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アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡  作者: 夏川優希


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55話 服のセンス終わってる♡


 カナコは辟易していた。

 もう何年も何年もずっと辟易し続けている。

 母親のことについてだ。


 お金がないからなんとかしろと言われて魔法少女になったのに、今度はうちが不幸なのはお前が魔法少女になんかなったからだと罵られてやめさせられた。

 かと思ったら、次はこんなことを言い出したのだ。



「カナコ、H&P代表のご自宅に行きなさい」


「……え? どうして?」


「どうしてって、もちろん幸せになるためよ!」



 そして母親は目を輝かせながら息継ぎすら惜しむように話し始める。

 カナコは魔法少女になっていたため浄化が必要なこと、今すぐにそれをしなければ災いが降り注ぐと言われたこと、そしてH&P代表の根元がどれだけ素晴らしい人間なのかということ――


 カナコはため息を必死に押し殺した。

 言いたいことはたくさんあるが、こういうときに口を挟んで事態が改善したことはない。

 ため息など吐こうものなら泣いて喚いて大変なことになるのは目に見えていた。

 だから母親の言うことに従うしかないのだが――しかし、カナコはその無茶ぶりに希望を見出してもいた。



(H&Pの指導者と直接話せる……ってことは魔法少女への誤解を解くチャンスかも。そしたらきっとお母さんも分かってくれる。うまくいけば魔法少女を続けさせてくれるかも)



 カナコは中学生である。

 同年代の他の少女よりも大人びているし、年齢にそぐわない苦労もしてきた。

 それでもやはりまだ子供なのだ。

 話せば分かる。人は変われる。

 そんな甘いことを信じているのだ。


 そしてカナコはH&P代表の屋敷へと向かう。

 なにが待ち受けているかも知らずに。



***



「お待ちしておりました。カナコさんですね」



 H&P会館の隣。

 大きな平屋の日本家屋が根元の屋敷である。

 お手伝いさんでもいそうな立派なお屋敷であるが、カナコを出迎えたのはお手伝いさんではなく根元のアシスタントを名乗る女性であった。



(なんだろう。なんかこの人、変な感じが……)



 そしてカナコはその違和感の正体に気が付いた。

 幸せそうなのだ。

 ハンバーガー店の店員がするような営業スマイルとは全く違う、心からの笑み。

 ウェディングドレスを纏った花嫁がするような、金メダリストが表彰台でするような、そんな輝く笑顔をアシスタントの女性は浮かべていたのだ。



「おめでとうございます。本当に良かったですね。代表に儀式を行ってもらえるなんて、とても名誉なことですよ」



 アシスタントはそう言って、カナコに小さな拍手を送る。



「それではお支度をなさってください。身を清め、清潔な衣に着替えていただきます」



 浄化がどうこうという話は聞いていたので、カナコは別段驚いたりはしなかった。

 カナコの目的はH&P代表の根元と話をすること。

 ここでゴネる意味はない。

 言われたとおりにシャワーを浴び、用意された衣類に袖を通すが。



(……えっ、なにこの服)



 浄化の儀式の際に着る服として、カナコが思い浮かべていたのは行衣だった。

 滝行するときに着る、白い浴衣のような服である。

 それでなかったとしても、無地で飾り気のないシンプルな服が用意されているものだとばかり思っていた。

 しかし実際に用意されていたのはそれとは真逆――フリルで飾られたピンクのワンピースだったのだ。

 それはカナコが魔法少女に変身した際の衣装を再現したものであった。



(H&Pはアンチ魔法少女団体のはず……なのに、どうしてわざわざ魔法少女の服を……?)



 答えは出ないが、しかし今は指示に従う他ない。

 カナコは用意された衣装に着替えながら、かごの中に畳んで置いた私服とカバンに目をやる。

 カバンの中にはスマホや財布と一緒にリツからもらった"お守り"も入っていた。



(大丈夫。大丈夫。わたしにはお守りもある……)



