47話 学芸会ならよそでやって♡
☆前回までのあらすじ☆
リツは中学2年生の平凡な女の子☆
学校の王子様、ルークくんになぜか気に入られちゃって大変大変っ!
きっとからかわれているだけ。そう思って避けてたんだけど……
「おもしれー女」
とか言われちゃってビックリ!
そんなんじゃないのに~!!
最初はなんだこいつ! って思ってたけど、でも一途なとこも見えてきて……
怪人から助けてくれたことで一気にふたりの距離は急接近☆
「俺の女になれよ」
なんて言葉と共に壁ドン!
なんなの急に! でもルークくん、やっぱりかっこいい……
わたしの顎をくいっと持ち上げ、ルークくんは唇を寄せる。
ええっ! そんな! こんなところで!? でも、嫌じゃないかも……
わたしは静かに目を閉じてルーク君をうけいれ――「なんなの?♡ この寒い小芝居♡」
律はカッと目を見開き、ルークの胸倉をつかんで易々と持ち上げる。
「学芸会ならよそでやって♡」
頭の中に自分のものではない思考が自分のもののように流れてきたが、それを跳ね返すのは律にとってわけないことだった。
メスガキアラートに頼るまでもない。
流れてくる思考のカラーがあまりにも自分のそれとかけ離れていたからである。
律は内心で思わず苦笑する。
"リツは中学2年生の平凡な女の子☆"だなんてとんでもない。
律はアラサーの元社畜男性であり、中学2年生の女の子だったことなど一度もないのだから。
「せっかく来てあげたのに、なにこの古くさいテンプレ少女漫画みたいな設定♡ 絵柄古そう♡ てかてか……こんな幻見せるなんて、リツのこと好きだったりして♡」
律が悪戯っぽい顔で見上げると、ルークはまるでヘドロのようにどろりと溶けた。
そして花が咲き乱れる風景もなにもかもがどろりと溶け、かわりに辺りに広がるのは、自分の足下はおろか目の前にかざしたはずの指先すら見えない漆黒の闇。
「きゃははっ♡ 本当にリツのこと好きなんだぁ♡ へぇ……♡」
律は口元を押さえ、なにやら含みがあるような笑みを浮かべる。
そうしながらもその目は素早く辺りを見回した。
ここはリュウザキの膨張する体の中。
もしかしたら飲み込まれた人間が他にもいるのではと思ったのだが、見えるのは闇ばかり。
――いや。
人間のものではない、小さな影が闇の中に浮かび上がった。
「みゃはははは! すごいみゃ。この世界で正気を保っていられるなんてみゃ」
闇に浮かぶ金色の目がふたつ。
それは黒い猫のぬいぐるみのような生物だった。
闇の精霊――怪人を創り出している張本人である。
そのコインのような目を凝らし、律を値踏みするように見つめる。
「みゃー……これは驚いたみゃあ。すごい魔力量。さてはとんでもない犠牲を払って魔法少女になったみゃ? これまでの人生を全部なかったことにするような……」
律は内心で苦笑した。
アラサーからメスガキになったことで律はこれまでの人生をリセットされた。
これまでの人生に律が価値を感じていなかったから明るくやってこられたが、とんでもない犠牲と言われれば確かにそうだ。
「一体どんにゃ――」
「うるさいぞ、消えろみゃうみゃう」
「みゃっ」
パチン。
指を鳴らすような音と共に、闇の精霊はまるで手品のように白煙を上げて消えてしまった。
そしてたった今まで精霊のいた場所にルークが出現する。
やはり、この空間は彼が全権を握っているのだ。
ルークはため息をひとつ吐き、観念したように話し始める。
「まぁ、変な小細工をしたことは謝るよ。女の子はこういうのが好きかなって思ってさ」
「そんなのはどうでもいいけど♡ なんであなたがこんなとこにいるの?♡」
「俺も父さ――いや、リュウザキに飲まれたんだよ。正直死ぬかと思ったけど、凄まじい力にリュウザキの自我が耐えられなかったから、かわりに俺がコントロールしているんだ。まったく、弱いくせに分不相応の力を得ようとするから――」
