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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第六話 アレンとクレア

 ここファルラント王国には数多くの町や村がある。いくつかの大都市もあり、王国の総人口は百万を優に超える。

 王国の片田舎にある村の一つにカルザス村がある。人口は千人前後。近くにあるマティスという大きな町に農産物を売って生計を立てる家が多い、ごく普通の農村であった。

 アレンとクレアはそのカルザス村に生まれた。同じ年に生まれた子供は全部で七人。その七人は大きくなって自分のことを自分でできるようになった頃、よく一緒に遊ぶようになっていた。

 当然、学舎でも一緒に学んでいた。アレンはこれをして遊ぼうと、提案して遊びをリードすることが多かった。クレアは比較的物静かだが、間違っていることを厳しく指摘する芯の強い子供だった。

 例えば、何して遊ぼうか相談をしている時、アレンがまず思いついたことを口にする。

「森の中を探検しようよ。きっと楽しいよ」

 すると、クレアがぴしゃりとそれを止める。

「森の中は子供だけで行っちゃダメって言われてるでしょ。魔物が出るかもしれないから、必ず大人が一緒じゃなきゃダメなのよ。アレンはそういう約束を平気で破る人なの?」

 クレアにそう言われると、アレンも一旦はむきになる。

「何だよ。そんなこと言って、森に行くのが怖いんだろ。それなら平気なヤツだけで行くから、クレアは一人寂しく留守番してろよ」

 そうやって意地の悪いことを言われても、クレアはいつも冷静だった。

「怖いに決まってるでしょ。もし本当に魔物が出たら、アレンはそれを倒せるの? 大ケガどころか死んじゃうかもしれないのよ。だから私は、そんな危ないことをしてまで遊ぶのには反対してるの」

 そう言われると全く反論できない。そして、結局クレアの正しさを認めて、アレンが謝るのが常だった。

「悪かったよ。クレアの言う通りだ。もっと安全な遊びにするよ」

 率直に謝れるのがアレンの良いところでもある。

 クレアも謝罪をすぐに受け入れ、優しく微笑むことが多かった。

「それがいいと思うわ。代わりに何か楽しい遊びをしましょ」

「うん、分かった。じゃあ、かくれんぼでもしようか」

「ええ、それならいいと思う。私もやりたい」

「よし、じゃあみんなで遊ぼう」

 そんな風にアレンとクレアは、同じ村の同じ年の友人として、幼い頃から仲が良かったのである。


 アレンとクレアが十才の時、二人の将来を大きく変える出来事があった。

 いつものように友人達と草原で遊んでいた時のことである。突然、魔物が出現したのであった。当時の彼らは知らなかったことだが、魔物はヒュージスパイダーで、それほど強い魔物ではなかった。

「どうしよう、あれって魔物だよな。俺達、食べられちゃうのかな」

 そう言って友達が怖がっている中で、アレンは一人強気だった。

「あんな魔物、そんなに強くないよ。僕達でやっつけよう」

 そう言って、近くに落ちていた石を拾い、それを投げつけようとしたのである。

「そんな、無茶よ。誰か、大人を呼びに行って」

 クレアがアレンを止めつつ、救援を呼んでくるように友達に頼んだ。その中の三人がすぐに走り出し、村の大人を呼びに行った。

「大丈夫だよクレア。僕が何とかする」

 クレアの制止を無視して、アレンは思い切り石を魔物に向けて投げつけた。見事に石は魔物に当たったが、傷一つつかない。子供の力ではやはり敵わない相手だった。

 魔物が石を投げてきた子供を感知して接近してきた。大きさは牛よりやや大きい程度。子供からすれば十分に大きい。その迫力は強気になっていたアレンの気持ちを一気に委縮させた。

 それでもアレンは、諦めずに石を拾って投げつける。何とか追い払おうと必死で抵抗していた。

「アレン、止めて。無理しないで逃げましょう」

 クレアがそう言った時にはすでに遅く、魔物が子供達のかなり近くにまでたどり着いていた。そして長い足を振るってくる。当たれば大ケガするのが目に見えて分かった。

「くそっ、僕は負けないぞ」

 アレンは必死に振り下ろされた足をかわした。子供なりに動きをよく見ていたのが幸いし、その一撃は何とかかわすことができた。

 しかし、魔物の攻撃は続く。二度目の攻撃も何とか避けることに成功したは、三度目に振るわれた足がアレンの体に当たり、アレンが吹き飛ばされてしまった。

「アレン、大丈夫?」

 クレアが駆け寄り、アレンの具合を見た。残っていた友人達もアレンのそばに駆け寄る。運の良い事に、体重が軽い上に、吹き飛んだ後に転がっていたために打撃の勢いが減り、派手に飛ばされた割には骨にも異常はなく、軽い打ち身程度で済んでいた。

