第八話 初めてのレベルアップ
四人パーティとなって初めて魔物討伐に出た翌日。この日も当然魔物討伐に出動である。ギルドの掲示板を見て、何かちょうど良い魔物の情報はないかと四人で探していく。
「またヒュージスパイダーとヒュージマンティスあたりかな。戦ったこともあるし、確実に勝てると思います」
アレンが言うと、ライルが言葉を付け足した。
「あとジャイアントスネークにも挑戦してみようか。複雑な動きをするのでちょっと厄介だが、俺とリアナもいるし、何とかなるだろ」
そしてその三件の依頼書を持って受付へ。いつも通り、ギルド職員のアリサが受注の印を押してくれた。
「毎回のことだけど、気を付けて下さいね」
魔物の討伐に絶対はない。油断して命を落とすこともあり得る。だから、繰り返しになってもアリサは警告してくれるのである。
「はい、十分気を付けます」
アレンが返事をして、他の三人と一緒に軽く頭を下げる。依頼書の作成や魔石の換金などで世話になっているので、忠告はしっかり受け止めている。
「よし、じゃあ、出発しましょう」
アレンが仲間達に声を掛け、パーティはギルドを出ていった。
いつもの森の中、依頼書を元に魔物の居場所を探る。今回は情報通りとはいかず、少し離れた場所で蜘蛛型の魔物を見つけた。この前にも対戦したヒュージスパイダーである。
「クレアはシールド、ライルさんは魔法で援護、僕とリアナさんで足を斬り落とします」
アレンの作戦指示も堂に入ってきている感じがあった。適切な判断だと、他の三人もうなずく。
「よし、じゃあ戦闘開始!」
元気良くアレンが言うと、三人が黙ってうなずいた。
四人が接近していくと、魔物の方でもそれを感知して戦闘態勢に入ったようだった。
「ホーリーシールド!」
クレアが魔法の楯を展開し、正面から接近する。スパーダ―が前足を振るって攻撃してきたが、しっかりと受け止めていた。二発、三発と繰り返し前足の攻撃が来る。その全てをクレアのシールドは防いだ。
「ファイアボール」
ライルが火球の魔法を放つ。スパイダーの顔面を直撃し、高温で焼き焦がしていく。
攻撃を防がれ、顔面に火球を受けてスパイダーがひるむ。
「よし、ここだ!」
アレンとリアナで協力してスパイダーの足を狙う。もちろん関節部分が狙い目だ。二人の斬撃が見事に決まり、短い時間でスパーダ―の足全てを斬り落とすことに成功していた。
「悪く思うな」
アレンがそう言って、スパイダーの正面から剣を叩き込む。一撃、二撃、そして三撃目でスパイダーの頭部は斬り裂かれ、上半身まで真っ二つになった。そして魔石を残して霧状になって消えていく。ヒュージスパイダーと戦うのも二回目、アレンの見事な作戦勝ちだった。
「四人で協力するとすぐ倒せましたね。異常はないですか」
パーティでの行動にも慣れ、アレンも戦闘後に無事と異常の有無をすぐに確認するようになっていた。この数日で学んだことは多い。
全員から異常なしの返事を聞くと、アレンが大きく息を吐いた。
「ふう。よし、この調子で次々にいこう」
二人だけの時は苦戦していた相手も簡単に仕留められる。これが四人パーティなのかと、アレンは手ごたえを感じていた。
次の相手はヒュージマンティスだ。これは一昨日にも戦い、完勝できた相手だ。
「作戦は前回と同じでいいと思います。ライルさんが牽制の魔法を撃ち込んで、僕とリアナさんでカマを斬り落とします。クレアは念のためシールドの用意をして待機。それでいきましょう」
ライルがその言葉を聞いてニヤリと笑みを浮かべた。
「アレンのリーダーぶりも堂に入ってきたな。いいことだ」
クレアとリアナも似た感想だった。
「そうですね。この数日で、アレンが頼もしくなったように思います」
「あたしもいいと思うわ。役割が分かってきたってことだし」
そう褒められると、アレンもうれしい。しかし、戦闘では何が起こるか分からない。勝てそうだからといって油断は禁物だ。
「ありがとうございます。確実に勝ちましょう」
