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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第二十五話 たまには王都の観光を

「さて、アレンの新しい剣も手に入った。剣の試し斬りもできた。後はノックス村に戻るだけなんだが、そこでだ」

 ダンジョンからギルドに戻ったところで、ライルが話を切り出した。

「王都を離れる前に、観光して回るのはどうだ。村に戻ったら、しばらく王都なんて来られないだろうし、せっかくの機会だから行ってみないか」

 確かにライルはそれほど魔物討伐が好きというわけではない。アレンもそれは知っているが、王都を観光と言っても、何を見て回るのだろうか。それよりも一日も早く村に戻って、ダンジョンでの魔物討伐を再開したい気がしていた。

 それが表情に出ていて、他の三人が苦笑した。良く言えば一途、悪く言えば戦闘バカである。

 ここで真面目に考え込んだのはクレアだ。アレンの勇気や強くなりたい意志は尊重するが、たまには守るべき存在を見て回るのも大切なことだろう。それに王都だからこその楽しみもあるはずだ。王都で楽しく過ごす経験も意味のあることだと思う。ここはアレンを説得しようと話に加わった。

「私は賛成。学院に通っていた頃の思い出の場所とかも見てみたいし、王都を回るのって楽しいんじゃないかって思うし。滅多にない機会だから、みんなで行ってみようよ」

 ここでアレンにも意味のあることだから、などと言わないのがクレアらしい気遣いだった。あくまで自分が行きたいと主張して、アレンにも賛成してもらおうという言い方をしていた。

「あたしもいいと思う。食べ歩きとかしようよ。村に戻ったらできないし」

 リアナも賛成に回った。そうなると三人の意思を無視して、村に戻ろうとはアレンにも言えない。

「分かりました。三人がそう言うなら、明日一日、王都を観光しましょう」

 まだ気乗りはしないようだったが、アレンも三人に賛同した。

「よし、決まりだな。じゃあ明日よろしくな、みんな」

 ライルが最年長らしく話をまとめた。

 こうして王都観光に行くことになったのだった。


 翌日、四人はみなで朝食を済ませ、ギルドのロビーに集合した。さすがに冒険者の装備でなく私服である。

「で、どこから行く? あたしはどこでも構わないわよ」

「定番で王城観光からかな。たまに見る分には新鮮だろうし」

 リアナとライルが話を進めていた。アレンとクレアはそれに乗っかる形になった。

「いいわね。じゃあ、早速見に行きましょ」

 一番乗り気なのはリアナのようだった。彼女もまだ十八才、久々の都会見物を楽しみにしていたのだった。

 そして四人は雑談をしながら、まずは王城へと向かう。

 王城はそれ自体が要塞である。街中なのに高い城壁で囲まれ、都市を囲む城壁が破られても、まだ防衛戦を行えるように作られていた。当然、中に国王一家が居住しており、また政務や軍議などもここで行われる。

 立派なのは城壁だけでなく、門も中の建物も、みな石造りで見事な建築物だった。朝の光を浴びて白く輝いて見える。

 城門は開いており、平時であれば、前庭までは一般の市民でも立ち入ることができるようになっている。せっかくの見事な城なので、観光客にも開放しているのだった。

「相変わらずすごい城よね。立派過ぎてため息が出るわ」

 リアナの率直な感想に他の三人もうなずく。

「全くだ。どれだけの資材と人手がかかったのやら」

「本当ですね。学院時代は遠くから見てただけでしたけど、近くで見るとこんなに迫力があったんですね」

「庭も綺麗よね。木々や花畑もよく手入れされてて」

 それぞれ感想を口にする。素晴らしい建物と庭だけでも見に来る価値は十分にあった。

 それからしばらく城を外から眺めて回った。最初は乗り気でなかったアレンも、その見事さに目を奪われ、感心しながら建物や城壁、庭などを見て回っていて、自然と気分も上向きになっていた。

「さて、次はどうする?」

 ライルの問いに真っ先に答えたのはリアナだった。

「美術館がいいな。あたし、王都の学院に通っていた頃は、友達と商店街とかばっかりだったから、まだ行ったことないのよ」

 意外な希望が出てきて三人が少し驚いた。しかし、美術館など見たことがないのは実は三人みな同じだった。

「僕達も初めてです。せっかくなので行ってみましょう」

 ということになり、四人はそこへ向かうことになった。


 美術館自体も立派な芸術作品だった。凝った造りの建物で柱や壁にも造形がなされている。もちろん石造りを基本としている。

 そして入場料は無料だった。文化や芸術を住民にも広め、王国全体に文化的な発展をもたらすために、運営費や管理費を王国が負担しているのだ。ファルラント王国では文化の重要性を理解し、保護しているのだった。

