第二十二話 剣を買おう
レッサーデーモンを無事に倒し、冒険者ギルドに引き上げてきたアレン達四人は、風呂を済ませて、隣の料理屋で夕食を取っていた。
「今日は僕の攻撃力不足で時間がかかったんだよなあ」
アレンは今日の戦いを振り返っていた。左足に集中攻撃をしたものの、一撃では大した傷にならず、何十発も同じ場所への攻撃を繰り返す羽目になったのだ。
「今の僕だと、これ以上は攻撃力は上がらないのかな」
「そうかもしれないけど、レベル一だった頃に比べれば、格段に強くなってるんだから、今はそれで良しとすべきじゃない?」
クレアがそうフォローしてくれた。心から言ってくれているのが分かるので、アレンには相棒の優しさがありがたく感じる。
「それはそうなんだけど、やっぱりもっと攻撃力があればって、どうしても考えちゃうんだよ」
夕食を食べながら二人がそんな話をしていると、そこにライルが割り込んできた。
「今のアレンでも攻撃力を上げる方法はあるぞ」
「え、本当ですか!」
アレンにとってはうれしい情報である。この先、レッサーデーモン以上に強い魔物と戦う可能性があることを考えると、少しでも攻撃力を上げておく必要があると思うのだ。
「簡単な手だが、難しいぞ。強い剣を買えばいい」
アレンには朗報だった。確かに、強い剣があれば攻撃力は上がる。
「その通りではあるんですが、肝心のお金がありません」
ライルが言った難しいというのも金銭面でということだ。今より強い剣となれば、金貨で五枚、銀貨換算で百枚以上は必要になるだろう。
「今の手持ちは、銀貨で十五枚ってところですね。とてもじゃないけど、新しい剣を買うのは無理です」
少しがっかりしながらアレンが言う。新しい剣の購入というのは実に魅力的だった。もし金銭的に余裕があるのならぜひ実現したいと思う。
「なら稼ぐか。魔物を地道に倒していればそのうちには貯まる額だ。そうだな、俺達の取り分を考えなければ、ラージアントで五百体だ。一日に五十体倒していけば、十日で貯まる勘定だ。現実味があるだろ」
蟻の巣ではラージアントが際限なく出現する。五百体というのも現実的には可能だろう。だから、ライルの言葉は確かにそうだと思わせる。しかし、そういうわけにもいかないだろう。
「でも、稼ぎはみんなで均等に分けないと。そのためのパーティなんだし」
そこでクレアが再び会話に加わった。
「稼ぎのうち山分けにする分を減らして、アレンの剣の代金を別に貯めていくのは、ありだと思う。アレンの攻撃力が上がれば戦いにも幅ができるし、そうなればパーティ全体が強くなれるんだから、剣のお金、貯めてみるのはいいと思うんだ。リアナさんはどう?」
そして話をリアナに振る。一人黙々と食事していたリアナが顔を上げて口を開いた。
「あたしはいいわよ。ちょっと余分に稼いで、それを剣の代金のために貯えるってことでしょ。アレンの強化はパーティ全体の底上げになるし、考え方としては間違ってないと思う」
「リアナ、優しいな。ちょっと驚いた」
「なによライル、失礼しちゃうわね。あたしはいつでも親切よ」
茶々を入れていたライルが表情を引き締めた。
「だそうだ。俺も剣の代金を貯めるのに賛成だ。アレンが良ければ、明日からの稼ぎの中から、俺達の生活に必要な分を抜いて、残りを剣のために貯えていこうぜ。剣は王都で買うのが一番だ。だから、目標は金貨五枚と四人分の旅費金貨一枚だ」
アレンがそれを聞いて少し考え込んだ。申し出はありがたいが、そこまでしてもらう価値が自分にあるのかと考えてしまったのだ。
「アレン、強くなりたいんでしょう。剣一本で強くなれるなら、絶対に手に入れるべきだと思うよ」
そんなアレンの背をクレアが押した。
「そうですよね。こんな機会、滅多にないですよね。分かりました。みなさんの好意に甘えます。明日から剣の代金を貯めていきましょう」
アレンの言葉に三人がうなずく。
「明日から毎日帰りに蟻の巣ですね。ダンジョンでも長引きそうな戦いは避けて、数を多く倒すことを優先しましょう。目標金貨六枚!」
「そう来なくちゃ。頑張ろうね、アレン」
「目標があるってのはいいことだな。俺も金が貯まるのが楽しみだ」