 しかし、動けない程度には痛い。アレンが苦痛に顔をしかめていると、魔物がまだ接近してくるのが見えた。

「ごめん、クレア。もっと早く言うことを聞けば良かった」

 アレンは謝ったが、すでに遅い。魔物が子供達を攻撃する間合いに入ろうとしていた。

「やられる……!」

 そうアレンが思った瞬間、遠くから炎の球が飛んできた。それが魔物の顔面に直撃し、魔物が動きを止める。

「間に合ったか。子供達は無事か?」

 村の大人が冒険者を連れてきたのだった。アレンもクレアも冒険者の存在は知っていたが、普段接点はなく、よく見たことがなかった。冒険者は二人組で、一人の男が炎の球を放ったのである。そしてもう一人の男は剣を抜いて、物凄い勢いで魔物に突進してきた。

 それは二人には忘れられない光景となった。

 剣を抜いた男はそのままの勢いで間合いに入ると、即座に上段からの鋭い斬撃を放った。そしてその一撃で、見事に魔物を両断したのである。そして魔物が霧状になって消えていった。牛より大きな魔物が死骸も残さず消えていく光景は実に不思議なものだった。

 アレンには、剣を持った男と火球を放った男がすごい存在に見えた。

「よう、坊主。無事で良かったな」

「あ、ありがとうございました。冒険者ってすごいんですね。僕、初めて知りました」

 魔物を倒して人の命を救う存在。そんな冒険者にアレンも憧れをもち、この日以来、冒険者になりたいという希望をもつようになったのである。


 そしてアレンとクレアが十二才になった時、二人は学舎卒業後の進路を冒険者学院に決めていた。アレンには属性魔法の、クレアには回復魔法の資質があり、入学試験でもそこそこの成績を取ることができ、無事に入学を果たしたのである。

 しかし、アレンは魔物を一撃で両断した剣士の姿に憧れ、魔法の他に戦士の修練を積む道を選んでいた。同時に二つの修練を積むのはとても大変である。それは分かっていたが、アレンはあえて困難な道を選んだ。

 剣技の実技訓練、魔法の実技訓練、理論と実際、王国の歴史や地理、学ぶべきことは山のようにあり、その都度アレンは努力を重ねていた。しかし、やはりかなりの無理をしていたため、習得こそ何とかできていたが、成績としては学友の中でも下の方であった。

 クレアの方は回復魔法、補助魔法を中心に習得していった。こちらはある意味一本道なので、努力さえ怠らなければそれほど困難なことはなかった。クレアは着実に実力を付け、学友の中でも比較的優秀な方であった。

 たまにクレアはアレンを見かけると、その都度声を掛けていた。

「頑張ってね、アレン。応援してるから」

 ほぼ毎回そんなことを言っていた。一度決めたらそうは曲げないアレンのことだ。大丈夫かどうかを問うより、応援する方が良いと思っていたのである。そんなクレアの気持ちはアレンにも十分伝わっていた。

「ありがとう。僕、頑張るから」

 クレアから勇気をもらって、そう答えるのがアレンの常だった。


 二人が学院に入ってから一年ほどした頃、王都が魔族の襲撃を受けた。魔族も魔族同士で抗争しているため、自軍の戦力が低下することを嫌って人間の領域に手を出すことは滅多にない。だが、この時は大軍を率いて攻めてきて、魔物の群れが城外にひしめくような事態になっていた。

 それに対抗するため、騎士団の全軍と冒険者の全員が王都に集められた。その数およそ五千。一方、魔物達はその数およそ二万。状況は魔族側に有利かと思われた。

 しかし、熟練の騎士や冒険者は正に一騎当千の強さがあった。戦いが始まると、人間の軍勢は魔物の軍勢を草でも刈るように倒していった。魔族の指揮官もそれは誤算だったようで、やむなく自らが先陣に出て、起死回生を図ろうと人間の軍勢に一騎打ちを申し出てきた。

 迎え撃ったのは王国一と言われた冒険者クレーベルだった。深紅のマントを身に付けた彼は、堂々と魔族の指揮官の前に現れた。

 そして、吟遊詩人達の歌として残るような激戦が繰り広げられた。魔族の指揮官は魔法と剣術を駆使してクレーベルと戦った。クレーベルはその攻撃を一度たりとも身に受けることなく華麗に捌いた。一騎打ちはかなり長い時間に及んだ。そして激闘の末にクレーベルが魔族の指揮官を討ち取り、人間側に勝利をもたらしたのである。

