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アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡  作者: 夏川優希


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39話 ぼんぼん♡


 ルークによってある喫茶店へと連れてこられた律は、正直言って困惑していた。



(なんか、へんなノリの子に絡まれちゃったな……)



 顔に手が当たったお詫びをしろと言われて渋々一緒に喫茶店へ行ったものの、「レディに財布を出させるのは男として失格だ」などとも言われてコーヒーを奢られた。

 まったく意味が分からない、と律は困惑する。

 なにより、彼の妙に芝居がかったというか、古い少女漫画のようなクサいセリフ回しも気になる。



「ねぇ、ええと……ルークくん? って何歳なの?」


「俺? 14歳だよ」


「ああ……」



 律は納得したように頷いた。

 14歳。

 ちょっと人とは変わったことをしたくなるお年頃だ。

 漫画とかに影響されて口調やキャラがおかしくなるなんてことも珍しくはない。



「私立の有名中学に通ってるからさぁ、同級生も大物政治家の息子とか大手企業の重役の息子とかばっかでさぁ、普通の中学生と話が合わないんだよねぇ」


「へぇ……ふうん……そうなんだ……」



 律は生温かい目で見守りながらつまらない話に相槌を打ってやる。

 本当なら中学生のくだらない自慢話になど付き合いたくはないが、鼻血を出させてしまったという負い目と知らない中学生に飲み物を奢らせてしまったという借りがある。

 なので、律はジッと耐えるが――



「でも、リツちゃんはなんでかすっごく話しやすいんだよね。なんでなんだろう?」



 そう言ってルークは律にウインクしてみせる。



「はは……」



 律はなんとか愛想笑いで返すが。

 限界のときは近い。



***



 優雅な笑みを浮かべて自分のアピールポイントを喋っていたが、ルークの内心はものすごく焦っていた。



(なんでだ? まったく手応えがない……!)



 周りの女子たちは夢でも見るみたいな顔でルークの顔を見て、彼の話に一生懸命耳を傾けては頷いてくれる。

 なのに、リツのこの生温かい視線。

 そして気のない返事。

 机の上に置いたブランド財布を褒めることも、発売されたばかりの最新型高スペックスマホに食いついてくることもない。

 まるで男――それも同世代ではなく親戚のおじさんでも相手に喋っているみたいな違和感をルークは覚えていた。



(いや、落ち着け。大丈夫だ。俺のこの美貌に靡かない女がいるはずない……なにかアプローチを間違えているだけ)



 ルークが打開策を探っていたその時だった。



「あっ」



 声を上げたのはウエイトレスの女性。

 隣のテーブルの皿を下げていた彼女の体が当たり、机の上にこれ見よがしに置いていた高級ブランドの財布が落ちたのである。



「なにするんだよ!」



 ルークは瞬間的に激怒した。



「す、すみませ――」


「触るなよ。どんな汚い手か分かんないからな」



 慌てて財布を拾おうとしたウエイトレスを制止。

 頭を下げる彼女に、ルークはさらに詰め寄る。



「これはお前が100時間働いたって買えない財布なんだけど。どう責任とるつもりだ?」


「も、申し訳――」


「あー、謝罪とかいいから。ここの喫茶店チェーンのオーナー、うちの父さんの知り合いなんだよね。接客態度悪いって相談しなきゃな」


「っ……」



 謝ることも封じられ、ウエイトレスはうつむいてしまう。

 ルークは腕を組み、背もたれに寄りかかり、そして――チラリと横目でリツを見る。

 財布を落とされたことにキレたのは演技というわけではないが、これもリツの気を惹くパフォーマンスの一環だったのだ。



(女ってのは強い男が好きなはず。俺は金も権力も持った強い男……どうだ、リツ!)



