40話 妖精さんそっくりじゃん♡
ルークに連れられて入った喫茶店でたまたま怪人に遭遇。
サクッと怪人を倒した律は報奨金の30万円を手に入れ、先ほど払った家電の代金を余裕で取り戻した。
それから数日。
買い揃えた家電も届き、安物ではあるが家具も必要な物を揃えた。
結局口座に金が入ったからといって特別高価なものを購入することもなく。
日々の食事が多少マシなものになったということ以外に律の生活は大きくは変わらない。
とはいえ口座の中に結構な額が入っているという事実は律の精神にとても良い影響を与えており、ここ数日非常に穏やかに過ごすことができていた。
そんな時だった。プイプイからの連絡が来たのは。
『律さん、もし予定なければ魔法少女連盟戦略会議室にきてほしいプイ!』
もちろん行くに決まっている。
律にとって魔法少女とは職業であり、仕事の呼び出しに応えるのは当然のことだ。
さっさと支度を済ませ、魔法少女に変身。
空の亜空間に位置する魔法少女戦略会議室へと向かう。
(そういえば会議室に行くのって他の魔法少女たちに詰められて以来だなぁ。今回はああいうトラブルないといいんだけど……)
ルナとは和解(?)したものの、他の魔法少女たちが律をどう思っているのかはまだ分からない。
またなにか因縁をつけられるのでは。
そんな不安を抱えたまま会議室へと降り立つが――しかし、結論から言えば杞憂だった。
「リツしゃま♡ 来てくださってありがとうございます♡」
会議室に入って早々、ルナの手厚い歓迎が待ち構えていた。
律の足にスリスリと頬を擦りつけ、尻尾を振って媚び媚びしている。
もちろんプイプイと他の魔法少女たちの面前で、だ。
ルナのメスガキ堕ち動画はネットで広く拡散されており、他の魔法少女たちも当然目にしているだろう。
しかし画面越しに見るのと直接目の当たりにするのとでは衝撃度が違うということか。
リーダーであり最年長のルナがルーキーの律に情けなく媚び媚びしている光景を直視できる者はおらず、みな気まずそうな表情であらぬ方向に視線を向けている。
だが戸惑っているのは律も同じ。
(こ、これはどうすれば……)
「あの、リツさん。椅子を持ってきたのでどうぞ掛けてください」
気まずい光景に耐えられなくなったか、魔法少女のひとりがそう言って椅子を勧めてくれたが――
ルナがぴしゃりとそれを制止する。
「リツ様にそんな粗末な椅子なんか勧めて、どういうつもり?」
「え? あ、すみません」
「まったく……」
と、すかさずパワハラをカマしつつルナは四つん這いの姿勢になった。
「リツ様♡ どうぞわたしに掛けてください♡」
「よし、みんな! 今日はいったん解散にしよう! なにかあったら連絡してくれ!」
見るに堪えないとばかりにセイラが立ち上がり、他の魔法少女たちに退室するよう促す。
この前の切り裂きジャックとの戦いでの覚醒が認められたのか、あるいは変わり果ててしまったルナのサポートを任されているためか、きちんとセイラにも席が用意されており、以前のように冷遇されている様子はもうない。
魔法少女たちの律に対する視線にも敵意めいたものはなく、なんなら気の毒そうにする者や「ルナさんをよろしくお願いします」なんて言って頭を下げる者までいた。
「……で、こんなとこに呼び出してなんの用なの♡」
人払いを終え、会議室にはプイプイとセイラとルナ、そして律だけが残された。
律の問いかけに答えたのはセイラだった。
「わざわざ来てもらってすみません。怪人組織〈ブラッディドラゴン〉の捜査を進めていて、リツさんにも情報共有をしておきたかったんです」
〈ブラッディドラゴン〉――律も報奨金稼ぎのために壊滅させようとネットに出ていた住所へ出向いたものの、すでに事務所が移転しそのまま行方知れずとなっていた怪人組織だ。
ルナたち東京近郊の魔法少女たちも〈ブラッディドラゴン〉を追っていると聞いていたが、どうやら調査が進んでいるらしい。