「あたしも。前から金貨を貯めるのってやってみたかったんだ」
パーティがより結束を強めていた。互いを思いやれるいい仲間達だと、アレンもしみじみと思っていた。
必要な金額を貯めるのには二十日かかった。それでも普段の二倍以上を毎日稼いでいたのである。
とにかく小物を優先に、数多くの魔物を討伐していった。ギルドの依頼でも稼いだが、それ以上にダンジョンと蟻の巣の存在はありがたかった。とにかく無尽蔵に魔物が湧くのである。連日四人はひたすらに魔物を倒して回ったのだった。
そして四人は目標額の金貨六枚、銀貨換算で百二十枚を貯め切った。それを成し遂げた四人は実にうれしそうな表情を浮かべたものである。
「王都までは普通に歩けば七日かかるけど、この行程で強行軍すれば、五日で着けるはずだ」
こういう時は最年長のライルの知識と経験がものを言う。三人がなるほどと彼の言葉にうなずく。
「宿泊費節約のため、泊りは冒険者ギルドを利用させてもらう。かかるのは風呂代と飯代ってことになるわけだ。それでも往復で一人銀貨五枚は必要になるから、四人分で金貨一枚ってわけだ」
「分かりました。それで、明日の朝出発ですね」
「ああ。せっかく目標額貯まったんだし、一日も早く剣が欲しいだろ」
「そうですね。そうしてもらえるとありがたいです」
いよいよ四人は王都まで剣を買いに行くことになった。
「あたし、王都に行くのすごく久しぶり。学院卒業以来だから、三年ぶりになるのかな」
リアナも何気にうれしそうである。ノックス村は田舎なのでその良さはあるのだが、やはり商店も多い王都にはそこにしかない魅力がある。アレンもクレアも一月半ぶりの王都行きを楽しみにしていた。
「よし、じゃあ、みんなまた明日な」
「うん、また明日」
「はい。明日、よろしくお願いします」
「みなさんもおやすみなさい」
出発を翌日に控え、みな早目の就寝となった。
そしていよいよ王都に向けて出発である。
ギルドを出て、街道をのんびりと進んでいく。のんびりと言っても、みな若く健脚なのでそれなりに速い。
「魔物と戦わないでただ歩いていくだけって、なんか新鮮」
とはリアナの談である。
「そうだなあ。何も考えないで歩くっていうのもたまにはいいな」
「へえ、ライルでもそう思うんだ。暇で困るのかと思った」
「話し相手もいるし、景色見てても気分いいから大丈夫」
そんな感じで雑談をしながら四人は歩いていった。
アレンとクレアの話題は新しく買う剣についてや、卒業してまだ一月半なので学院時代の思い出についてが多かった。
時折、そこにリアナやライルも話に混ざってきた。
「そうか、勇者クレーベルが活躍した王都防衛戦、二人がまだ学生の時だったのか」
「そうなんです。その時は僕達も避難していたので、クレーベルの活躍を見たわけじゃないんですよ。あの頃、今みたいに冒険者だったら、直接活躍が見られたのかなって、ちょっと残念に思ってます」
魔族の大軍がファルラント王国王都に迫ってきたのは今から二年前だ。大勢の騎士達や冒険者達の活躍で魔族の軍勢を打ち破り、そして英雄クレーベルが魔族の指揮官を討ち果たして防衛に成功した事実は、まだ人々の記憶にも新しい。アレンやクレアも話を人づてに聞いただけだが、勇者の称号を得た英雄クレーベルの活躍は深く印象に残っている。
「俺やリアナも王都防衛戦には参加してたぞ」
「ライルさんとリアナさんも戦ってたんですか」
「あたしは陽動役で、味方が敵を倒せるように、戦場を駆け回ってたわ。今考えても、結構怖い役回りだったけどね」
「俺は火力役。この前のゴブリン戦みたいに、炎の壁や爆発魔法で、雑魚を一気に蹴散らす担当だったよ」
一番話が盛り上がったのは、やはり魔族の侵攻についてだった。
「魔族の軍勢は一万を超えていたって聞きます。それこそ恐ろしい数だったんですよね」
「そうだよ。あの軍勢と戦う中にあたしも入ってるんだって思うと、最初はやっぱり怖かったけどね」
「そこはそれ、王様の指揮がきちんとしてたから。自分の役割をしっかり果たせばいいって割り切ってたな。実際、凄腕の騎士とか勇者クレーベルに限らず腕の立つ冒険者とか、大型の魔物も見事に倒していて、さすがだなあって感心したもんさ」
