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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第二十六話 王都の商店街を見物

 デザートまでつけて昼食を食べ終わった四人は、そのまま商店街を見て回ろうか、という話になった。何せノックス村にはろくに店などない。

「これだけいろんな店があるんだ。せっかくだから少し見ていこうぜ」

「そうね。あたしも賛成。いろいろ見ていきましょうよ」

 ライルとリアナがそう言って提案してきた。

「そうですね。せっかくだし、いろんなお店を見るのもいいですね」

「私も賛成。学生時代もあんまり店を見て回ったことないんですよ」

 話はすんなりと決まり、四人で商店街を回ることになった。

 最初は衣服店からである。ファルラント王国では、新品の衣服は工房で量産されている品もあるが、基本的に衣服店で仕立てることが多い。当然、新品の衣服は値が張る。だから、大抵の場合、古着屋で衣服を買うことが多かった。新品の衣服はなかなか手に入らない貴重な品なので、それを見るのは楽しみなのだった。

「いらっしゃいませ」

 店員が挨拶してくる。特に買う予定はないので、そこは冷やかしなのだとはっきり伝えておく。その役はリアナが担った。

「すみません、今日購入の予定はないのですが、将来買う時の参考に商品を見せて頂いてもよろしいですか」

「そうですか。そういうお客さんも多いですから、ゆっくりご覧になられても構いませんよ」

「ありがとうございます」

 店員の許可をもらって、四人がほっと息をつく。

「やっぱり新品の服っていいわね」

 店の手前には衣服の見本がいろいろと飾られていた。それを元に客は仕立ての注文をするのである。華やかなデザインの物だけでなく、少しおしゃれな程度の普段着もあり、品揃えも豊富だ。

「この青のワンピース、上品で素敵ね。クレアもそう思わない?」

「思います。すっきりとしたデザインなのに、形が格好良くて、襟と腰の部分の装飾もよくできてますね」

 さすがにここでは女性二人が主役になる。リアナとクレアの二人が目を輝かせて商品の見本を眺めながら談笑していた。

「せっかくだし、俺達も品物見ようぜ」

 ライルとアレンは工房で作られた既製品を見に奥へと向かった。

 同じデザインでサイズの違う品がいろいろと置いてあり、それが何種類もまとめておいてある。既製品のシャツ一枚でも銀貨三枚はするし、上着やズボンは金貨単位になる品もあるから、既製品でも結構な高級品である。それだけ作るのに手間暇がかかるのである。

「こういう新品の格好いい服、着て街中歩いたら、さぞかし女性にもてるんだろうなあ」

「ライルさんは何着ても似合いますし、きっとそうですね」

「お、アレンも結構言うようになったな」

「新品の服を作るのが大変なのは知ってます。ですから、その分、それを着てたら格好良くなるんじゃないかって思いますよ」

「ほうほう、それはアレンも格好良くしてみたいってことかな」

「いえ、そういうわけじゃないです」

「アレンも年頃だし、女の子に格好良いって言われたいんじゃないの?」

「勘弁して下さい。僕、そういうつもりじゃ」

 意外と男性陣も楽しそうに品物を見ていたのだった。

 そうして何だかんだと三十分ほど店内を見て回った。

「今日はありがとうございました。いろいろ良い物が見られて、とても参考になりました」

 リアナが去り際に店員に挨拶する。店員の方も心得たもので、しっかり店の宣伝を返してきた。

「それは当店としてもうれしいですね。衣服を購入される際は、ぜひ当店にお越し下さい。またのご来店をお待ちしています」

 そして穏やかな表情で一礼してくる。見事な所作の店員だった。

 アレン達も一礼して、店を立ち去るのだった。


 次は雑貨屋に立ち寄った。アクセサリーなどの小物を主に扱っている店である。飾りだけでなく、櫛やブラシなどの品もある。

「私、田舎育ちだから、こういうのに縁がなくて。学院の友達と何度か来たけど、何となく買えなくて。縁のないまま卒業しちゃったのよね」

「そっかあ。じゃあ、いい機会だから何か買う?」

「ううん、村に戻れば冒険者稼業だし、必要ないかな」

 クレアもこういう品に興味がないわけではなかった。それでも魔物の討伐には邪魔になるだろうと、身に付けようとは思わないのだった。

「そうなんだ。まあ、合わせるだけなら構わないでしょ」

 ここでもリアナがクレアと一緒に品々を見ていた。

「ほら、これなんか、クレアの赤毛にぴったり」

「それを言うなら、これはリアナさんの銀髪に良く合いますよ」

 髪飾りを互いに勧め合って楽しんでいた。

 それからも二人は腕輪や首飾り、髪留めなど、いろいろな品を見て、互いに良く似合うとか、かわいくていいねとか、談笑しながら品々を見て回っていた。二人には相当楽しい時間のようだった。