「まるで自分には相応の力みたいな言い方だね♡」
全能感に酔ったような言葉をぶった切り、律は鋭い視線でルークを射貫く。
「飲み込んだ人たちを解放して♡」
「それはできないな。この空間を維持するにはたくさんの電池が必要なんだ」
ルークは即答した。
まるでガールフレンドのワガママに付き合わされて困ったような顔で。
「ここに閉じ込めておかなくちゃ、リツはすぐに飛んでいってしまうだろう?」
そしてルークは虚空に手をかざし、空間からずるりとなにかを取り出す。
それは花束だった。100本の薔薇の花束。
作り出したそれを抱え、跪いて律へと捧げる。
「初めて会ったときから君のことが好きだった。僕の思い、受け取ってくれ!」
アイドルもかくやというイケメンに、100本の薔薇で告白される――
女子垂涎のシチュエーションに律は笑った。
とはいっても、律の中身はアラサー男性である。
笑顔は笑顔でも、律のそれは嘲笑だった。
「いいのぉ?♡ リツのことなんにも知らないくせに愛の告白なんてしちゃって……♡」
「なに言ってるんだ。君のことはよく分かっている。君も俺のことを知ればきっと好きに――」
「そうじゃなくて♡」
そして律はルークの耳元にそっと唇を寄せる。
プイプイには止められていたが――メスガキの口を閉じさせることはできない。
「リツ、男だよ♡」
「――は?」
ルークは呆然とした表情で律を見る。
が、すぐに我に返ったように首を振り、律の言葉を笑い飛ばす。
「なに言ってるの。こんな時によく分からない冗談はやめてほしいな。照れてるの?」
「さっき精霊が言ってたでしょ♡ リツが払った代償がそれだよ♡」
律の言葉に、にわかにルークの顔から表情が消える。
「しかもルークくんの倍以上長く生きてる♡ つまりおじさん♡ オスガキなんかに興味あるわけない♡」
どんどん顔色を悪くするルークに、律はトドメを刺す。
口元を嘲笑に歪め、小悪魔を思わせる八重歯を覗かせ、瞳を生意気に輝かせた――とびきり魅力的な表情で。
「きゃははっ♡ おじさんに告白して振られてどんな気持ち?♡ ねぇどんな気持ち?♡」
ルークは答えなかった。
ただ、その体が黒檀のように黒くなり――そしてヘドロのようにどろりと溶け落ちた。
「う、うう……うううううう……」
それは瞬く間に体積を増やし、まるで津波のように律に襲いかかる。
が、律は動じない。
ステッキを一振り。瞬間、凄まじい風が吹きすさぶ。
「しつこい♡」
ザンッッッ――
ステッキが生み出した風の刃が襲い来るヘドロを、そしてどこまでも続く無限の闇をも切り裂く。
闇に差し込む自然な陽光。
それを目指して律は飛ぶ。
襲い来るヘドロの波をよけながら彗星のごとく飛び、そして――青空の下へと律は飛び出した。
『リツだ!!!』
『良かった。怪人に飲み込まれた時はどうなるかと思ったけど…』
『俺たちのリツちゃんがあの程度でどうにかなるわけないだろ!!!まぁちょっぴり不安だったけど…』
リツの生存を確認し、配信を見守っていたリスナーたちも歓喜と安堵の声を上げる。
しかし同時にこんなコメントもあった。
『いや、でもさすがのリツでもこれは…』
『シンプルにどうやって倒すの?』
『こんなん巨大ロボでもないと倒せないだろ』
『世界観が違う…』
リスナーたちが言っているのはつまり、肥大化したリュウザキのことを言っていた。
先ほどまでリツが飲み込まれていたその体は天を衝くほど大きくなり、まるで山がひとつ出現したかのよう。
ヘドロ製のナメクジのような体でのろのろと進み、地表のすべてを飲み込んでいく。
もはや人の形を失ったそれを見て、律は思わず呟いた。
「デッッッッッカ♡」




