第七話 四人パーティの初討伐
アレンとクレアは冒険者ギルドに無料で宿泊できる制度を利用している。部屋は狭いが調度は整っていて割と居心地は良い。新しく仲間になったライルとリアナも同様で、ソロでの活動では実入りが少な目なので、宿泊費を浮かせるためにギルドで寝泊まりしていた。
そのため、相談したり合流したりする手間が省ける。生活リズムもみな同じくらいなので、この日、井戸端でも朝食でも四人は一緒になっていた。
「そんじゃあ、朝飯食ったら、支度を済ませて掲示板前だな」
朝食を取りながらライルが言った。リアナがそれにうなずく。
「まあ、寝泊まりする場所も一緒だし、毎朝支度をしたら掲示板って感じになりそうね」
「そうですね。やることがはっきりしていますから、そうなりますね」
アレンもうなずきながら食事を続ける。会話にクレアも加わる。
「そう言えば、お二人は以前も一緒に行動してたことがあるんですか?」
「まあ、たまにだな。魔物の情報が少なくて、狩りに行くのに困った時、リアナの探知魔法を頼りにしたくて誘ったことが何度もあったな」
「あたしもシーフで攻撃力は低いからね。一緒の時は大物を狩れるライルの火力を当てにしてたわね」
なるほど、同じギルドにいるソロ同士、時には共闘することもあったらしい。それでライルは最初から親しくリアナを誘えたわけか。事情が分かってアレンとクレアも納得した。
「パーティに入って良かったのは、こうして飯を一緒に食べられることだな。一人で食べるより、仲間と一緒だと飯もうまく感じるな」
ライルの言葉に他の三人もうなずいた。一人の食事はやはりつまらないものである。
そうしてのんびり食事をして、四人はギルドへと戻っていった。
それから魔物討伐の支度を済ませた四人は、ギルドの掲示板前に集合していた。
「レベル一でも倒せる魔物って、やっぱり少ないな」
「そうなんです。それが一番の悩みどころです。早くレベルアップして強くなりたいですね」
「今の私達だと、これと、これくらいかな」
「そうね。妥当なところだと思う。そうすると収入の足りない分は、また蟻の巣になりそうね」
四人で相談し、この日はワイルドベアーとレッサースコーピオンの討伐依頼を受けることになった。
ギルドの受付で二つの依頼書を見せ、討伐する旨を告げる。
いつも通りアリサが対応してくれた。
「分かりました。大丈夫だとは思いますが、どうかお気を付けて」
依頼受注の確認をしたらいよいよ出発である。
「それではいってきます」
四人は揃ってギルドを出た。
村の中の道を通り、村外れの草原を抜け、いつものように森の中へ。
そして依頼書の情報に記載された場所へと向かう。
その周辺を探ると、確かに熊の魔物が見つかった。ワイルドベアーである。野生の熊と見た目はほとんど変わらない。大きさも体長二メートル少々と同じくらいである。頭に角が生えているのと、毛並みが妙なくらいに整っている程度の差しかない。しかし、野生の熊よりも強いので油断はできない。
「僕が正面から行きます。クレアはシールドの用意、ライルさんは必要があれば援護の魔法を。リアナさんは背後に回り込んで隙を突いて下さい」
アレンが即座に作戦を告げた。他の三人にも異論はなく、アレンにうなずき返した。
「じゃあ、行きます」
そしてアレンが正面から接近する。その後に三人が続く。
ワイルドベアーの間合いに入ると、アレンが剣を抜いた。
そこにベアーが立ち上がり、両腕で殴りつけてくる。アレンは即座にそれを見切り、軽く下がってベアーの腕に空を切らせた。
そして間合いを詰め直し、上段からの斬撃を放つ。ベアーが腕を振るってその剣を弾いた。アレンが剣を落としそうになり、ギリギリで堪える。
ベアーが腕を振り回し続け、アレンは近づけなくなった。そうなると背後ががら空きである。リアナが静かに回り込み、跳び上がってベアーの首筋に短剣を突き立てる。
思わぬ方向からの攻撃に、ベアーの正面にも隙ができた。その機を逃さず、アレンが斬撃を加える。