 しかし、リツの表情はルークが期待するようなものではなかった。

 まるで公共の場で大騒ぎする子供を見るような、冷ややかな視線。

 そしてリツはため息交じりに呟く。



「やめなよ。みっともないよ」


「み、みっともない……?」



 リツの言葉を繰り返してみるが、しかしその意味がルークには分からない。



「あ、もしかして俺の父さんの知り合いがここのオーナーってのが嘘だって思ってる? マジだから。証拠なら――」


「君は、多分すごく極端な環境で育ったんだね。そういうのを注意してくれる友達ができるといいね」


「は? いやいや……友達なら普通にいるし。まぁこんなとこで働いているような底辺の友達は確かにいないけど」



 少しムキになって、ルークはそう言い返す。

 それは、リツの言葉に覚えがあるからに他ならない。


 確かにルークの周囲には彼の顔に引き寄せられた女の子がたくさん集まってくる。

 しかし男子の友達はおらず、ルークの横柄な性格を見抜いた良識ある女子は最初から彼に近付かない。

 ルークの父親が怪人組織のボスという話は同級生の中でも密かに広まっており、それゆえ彼の横暴を注意できる者もいなかった。

 だからその指摘にルークは“リツに取り入る”という目的を忘れて噛み付いたのである。



「俺は将来、こういうヤツらの上に立つんだから。躾の方法を知っておかないとさ」



 しかしリツは冷静だった。

 喧嘩腰の言葉に言い返すこともせず、静かに席を立って落ちたルークの財布を拾い上げる。

 軽く埃を払い、そして机の上にそれを戻した。



「君が将来的に人を束ねるような立場になるんだとしたら、なおさら労働者に敬意を払わないといけないよ。じゃないと手痛いしっぺ返しを食らうことになるかも」



 その言葉に、ルークはドキリとする。

 どうしてかは分からない。

 自分よりも年下で、人生経験だって自分よりもずっと少ないはずのリツの言葉が、なんだかやけに重いものに感じられたからかもしれない。

 まるでかつての自分の経験を語っているみたいな。



「じゃあ、そろそろ行くね。鼻血出させちゃったのは本当ゴメン。コーヒーもごちそうさま」


「いや、ちょっと、待っ――」



 ルークはリツを呼び止めようと声を上げる。

 しかしリツは振り向きもせず店を出て行く。

 代わりに、横から伸びた手がテーブルの上の財布をくすねた。



「ガキのくせにいい財布持ってんじゃん」


「……は?」



 腕に巻き付くように彫られたドラゴンのタトゥー。

 その男に、ルークは見覚えがあった。

 〈ブラッディドラゴン〉構成員、怪人・ヤマモト。

 とはいっても怪人の構成員の中では下っ端も良いとこ。

 リツに振られたいらつきをぶつけるように、ヤマモトに向かって吐き捨てるように言う。



「なにするんだ。返せよ、この雑魚が」


「あ? なんだこのクソガキが」


「はぁ? お前、俺のこと分かんないのかよ。俺はリュウザキの――」



 ルークは厳密に言えば〈ブラッディドラゴン〉の構成員ではない。

 とはいえボスの息子であるルークはどの構成員よりも自分のほうが偉いと思っていた。

 事実、組織のイベントなどに顔を出せばルークは「ボスの坊ちゃん」として丁重に扱われる。

 ――が、ひとたび外へ出ればそんな理屈は通用しない。



「なんだよ、ごちゃごちゃうるせぇな。殺されてぇのか?」


「……え?」



 どうやらヤマモトはルークの顔を覚えていないようだと、気付いたときにはもう遅かった。

 ヤマモトの腕が裂け、まるでクラゲのような触手へと変貌する。

 ルークは知っている。

 その触手には毒があり、大量に注入されれば全身から血を流して死に至ることを。



「俺は年下に舐められるのがイッチバン腹立つんだよなァ!」



 触手がルークに襲いかかる。

 いつも助けてくれる父も、今はいない。

 怪人相手にルークはなすすべなく目をつむるが――いつまで経っても痛みは来なかった。

 かわりに一陣の風が吹き、ふわりと甘い香りがした。



「なにこの触手♡ 気持ちわるい♡」



 ルークは目を開ける。

 視界に飛び込んでくるのは、魔法少女リツの姿。

 リツが騒ぎを聞きつけて、魔法少女に変身し戻ってきてくれたのだろう。

 リツに対抗する手立てを考えるため、ルークはネットで何度も動画を見て予習していた。

 その姿は飽きるほど見ていたはずだが――しかし液晶越しではない生の魔法少女リツに、ルークは頭を殴られたような衝撃を受けた。

 甘ったるい声、嘲笑に歪む口元から覗く八重歯、金髪のツインテール。そのどれもが宝石みたいに輝いて見えた。



「ああ? なんだお前! 俺は年下に舐められるのがイッチバン――」


「それはもう聞いたんだけど♡ 同じこと2度も言うなんてバカの極み♡」



 ザンッ――

 リツの体から放たれる風の刃が、襲い来るヤマモトの触手を切断。

 その見事な切り口に、どうやら人の顔を覚えるのが苦手らしいヤマモトもリツの正体に気付いたらしかった。



「お、お前! メスガキ魔法少女じゃねぇか! クソッ、なんでこんなとこにっ……」



 そう吐き捨てて、ヤマモトは騒然とする店内から逃げ出した。

 だがもちろん、リツが怪人を逃がすはずがない。

 店内を荒らさないよう、敢えて逃げ出すよう仕向けたのだ。

 怪人を追いかけてリツも駆け出すが――思い出したように足を止めてくるりと振り向く。

 呆然とするルークを嘲笑うかのように、リツは口元へ手を当てた。



「ぼんぼん♡」


「は……?」


「イキるのも大概にしなよ♡ ざぁこ♡」



 それはわずか数秒の出来事だったが、この時のリツの嘲笑をルークは何度も思い返すことになる。

 取り残されたルークは椅子に座ることも忘れ、長いこと呆けたようにただ突っ立っていた。



(こ、この俺に向かって、ざこだと……?)



 プライドの高いルークのことだ。

 普段であれば、そんな言葉を吐かれたらハラワタが煮えくり返るような怒りを覚えるだろう。

 しかし、ルークに芽生えたのはそんなものじゃなかった。


 動悸、胸の痛み、頭がぼーっとするようなのぼせ感。

 ルークは胸を押さえ、赤くなった顔で天を仰ぐ。



(ど、どういうことだ? なんだか苦しい……ヤマモトの毒が入ってしまったのか?)



 もちろんルークを襲ったその症状は毒によるものなどではない。

 ――それが恋だと気付くまで、もう少し時間がかかりそうだった。



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