第四話 パーティの新しい仲間
「なぜかは知らないけど、ラージアントが、それこそ無数に湧いてくる場所がこの先の岩場にあるんだよ。魔石を生み出す何かがいて、蟻を生み出しているんじゃないかって評判だ。それで付いた名前が蟻の巣だ」
道すがら、ライルがそんな説明をしてくれた。しかし、話を聞いただけではピンとこない。一体どのくらいの数がいるというのだろう。
「でな、本当にきりがないから、ギルドの冒険者も、適当な数だけ倒して魔石を回収したら、さっさと引き上げるんだ。だから、誰も奥まで行って原因を突き止めたヤツはいないんだ。俺達も適当な数だけ倒したら、さっさと引き上げるから、深入りするなよ」
「そうなんですね。大変そうです」
「私の攻撃力じゃ役に立たないから、今回も楯役ですね」
「まあ、無理せずにいこう。俺もいるから何とかなる」
そう言えば、二人は助けてもらっただけで、ライルのことを何も知らないことに気付いた。
「ライルさんはメイジですよね。レベルはいくつなんですか?」
ライルがまたニヤリと笑った。
「それは教えない。あんまり人に頼ってばかりだと、二人が強くなれないからな。ただ、レベル二十より上、とだけは言っておく」
「レベル二十!」
アレンとクレアが顔を見合わせた。二人はまだレベル一で、何をどうすればレベル二になれるかもまだ分からない現状だ。レベル二十と言うのが途方もない数字に思えて、思わずため息をついてしまった。
「ちなみに年は二十三才な。八年間も魔物と戦い続けてきたんだから、このくらいのレベルになるのも当然のことだよ」
そうかあ、とアレンは思った。自分も何年か戦い続ければ、彼のように高いレベルになり、強くなれるのかと考えたのだ。しかし、先行きはとても長い。今は焦らず、地道に戦って経験を積むべきだろう。
それからしばらく歩いて、三人は森を抜けて岩場へとやってきた。
ライルの話通り、奥の方に岩の裂け目があり、その近くにラージアントが三体いた。知性はないはずなのだが、まるで巣を守るために警戒しているように見えた。
「よし、じゃあ、突っ込むぞ」
ライルの言葉にアレンもクレアもうなずき、ラージアントのいる場所へと接近していく。近づく人間を感知したアント達が、三人を迎え撃つように向かってきた。
アレンが剣を抜き、そのまま一閃。ラージアントは大した相手ではない。一度の斬撃で一体のアントを見事に両断していた。そして、そのまま残り二体と交戦する。
一体のアントの攻撃を避けたついでに、もう一体へと近づき、剣を鋭く振るってアントの首を刎ね飛ばす。残り一体も、上段からの斬撃で斬り裂き、見事に倒していた。ここまでほんの十数秒というところである。
「何だ、いい腕してるじゃないか、アレン」
「厳しく修練積んでますから、このくらいは」
「だが、すぐ次が来るぞ。クレア、魔石の回収を頼む」
「分かりました。二人共気を付けて」
会話の最中から、岩の裂け目の奥から何かがうごめいている気配がしていた。そしてラージアントが少しずつ出現し始める。
まず二体同時に外へと出てきた。アレンが素早くその二体を斬り裂き、仕留めていた。クレアがその二体の魔石を回収する。しかし、クレアが動いている間にも、三体、五体、七体とラージアントの数が増えていく。
アレンが地道に一体ずつ斬り倒していく。ラージアント程度の相手なら一人でも十分倒せるのは証明済みだ。しかし、数が多過ぎた。五体斬り倒したところで、ラージアントの体当たりを受けて、アレンは転倒してしまった。体当たりの勢いのままアントが噛みつきにきた。それを剣で防ぎ、地を転がって勢いをつけて立ち上がる。
「数が多過ぎです。さすがに倒すのもきついです」
「そうだな。そろそろ引き上げるぞ」
アレンの言葉にライルが答えた。まだ岩の裂け目の奥からラージアントが出てくる気配がある。もっと数が増えるということだ。
「俺が魔法で一気に焼き払う。そしたらできるだけ魔石を回収して、そのまま走って逃げるぞ」
「分かりました」
アレンとクレア、二人の返事が重なった。二人もこの状況はまずいと思っていたので、素直に指示に従う。
「よし、ファイアウォール!」
炎属性の上級魔法である。炎の壁が出現し、ラージアントの群れを一気に焼き払う。アントが次々と霧状になって消えていき、後に魔石が残される。
