第二十四話 マトスのダンジョン
剣を無事に購入し、四人は冒険者ギルドへと戻ってきた。
「まだ風呂に行くには早いですね。時間も少しあるし、商店街で茶菓子でも頂きませんか。今回の礼に、僕がおごりますので」
アレンがそんな提案をしていた。大したことはできないが、礼をしたかったのも確かだ。それほどに剣の入手はうれしい出来事だったのだ。
アレンの気持ちは三人にも伝わっていた。せっかく言い出してきたのだから、乗ってやるのがその気持ちに応える方法だろう。
「分かった。せっかくだし、ごちそうになるよ」
一番年長のライルが返事をして、四人は喫茶店へと足を運んだ。
四人はそれぞれケーキと紅茶を頼み、のんびりくつろぎながらそれを楽しんでいた。
「ケーキなんて久しぶり。ありがとう、アレン。ごちそうになるね」
クレアが少しずつ味わいながらおいしそうに食べている。ライルとリアナもクレアと同じようにおいしさを味わっていた。しかし、それだけでは終わらない。クレアがアレンに尋ねた。
「それで、私達に話したいことがあるんでしょ、アレン」
長い付き合いだけに、気持ちはお見通しなのだった。
「やっぱりクレアには分かっちゃうか。実は頼みが一つあって、王都近くのマトスのダンジョンに行ってみたいなあって思っているんです」
ライルとリアナが苦笑した。せっかく良い剣を手に入れたので、早速試したいというのだろうと察しはつく。
「本当に強くなったか試したいんだろ」
「アレンらしいけわね」
そして三人で苦笑のまま視線を交わす。まあ、大したことでもないし、希望を叶えるかとうなずき合う。
「アレンの気持ちも分かるし、明日にでも行ってみましょうか」
クレアが三人を代表して答える。アレンがぱっと表情を輝かせた。
「許してくれてありがとう。じゃあ、明日ダンジョンへ行こう」
そしてアレンが頭を下げる。それがさらにみなの苦笑を誘い、和やかな雰囲気のままお茶の時間は過ぎていった。
そして翌日。朝食と仕度を済ませ、四人はギルドのロビーに集まった。周囲には人も多く、みなマトスのダンジョンへ行くようであった。
「さすが、王都のギルド。こんなに冒険者がいたんですね」
出発間際の冒険者達がそれぞれ話をしている。一足先に出発する冒険者達もいる。とても賑やかな光景だった。
「僕達も出発しましょう」
アレンの言葉に三人がうなずく。
四人はギルドを出て、まずは西の城門へと向かった。
市街地も働きに出かける人が大勢いて賑わっていた。その多くは工房区で働く人達である。さすがは王都、産業も発達している。
その人達と逆流するようにアレン達は進んでいく。同じように西の城門を目指す人達もいて、紛れもなく同業者、つまり冒険者達だった。
城門をくぐり、今度は街道を真っ直ぐ西に進む。途中分かれ道で北に逸れて、道なりに真っ直ぐ進んでいく。一時間弱歩いたところで、行き止まりとなり、断崖に大きな入り口があった。それが目的地であるマトスのダンジョンである。
人間の領域内でもこのようなダンジョンはいくつも存在している。かつて魔族が占領していた時代に造られたものらしい。らしいと言うのは誰も確かめたことがないからである。しかし、魔物を生み出す機能は残されていて、冒険者達の絶好の狩場となっていた。それゆえに、ダンジョンを攻略して潰したりはせず、機能を維持させて有効活用しているのだった。
中に入ると通路が伸びている。幅は五メートル以上、天井まで四メートル以上ある広い通路だ。壁面は人間の文明にはない材質でできており、淡く発光しているので照明の必要がない。この通路は四方八方に伸びており、地下三十階までの広大な空間となっている。
「それじゃ、始めようか。サーチ!」
リアナが早速探知魔法を使う。離れた場所でも魔物の存在を探知できる便利な魔法だ。
「あらら、混んでるわね。さすが王都のダンジョン。この周辺はもう先客ばかりで、戦闘中みたいよ」
