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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第二十三話 ランクプラス三の長剣

 王都の城門をくぐると、しばらくは空き地が続く。有事の際に軍勢を展開させるための場所で、建築が禁じられた場所だ。二年前の魔族侵攻の際にもこの空間に数多くの騎士や冒険者達が待機し、出撃した。

 そこからしばらく進むと、ようやく市街地が見えてくる。城壁に近いほど貧しい住民の居住地となっている。裕福な者ほど王宮に近い利便性の高い場所に住居を構えていた。

 また王都はいくつかもの区画に分かれている。工房区、商業区、居住区などである。騎士達の居住地や騎士団関係の施設も王宮に近い一角を占めていて、計画的、機能的に建設された都市なのである。

 商業区と居住区の境目あたりに王都の冒険者ギルドはあった。王国各地にあるギルドの本部でもある。騎士団関係の施設からもほど近い場所にあり、いざという時には連携が取りやすい立地であった。

 アレン達がここに着いたのはすでに夕方であった。

 早速宿泊の申し込みをする。受付のギルド職員がアレンの冒険者証を見て驚いた表情になった。

「あなたは確か一月半前、冒険者育成学院を卒業してすぐに冒険者登録をした人でしたね。魔法戦士という職業が珍しかったのでよく覚えています。登録したてと言っても良いはずなのにもうレベル七ですか。どうやってそんなにレベルが上がったのですか」