そして四人でヒュージマンティスに接近する。
「じゃあ俺からだな。ファイアボール」
ライルが再び火球の魔法を放つ。真っ直ぐにマンティスの顔面へと飛び、直撃する。高熱がマンティスの顔面を焼き焦がす。
「リアナさんは左へ! 僕は右から行きます!」
アレンが指示を飛ばし、即座に動き出す。リアナもすぐに反応し、左の方へと動く。
そして即座に斬撃を放つ。狙いはカマの付け根である。アレンの長剣、リアナの短剣、両方とも正確にその場所へと振り下ろされる。そして見事に両方のカマを切り落とすことに成功した。マンティスが攻撃手段を失って棒立ちになる。
「よし、とどめだ!」
アレンがマンティスの頭部に渾身の斬撃を放つ。容赦のない一撃がマンティスを一気に両断し、地に倒した。そしてマンティスが魔石を残して霧状になって消えていく。
「ふう。みんな異常ないですか」
戦闘後の確認に全員から異常なしとの声が戻る。
「今回もすぐに倒せて良かったです。ありがとうございます」
アレンが笑みを浮かべて礼を言う。
「それな、丁寧語、もう仲間なんだからいらないんじゃないか」
ライルがそう返したが、アレンが苦笑して首を振った。クレアもその辺は同じ気持ちのようだ。
「ライルさんもリアナさんも、冒険者として先輩だし、レベルもかなり上じゃないですか。さすがに砕けた言葉は使えないですよ」
「そうなんです。私達二人、まだ弱いですし」
それを聞いてリアナが肩をすくめた。
「丁寧語、聞く方もこそばゆいんだけどね。まあ、仕方ないか」
「レベルが上がったら、普通に話してみなよ。それでどうだ」
「そうね。あたしもそうしてもらえた方が気が楽だわ」
ライルもリアナも好意で丁寧語を使わないよう勧めてきていた。
「分かりました。考えておきます」
アレンとしてはそう答えるのが精一杯だった。しかし、親切で言っているのは分かる。ライルもリアナもいい人達だと改めて感じていた。
そして次はジャイアントスネークである。体長は三メートル、体の太さは直径三十センチくらい。噛みつきと締め付け、尻尾の薙ぎ払いが主な攻撃方法である。鱗に覆われているため虫系の魔物より硬さでは勝り、刃筋が立たなければ切り傷をつけるのも難しい。
「初見の相手ですから、僕では作戦が立ちません。ライルさん、何かいい方法ありますか」
アレンが正直に言うと、ライルも首を傾げた。
「そうだなあ。剣で倒す方法だと、カウンター狙いで、噛みつきに来た口に剣を突き刺すくらいかなあ。魔法でも似たような感じになるし」
リアナもその言葉にうなずいた。
「体が硬いからね。口を狙うのが定番ではあるわね」
「分かりました。カウンターですね。そしたら、クレアはいつも通りシールドの用意をして待機、リアナさんは牽制、ライルさんは隙を見て魔法を撃ち込んで下さい。僕が正面からカウンターを狙います」
「了解だ」
「とにかく戦ってみましょう」
「アレン、頼んだわよ」
そして四人はジャイアントスネークに接近していった。
最初に飛び込んだのはリアナだ。間合いに入って、短剣を繰り出して威嚇する。スネークは不規則な動きでそれを回避していった。何発か胴体部分をかすめたが、わずかな傷をつける程度にしかならない。
そこへアレンも突っ込む。上段から斬撃を繰り出し、スネークを両断する勢いの攻撃を加える。しかし、これもスネークの不規則な動きにかわされ、空を切った。
アレンが続いて突きを放つために剣を引く。その動きに合わせてスネークが接近してきた。噛みつき攻撃の動作だった。
「よし、ここでカウンターだ」
アレンが動きを読んで、剣を繰り出そうとする。しかし、スネークは噛みつきの動きから一転、するりと体をひねるような動きに変わり、剣の突きを回避していた。そしてすぐに尻尾の攻撃が飛んできた。
「うぐっ」
アレンの胸当てにスネークの尻尾が勢いよく当たる。アレンが吹き飛び、地面を転がる。
スネークが倒れたアレンに接近し、今度こそとばかりに噛みつきに来た。