「素敵な建物だね。見に来て良かった」

 とはリアナの談である。自分が言い出したことなので、これなら仲間にも楽しんでもらえるだろうと安堵したのだった。

「さ、中に入りましょ」

 そして四人で中に入る。入り口すぐは吹き抜けになっていて、座ってくつろげるように長椅子が置かれている。そこからいくつもの部屋につながっていて、そこに作品が展示してあるのだ。

 四人は最初に絵画の部屋へと入っていった。風景画、人物画、静物画などいろいろな絵が展示してある。

「誰か絵心のあるヤツいるか?」

 ライルが余計なことを聞いてきた。答えは全員なしである。

「そりゃそうか。美術のセンスがあったら冒険者なんかやってないよな」

 自分も含めてみなが美術的素養のないことを指摘する。しかし、決して悪意からではなかった。

「そんな俺でもここにある絵が素晴らしいってことくらいは分かるぞ。これが美術品の力ってヤツだな。いや、感心するよ」

「そうだね、ライル。あたしもきれいですごいって思うもん」

 意外とライルとリアナは仲が良いし、こういう感性も似ていた。意見がピタリと合って、二人で苦笑していた。

「アレンはどう? いい絵だなあって思う?」

 クレアが聞いてきた。美術品に興味のないアレンでも、これらの絵が凄いことくらいは分かる。

「うん。美術館っていうのもすごいものなんだね。どんな人がどうやって描いたのか興味が出てくるくらい、いいなって思うよ」

 美術館なので、展示してあるのは絵画だけではない。デザイン画や半立体の平面作品、彫刻、彫塑といった立体作品など、様々な作品がゆったりと眺められるよう間隔を開けて展示してあった。素晴らしい作品ばかりだが、たまに前衛的すぎて分からないものまである。

「うーん、さすがにこの作品が希望って題なのは無理があるんじゃ」

 などという感想になることもあった。

 アレンが一番喜んだのは、外の庭に歴代勇者の銅像が展示してあったことだ。もちろん、最近勇者の称号を得たばかりのクレーベルの像もあった。

「すごいなあ。これが魔族との戦いで活躍した勇者達かあ。感動だなあ」

「いつかは僕もここに並べるようになりたいって、アレンのことだから、そんなことを思ってるんでしょ」

「もちろん。とは言え、僕はまだまだ弱いから頑張らないと」

 ここを見ただけでも来た甲斐があったとアレンは思っていた。そんなアレンの表情を見て、三人は微笑ましく思っていた。

「さて、一通り見て回ったところで、昼飯だな」

「食べ歩きでいいんだよね。あたし、いろいろ案内するから」

 リアナが妙に張り切っていた。

「じゃあ、お任せしますね」

 アレン達はリアナに先導されて商店街へと向かった。


「最初はまずこれからかな」

 リアナが一軒の総菜屋の前で止まる。

「マカロニサラダ四つ。ここで食べてくわ」

「はい、少々お待ち下さい。銅貨十二枚になります」

 勘定を払って、それぞれが器に盛られたサラダを受け取る。

「まずは前菜ね。ここのサラダは値段の割においしいわよ」

 マカロニがメインだがきちんと野菜もたくさん和えてある。アクセントにリンゴを使ってあるのも売りの一つだ。

「こういう料理って少しだけだと作るの手間だし、まとめて大量に作る総菜屋さんの方がおいしくできるのよ」

「なるほど、納得です。おいしいですね」

 四人で店の前の長椅子に座って食べていた。外で食べるのは多少行儀が悪いのだが、ダンジョンでパンをかじることを考えれば似たようなものだ。商店街を眺めながらみなで食べるのはなかなか気分がいい。

「さて、お次は副菜ね」

 今度はサンドイッチ屋でバゲットサンドを買う。普通のパン屋と違って、挟む具材を自由に選べるのがポイントである。これが一人銅貨五枚。これもまた店の前にある長椅子に座ってみなで食べる。

