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アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡  作者: 夏川優希


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56話 ふにゃふにゃ紙ストローがなんだって?♡


 カナコの母親は昔から思い込みが強く騙されやすい人だった。

 今までたくさんの人間に騙されて、たくさんの苦労をしてきた。

 だからカナコはもはや母親がどんな騙され方をしても驚かないと思っていたが、甘かった。



(まさか怪人に騙されて娘を差し出すだなんて……!)



 変身ブローチを持っているのならばともかく、丸腰のカナコに逃げる以外の選択肢はない。

 カナコは駆け出そうとするが。


 ――キイイイィィィィィン。


 高い耳障りな音。

 部屋の片隅に鎮座している瓶に満ちた水が、音波により細かく波打つ。

 モスキート音と呼ばれる音だ。

 その名の通り、蚊の羽音に代表される高い音。

 成人では聞こえない者が多いが、10代半ばであるカナコにはその不快な音をしっかり感じることができた。


 しかしそれは単なる不快な音ではない。

 カナコは体中に鳥肌が立つのを自覚する。

 腹の底から湧き上がる言いようのない恐怖、焦燥、混乱。

 怪人と相対しているのだから怖いのは当然なのだが、そう言ったレベルではない。


 例えるなら、体に火がついたような強い強い恐怖。

 体が勝手にブルブルと震えてきて、冷や汗が止まらなくなる。



「怖いだろう? わたしを信じればその恐怖から解放してあげよう」



 怪人・ネモトの声が強く響く。

 その言葉は非常に神秘的で、まるで神の声を聞いているような衝撃が脳を揺らした。

 なにも知らない普通の女の子であれば火がついたような恐怖から逃れるため、ネモトに助けを求めて手を伸ばすことだろう。

 しかしカナコはつい最近まで魔法少女であり、怪人たちのやり方をよく知っている。

 これが怪人の能力であることを、カナコはきちんと認識できた。



(これは多分洗脳系の能力――ということは、身体能力は通常の人間と変わらない可能性が高い。とにかくここにいたらダメだ)



 カナコは今度こそ畳を蹴るように踵を返し、先ほど通ってきた襖から廊下へと飛び出す。

 背後からネモトの声が追いかけてきた。



「ムホホ。さすがは先日まで魔法少女だった娘……そう簡単には落ちないねぇ。腕が鳴るなぁ」



 吐き気がしてくるようだった。

 年齢の割に発育の良いカナコは、同級生のみならず大人からも度々そういった視線に晒されてきた。

 それから逃れるために普段は髪の毛で顔を隠し、体の線を隠すようなオーバーサイズの服を着ているくらいだ。

 よって、ネモトへの生理的嫌悪はとてつもないものがあった。



「あんなヤツに捕まるくらいなら死んだ方がマシ……!」



 カナコは廊下を走り、逃げ出す。

 いくら広い屋敷とは言え、一度は通った道だ。なんとなく道順は覚えている。

 来た道を戻るようにして、入ってきた玄関を目指し駆ける。

 人払いしてあるのか、あるいはどこかで待機しているのか。

 カナコを案内したアシスタントを始め、他の人間に会うこともなく、案外アッサリと玄関までたどり着いた。

 しかしネモトにカナコを逃がすつもりなどなかった。



「あ、開かない!?」



 外から鍵が閉められているのか。

 横開きの扉はどう頑張っても開けられなかった。

 変身ブローチを持たない素手のカナコでは扉を壊すこともできず、途方にくれる。



(どうしよう、このままじゃ――)



 そのとき、脳裏をよぎったのはリツからもらったお守り。



(そうだ。更衣室の荷物!)



 お守りは最強の魔法少女であるリツからもらったもの。しかもうっすらとだがあのガラス玉からは魔力を感じた。

 お守りがあれば怪人を退けることができるかもしれない。

 そうじゃなくても、スマホがあれば助けを呼べる。


 カナコは息を殺し、いつネモトが現れるかとヒヤヒヤしながら廊下を歩み、恐る恐る更衣室まで戻る。

 相変わらず人の気配はなく、そしてネモトの姿もどこにもなかった。

 特に問題なく更衣室にまで戻り、そっと中を覗く。

 そこにネモトが待ち構えていたら、と恐れたのだ。

 しかし更衣室には誰もおらず、脱いだ服やカバンが変わらずそこにあった。



(良かった。これでどうにかできる……!)



