、物心ついてから一度も泣いたことがないのです。誰に何をされても涙が出ないのです。悲しくないわけではないのですが……人よりも悲しい程度が低いと言いますか、どうでもいいという考えになってしまうと言いますか」
「………………」
「だからドラゴン達も私がとても酷いことをされているようには見えなかったようです。けれど虐げられてはいることはわかる。私が傷ついている様子を見せなかったので、虐げた者たちを罰して良いか判断がつきかねたそうです」
「…………そうか」
なんと言っていいかわからなかったリカルドはそれだけ呟くと閉口した。
それは幼少期からの虐待によるものではないのか。
それとも生まれつきの性格なのか。
後者であれば幸いだと喜べるのだが、前者であれば……。
リカルドにはそれをオリビアに聞くことはできなかった。