しかし、ベアーは不意に正面に向き直り、アレンの斬撃をかわしたばかりか、腕を振り下ろしてきた。
「ぐふっ」
アレンはそれを避けられず、胸当てにその一撃を受けて吹き飛ばされた。当たる瞬間に後ろに下がろうとしていたので直撃せずに済んだが、それでも相当に痛い。
「アレン! しっかりして! ヒール!」
クレアが即座に反応し、アレンの元へ駆け寄ると回復魔法を掛けた。ライルがアレンを援護すべく魔法を放つ。
「ファイアボール」
炎の初級魔法である。拳大の火球が宙を飛び、ベアーの顔面に直撃する。顔を焼かれてベアーが目標を見失う。そしてその隙にリアナが再び背後から攻撃を加える。三回の斬撃が背中に大きな傷を作った。
仲間が時間を稼いでくれたおかげで、アレンの回復が間に合った。
「よし、アレン、とどめを刺せ」
「はい。行きます!」
回復したてのアレンが突撃する。そして上段から渾身の斬撃をベアーに叩き込んだ。ベアーの体が二つに割られ、地に倒れる。そして他の魔物と同様、魔石を残して霧状になって消えていく。
「みんな無事か?」
アレンが冒険者の基本行動、戦闘後の確認を行う。三人から異常なしという返答が来る。
「無事じゃないのは僕だけか」
一応胸当てを外して打たれた場所を確認する。少し赤くなっているが、回復魔法の効果のおかげで特に問題はなかった。痛みもほとんどない。
「僕も大丈夫。これなら次も戦える」
そう言って仲間を安心させた後、ため息を一つついた。
「ごめん、クレア、ライルさん、リアナさん。僕がしっかり避けられなくて、心配をおかけました。でも、クレアのおかげで何ともありません。次に行きましょう」
三人がうなずいた。口を開いたのは一番年長のライルである。
「まあ、戦いの最中、こういうこともあるさ。でも、俺もリアナもしっかり援護してただろう。そこら辺は信用してくれていい。それと場数を踏めば、あんな攻撃、全部避けられるようになるさ。頑張りな」
「はい。頑張ります」
そして四人は次の魔物のいる場所へと向かった。
次の目標はレッサースコーピオン。レッサーと名がつくのはそれが下位種だという意味だ。上位種も存在し、ジャイアントスコーピオンなど大型のものも存在する。レッサーでは全長は二メートル程度とそう大きくはないが、硬い表皮と鋭い尻尾の針による攻撃が厳しい強敵である。
「よし、見つけた。確かに硬そうだ」
じっとアレンがスコーピオンを遠目に見つめる。
「僕の斬撃だと弾かれるかもしれない。この前のボーリングビートルみたいに、背中から攻撃するのがいいかも」
「なるほど。そしたらどうする、リーダー」
ライルが先を促す。ライルほどの実力者なら、一人でも倒す方法はいくらでもあるだろう。それを戦闘の経験を積ませるため、あえてアレンに任せているのだ。その度量の広さにアレンは感謝していた。
「そうですね。ライルさんの魔法で牽制しつつ、リアナさんが正面から当たって回避しながら注意を引き付けて下さい。その隙に僕が背中に飛び乗って攻撃を加えます。そんな感じでどうでしょう」
上級者に頼ることになるが、アレン一人ではどうしようもないのでそんな提案をした。
「分かった。とりあえず、それでいこうか」
ライルとリアナ、クレアも同意し、作戦は決まった。
「では、よろしくお願いします」
「任せといて。あたしも伊達にレベル十じゃないから」
頼もしいリアナの返答と共に、戦闘開始となった。
最初にリアナが突進する。そして一気にスコーピオンの間合いに入る。
スコーピオンが噛みつきに来たところで、さっとそれを回避する。続く尻尾の攻撃も楽々かわす。さすがシーフの本領というところである。
「ファイアボール」
ライルが魔法を放ち、火球を顔面に直撃させる。
作戦通り、スコーピオンに隙ができた。アレンがタイミングを計り、その背に跳び乗る。
そして強烈な突きを足元に放つ。狙うのは胴体の関節部分だ。ざっくりと音がして、軽くだが剣先が突き刺さった。
「これならいける」