三人はそれらを拾うと、元来た道を走って逃げ出した。
アレンが少し振り返ってみると、炎の壁が収まった場所に、ラージアントがうようよと歩き回っていた。とても数えられないほどに多い。肩をすくめてアレンは走って逃げることに集中した。
三人はしばらく走って森の中にまで逃げ込むと、そこで止まった。
「魔石は何個取れたかな」
息を切らせながら、アレンがと疑問を口にした。三人で回収した魔石を合わせる。全部で十八個、かなりの収穫があった。
「良かったね、アレン。結構集められて」
「そうだね。クレアもお疲れ。でも、ライルさんの魔法がなかったら、無事に逃げてくるのは無理だったよ。ありがとうございます、ライルさん」
「いい逃げっぷりだったぞ。無事で何よりだ」
ライルが苦笑しながら二人に言った。褒めているような、意地悪を言っているような、どちらとも取れる言い草だった。
「とりあえず、一休みだな。昼飯にするか」
「そうですね。そうしましょう」
そして三人はその場で座り込み、食事を始めたのだった。
「ところで、アレンとクレアはどうして冒険者になろうって思ったんだ?」
買い出してきたパンをかじりながら、ライルが尋ねてきた。
アレンとクレアは顔を見合わせる。正直に答えるべきか少し考え、ライルみたいな親切な人にならいいだろうと結論付けた。アレンが話し出す。
「まだ学舎で学んでいた頃の話です。故郷の村で魔物が出たことがあるんです。その時に、その魔物を退治してくれた冒険者達がいたんです。その人達は凄腕の戦士とメイジで、あっという間にその魔物を倒したんです。その姿を見て、僕もこんな風になりたいって思って。それで両親に無理を言って、王都の冒険者学院に入ったんです」
学舎というのは読み書きなどの必要な学問を学ぶ場所である。王国の制度としてどこの町や村にも設けられている。八才から十二才までの子供が通うようになっている。十二才を過ぎると、どこかで見習いとして仕事を始めるか、学院と呼ばれる上級学校へ通うことになる。
ライルが眉根を寄せた。ちゃんと危険を理解しているのかと思ったのだ。
「なるほど。良くある話だ。だが、さっきのラージアント戦みたいに、冒険者は命懸けだってこと、分かってて冒険者になったのか?」
「もちろんです。戦う力のない人を命懸けで守る、それが冒険者だって十分承知しています。ですから僕は、強くなって、いつかは紅の勇者クレーベルみたいに、勇者と呼ばれるくらいに強くなるつもりです」
アレンは真剣だった。ライルがふうと息をつく。
「そうか。ならいい。頑張れよ。クレアの嬢ちゃんはどうなんだ?」
クレアが真剣な目でライルを見た。
「私はアレンとは幼馴染で、同じ村で育ちました。回復魔法の素質があったので、それを生かすなら、治療院で働くか冒険者になるかだろうとは思っていました。ですが、アレンがこんなでしょう。とても放ってはおけなくて、一緒に冒険者学院に入ったんです」
「そうか。二人は幼馴染か。いいもんだな、今も一緒に冒険者か」
ライルはそう言うと、口調を改めて二人に言った。
「頼みがあるんだが、俺も二人のパーティに入れてくれないか。役に立つのはさっき見せた通りだ」
二人が目を丸くした。レベル二十を超えるような高いレベルのメイジが言うこととは思えなかったからだ。二人のその表情を見て、ライルが言葉を付け足す。
「俺も初心を忘れて冒険者稼業をやってた。毎日適当に魔物を狩っててな。でも、二人がそうやって純粋に人を守るって言うのを聞いて、冒険者として大事なことを思い出したよ。それに、この先二人がどのくらい成長していくのか、見てみたくなったんだ。どうだろう。考えてくれないか」
アレンとクレアが顔を見合わせる。
「僕達は構いませんけど、でも」
「ライルさんにメリットがないように思いますが、いいんですか?」
二人としてはありがたい限りだ。何せ戦力が大幅に増強されるので、安全度が一気に増すからだ。しかし、レベル一の自分達に付き合わせれば、ライルは思うように戦闘できなくなる。パーティとしてつり合いが取れないのも大きい。