冒険者に人気があるというのは、魔物を討伐する競争相手が多いということである。アレンとクレアは冒険者になり立ての頃、それを避けてノックス村に行こうと決めたくらいなのである。
「少し深いところに潜るしかなさそう」
「そうだな。とりあえず、地下三階くらいでどうだろう」
ダンジョンでは深く潜るほどに魔物が強くなる。それを考えるとあまり深くは潜れない。それを考慮してのライルの意見だった。
「分かりました。では、まず地下三階へ」
アレンとクレアも同意し、ダンジョンの奥へと潜っていく。地図はリアナが王都の冒険者ギルドでもらってあったので、道に迷う心配はない。
相変わらず広い通路を四人が進んでいく。時折、他の冒険者達が魔物と戦っている場所の近くを通る。その冒険者達の健闘を祈りつつ、邪魔にならないよう静かに通り過ぎていく。
そして階段を二度ほど下りて、地下三階へ。
しかし、ここもすでに他の冒険者達が魔物の討伐をあちこちで行っていて、割り込む余地がなかった。
「もう少し、下まで行ってみるしかないですね」
アレン達はこの階を通り過ぎ、地下四階、地下五階と順に潜っていった。そこでやっと討伐されていない魔物を見つけることができた。
「いるけど、アースジャイアントだよ。倒せるかな」
体長四メートルを超える大地の巨人。その頑丈さはこの前苦戦したレッサーデーモン以上である。
「エダニウスの剣もあります。大丈夫です」
アレンがきっぱりと言った。試し切りをした感触で、よほどの相手でなければ斬れる自信があったのだ。
「まあ何とかなるだろ。新しい剣の初戦には荷が重いが、手頃な魔物はみな討伐中だったみたいだし、仕方ないだろうな」
一番年長でレベルの高いライルがそう言った。彼の実力はゴブリンキングを倒したことでも証明されている。その彼が大丈夫だと思うなら、何とかなるのだろう。
「では、アースジャイアントと戦いましょう」
初戦の相手も決まり、アレンは張り切る気持ちを抑え、努めて冷静であろうとしながら、魔物の待つ場所へと向かった。
リアナの案内で四人は目的の場所へと到着した。
広場のようになっている空間にその魔物はいた。黄土色をした巨人が空間の中央に立っている。アースジャイアントに間違いなかった。
「左足を温度差で砕きましょう。ライルさんが炎と氷の魔法を撃ち込んで、僕がそこに全力で斬撃を入れます。リアナさんは陽動、クレアは強化魔法を僕に掛けて、その後シールドの準備をして待機で」
威力のある剣を手に入れても、アレンはそれだけに頼ることはなかった。レッサーデーモン相手に苦戦した記憶もまだ新しい。効率よく確実に倒すために、以前、ロックゴーレムを倒した時と同じように、温度差の攻撃を提案したのである。
三人が感心しつつ、了解の返答をした。
「考えたな。俺もアレンの作戦に賛成だ」
「毎度ながらあたしが陽動ね。了解」
「私も了解。強化魔法とシールドね」
「よし、それじゃあ戦闘開始だ」
アレンの合図と共に、四人がアースジャイアントの間合いへと突入する。
「ストレングス!」
まずはクレアの強化魔法だ。身体能力を向上させる魔法がアレンに掛けられる。そのままクレアは待機し、いざという時、魔法の楯を展開させる役回りとなる。
そしてまずはリアナがアースジャイアントの間合いに入った。ジャイアントが拳で殴りつけてくる。凄まじい迫力だが、リアナは優れた回避力を発揮して余裕で避けていた。
続いてライルが間合いに入る。アレンの作戦通りに魔法を放つ。
「ファイアボール」
狙うは左足の中央。拳大の火球が真っ直ぐにそこへと飛んでいく。そして見事に狙った場所へと直撃し、その場所を高温で熱する。
「次、アイシクルランス」
続けざまに魔法を放つ。今度は氷の槍の魔法だ。先程と同じ場所を寸分たがわず狙い撃つ。
急激な温度差がジャイアントの左足にかかり、その部分が脆くなって変色していた。以前ロックゴーレムを倒した時も同じ手を使っていて、それをアレンはしっかり覚えていたのである。
「今だ、闘気剣!」