 男二人はアクセサリー類を見ても仕方ないので、ハンカチなどの実用品を見ていた。しかし、ハンカチ一つでもいろいろな種類の商品があるのを見て、驚きながら話をしていた。

「ハンカチなんて、使えりゃなんでもって思うよなあ」

「色やデザインがこんなにあるのは驚きですよね」

 と、案外退屈しなかったのだった。

 続いては道具屋である。家屋や家具などの修理に使う物から調理器具までいろいろな品が置いてあった。

「あたし、学院出てすぐ冒険者になったの。だから、あんまり料理とかできなくて。こういうの見ても良し悪しが分からないのよ」

「そうなんですか。私も似たようなものですけど、故郷にいた時は家の手伝いでいろいろやらされたので、それなりには分かるんです」

 この辺、リアナとクレアで案外差があるのだった。

「ほら、この炒め鍋とか、こうして使うんですけど、重さや大きさが自分に合うかどうかで選べばいいってことなんです」

「クレアはしっかりしてるのね。そうやって言われてみると良く分かるわ」

「使い勝手とか作りの良し悪しとかで、同じような鍋でもいろんな種類があるんですよね。こうしてそれを見られるのも面白いです。来て良かった」

 道具類を見ていても退屈しない二人だった。

 男二人も金槌だの鋸だのを見て、楽しんでいた。

「こういう道具って、何かこう、使ってみたくなる感じするよな」

「そうですね。子供の頃、家の手伝いで何度か使いましたけど、便利な道具だなあって思いつつも、使うのが意外と大変だったのを覚えてます」

 そんな会話をしながら見て回っていた。

「それにしても、さすが王都だよな。店の数も店に並んでいる商品の数も、すごく多いもんな」

「そうですね。見るだけだと退屈するかもと思ったのですが、これほどいろいろな商品が見られて、思った以上に面白いですね」

 そんなライルやアレンの感想は、リアナやクレアと同じであった。

「いろんな品物、見てるだけでも楽しいね」

「はい。これだけの品を作ったり運んだりするのも大変だろうなあとか、どんな風に作るんだろうとか、いろいろ想像できるのも楽しいです」

 という感じで、楽しく見て回っていたのだった。


 ところが移動中、トラブルに遭遇してしまった。

 話ながら歩いていたところで、先頭のライルが見知らぬ男性と軽くぶつかってしまったのが発端だった。

「おい、痛えじゃねえか。何しやがる」

 相手は筋骨逞しい男性だった。それが似たような感じの仲間を三人引き連れていた。腕に覚えがあるのだろう。初めからやけに居丈高だった。明らかに向こうからぶつかってきたのがライルには分かったが、あえて事を大きくすることもなかろうと、素直に謝罪した。

「これはどうも、すみませんでした」

 ライルは丁寧に頭も下げたが、相手はそれを許さなかった。

「すみませんじゃ済まないんだよ。どう落とし前つける気なんだ」

 ライルが内心でため息をついた。この種の輩が王都にもいるのは知っていたが、滅多に接触することはないので気にしてはいなかった。まさか自分が因縁を付けられるなど、思いもしていなかった。

 そこでカチンときたのがアレンである。良くも悪くも正義感の強い彼は、こんな言いがかりをつけられて黙っていることはできなかった。

「こちらはちゃんと謝ってるじゃないですか。それでも足りないというなら、僕も一緒に謝ります。本当に申し訳ありませんでした」

 しかし、謝罪が通るくらいなら初めから絡んではこない。相手の男達は、アレン達が女の子達を連れているのを見て、わざとぶつかって因縁をつけてきたのだ。

「本気で詫びるつもりなら、そこの女の子達を置いていきな」

「そうそう。そこの二人、結構かわいいじゃないか。その二人と引き換えなら許してやるよ」

 それを聞いて、アレンは完全に頭に来たが、それでもまだ冷静だった。

「そんな訳の分からない言い分が通用するわけがないでしょう。とにかく、僕達はちゃんと謝罪しました。これで十分でしょう」

 アレンがまだ少年と呼ばれる年代なのを見て、男達は完全に侮っていた。それはライルも同様で、大した相手ではないと高をくくっていた。

「通りたければ腕ずくで来なよ」

 この種の輩は言うことが乱暴で理屈が通らない。アレンがさすがに辟易していると、ここでライルが割って入った。というより挑発を返した。もう穏便には済まないだろうと考え、相手に先に手を出させようとしたのである。