ここがチャンスだとばかり、二回、三回と剣を突き立てる。
しかし、事はそう簡単にはいかなかった。
「アレン、避けて!」
クレアが叫ぶ。リアナを狙っていた尻尾が、今度はアレンに向かってきたのである。その攻撃を失念していたアレンが、剣を立てて尻尾の攻撃を防ごうとした。尻尾が剣に当たり、針が刺さることは防げた。しかし、その勢いでまたしてもアレンが吹き飛ばされる。
アレンの体が宙に舞い、そして地面に激突して転がっていく。これは相当に痛かった。
「アレン、しっかり! ヒール!」
クレアが急ぎ駆けつけ、即座に回復魔法を掛ける。ライルとリアナは、また回復の時間を稼ぐため、スコーピオンの注意を引き続けた。
今回も運の良い事に、宙を舞った後に地面を転がったおかげで衝撃が逃がされ、回復魔法の一回だけで回復することができた。
「ありがとう、クレア。僕はまだ戦える」
二人がスコーピオンの注意を引き付けてくれたおかげで、まだ背中はがら空きのままである。
アレンは再びスコーピオンの背中に跳び乗り、剣を突き立て始めた。同じ場所を集中的に狙い、少しずつだが深く突き刺さっていく。
そして、尻尾の攻撃がまたアレンを狙うのも、先程と同じだった。
「アレン、尻尾!」
「二度は受けない。ウィンドカッター!」
アレンが攻撃魔法を放った。真空の刃が宙を飛び、スコーピオンの尻尾の関節部を深々と斬り裂いた。尻尾が二つに切れて、攻撃が空振りに終わる。
「今だ、ファイアボール」
ライルがスコーピオンの顔面に再度火球を直撃させる。
「なら、あたしも」
その焼けた部分をリアナが短剣で斬り裂いていく。
そしてアレンは背中を徹底的に突き刺していき、やがて中心部にまで剣先が届いた。
スコーピオンの動きが止まる。そして魔石を残して霧状になって消えていく。苦労はしたが、この戦いもアレン達の勝利に終わった。
「みんなは無事だよね」
アレンが確認すると、異常なしという返答があった。
「また僕かあ。みんな、心配かけてごめん」
アレンが一応防具を外し、体に異常がないかを確認する。ライル達も見てくれたが、特に異常はなかった。アレンが安堵の息を吐く。
「クレアのおかげでまた無事だ。ありがとう。ライルさんとリアナさんもさすがの活躍で助かりました。ありがとうございます」
「まあ、無事で何よりだ。とりあえず、小休止しようか」
四人はそこで昼食を取ることにして、それぞれ座り込むと、村で買ってきたパンと水筒を取り出した。
昼食後は蟻の巣へ。次々と魔物のラージアントが出現する場所だ。
そこで二十体ばかり倒して、魔石を回収すると全員で逃げ出す。際限なくアントが出現するので、長居すると包囲されて全滅の危険があるからだ。
そうしてその日の稼ぎを確保すると、四人はギルドへと戻っていく。
「反省点が多いなあ。結局、僕が一番足を引っ張ってる気がする」
アレンがため息をついた。
「ここで戦い始めてまだ五日だろ。最初の内はこんなもんだろ」
ライルがそう言って慰めてくれたが、さすがに不甲斐なさを感じていたアレンからすれば苦笑するしかない。
「ヒール一回で治る程度だったんだし、このくらいは想定内よ」
「そうそう。そのためにヒーラーがいるんだし」
クレアとリアナもそう言って励ましてくれた。
「うん、分かってる。だけど、やっぱり悔しいんだよ。こんなことで、勇者になれるのかなあって、そう思っちゃうんだ。でも、落ち込んでいても仕方ないし、明日からも頑張るよ」
三人が笑みを浮かべた。それにしても、アレンも真っ直ぐな心根の持ち主だなと、そう思う。一緒にいて気分がいい。
「おう、頑張ってくれよ、未来の勇者」
「私達も頑張るから、一人で空回りしないでね」
「そうそう。あたしの働き見てただろ。頼りにしていいんだ」
三人の励ましがありがたい。
「ありがとう、みんな。みんなが仲間で良かった」
そう言うと、アレンも笑顔を見せたのだった。
ノックス村のギルドに来て五日。まだまだ戦いの日々は続いていく。