 当然の疑問だった。アレンとしても、自分でも納得できているような、いないような、そんな不思議な気分なのである。

「ノックス村のギルドで世話になっていたのですが、この前ゴブリンの軍勢が攻めてきまして。撃退するのに参加していたらこうなりました」

「ああ、最近騎士団百騎が増援に向かった時の件ですね。そうですか、ゴブリンとは言え、よほど強力な相手だったのですね」

 職員もそれで納得したようだった。クレア、ライル、リアナの冒険者証も確認し、空いている個室を手配してくれた。

「王都に来られたのは、やっぱりマトスのダンジョン挑戦ですか」

 王都近郊にもダンジョンはある。ノックス村北のダンジョンと難易度はそう変わらない。便利な王都暮らしをしながらダンジョンで稼げるので、冒険者には人気の場所である。

「いえ、僕達強力な剣を求めて王都まで来たんです」

「そうですか。良い剣が見つかるといいですね」

「はい。ありがとうございます」

 そして四人は鍵を受け取ると、割り当てられた部屋に向かった。そこで荷物を下ろし、まずは洗濯である。

 それが終わると公衆浴場へ向かう。王都のギルドでも風呂と食事の提供はない。やはり近くの公衆浴場と料理屋を利用することになる。

 公衆浴場でひと汗流し、続いて料理屋へ。五日間歩き通しの旅で疲れているので食欲も旺盛だった。のんびりと食事をしてギルドに戻る。

 そしてまずは一泊。明日には良い剣が見つかるといいなと思いつつ、四人はそれぞれ眠りに就いたのだった。


 翌日、朝食を済ませると、四人は早速商店街へと向かった。冒険者ギルドからほど近い場所に武器屋が建ち並んでいる。とりあえず、手近な店に入ってみる。

「いらっしゃいませ。何をお探しですか」

「すみません、剣を見せて頂きたいのですが」

「それでしたら、こちらになります」

 店員の案内を受け、いろいろな剣が展示してある場所を見る。

「ロングソードで、できればプラス三以上の威力が欲しいんですけど」

「プラス三ですか。ご予算は?」

「金貨五枚です」

「厳しいですね。プラス二でしたらその値段で出せる品もありますが。プラス三となると、金貨八枚以上が相場になりますので」

 二十日間必死で稼いできたが、それでもまだ予算不足だったようである。

「金貨五枚でしたら、こちらの品などいかがですか。名工の作でプラス二としては十分な品ですが」

 確かに良い剣だった。しかし、ここまできて妥協はしたくない。

「ありがとうございます。考えてみます」

 アレンはそう答えて返事を保留した。そして四人で別の店へと向かった。

 しかし、次の店でも、またその次の店でも結果は同じだった。威力の高い武器はその分値が張る。最初の店で言われた通り、プラス三の剣は金貨八枚以上が相場だった。

「うーん、考えが甘かったみたいですね」

 アレンが苦笑しながら言った。他の三人も多少困った表情になっていた。

「いや、俺の見立てが甘かった。金貨五枚あれば十分だと思ったんだ」

「あたしも。だって銀貨で百枚分でしょ。足りると思うわよねえ」

 ライルとリアナも素直に反省していた。あれだけ頑張って稼いできたのになと、残念そうに言う。

「でも、探せばどこかで見つかるかも知れないし。まずは昼食を取りながら考えてみましょう」

 クレアが前向きな発言をしてくれた。アレンはいつも彼女に励まされている。ありがたい相棒なのはここでも変わらなかった。

「そうだね。焦らず探そう。そっか、もう昼飯時か」

 朝からずっと剣を探して、気が付けばもう昼であった。

「お腹が空いてるといい考えも出ないだろうし、まずは食事ですね」

 そして四人でパスタの店に入る。麺の量を加減できるのが利点だ。腹も空いていたので、みな大盛りである。これで一人銅貨十枚と安い。

「何かトマトソースの麺が腹に染みるなあ」

 やはり気が焦っていたらしい。うまい物を食べて、アレンの気持ちにも余裕が戻ってきていた。

 それはクレアも同じだったらしい。ふと思いついた考えを話してきた。

「新品が無理でも、中古品なら予算内で買えるんじゃないかな。剣の性能さえ良ければ、アレンも納得できるでしょう?」

 それはアレンもライルもリアナも考えになかったことだった。

「そうか、中古は考えてなかったな」

 アレンが考え込む。性能の劣る新品と威力の高い中古品なら、確かに中古に軍配が上がる。問題は耐久性くらいだ。しかし、頑丈で長く使えるからこそのプラス三なので、中古でも心配はないと思われた。

「ありがとう、クレア。昼食後は中古品を探してみよう」

 アレンは安堵の表情を浮かべて礼を言った。これで目的の品が見つかるかもしれないと、希望が見えてきた。

「どういたしまして。お役に立てて何より」

 クレアもほっとした表情を浮かべた。余計なことを言ったかと彼女も思っていたのだった。

 そうと決まり、四人は残る昼食を平らげ、目的の店へと向かった。


 中古品を扱う店は文字通りの中古屋だった。武器に限らず、様々な道具類も含めて扱っている店だった。それが六軒ほどもある。

 早速とばかり、手近な店に入ってみる。道具類を物色している客が他にも何人かいた。

「いらっしゃいませ。何かお探し物ですか?」

 店員が声を掛けてきた。アレン達一行は、青年が一人、妙齢の女性が一人、まだ少年少女と呼べる年代の男女が一人ずつと若々しい面子である。冷やかしに見えたのだろう。

「長剣のプラス三を探しています。こちらのお店にありますか?」

 アレンがそう言うと、店員が納得したようにうなずいた。なるほど、冒険者だったのかと腑に落ちたようだった。

「長剣のプラス三ですか。さすがに滅多に出ない品ですので、当店では現在扱ってないですね。プラス二までの品なら何本かあるんですが」

 新品で金貨八枚以上する高級品なので、なかなか下取りに出す客もいないのだそうである。せっかくのクレアの提案だったが、初手は空振りだった。

「そうですか。ありがとうございました」

 礼を言って、アレン達が立ち去る。

「なかなか思うようにはいかないものですね」

「まあ、仕方ないよ。次の店、行きましょう」

 クレアに励まされて次の店に入る。そして、同じように用件を伝えると、やはりこの店にもないのだという。

 そうやって全ての店を順に回っていった。しかし、貴重な品なのでやはり見つからない。

 そうして最後に立ち寄った店に入る。他の中古屋よりやや店構えが悪く、古びた感じの店だった。老舗なのだろうが、店構えを手直しする余裕がないのだろう。

「すみません、剣を探しているんですが」

 アレンが声を掛けると、年配の男性が姿を見せた。恐らくはここの店主だろう。

「これはこれはお若いお客さんで。ご所望の品は何かな」

 遠慮のない口ぶりからして、この商売が長いのだろうと察せられる。悪く言えば少し不愛想に見える。それと商売の腕は別だろうからと割り切り、アレンが希望を伝える。

「長剣のプラス三が欲しいんですが」

「ほう、冒険者さんでしたか。ただ、その若さでプラス三が欲しいのかね。まだプラス一を使ってみようかというくらいの年に見えるが」

 当然の指摘だった。アレンがうなずいて答える。

「僕はもっと強くなりたいんです。この前、レッサーデーモンに苦戦したんですが、それは僕の攻撃力が足りなかったせいだったんです。それで威力のある剣が欲しくて、王都まで五日かけてやってきました」