「何言ってやがる。お前さん達、結局俺達が怖いんだろ。偉そうなこと言ってないで、さっさと立ち去ることを勧めるぞ」

「何だと、この野郎!」

「なら、痛い目を見せてやるだけだ」

 そう言って男達が殴り掛かってきた。ライルの計算通りである。

 そして、その拳をライルとアレンはいとも簡単に受け止めていた。

「力ずくで言うことを聞かせようなんて発想、最低です」

 アレンが火に油を注ぐような発言をした。こういう時は正直すぎるのが大きな欠点である。男達がいきり立って、繰り返し殴り掛かってきた。

「困りましたね。この人達、乱暴を止める気ないみたいですよ」

「何言ってんだ。お前が挑発したからだろ」

「そんなつもりはなかったんですけどね。いや、どうしたものか」

 四人の男達の攻撃を避けたり受け止めたりしながら、アレンとライルにはそんな会話を交わす余裕があった。普段はもっと強い魔物を相手に戦っているのである。彼らの攻撃くらい、どうということもなかった。

 しばらくして男達の息が上がっていた。アレンとライルは涼しい顔のままである。

「何事だ! そこの者達、動くなよ」

 ちょうどそこに騎士が三名やってきた。街の治安を維持するのも騎士達の仕事である。通りすがりの誰かが呼びに行ってくれたのだった。

 三名の騎士はその場に駆けつけると、すぐに事情を聞き始めた。

 ライルが男の一人にぶつかってしまい、謝罪したが連れの女の子達を置いていけと言われ、二、三言葉を交わした結果、相手が殴り掛かってきたと正直に答えた。

 しかし、相手の男達は往生際が悪かった。権力をもった相手にはへりくだって自己を正当化しようとするのだった。

「こいつらが、自分からぶつかっておきながら、俺達が怖いんだろとか言って挑発してきたんです。とても謝る人間の態度じゃないから、俺達も頭に来て、つい殴り掛かっちまったんですよ」

「そうなんです。こいつらがわざと俺達を怒らせたんです」

 隊長格の騎士は男達の言い分を聞いていたが、職務に忠実に、きちんとクレアとリアナにも事情を尋ねた。

「私達を置いていけって言ったのは本当です。通りたければ腕ずくでと言ったのも彼らです。先に殴り掛かってきたのもそうだし、私達の連れは一度も手を出していません」

 その騎士がうなずいていた。事情は見ただけで察していたようだった。それでもきちんと証言を取るのが彼らの仕事だ。そして、周囲の野次馬達もクレアの言葉にそうだそうだと声援を送っていた。

「そこの男四人、暴行の現行犯だ。相手に暴力が当たらなくても、殴り掛かった事実は暴行罪に該当するのだ。よって身柄を拘束し、騎士団の詰所に連行する。もし逃げ出そうとすれば、こちらも実力を行使する」

 さすがの男達も身柄を拘束すると言われて青ざめた。しかし、騎士相手に逆らえば、余計に罪を重ねることになり、罰が重くなる。

「調書を取るので君達も同行してくれ」

 そう騎士に言われ、アレン達も騎士団の詰所に同行することになった。


「こんな形で騎士団の詰所を見物できるとはなあ」

 とはライルの談である。調書の作成はそう長い時間ではなかった。問われたことに正直に答え、事の次第を説明し、それを騎士達が記録するだけで済んだ。だが、このようにきちんと犯罪を処理することが分かったのは、街巡りの一環としての成果ではないかと思う四人であった。

 そんな余計なこともあったが、その後もしばらくの間、四人は商店街の見物を続けた。

 のんびりと店を巡り、最後に再び喫茶店へ。お茶をしながらこの日の出来事を振り返っていた。

「たくさん見て回りましたね。僕もいろいろな品物や商売の様子が見られて良かったです。こういう人の営みを守る大切さも改めて思い知りました」

 生真面目なアレンがそんな感想を言っていた。

「そうだな。いい物がいろいろ見られた楽しい一日だったよな」

 ライルの返事に続いて、リアナとクレアも感想を言っていた。

「あたし、本当は小物でも買おうかと思ったんだけどね。結局邪魔になりそうだったからやめちゃった。ちょっと惜しかったかも」

「そうなんですよね。良い物って欲しくなりますよね」

 にこやかにそんな話をしていた。

 こんな風に、みなで楽しく観光をした一日だった。

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