アレンが剣に闘気を伝わらせて威力を上げる。エダニウスの剣はそれに応えるかのように淡く発光した。元々青白く美しい輝きをもつ剣だったが、さらにその美しさが増したように見えた。
それを見て、アレンがこれならいけると確信した。
「闘気斬!」
アレンが剣を横薙ぎに振るった。剣先が変色したジャイアントの左足を捉え、一撃で斬り裂いていた。
左足を切断され、アースジャイアントがバランスを崩して倒れ込む。アレンの作戦通りの結果であった。
「ここだ、頭に総攻撃を!」
アレンがジャイアントの頭部に回り込み、繰り返し斬撃を浴びせる。リアナも合流し、そこに加勢する。
「アレン、よくやった。とどめは任せろ」
ライルも援護に来ていた。さすがにアースジャイアントは頑丈である。頭部に斬りつけているが、なかなか傷が広がらずにいたのだ。
二人は魔法の射線を確保するため、いったんジャイアントから離れる。
ライルがそこで爆発魔法を発動させた。
「エクスプロード」
派手な爆発が起こり、一撃でジャイアントの頭部を吹き飛ばす。上半身の一部もその勢いで細かな破片となって飛び散っていた。
さすがに頑丈なアースジャイアントも、この爆発の威力に耐え切れず、魔石を残して霧状に足って消えていった。
「さすがはライルさん、お見事でした」
アレンは一言賛辞を送ると、仲間の無事と異常の有無を確認した。戦闘後には必要な行動である。すでに自然とそれを行うようになっていた。
異常なしの返答を受け、アレンがグッとこぶしを握った。作戦通りに勝てたこと、そしてエダニウスの剣が思った以上の威力を発揮したことで、気分が高揚していたのだった。
「マトスのダンジョンでの初戦はいい結果でした。もう少し、戦っておきたいところなんですが、リアナさん、魔物はいますか?」
アレンが問いかける。
「うーんと、ジャイアントバットならいるわね。誰も手を出さないみたい」
「何ででしょう。弱すぎるからですかね」
「数が多いからみたい。ざっと三十はいるわ」
なるほど、それは厄介だ。だが、今のアレンには負ける気がしない。
「なら、そいつを討伐しましょう。僕達なら絶対勝てます」
結果的に、アレンの言葉通りになった。
ジャイアントバットは不規則な軌道を描いて飛び回るので攻撃を当てにくい。しかし、アレンには魔法剣がある。
「魔法剣、ウィンド!」
剣に風魔法をまとわせ、剣の届かない場所でも斬り裂くことができる。エダニウスの剣は魔法剣の効率を最大限に発揮できる良い剣だった。さすがはプラス三の長剣である。
アレンが容赦なく手近なジャイアントバットを斬り裂いていく。
ライルはウィンドカッターの魔法で、同じように離れたバットを斬り裂いていく。
リアナはそうはいかない。彼女には離れた相手に攻撃する技がないのである。そこでわざと自分を襲わせて、攻撃を避けると同時にカウンターで斬撃を送り込み、一撃でバットの体を斬り裂いていく。高い回避能力があるからこそできる技だった。
一番苦労したのはクレアだろう。残念ながら、彼女にバットを攻撃する能力はない。シールドの魔法を展開し、バットの攻撃をひたすらに防ぐので精一杯だった。
「クレア、頑張れ。僕が倒す」
そんなクレアを援護し、彼女に襲いかかるバットを片付けていたのはアレンだった。
三人の攻撃は十分以上に見事で、次々とジャイアントバットを倒し、その数を減らしていった。
「これで最後!」
アレンが三十三体目にとどめを刺す。弱い魔物相手なら、数が多くて多少厄介でも余裕で倒し切れるようになっていたのだった。
そしていつも通り、無事と異常の有無を確認する。
「試し斬りにはちょうど良かったみたいだな」
ライルの言葉にアレンがうなずく。
「そうですね。斬れ味も使い勝手も抜群にいいです。この剣が買えて本当に良かったです。もっと使いこなして、僕ももっと強くなりますよ」
アレンがうれしそうに答える。強さを探求するのはいいことなのだが、こんな風に度が過ぎることもあり、三人は苦笑していた。
そして四人はダンジョンでの討伐を終え、ギルドへと引き上げるのだった。