「ほう、そうかね。しかし、良い剣を手に入れても、宝の持ち腐れということになりはしないかの」

 本当に遠慮のない店主だった。ただ、性能に見合う剣の腕がなければ意味がないのも事実だ。アレンも真剣に答えた。

「使いこなす自信はあります。これでも僕はレベル七、剣の価値に見合うだけの働きはできるつもりです」

 店主が驚いた表情になった。まだ少年だし、レベル二か三か、その辺だと思っていたのである。

「いいだろう。うちに一本だけプラス三の剣がある。それを見せてやろう」

 そう言うと、店主が一旦奥に引っ込んだ。物が物だけに、店頭には置いておけず、倉庫にしまい込んであるのだった。

「こいつがそうだ。名工ゲオルグの作で銘はエダニウスの剣という。正真正銘、プラス三の長剣だ」

 その剣を手渡され、アレンがじっと剣を見る。重さは今までの長剣よりやや重い。装飾は柄頭とつばに多少施されている程度で、シンプルな作りだった。黒一色の鞘も機能重視という感じである。

 そして柄を持って剣を引き抜く。青白い金属でできた見事なまでの美しい刀身だった。見るからに何でも斬れそうな感じがする。

「鋼鉄をも斬り裂くと言われるエダニウスの剣、使いこなせるか試してみるといい」

 そう言うと、錆びた鉄の鍋を持ち出してきて、店の外へと四人を促した。

 そして店主が大声で呼ばわる。

「さあさあ、お立会い。今から名剣エダニウスの試し切りをお見せいたします。挑戦するのはこちらの若い冒険者。見事、この鉄鍋を斬り裂くことができましたら、拍手喝采、よろしくお頼み申します」

 通行人達が、何だ何だと足を止め、集まってくる。店主の呼び声は続き、気が付くと三十人ばかりの人だかりとなっていた。

 そして店主が台の上に錆びた鉄鍋を置き、さらに口上を述べる。

「それでは冒険者の方、どうぞ前へ」

 呆気に取られていたアレンが剣を下げたまま前へと促される。商魂たくましい店主だと思いつつ、それでもここは自分がエダニウスの剣の持ち手としてふさわしいことを見せるべきだと考えていた。

 両手で剣を構え、鉄鍋を両断できる間合いに入る。

「闘気剣!」

 技の出し惜しみもなしだ。必ず一刀両断すべく、剣に闘気を伝わらせて威力を上げる。

 そして無言で剣を振るった。かすかな金属音がして、剣先が鉄鍋を通過する。斬ったという手ごたえが軽く感じるほど、あっさりとしたものだった。

 そして見事に鉄鍋は真っ二つになっていた。

「これがプラス三の剣か、すごい斬れ味だ」

 アレンが感心すると同時に、周囲の観客が拍手喝采に沸いた。ついでに何人もの人間が銅貨を投げてくる。見事な見世物への対価だった。

 アレンは剣を鞘に納めると、ふうと息を一つついた。硬い魔物を斬ることに比べれば、鉄鍋一つ両断するなど造作もない。それでも観客が多かったことで少し緊張していたのだった。

 店主が投げ銭を集めるのをクレア達三人も手伝っていた。

「みなさま、この度はご覧頂きありがとうございました」

 店主がそう言って頭を下げる。良いものを見たとばかり、見物客もそれぞれ自分の目的の場所へと散っていった。

 一段落したところで、全員が再び店内に入る。

「名を聞き忘れていたな、若い冒険者よ」

「アレンと申します」

「そうか。アレンがエダニウスの剣を持つにふさわしいことはこの目で確かめさせてもらった。改めて剣をアレンに売らせてもらおう。金貨五枚だ」

 そう言えば値段を聞き忘れていたことにアレンは気付いた。ちょうど用意した全額である。高い買い物だが、威力も実証済みだ。一応、仲間三人の顔を見回す。三人もこの剣でいいだろうとばかりうなずいていた。

「ありがとうございます。買わせて頂きます」

 アレンがそう言って、みなで稼いだ金貨五枚を店主に差し出した。

 店主が金貨を確認し、大きくうなずいた。

「うちの良い品を買って頂き、ありがとうございました。またの機会がありましたら、ぜひ当店にお越し下さい」

「こちらこそ、良い品を買うことができて良かったです」

 アレンが満足のいく買い物ができ、笑顔になった。並の魔物なら簡単に蹴散らせるし、強敵にも大きなダメージを与えることができる。また一つ強さを手に入れられたのだと、心から喜んでいた。

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