 ホッと息をつき、カバンを開けて中を探る。

 しかしカバンに手をつっこんだまま、カナコの顔色はみるみる色を失っていった。



「……え? あれ? ない……ない……!」


「なにがないのかな?」


「ひっ」



 声がして、カナコは弾かれたように振り向く。

 出入り口を塞ぐように立っていたのは、ニヤニヤと口元を緩ませたネモト。

 そして手にはカナコのスマホが。



「探してるのはこれかな? それとも……これ?」



 そして、後ろ手に隠していたもう一方の手を差し出す。

 その手に握られていたのは、リツからもらったお守りのガラス玉。



「あっ……」



 顔を蒼くするカナコを、ネモトは満足げに、そして舐めるように眺める。



「ムホホ。ワシは匂いに敏感でね。この玉から魔力の匂いがプンプンするのは分かっていたよ」


「お、お願いです……やめてください。それだけは」


「んん? そんなに大事なものだったのかな?」


「なんでもしますから、それだけは……!」



 さっきまで「あんなヤツに捕まるくらいなら死んだ方がマシ」と本気で思っていた。

 しかしリツにもらったそれは、カナコにとっては文字通り命よりも大切なものだった。


 もはやあれを使ってネモトを倒そうなどとは考えていない。

 ただ、あの“お守り”さえあれば――そしてリツとの思い出さえあれば、これからどんなに酷いことをされたとしても心を折らずにいられると思ったのだ。

 懇願するカナコを見下ろし、ネモトはニヤニヤとその目を一層垂れさせる。



「そうなのか。そんなに大切なものかぁ。それじゃあ――こうだッ!」



 そしてネモトはガラス玉を持った手を大きく振りかぶり、そのまま床に叩きつけた。

 カシャン、という儚い音。

 それはカナコの目の前で、粉々に砕け散った。



「あ……あ……ああああああ!」



 カナコは取り乱し、床に散らばるその欠片になおも手を伸ばそうとするが、ネモトはそれすら許さなかった。

 砕けたお守りの欠片にスリッパを履いた足を踏み下ろし、粉になるまで何度も何度も足踏みをする。

 まるでステップでも踏むかのごとく、カナコの絶望を一層煽るように。



「むほほほほ! その顔! その顔が見たかった! やっぱり魔法少女敗北プレイに絶望顔は欠かせないよなぁ!」



 ネモトが踏み躙ったのはお守りだけではない。

 リツとの大切な思い出を、そしてカナコの心を蹂躙したのだ。

 床に突っ伏したまま動かなくなったカナコを見下ろし、ネモトは不服そうに口を尖らせる。



「あれ? どうしちゃった? 壊れちゃった? いやぁ、それはちょっと萎えるなぁ……でもダイジョーブ!」



 ネモトはその蚊のような口吻を誇示するように撫で回す。



「わたしの分泌する“心の麻酔”を直接注入すればあっという間にHAPPY&PEACEな気分に早変わり! どんなに搾取されても苦しくなくなっちゃうんだ」



 ネモトはカナコににじり寄る。

 カナコの心のみならず、体をも蹂躙しようと。

 しかし心を折られたカナコに、もはや抵抗する気力はない。

 粉々になったお守りを、光を失った目でただぼんやりと眺めるばかり。

 そしてネモトはギンギンになった口吻をカナコに突きつける。



「ワシのビッグマグナムが柔肌にブッ刺さっちゃうよ~!」


「そのふにゃふにゃ紙ストローがなんだって?♡」


「えっ」



 聞き覚えのある甘ったるい声。

 カナコの瞳がにわかに光を取り戻す。

 弾かれたように顔を上げると、その瞳に金髪ツインテールの輝く魔法少女が映る。

 涙と共に、カナコの唇から声が漏れる。



「リツ、さん……どうして……」



 律にはまともな親がいない。

 だからこそ、カナコのことが手に取るように分かった。


 本来であれば子供がもっとも頼りにするべき親に頼ることができないせいで、人に頼るということが極端に苦手であること。

 なにが起きても、きっとカナコはひとりで対処しようとするだろうこと。


 だから律はカナコに"お守り"を手渡したのだ。

 繊細な魔法制御ができるルナに頼み、薄いガラス玉のように脆い造りにしてもらった。

 なにか辛いことがあったとき、カナコはきっとそれを強く握りしめるはずだ。

 そしてお守りが壊れたとき、律にそれが通知される仕組みになっていたのである。


 つまりネモトは自分から最強の魔法少女を呼んでしまったというわけである。



「気色悪い蚊おじさん♡ その子の代わりにリツが遊んであげる♡」


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― 新着の感想 ―
蚊の怪人なら殺虫剤をお見舞いしたい!
来た!ついに来た!! そもそもモスキート音が聞こえないかもしれないリツが来た!!! 加齢ばんじゃい!!!!これでカツ丼!!!!!
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