「なるほど、そうなんですね」
アレンは感心しながらうなずきつつ、自分もそんな風に強い魔物を倒せる実力を身に付けたいと改めて思っていた。
一行は途中昼食休憩を挟み、ひたすらに王都目指して歩いていった。
そして夕方頃、最初の宿場町に到着した。町の名前はオルスト。ノックス村より大きく、それなりに栄えた町だった。
まずは冒険者ギルドに立ち寄り、一夜の宿を借りる。ここでも冒険者ならギルドに無料で宿泊できる制度の恩恵を得ている。冒険者証はレベルなどの表示だけでなく、こういう時にも役立つアイテムだった。
ギルドでは個室にも十分空きがあって、四人はそれぞれ一部屋ずつ使わせてもらうことができた。
そしてまずは洗濯を済ませる。ギルド裏の井戸端でこの日着ていた服を洗い、自室に干しておく。一晩のうちに乾かすわけである。
続いて公衆浴場へ。ファルラント王国では、設備や水汲みの手間などの都合から、風呂のある家や設備は少ない。風呂を持つのはよほど身分が高い者か金持ちに限られていた。一般の市民は公衆浴場を利用するのが普通である。公衆浴場も利用料は銅貨五枚と安く、気軽に使えていた。
そこで旅の汗を流し、身ぎれいになったところで次は夕食である。冒険者ギルドでは食事の提供がなく、近隣の料理屋で食事を取るのが一般的だ。ここオルストの町のギルドも同じで、隣にある料理屋で冒険者やギルドの職員は食事を取っていた。
旅先ということもあって、ライルとリアナもこの日はエールを頼まなかった。アレンとクレアに珍しがられたが、無事に剣を購入するまでは止めておくというのが二人の言葉だった。
夕食を済ませた後は、しばらくギルドのロビーでくつろいでいた。この町を拠点としている何人かの冒険者と挨拶を交わした。王都まで行くのか、気を付けて行けよ、などと軽く激励してくれる、気のいい冒険者ばかりだった。
ロビーでのんびり過ごした後は、それぞれの部屋に戻って就寝である。歩き通しでそれなりに疲れているので、みなあっさりと眠りに落ちていった。
翌朝、いつものように日の出と共に起き出す。
アレンはベッドを出ると、タオルを持って井戸端へと向かう。まずは顔を洗い、水を飲み、体を目覚めさせるのだ。
ちょうど同じタイミングでクレア、ライル、リアナの三人も井戸端へと出てきた。四人交代で井戸を使う。
「今日もたくさん歩くんですよね。朝食、しっかり食べておかないと」
アレンがそう言うと、他の三人が苦笑を浮かべた。アレンはいつでも食事はしっかり取っている。何をいまさらと思ったのだ。
部屋に戻って着替えを済ませ、洗濯物を片付けると、旅支度を済ませる。朝食を取ったらそのまま出発できるようにである。
「一泊、お世話になりました」
ギルドの職員に礼を言ってギルドを出る。
そして隣の料理屋で食事を取る。ベーコンエッグにサラダとスープ、それにパンというこれまた定番のメニューだった。これで銅貨七枚。
アレンだけでなく、他の三人も朝から食欲旺盛だった。一日中歩くというのは結構な運動量なのである。パンはお代わり自由だったので、みな遠慮なく何個か追加して食べていた。
「ごちそうさまでした」
食事が済んだら出発である。
そしてまた四人は街道を王都へと進んでいった。
こんな風に、四人は王都まで四泊五日の旅をしていた。
そして最終日の夕方近く、遠目に城壁が見えてきた。王都防衛のために造られたものだった。王都は城塞都市なのである。
「王都が見えてきましたね。そっか、外から見るとこんな感じでしたっけ」
アレンが物珍しいものを見つけたような表情で言った。学院時代も基本的には城壁の中での生活だった。外から王都を眺めるのは、まだ数えるほどしかなかったのである。さすがに立派な城壁で見ていて感心する。
「まだ一月半なのに、久しぶりって気がする」
「俺も二年ぶりだ。あの時は魔族と戦争してたんだよな」
「うん、久しぶりだね。やっぱり王都は大きいな」
無事に到着したことで安堵しつつ、三人もそれぞれ懐かしそうに王都の城壁を見ていたのだった。