 アレンやクレア達冒険者学院の学生は、残念ながらその光景を見ることはできなかった。他の王都の市民と同様に、安全な場所に避難させられていたのである。

 戦後処理を終えた三日後、王都で戦勝パレードが行われた。人々はこぞって英雄クレーベルを見ようと押し寄せていた。アレンとクレアもその中に混じっていた。そして紅の勇者の称号を得たクレーベルの堂々たる姿を見て、アレンは心底感銘を受けたのだった。

「僕もあんな風に、人々を守れる存在になりたい」

 かつて冒険者に憧れた時と同じように、クレーベルの姿に憧れ、それを目標にしようと決意したのだった。

 学院での成績が良くなかったアレンが勇者になりたいという希望をもったことは、すぐに学友達にも広まった。さほど優秀でもないアレンには大それた望みだと、馬鹿にする者も多かった。しかし、クレアを始め何人かの学友は、アレンが日夜努力を惜しまないことを知っていて、彼を激励し応援していたのだった。

 やはり、はっきりとした目標ができると人間強くなれるものである。アレンはあまり良くなかった成績を少しずつ上げていった。周囲の見る目も無謀な目標を掲げた馬鹿なヤツというものから、案外あいつなら夢を叶えるかもしれないというものに変化していった。

 しかし、それでもアレンを認めなかった少年がいた。剣術訓練のある日、アレンとその少年は模擬試合を行うことになった。

 その少年は強く、すでに戦士として通用するくらいの腕前だと、師範も学友達も思っていたほどだった。対するアレンは、腕前こそ上げてきていたものの、まだその少年には及ばないというのが周囲の評価だった。

 試合が始まると、一方的にアレンを叩きのめすはずだった少年は驚いた。これまでそれほど強くないと思われていたアレンが、驚くべき粘りを発揮して、少年とほぼ互角に渡り合ったのである。

 最終的には少年が勝利を収めた。彼は心底感心して言った。

「アレン、これまで侮っていて済まなかった。素晴らしい腕前になったな。君は立派な冒険者になるだろう」

 それからもアレンもクレアも努力を重ね、しっかりと実力をつけていった。

 かくして、二人共それなりの成績を収めて、学院を卒業したのだった。


 それから二人は王都の冒険者ギルドで冒険者登録を行った。

 アレンは魔法戦士として、クレアはヒーラーとして登録し、レベル一の冒険者証を手にしたのである。

 二人には何人かの仲の良い学友がいたが、彼らはみなそれぞれ自分の進路を選んでいた。ある者は商人の護衛となり、ある者は騎士見習いとして仕官し、ある者は冒険者となって別の地に赴いていた。

 幼馴染だったアレンとクレアは、ごく自然に一緒に行動する道を選んだ。

 王都のギルドで、冒険者として身を立てるならどうすれば良いのか、詳しく説明を受け、二人で考えた。

「結局、魔族領に近い辺境の村がいいみたいね」

「僕もそう思う。常に実戦に身を置くことが、成長の一番の早道だと思う」

「そうすると、いくつか候補地があるけど、どこがいいと思う?」

「そうだなあ。あまり競争相手のいないところがいいかな。自分達のペースで魔物と戦えるのがいいと思うんだ」

 そんな風に話し合って決めたのがノックス村だった。常駐している冒険者が八人しかおらず、競争しなくても魔物と戦えそうだった。それに魔族領にも近いので魔物の出現も多いはずだ。

 二人はそれから十日ほど王都で日雇いの仕事をした。ノックス村までの路銀を稼ぐためである。ここでも冒険者はギルドに無料で宿泊できる制度の恩恵を得ている。おかげで短い期間でも十分な路銀を稼ぐことができた。

 そして二人は片道徒歩で七日かかるノックス村へと出発した。本物の冒険者となって、魔物から人々を守る戦いに身を投じることになったのだ。


 ノックス村に到着して四日。アレンとクレアには頼もしいパーティの仲間が増えた。

 レベル二十を超えるというベテランメイジで短い茶髪が目印のライル。

 レベル十のシーフで短めの銀髪が特徴的な女性リアナ。

 二人はアレンとクレアの成長の手助けをしてくれるのだという。実に頼もしい仲間達だった。

「せっかく二人が助けてくれるんだ。僕達も頑張ろう」

「そうね。私達もしっかり成長していかないとね」

 アレンとクレアは固くそう決意していた。そして明日からも、また魔物を討伐する日々が続いていくのである。

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