第二十一話 レッサーデーモン
ロックゴーレムを撃破した後、パーティ四人はガーゴイル三体と戦闘を行った。
ガーゴイルは人型にコウモリのような羽を付けた、鬼のような顔を持つ魔物だ。大きさは二メートルと少し、人間よりやや大きい程度の動く石像である。しかし、大型の魔物に近い腕力と虫型の魔物を超える硬さをもち、決して侮れない相手である。
「いつも通り、ライルさんとリアナさんで二体お願いします。僕とクレアで一体片付けます。倒したらすぐ援護ということで」
「了解だ。アレンもリーダーが板についたな」
そして四人が戦闘に入る。
「クレア、強化魔法頼む」
「了解。ストレングス!」
決して相手は侮れないことをアレンも最初から承知していた。通常の剣の威力では不足だと予測していたのだった。
「闘気剣! 魔法剣ウィンド!」
先程ロックゴーレムを倒した時のように、三重に剣の威力を強化する。
そしてガーゴイルが襲ってくるのを待ち構える。空中を飛び回る相手なので、こちらの攻撃はカウンターでないと届かない。
それを知っているわけでもないだろうが、ガーゴイルはなかなか襲ってはこなかった。焦る気持ちを表に出さないように、アレンは深くゆっくりと呼吸する。
その間、ライルとリアナは二対二で戦いを進めていた。
リアナが囮となってガーゴイルを引き付け、ライルの火力でとどめを刺すという戦法である。
一体のガーゴイルがしびれを切らしたかのように、リアナに襲い掛かる。
「甘い。エクスプロード」
ライルが爆発の魔法を発動させる。ゴブリンジェネラルの頭部を吹き飛ばすだけの威力がある魔法だ。胴体のど真ん中にその爆発を受け、ガーゴイルの体に大穴が開く。そして魔石を残して霧状になって消えていく。
残る一体のガーゴイルが驚いたように空中へと逃れる。思考力などないはずだが、仲間が倒されて戸惑っているような動きだった。
しかし、所詮は魔物である。しばらくして、地上で待ち構えているリアナに襲い掛かってきた。リアナが余裕でその攻撃を避ける。
「終わりだ。エクスプロード」
ここでもライルの爆発魔法がその威力を発揮した。先程と同じように胴体の真ん中で爆発が起き、大穴が開いた。レベルの高いライルの魔法は、ガーゴイルを一撃で倒せる威力があった。ガーゴイルが魔石を残して霧状になって消えていく。
「さて、アレン達の援護に行くか」
「そうね。それにしてもさすがライル、見事に一撃だったね」
二人はアレンとクレアが戦っている場所へと向かった。
アレンは自分が囮となってガーゴイルの攻撃を引き受けていた。攻撃を丁寧に避け、落ち着いてカウンターの斬撃を浴びせていた。
ライルとリアナが駆け付けた時には、ガーゴイルの体が所々斬り裂かれていて、確実にダメージが入っているのが分かった。動きの見切り、回避動作、そしてカウンターの斬撃、どれもレベルアップによって見事なまでに良くなっていたのである。
「もう一撃!」
アレンのカウンターがまた決まり、ガーゴイルの胴体を深々と斬り裂いた。さすがに大きな傷を受けてガーゴイルが地上に落ちる。すかさずアレンがそこへ接近し、その胴体を深々と貫いた。ガーゴイルが魔石を残して霧状になって消えていく。
「みんな異常はないですか」
戦闘後の確認はどんな時でも欠かせない。ここでもアレンはその役割をしっかりと果たしていた。異常なしの返答を受けて安堵する。
アレンは好調を維持していることで気分が乗っていた。そして次の相手を求めてリアナに尋ねる。
「この近くに魔物はいますか」
リアナがここで言い渋る。
「いるけど、レッサーデーモンだよ。ちょっと無茶かな。別の場所に移動して探し直した方がいいと思う」
ごく当然の忠告だったが、ここまで快勝続きだったアレンは未知の魔物が相手でも行けるという自信をもっていた。
「レッサーデーモン、どんな魔物なんですか」
「魔物の中でも大型の部類だ。体長三メートル半近い。悪魔であることを表す角の生えた頭に赤っぽい色の体。人型をしていて羽はない。力も強く、動きも見た目以上に速い。それ以上に厄介なのは魔法を使ってくることと、遠距離魔法を無効化する能力のあることだ」
ライルが解説してくれた。ライルが厄介というからには、相当な強敵なのだろう。しかし、ここまで来て戦わないのも惜しい気がした。
「僕達でも戦えますか?」
「相当苦戦するだろうよ。下手すると勝てずに逃げ出す羽目になるかもな」
なるほどとアレンは思った。それほどの強敵か。しかし、近い将来、そういう強い魔物でも倒せるほどに強くなりたいと切に思う。物は試し、一度経験してみたいとアレンは思った。
「なら、苦戦は覚悟で一度戦いたいと思います」
クレアとリアナが顔を見合わせた。そして軽く肩をすくめる。強くなることに貪欲なのは長所でもあり、この場合欠点でもあろう。
「私のシールドの出番みたいですね」
「あたしも久々に全力回避することになりそう」
しかし、アレンに反対はしなかった。むしろ、自分達の力がどこまで通用するか試してみたいのは同じなのだった。
「分かった。俺も防御重視で援護する」
そして四人はレッサーデーモンとの戦いへと向かった。
巨大な赤い悪魔がそこにいた。
見ているだけでも凄まじい圧迫感がある。
「クレア、強化魔法を頼む」
「了解。ストレングス!」
初めから全力でぶつかるしかない。強化魔法を掛けてもらったアレンは、そのまま武器を強化する。
「闘気剣!」