 得体の知れない組織の得体の知れない儀式に怯えていないと言えばウソになる。

 しかしリツにもらったお守りを手の中に出すと、なんだか少し落ち着く気がした。

 そしてそれは気のせいではなかった。

 ガラス玉からうっすらとだが魔力を感じる。

 きっとカナコが困ったとき、助けになるようにリツが手渡してくれたのだろう。

 どういう風に助けてくれるのかは分からないが、少なくともこれを持っていると安心する。


 怪人・リュウザキの攻撃が当たったとき、カナコは本当に死を覚悟したのだ。

 そんな死の淵からリツが救ってくれたときの思い出は、辛い境遇の中にいるカナコの宝物となっていた。

 甘い匂い、華奢な腕の感触、そして幼さと生意気さの混在した表情――忘れてしまうのが悲しくて、毎日毎日暇さえあればそのことを思い出しているくらい。


 だからリツが家にまで来てくれたときは嬉しかったが、反面恥ずかしくもあった。

 憧れの人に、あんなヤバい母親を見られたくなかった。

 それに、これ以上リツに迷惑はかけられない。



(大丈夫ですリツさん。きっとひとりで解決してみせますから)



 カナコは脆いガラス玉が割れないようそっと巾着に戻し、斜めがけにしたカバンへとしまう。

 そして意を決し、更衣室を出て根元の元へと向かおうとしたのだが。

 待ち構えていたアシスタントから待ったがかかった。



「荷物は更衣室へお戻しください。儀式の邪魔になりますので」


「え? ええと、でも貴重品が……」


「この屋敷に荷物を盗むような者はおりません。必要であればすぐに取りに戻れますから」



 そう言われてしまえば仕方がない。

 カナコは言われたとおりに、荷物を更衣室のかごの中へと置く。

 迷うのは、リツからもらったお守りだ。

 これを待っていると安心する。

 とはいえこの衣装にポケットなんてものはない。

 お守りを持ち歩くには手で直接巾着を持つ必要がある。

 しかしそのガラス玉は非常に脆い。少しぶつけた程度でも、いや、ちょっと力が入って強く握ってしまった程度でも壊れてしまうかもしれない。


 自分の不安を和らげることと、お守りを壊してしまうリスク――天秤にかけた結果、お守りを壊さないことをカナコは優先した。



「わたし、がんばりますから。見守っててくださいね、リツさん……」



 お守りをカバンに戻し、カナコは途中何度も振り返りながら、更衣室を出て改めて根元の元へと向かう。

 そしてアシスタントの女性はある大きな廊下の前で止まった。



「代表は奥の部屋でお待ちです。ここからは神域ですので、おひとりでどうぞ」



 長い長い廊下。

 その奥には大きな襖。

 鮮やかな孔雀が描かれたその襖を開けると、暗い畳の部屋が現れた。

 電気は付いておらず、灯りは大きな窓から差し込む月明かりだけ。

 明るい廊下から入ってきたカナコの目には、暗闇に満ちたその部屋の大きさも、誰がどこにいるのかも分からない。

 気味の悪さを感じながらも、畳の感触を確かめるようにカナコはその部屋へゆっくりと足を踏み入れる。



「あのこんにちは。桜庭加奈子です。根元さんにお話を――」


「違うだろ!」


「え?」



 ピシャッッッ!


 激しい音を立てて襖が閉まる。

 確かに誰もいなかったのに、ひとりでに襖が動いたのだ。



「君は魔法少女カナコだろ」



 少しずつ、目が慣れてきた。

 カナコは素早くあたりを見回す。

 宴会どころか運動会でもできそうなほど広い部屋。

 その奥にいるのが根元なのだろうが――

 カナコは暗闇の中で目を凝らした。

 なんだか、変なシルエットをしていたからだ。



「むほほ……柔肌がいいねぇ。しかもこの前まで魔法少女だった女の子……さぞかし魔力が詰まっててパンパンムチムチなんだろうねぇ」


「ッ――」



 部屋の奥から歩み寄ってきた根元の姿が窓から射し込む月明かりによってあらわになる。

 その姿にカナコはギョッとした。

 

 黒と白のシマシマ模様の服。

 目元を覆うカトーマスク。

 そして口元から伸びる、細く長いくちばしのようなもの。


 上2つだけであれば服のセンスが終わっている人という解釈もできなくはないが――口元から伸びているものはあきらかに作り物ではなかった。

 つまり。



「怪人……!」



 カナコは普段の癖でポケットに手をやろうとして空振りをする。

 この衣装にはポケットがないし、そもそも変身ブローチは返してしまった。

 つまり、怪人のねぐらに無防備な状態でホイホイやってきてしまったということ。



「怪人になったからには、一度くらいは魔法少女敗北プレイをしておかないとね」



 根元、いや――怪人・ネモトは「ムホホ」と笑い、マスクの奥の目をますます垂れさせた。


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― 新着の感想 ―
やったあ突然のノクターンだ!! なお
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