71話 リツの秘密、気になる?♡
「……行ったの? 本当に?」
ルナはいつまでも警戒を解かなかった。
なにか裏があるのではないか。今にルークが引き返してきて、安心した魔法少女たちを嘲笑うかのような凶行に及ぶのではないか。そんな風に考えているようだ。
しかしルークが戻ることはなかった。
ルークが去り、その背中が見えなくなり、高いヒールが床を打ち付ける音も聞こえなくなった。
「よ、よく分かんないけどチャンスです。行きましょう!」
しかしルークがその場から去るのを待っていたのは魔法少女たちだけではなかった。
「コルァ! 待て、ガキ共!」
「……まぁ、あれだけ派手なことしたんだもの。当然追手は来るわよね」
腕に蛇の入れ墨が入った、チンピラ風の男。
恐らく怪人ではないのだろう。特に能力を使うでもなく、しかし必死の形相で走ってくるのが見える。
おそらくは下っ端構成員。
とはいえ変身ブローチを持たない今の3人にとっては脅威だ。
「なにボーッとしているの、セイラ。早く逃げるわよ」
「え、あ、うん」
3人は一目散に逃げ出した。
彼女たちの囚われているこの建物は増改築を繰り返しているらしく、酷く入り組んだ造りになっている。
現役魔法少女の健脚に敵わず、廊下の角を何度か曲がったころには追手の男の足音は聞こえなくなった。
とはいえ油断はできない。
「このままここにいればじきに見つかります。早く逃げ出さないと」
「言われなくても分かってるわよ。でもこの建物、出入り口はおろか窓すらないじゃない」
ルナはカナコにそう言い返しながら素早く辺りを見回す。
「地下なのか。あるいは魔法少女連盟戦略会議室のように異空間なのか。どちらにせよこのまま脱出するのは難しいわ。計画通り変身ブローチを探しに行きましょう」
魔法少女たちは自分の変身ブローチがどこにあるのかを探知することができる。
そう遠くない場所に彼女たちの変身ブローチはあるようなのだが。
「脱獄がもうバレてるんですから、変身ブローチを餌にわたしたちが来るのを待ち構えているに決まってます。外にさえ出られればまた発信器が直ってリツさんが助けに来てくれるかもしれませんし、出口を探した方がいいと思うんです」
「そんなことを言ったら敵は出口でわたしたちが来るのを待ち構えているかもしれないじゃない」
言い争うルナとカナコ。
そんなふたりの間に割って入るようにセイラが声を上げた。
「あのさ」
またいつものようにルナとカナコの言い合いを仲裁するのだろうとふたりは考えたが、そうではなかった。
セイラはふたりとは少し違うことを考えていた。
「さっきの怪人の言葉、どう思う……?」
ルークの言っていた言葉。
『えっ……まさかお前ら知らねぇの……? そんなに律のこと慕っといて?』
自分はなにかリツに関するとんでもない秘密を知っているかのような、そしてそれを知らない魔法少女たちを嘲笑うかのようなニュアンス。
それがセイラは妙に引っかかっていたのだ。
「なによこんなときに。あんな変な怪人の言葉に耳を貸す必要ないわよ。女装しておしっこするようなヤツなのよ?」
ルナはそう吐き捨てる。
確かにルナの言うとおりだとセイラも思う。
しかし1度気になって考え出してしまうと、確かにルークの言うとおりセイラはリツのことをなにも知らない。
「年齢も、これまでの経歴も、どうして魔法少女になったのかも、なにも分からない。このご時世に、ネットにすらそういう情報出てこないよね」
「だからなんだって言うんです?」
カナコの表情がにわかに冷たさを帯びる。
「もしかしてリツさんが怪人と通じているとでも言いたいんですか? まるで陰謀論者ですね」
「そ、そうじゃないよ! でも、その、なにかアタシたちに言えないことがあるのかなって」
セイラは自分でもなにが言いたいのか分からなくなっていた。
リツを非難したいわけではない。
リツを疑っているわけでもない。
ただ自分たちが知らないことを、あの意味の分からない怪人が知っているということに混乱しているのかもしれない。
だが、それをこの盲信者たちに分かってもらうのは難しいに違いない。
セイラは己の不用意な発言を後悔したが。
「そりゃあ、言えないことはあるでしょう」
セイラの予想に反し、ルナは静かにそう言った。
そこにカナコのような非難の色はない。
「誰だって言えないことはあるわ。わたしだってひとりで東京の魔法少女たちを率いていくのが辛いと思っていたけど、そんなこと口には出せなかった。でもそれは保身のためってわけじゃない」
最年長であり、リーダーでもあるルナが公然と弱音を口に出せば魔法少女たちの士気にもかかわる。
だから敢えてルナはそれを黙っていた。
辛くても、周囲のためを思ってそうしたのだ。
「リツ様にもなにか言えないことがあるのかもしれない。でもそれはきっと周囲のこととか、いろいろなことを考えてそうしたのよ。それに――」
なにかを思い出すように、ルナの目がどこか遠くを向く。
「リツ様はわたしたちを助けてくれた。過去のことは分からないけれど、それだけは事実よ。それで十分じゃないの?」
「……そっか。確かにそうだね。ごめん、話を脱線させて」
セイラは顔を上げ背筋を伸ばす。
そして話を元に戻した。
「アタシも変身ブローチを追った方がいいと思う。とにかくカバンを取り戻そう」
これで投票は2対1。
多数決により、3人はブローチの反応を目指して先へ進むこととなった。
道中は順調だった。追手に見つかることもなく、他の誰かとかち合うこともなく、スムーズに進んでいくことができた。
が、順調なのはそこまでだった。
先ほどカナコが案じていた通り、敵はブローチを餌に魔法少女たちを待ち構えていたのだ。
コンクリート打ちっぱなしのだだっ広い殺風景な部屋。
その中心にいたのは魔法少女たちをこの場所に誘った張本人。
リクルーターの女性であった。
「残念でした。あなたたちの逃避行は終わり。ちなみにこの建物は異空間にあって、出入り口は塞いじゃった。助けは期待できないよ」
おんぶ紐で赤子を背負い、左手に変身ブローチを入れたビニール袋を、そして右手には銃を持っていた。
魔法少女たちに銃口を向けながら、言う。
「魔法少女は3人もいらないんだって。今、ここで、2人殺すね」




