11.ドラゴン来訪
無事処刑が終わり――
「この度は……ゴニョゴニョ」
なんと言っていいのかわからないのかゴニョゴニョと口ごもる国王リカルドにオリビアは気持ちはわかりましたと頷く。
何もわかっていないけれど。
リリスを除く家族の処刑後リカルドから話があると言われ王宮を訪れたオリビア。応接室に案内された彼女は王が目の前に腰掛けていることも気にせずテーブルに置かれたクッキーに手を伸ばす。
「腹が空いているなら軽食でも用意させようか?」
「お気遣いありがとうございます。このお菓子で十分です」
オリビアの言葉にリカルドは自分の分のクッキーが入った皿をオリビアの前に置く。では遠慮なくと手を伸ばせば僅かにその目が細まる。
うーん。
親や兄が亡くなったのによく食べられるなとでも思われているのでしょうね。でも彼らの死に様を目の前で見たからといって普段通りお腹は空くし、仕方ない。
それに王宮のクッキーは非常に美味しいし……食べなきゃ損というものだ。
黙々と食べているとふわりと笑う気配がした。
あ…………
もしかしたらショックを受けていないか心配してくれたのかもしれない。父親ぐらいの年の人に柔らかい笑顔なんて向けられたことがないのでなんか照れくさい。王の顔を見られない。
「オリビア嬢、非常に聞きにくいことなのだが………………君は両親や兄からだけでなく、他の者――主に学園の生徒達からも虐げられていたようだが間違いないか?」
王の問のあと静まり返る部屋にオリビアがクッキーを飲み込むゴクリと言う音が響く。ゆっくりと俯きがちにしていた顔を上げれば強張る王の顔がそこにはあった。
「それなりの数のものが家族で王宮に駆け込んで来てな、処刑だけはと嘆願された」
許しを請う相手が違うだろうと追い返したが、彼らはちゃんとオリビアのところに行ったのだろうか?
「私のところにも来ましたわ」
牢屋の他にもあちこち行っていたので帰宅したのは夜だったが、かなりの数の人が家の前で待っていた。金貨や宝石などを差し出し土下座してきたので困ってしまった。
まあ、くれると言うから受け取ったが。
「そうか。で…………君はどうするべきだと思うかね?」
どうするべきなどと白々しい。言いたいことはただ一つだろうに。優しい態度を取りながらもやはり目の前におわすは王なのだ。
「ご安心を。彼らには許すと伝えてあります。もちろん謝罪していない者たちの処刑も望みません」
「君には酷な言い方かもしれないが……ありがたい」
ほっと安堵の表情を浮かべる王。当たり前だ。たかが貴族の小娘一人を虐めただけで多くの貴族を処刑になどしたくはないだろう。人員配置の練り直しも、謝罪に来た中にいる有能な者を失うことも王として望まないに決まっている。
「本当にありがたい。君の気も……そしてドラゴンたちの気も収まらないだろうに」
そう呟くとチラチラとオリビアの表情を伺うように目が忙しなく動く王。
???
ああ。
「ドラゴンたちも勝手に手は出さないはずです。そう言っていました」
「言っていた?」
「はい。昨日深夜に家に押しかけてきたのです」
「え!?」
そう。彼らは突然侯爵邸に押しかけてきた。気持ちよく寝ていたのに。
驚く王に視線を向けたまま深夜の出来事を思い出す。
『 ……ぃ…お…い……おーい! 』
眠りから意識が浮上したオリビアは声が聞こえる方――窓に近づく。
「うるさい」
『 すんません 』
窓を開けてバルコニーに出た後ぶすっとして言えば素直に謝る美しき黒色のドラゴン。バサリと広がる巨大な翼と自分と同じく赤い瞳は迫力があるものの不思議と恐怖は感じない。
その周囲では複数のドラゴンたちが同じように翼を広げてオリビアを見つめている。
『 ……じゃなくて!足りない! 』
「足りないのはあなたの言葉よ」
『 すんません 』
ペコリと頭を下げるドラゴンの姿はなんか可愛い。手を伸ばせば首を伸ばし目を瞑りながら頬を寄せてくる。
冷たくて気持ちいいがゴツゴツとしている。
手を離せば再び開かれる赤い目。
『 そなたの家族は明日消える。だがそなたを虐げた者は他にもたくさんいる。奴らの罰はどうなっている?話題にも上らぬようだが、王が動かぬか?であれば我らがクズどもに鉄槌を下そうぞ。復讐は速やかに、豪快に、華々しくせねば 』
口角を上げ、にやりと笑う様は文句なしにかっこよく決まっている。
が
「いや、復讐なんていらないし」
『 は? 』
「別に大したことはされていないし、復讐とかいらないから。あ、あなた達も勝手になんか罰とか与えるのやめてね」
ポカーンと口を開けるドラゴン。大きな口……ぱくりと食われそうだ。
『 いやいやいやいや、我らが愛し子オリビアよ。愛し子を傷つけられたのに何もしないでは我らの気が収まらぬ 』
……何そのワタワタ可愛いんですけど。
はっと気を取り戻したドラゴンはワタワタと前足を動かしながらオリビアに説得を試みる。しかしその様がなんともオリビアの目には可愛らしく映り、言葉がしっかり耳に入って来ない。
『 聞いているか? 』
呆れたような声が聞こえ慌てて、オリビアはコクコクと頷く。
「全員ではないにしろ謝罪に来たから良いでしょう?」
その言葉にざわざわとドラゴンたちはざわつく。相談しているようだ。暫くすると黒いドラゴンが口を開く。
『 内心はどうあれそなたに頭を垂れたことは評価しよう。……だが、足りぬ。悪いことをすれば罰を与えられるのは世の決まり。謝罪すれば許される?そんなわけがない。そなたを虐げた者の命を大切なものを捧げぬ限り我らの気は収まらぬ 』
食ってしまえ
家族も皆殺しだ
家を燃やしてしまえ
財産を奪え
そんな声があちこちから聞こえてきて、オリビアの中の何かがプチリと切れた。




