66話 よわよわ魔法少女、せいぜいがんばってね♡
以下、某秘匿性の高い通信アプリによるメッセージ。
『さっきトイッターでDM送った者です。すいません高校生なんですけど大丈夫ですか?お金欲しくて。。。』
『はじめまして!もちろん高校生でも大丈夫ですよ。普通のバイトじゃ手に入らない報酬が簡単に手に入ります』
『あの、親にバレるとヤバいんですけどそのへんわどうでしょうか・・・?』
『報酬は手渡しですし、家族にバレる心配はありません!広告にも書いてあるとおり、いつでも簡単な処置で怪人をやめることができます』
『あの、でもニュースで捕まったりしてる人もいて心配で。。。。』
『悪徳業者がたくさんいて我々も困っているところです。ウチで処置させてもらえば100パーセント安心です。治験費用はもちろん、怪人化後の仕事もたくさんご用意していますよ』
『ほんとうにほんとうに大丈夫ですか?親にバレたら本当に殺されるので・・・』
『ご心配でしたら悩んでいただいても結構です!直接話を聞いていただいて、途中で「やっぱりやめた」となっても構いません。ただ、ご応募を多数いただいていますので、募集をすぐに終了してしまう可能性がございますことをご了承いただければと思います』
『わかりました!応募します!でもやっぱり心配なので友達2人も連れてきていいですか?そいつらも金がないって言ってるので』
『もちろん歓迎いたします!では3名様分の氏名、住所、高校名、顔写真付き身分証明書の画像、緊急連絡先としてご家族の電話番号を教えてください』
***
「よし、いけました。これでリツさんのお役に立てます」
「カナコすげぇな」
「そう? ちょっと文面がバカすぎるんじゃないかしら」
***
潜入捜査は危険だ。
魔法少女というのは変身しなければ無力な少女でしかない(律を除いて)。
しかも潜入捜査中に突発的に戦闘となった場合は配信ができない可能性もある。
そうなるとリスナーの応援によって得られるエネルギーにも期待できず、普段の力を出せない危険もある(律を除いて。律の場合は元の魔力が大きすぎるので配信してもしなくても強さがそんなに変わらない)。
なにより、律ほどの知名度はないにしても3人とも配信で顔出しはしているのだ。
いくら変装してもバレる可能性は大いにある。
それでも、3人は覚悟を持って潜入捜査に臨んだ。
一般市民を騙し、怪人を量産する未知の組織への怒りが彼女たちを突き動かした――というわけではない。
「成功したらリツ様にいっぱい褒めてもらって、失敗したらいっぱいお仕置きしてもらわなくちゃ♡」
目にハートを浮かべるルナ。
「リツさんのお役に立てるなら死んでも構わないので」
悟ったような穏やかな表情で物騒なことを呟くカナコ。
「うううっ、アタシがふたりをサポートしなきゃ……」
狂信者ふたりを支えるという重圧に押しつぶされそうなセイラ。
魔法少女三人衆、いざ潜入調査へ!
***
(本当に大丈夫かな……)
正直なところ、セイラは心配だった。
戦力に心配があるわけではない。
今回は必ずしも戦闘が発生する仕事ではないし、現場にいないとはいえ逐一律に報告がいくようになっている。
じゃあなにが心配かというと、自分以外の他のメンバーである。
「カナコさぁ、最近リツ様の周りをチョロチョロとして……どういうつもり? 死んでも構わないとか重いことを言って、リツ様が困ってるって分からないの?」
姑のごとくチクチクと攻撃を繰り広げるルナ。
しかしカナコも負けてはいない。
「ルナさんこそ、最初の頃はリツさんに新人イビリみたいなことしてたじゃないですか。あれこそリツさん困ったと思いますよ。あんなことやめたほうがいいのになってわたしずっと思ってました」
「なっ……そ、それは――」
「やめろよ二人とも。これから仕事なんだしさ」
セイラはふたりの間に割って入り、なんとかなだめすかす。
(姉ちゃんは元からこういうとこあるけど、カナコってこんなに気ぃ強かったっけ?)
ルナに食ってかかるなんて、以前のカナコでは考えられなかった。
しかも口喧嘩でルナを押している。
普段であれば干渉しないが、しかし今は大事な任務の前なのだ。
「アタシたち――いや、俺ら男子高校生なんだから! 口調とか気を付けないと! はい、ここから本番だと思って喋ろう。待ち合わせ場所、もうすぐそこだし」
遊ぶ金欲しさに闇バイト怪人に手を出した男子高校生――それが3人の設定である。
リクルーターとのやりとりはカナコが行い、偽の身分証は魔法少女連盟東京本部の職員が作ってくれた。
それぞれショートカットのウィッグをかぶり、揃いの学ランで男装。
もちろん服にはリクルーターとの会話を外部に届けるためのマイクやカメラに発信器も取り付けている。
今回の作戦の目標は、怪人化を行っている施設を突き止めること。
そのためにはうまくリクルーターを騙し、施設へ連れて行ってもらう必要がある。
「やってきたリクルーターを捕まえるっていうのはダメなんですか?」
「ダメに決まってるでしょ……だろ。どうせ捕まえたって爆破されるに決まってるわ……決まってるだろ」
ルナは男子高校生の口調の習得に苦労している。
一方、カナコは別のところで苦労しているらしかった。
「カナコ……じゃなくて、カナオ。なんか顔色良くないけど大丈夫?」
「ああ、さらしを巻いているのが苦しくて。でも大丈夫です。我慢できますから」
セイラの言葉に、カナコは胸のあたりを押さえて苦笑する。
その豊かな胸を平らにするためにどれほどの苦労があったことだろう。
それを横目に、なぜかルナは悔しそうな表情を浮かべる。
「なるほど! わた……僕もなんだか苦しいと思ってたんだよねぇ。はー、苦しい苦しい」
「兄ちゃん、張り合わなくていいから……」
そうこうしているうちに、待ち合わせ場所が見えてきた。
指定された場所は某所のファミリーレストラン。
これから怪人化の説明が行われるとは思えない明るい雰囲気の店へと3人は足を踏み入れる。
「で、どこにいるの?」
「うーん。まだ着いてないのかな」
3人はあたりを見回す。
リクルーターの顔を3人は知らないが、少なくともそれらしい人は見当たらなかった。
午前10時のファミレスに客はまばらで、新聞を広げているおじいさん、赤ちゃん連れのお母さん、ガールズトークを繰り広げるマダムの集団が見えるばかり。
「おかしいな。さきに着いていると思ったんですが。ちょっとメッセージ送ってみますね」
カナコはそういってスマホを取り出すが、その必要はなくなった。
手を挙げて3人を呼ぶ者がいたからだ。
「あ、こっちこっち」
「えっ……?」
「バイトの子たちでしょ?」
3人は思わず固まる。
彼女たちの思い描いていたリクルーターの姿と、目の前で手を振っているその人があまりにもかけ離れていたからだ。
それは、赤ん坊を抱いた女性であった。
(えっ……赤ちゃん連れで怪人組織と仕事してるのかしら?)
(いやいや、赤ちゃんの人形抱いてるとかだろ? ……いや、本物の赤ちゃんだ。なに考えてんだろこの人)
(…………………………この人も毒親なのかな)
戸惑いながらもボックス席に腰を下ろす。
3人は目の前の赤ん坊を抱いた女性リクルーターを観察していたが、それはお互い様だった。
対面に並んで座った3人を見る女性の目がスッと細くなる。
こういうとき、女性の勘は鋭い。
「あなたたち、女の子でしょ」
突然の致命的ピンチに、3人の喉が「ひゅっ」と音を立てた。