「まずは基礎情報ですが、〈ブラッディドラゴン〉の前身は地元の仲間たちで結成された不良グループです。最初は恐喝や万引きなどをやる悪ガキグループでしたが、やがて強盗や違法薬物の売買にも手を出して半グレ組織に。そして組織幹部が怪人化してますます悪質化――現在は平均的な中規模怪人組織ってとこですかね」
〈黒き森〉のようにイチから怪人を集めて作られた組織というのは少数派で、多くは暴力団や半グレ組織の幹部が怪人化することで怪人組織となることのほうが多い。
〈ブラッディドラゴン〉も後者であった。
「怪人の能力や規模から考えても、リツさんのお手を煩わせるまでもなく倒せるとは思うんですけど。ひとつ気になることがあって」
そう言ってセイラが取り出したのは、スマホに表示させた1枚の画像。
明らかに堅気ではなさそうな大柄な男性と、そして宙に浮かんだ黒いなにか。
セイラは画像を拡大し、その黒いなにかを画面の中心に置く。
黒い毛並みと尖った耳、そして2頭身のコロンとしたフォルムから、律は猫のぬいぐるみを連想した。
ぬいぐるみのような、宙に浮かぶ生物といえばひとつしか浮かばない。
「なにこれ♡ 妖精さん?♡」
「いえ。これは悪しき精霊です。その隣にいるのが〈ブラッディドラゴン〉のボス、リュウザキ」
(えっ……悪しき精霊ってこんな姿なの?)
人間に光の力を授けて魔法少女にするのが妖精さんであり、闇の力を与えて怪人にするのが悪しき精霊である。
妖精さんが可愛らしいぬいぐるみのような姿をしていることは有名であり、その写真はネットなどにも出回っている。
しかし悪しき精霊の姿は謎に包まれており、黒い影や悪魔のような姿で表現されることが多い。
世間のイメージとはかけ離れた可愛らしい姿に、律は胡乱な目をプイプイへと向ける。
「妖精さんそっくりじゃん♡ もしかして魔法少女の真の敵は妖精さんだったってオチじゃ……♡」
「違うプイ! あんな異常者と一緒にしないでほしいプイ!」
プイプイはいつになく強い語気で律の疑いを否定した。
「普通の妖精は正のエネルギーを好むプイ。配信をして魔法少女の活躍を世間に見せているのもリスナーの応援による正のエネルギーを得るためなんだプイ」
「そうだったんだ♡ てっきり承認欲求強めなのかと思ってた♡」
「そんなこと思ってたプイ!? 前にも言ったプイ! リスナーからの応援はぼくら妖精はもちろん、魔法少女にとってもプラスの影響があるんだプイよ!」
プイプイは心外だとばかりに声を上げるが、すぐにその表情は深刻なものへと変わる。
「でもなぜかヤツは負のエネルギーを好むんだプイ。妖精界を負のエネルギーでいっぱいにしようとしたプイが、失敗して人間界へ逃げてきたんだプイ」
プイプイはその小さな手をぐっと握り込み、つぶらな瞳に真剣な光を宿す。
「今度は人間界を負のエネルギーでいっぱいにしようとしてるんだプイ。ぼくらはそれを止めるために妖精界からやってきたんだプイ」
「……ねぇ、それなんだけどさ。あそこからは負のエネルギー出てないの? 大丈夫?」
挙手したセイラが、その視線を四つん這いになったまま動かないルナへと向ける。
律が座ってくれるのをまだかまだかと心待ちにしている様子。
プイプイはルナを見下ろし、力ない笑顔を浮かべた。
「大丈夫だプイ。本人が楽しいならなんの問題もないプイ……」
そしてプイプイはその表情を深刻なものへと戻す。
「とにかく〈黒き森〉がなくなったことで、世間に流れる負のエネルギーが減ったプイ。精霊がなにか仕掛けてきてもおかしくない……律さん、十分気をつけるんだプイよ」
(気をつけろって言われてもな……)
よく知らない中規模怪人組織への危機感などイマイチわかず、目の前で四つん這いになり熱い視線を向けてくるルナの方が律はよほど心配だった。
しかしプイプイの言う通り。
悪しき精霊の魔の手は少しずつ、しかし確実に律へと伸びていたのである。