「学院時代、お腹すいた時、よくお世話になったのよ、この店」

「なるほど、これなら好きな物食べられていいな。ただ、副菜っていう割には食べ応えがあるなあ。お腹すいてたからちょうどいいけど」

 リアナとライルの言葉に、アレンとクレアも笑みを浮かべた。納得のいく味とボリュームだった。

「主菜は二か所か回るわよ」

 リアナが余計に元気になっていた。学生時代の食べ歩きを思い出して、楽しい気分になっていたのだ。

「まずはこれ、メンチカツ」

 今度は肉屋である。

「総菜屋さんのより、具材の造りがいいし、何よりラードで揚げてあるから一段上のおいしさなのよ」

 これが一人銅貨四枚。またみなで店の前の長椅子に座って食べる。

 言われて納得、脂っぽいのだが、それ以上に凝縮した旨味がある。具材のひき肉と野菜のバランスもうまく取れている。かぶりつくと口の中に旨味が広がり、食感もさっくりした衣と肉汁の多い中身とのバランスが絶妙だ。

「うまいな、これ。さすがリアナのお勧めだな」

「僕もこれは初めてですけど、同感です。肉屋の総菜は盲点だったなあ」

「どこにでもありそうに見えて、なかなかないですよね、これは」

 三人も感心しながら味わっていた。

「いい反応。案内した甲斐があるわ。次はもっとおいしいわよ」

 そうしてリアナが案内したのは串焼きの店だった。串焼きだけで商売が成り立つほど売れている店なのだ。これはよほどおいしいのだろうと、三人も期待していた。

「牛串焼き四本下さい」

「はいよ。銅貨二十枚だな」

 一本銅貨五枚だから、串焼き一つになかなかいい値段である。

 そして四人がそれぞれ串を受け取る。

「串は横に持つといいわよ。縦に持つと脂が垂れてくるから」

 リアナがそう言って、早速とばかりにかぶりつく。

「うーん、この味。旨味たっぷりで最高」

 実においしそうに食べる。それを見て三人も串焼きにかぶりついた。

「本当だ。肉の塊食べてる感じがたまらないな」

 ライルらしく、直球な反応が返る。

「おいしいですね。すごく贅沢な感じです」

「行儀悪いけど、このおいしさには負けますね」

 アレンとクレアも気に入って、おいしそうに頬張っていた。あまりのおいしさにどんどんと食べられてしまう。

「最後にデザート行きましょ。今度は喫茶店ね」

 串の始末を店の人に任せると、最後の店に向かう。

 そこは老舗の喫茶店だった。ここも飲み物と甘味だけで商売が成り立つほど、売れている店だった。ファルラント王国の生活水準が高いことも、こうした店が存在できる理由であった。

 そこで四人はフルーツタルトと紅茶のセットを頼んだ。これで一人銅貨七枚。この日は食事だけで二十四枚。普通の食事の二倍以上かかっていた。

「学生の頃、お金があったら、こんな風に食べ歩きして見たかったのよね。今日は念願かなってうれしいわ」

 リアナがうれしそうに言った。

 フルーツタルトは甘酸っぱい煮た果物と土台の旨味とが合わさって、これも実においしかった。これまでの食事のおいしさをさらに一段階上げるような感じがする。最初から最後までリアナの案内は絶妙だった。

「こんな風に贅沢するのもいいですね。ありがとう、リアナさん」

 礼を言って、アレンがおいしそうにタルトを口に入れる。咀嚼して飲み込むと爽やかな甘味が口の中に残る。そこで紅茶を飲むと、その香りがおいしさを増幅させて、華やかな香りと共に口の中を満足させる。

「うん。こんなにたくさんの果物使ってて、すごく贅沢。紅茶もいい香りだし、とてもおいしいです。何か食べることでこんなに感心したのって、久しぶりかも」

 クレアもそんな感想だった。

「うんうん。うまいのは正義だな。リアナ、ありがとな」

 ライルまでそんなことを言う。今日の食事は彼も十分以上に満足する物だったのだ。

「どういたしまして。ちょっと値は張ったけど、こういうのもたまにはいいでしょ。王都じゃないとできないことだもんね」

 アレンが、王都ではこういう楽しみ方もできるのだなと、改めて感心していた。なるほど戦うばかりが冒険者ではない。たまにはこんな楽しみがあっても良いのだと、考えを改めていたのだった。

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