「メリットなんて必要ない。俺はアレンとクレアのために働きたくなっただけなんだ。正直に言えば、とても危なっかしくて放っておけない。そのくらい二人は弱い。だけど、さっきの戦いを見て、二人なら強い冒険者に成長できるって感じたんだ。だから、二人の役に立ちたい。それだけだ」
二人はライルの真剣な言葉を聞いて、ありがたいと感じた。
「そうなんですか。僕達としてはすごく助かります。ライルさんがいいと言われるなら、どうか僕達に力を貸して下さい」
「私からもお願いします。お力を貸してもらえたら、本当に助かります。ですけど、やっぱり私達自身が強くならないと意味がないので、なるべく手加減してもらえると助かります」
そう礼を言って、ライルの加入を歓迎した。
「よし、これで俺達もパーティの仲間だな」
「はい、よろしくお願いします」
「頼りにしてます、ライルさん」
三人は固く握手を交わした。
「それじゃあ、リーダーはアレンな。勇者目指してるんだから当然だろう」
「僕ですか? ライルさんの方が強いし、リーダー向きなのでは?」
「ダメだ。それだとアレン達の成長の邪魔になる。ちゃんと二人が頑張らないと意味がないからな」
アレンが少し考えこんだ。クレアが隣でじっと見ている。ライルも返事を急かさず、ゆっくりと待ってくれた。
「分かりました。なら僕がリーダーをします。でも、クレアもライルさんも遠慮なく意見を言って下さいね」
「もちろんよ。頑張って、アレン」
「任せたぞ、未来の勇者」
こうしてパーティに新しい仲間が加わったのだった。
「さて、帰りがけにもう一戦していかないか」
「そうですね。まだ余力ありますし。いいと思います」
ライルの提案にアレンも乗った。クレアも黙ってうなずいている。
しかし、何と戦うか。ここは経験豊富なライルが頼りである。
「トレントでいいだろう。初心者でも十分倒せる」
そしてライルが道なき森の中を案内していった。
「トレントは木に擬態しているからな。森の中だと見落としがちなんだ。ほら、あれがそうだ。よく見ると、周りの木と違うだろう?」
確かに木と似ているが普通とは違う。よくよく見ると、不自然な枝の伸び方をしているし、幹に開いている穴から不自然な空気の出入りがある。高さは三メートル程度。奇妙な形の魔物がそこにいた。
「よし、いくぞ。ファイアボール」
ライルが初手で火球の魔法を撃ち込む。それがトレントの幹に直撃し、強く焼いていく。そのダメージで止まっていたトレントが動き出し、枝を動かして攻撃してきた。
「アレン、任せた。クレアはシールドな」
「了解!」
「ホーリーシールド!」
クレアが魔法の楯を展開し、枝の攻撃を防ぐ。その枝をアレンが斬り落とす。二人は手際よく、その作業を繰り返し、トレントを追い詰めていった。
しばらくして、トレントの枝がほとんどなくなっていた。
「ここだ!」
アレンがライルの火球が焼いた場所を全力の斬撃で斬り裂く。見事にそれが決まり、トレントが魔石を残して霧状になって消えていった。
「リーダー、戦闘後は仲間の無事を確認してくれ」
ライルが指示したが、これは冒険者の基本である。アレンもその言葉に素直にうなずき、無事を確認する。
「クレアもライルさんも僕も全員無事、異常もないですね」
無事に勝てたことで気を緩めてはいけないのだと、アレンも学んだ。
そして十分な数の魔石を持って、三人はギルドへと引き上げていった。
ギルドに戻ると魔石の換金だ。ジャイアントホーネット三体、ヒュージスパイダー一体、ラージアント十八体、トレント一体で、ちょうど銀貨三枚になった。それを三人で山分けする。
「十分な稼ぎができて良かった」
アレンが言う。勇者云々の前に、まずは目の前の生活だ。
「ライルさん、ありがとう。二日目でこれだけ稼げて良かったです」
クレアも十分な収入を得たことを喜んでいた。
「そいつは良かった。冒険者も魔物を倒してなんぼだからな。明日からも頑張って戦おうな」
「そうですね。僕も頑張ります。明日からもよろしく、ライルさん。そう言えば、ライルさんもギルドに泊まっているんですか?」
「もちろん。やっぱり宿代出すほど稼ぐのは大変だからな。じゃあ、後で一緒に風呂に行こうぜ」
「はい。じゃあ、また後で」
そして三人は二階に上がり、それぞれの自室に戻っていった。