「アイシクルランス」
そこにライルの魔法が放たれた。氷の槍を生み出す魔法である。それが勢いよく飛び、アレンに噛みつこうと開かれたスネークの口の中に突き刺さる。スネークが驚いたように距離を取る。
その間にクレアがアレンに駆け寄り、回復魔法を掛ける。
「ヒール!」
アレンの体が優しい光に包まれ、打撃による傷が回復していく。
「ありがとう、クレア」
「まだ戦える?」
「もちろんだ。次こそ決める」
口を塞がれたジャイアントスネークは、リアナと交戦中だった。
リアナは尻尾や巻きつきの攻撃を器用に避け、時折短剣で反撃を加えていた。あくまでスネークを引き付け、足止めに徹していた。
そこにアレンが割って入る。
「ありがとう、リアナさん。今度こそ決めます」
「了解。頑張ってよ、リーダー」
アレンがスネークの正面に立つ。魔法の効果が切れたようで、氷の槍はいつの間にか消滅している。スネークもまた噛みつきの態勢に入った。
「ギリギリまで引き付けるんだ」
鋭い牙のあるスネークの口は脅威だ。しかし、それを恐れず、アレンは落ち着いて待機する。
そして大きく開かれた口が目の前に迫った瞬間、アレンが剣を突き出す。その剣は見事にスネークの口の中へと吸い込まれ、体を貫いた。
「とどめだ!」
アレンが突き刺さったままの剣を渾身の力で振り抜く。スネークの体が二つに斬り裂かれていく。そしてスネークは魔石を残して霧状になって消えていく。
「やった……。みんな異常ないですか」
戦闘後の確認に三人から異常なしとの返事が戻る。
「また僕だけですね」
一応防具を外して確認すると、少し赤くなっているだけだった。痛みももうほとんどない。回復魔法で無事に治っていたのである。
そこでアレンは荷物の中で何かが光っているのに気付いた。中を改めてみると、冒険者証が淡く光っている。それを取り出して手に取る。
「あ、これってもしかして」
アレンの様子を見て、クレアも自分の冒険者証を取り出した。アレンの物と同じように淡く光っていた。
「アレン、クレア、おめでとう。レベルアップだな」
ライルが二人の予想通りだと教えてくれた。よく見てみると、レベルの数字が一から二へ変化し、能力値の数値も微妙に上昇している。冒険者証は所持者の能力を数値化して反映してくれる便利な道具なのである。
「やった。これがレベルアップですか」
「当然ですけど初めてなのでうれしいです」
アレンとクレアが喜びを表情に出すだけでなく、声にも出していた。これで一つ強くなれたのだと思うと、感慨深いものがある。特にアレンは何度も魔物に吹き飛ばされ負傷をしていたし、クレアもシールドやヒールで補助に徹していたから、その努力が報われたことは純粋にうれしい。
「六日かそこらでレベルが一つ上がったんだから、良く戦った証拠だね。二人とも頑張ったんだね」
リアナも一緒に喜んでくれた。二人が喜んでいるのを見て、手伝った甲斐があったと表情が語っていた。
「僕は魔法剣が使えるようになりました。武器に属性魔法をエンチャントして戦える技ですね」
「私は強化魔法のストレングスが使えるようになってます。これでアレンの攻撃力を底上げすることができます。ありがたい魔法です」
アレンとクレアにできることが増えていた。きっとこの先の戦いでも役に立つだろうと、二人の喜びも一層増していた。
「俺もレベルの低いうちは、一つレベルが上がっただけでもうれしかったものだったなあ」
「あたしはまだレベル十だから、今でも上がったらうれしいけどね」
ライルとリアナがそんな感想を言った。
しかし、討伐はこれで終わりではない。
「さて、リーダー、喜んでるとこ悪いけど」
ライルが前置きすると、アレンが笑みを浮かべ手続きを言った。
「まだ赤字なんですよね。今日も蟻の巣、頑張りましょう」
アレンの言葉に三人も笑みを浮かべる。
そして今日も必要な稼ぎを得るべく、ラージアントを倒しに蟻の巣と呼ばれる場所へと向かうのだった。