魔法は無効化されると聞いたので、今回は魔法剣はなしである。
「よし行くぞ!」
アレンが突撃する。その動きに反応したレッサーデーモンが魔法を放ってきた。ファイアボールの魔法である。火球が三発ほどアレンめがけて飛んでくる。
「まずは丁寧に避けて、と」
アレンは落ち着いてその攻撃をかわし、デーモンの間合いへと入った。すかさずデーモンの拳が飛んできたが、それもよく見てかわす。
「確かに動きも速い。でも」
アレンはデーモンの攻撃を避けて間合いを詰めた。
「いけええっ!」
そして思い切りよくデーモンの左足に斬りつける。しかし、浅い傷しかつけることはできなかった。
「ロックゴーレム並みに硬いのか」
アレンが驚く。今の一撃で大きな傷がつけられるだろうと思っていたのだ。レッサーデーモンを甘く見ていたことを悟り、素早く頭を巡らせる。
「まずは足を一本潰そう」
そう決めると、遅れて突入してきたリアナにも声を掛ける。
「まずは左足を狙いましょう。それぞれ隙を見て攻撃を」
「了解。あたしもできるだけのことはするから」
「クレアとライルさんは魔法の楯を用意して待機を」
「了解」
「落ち着いていけよ」
そして指示を出し終えると、アレンは再び回避に移る。拳に蹴り、火球と多彩な攻撃が来るので、のんびりとはしていられない。
リアナが回避したついでとばかりに、左足に斬撃を送り、傷をつけた。
「ありがとうございます。今の場所を狙いましょう」
アレンもリアナが付けた傷の場所へと斬撃を繰り出す。一撃、二撃と全力で斬りかかる。
三撃目を放ったところで、頭上に火球が降ってきた。アレンがそれをかわす。すると避けた方向にデーモンの拳が降ってきた。まずい、避けられないと思った時には、デーモンの拳がアレンの体を直撃していた。かなりの衝撃がアレンを襲い、派手に吹き飛ばされて地を転がった。
「クレア、ヒール頼む。マジックシールド」
すかさずライルがそこに割り込み、魔法の楯を発動させる。そしてクレアがアレンを回復できるようにデーモンの追撃を防いだ。
「ヒール!」
クレアが即座に回復魔法を使う。さすがにデーモンの攻撃は強力で、体に大きなダメージが入っている。一回の回復魔法では治りきらない。
「もう一度、ヒール!」
クレアが続けて回復魔法を使う。
その間にも、リアナはデーモンの攻撃を避けつつ、先程付けた左足の傷を狙って攻撃を続けていた。そのため、デーモンの攻撃もリアナとライルの二方向に散り、集中攻撃を受けずに済んでいた。
二度目の回復魔法でアレンの意識が戻った。
「僕はまたやられたのか。いや、今は戦いが先だ」
アレンが首を振って悪い考えを追い出す仕草をした。
「私も援護するから、落ち着いて戦ってきて。ストレングス!」
強化魔法を改めて掛け直し、クレアがアレンの背を叩く。
「ありがとう、クレア。じゃあ、また行ってくる」
回復してすぐにアレンは戦いへと戻った。
「闘気剣!」
効果の切れた闘気剣を再び発動する。そして、デーモンの左足めがけて突っ込んでいく。
そうして四人は二人が足を斬りつけ、二人が魔法の楯で防御するという戦いを粘り強く続けていった。
「まだだ、まだ諦めない」
これで何度目だろうか。アレンがレッサーデーモンの左足に斬りつける。同じ場所を繰り返し狙っていたので、傷口もそれなりに大きくなってきていた。この十数分の戦いで、クレアもホーリーシールドを二度掛け直しているし、ライルもマジックシールドでみなを守ってくれていた。アレンも闘気剣を三度発動させている。
「それにしても頑丈よね。さすがだわ」
リアナが敵ながらデーモンを評価していた。回避に優れた彼女はまだまだ元気で余裕があった。シールドの陰から出たり入ったりを繰り返し、アレンと同様に斬撃を傷口に加えていた。
デーモンの反撃も厄介だった。拳や蹴りの合間に火球の魔法が飛んでくるのだ。避け切れず、クレアやライルのシールドに助けられたことは一度や二度ではなかった。
それでも諦めず、アレンとリアナは攻撃を繰り返す。
そして、さすがのデーモンも動きが鈍くなっていた。左足の傷口がかなり大きくなっていたのである。
「根性ーっ!」
アレンが怒号と共に渾身の一撃を傷口に見舞う。
そしてついにその時は来た。デーモンの左足が限界を超え、折れたのである。デーモンが立っていられなくなり、地上に倒れる。
「今だ、頭に総攻撃しろ」
ライルが指示を出す。アレンとリアナがその声に反応し、デーモンの頭部に襲い掛かっていく。
ここまで来たらあと一歩だ。デーモンも諦めず、時々火球の魔法で反撃してくるが、それを丁寧に避けながら二人は間合いを詰める。
「あと少しだ、倒させてもらう」
「長かったからねえ。その分のお礼はしなくちゃ」
アレンとリアナがデーモンの頭部に斬撃を浴びせる。ようやくここまできたのだ。一気にとどめを刺すつもりで、二人は繰り返し攻撃していった。
やがて、デーモンの頭部が無残に斬り裂かれて原形を失った。
そしてついにデーモンが魔石を残して霧状になって消えていく。
「はーっ、やったぞ」
アレンが大きなため息をついた。そしてすぐ仲間の無事と異常の有無を確認する。三人は異常なかったが、アレンは一撃攻撃を受けて、回復魔法を掛けてもらっている。
「また僕だね。治ってると思うけど、確認は重要だよね」
そしてアレンは防具を外して、デーモンに殴られた体を確認した。クレアの回復魔法のおかげで、傷も痛みもなくなっている。
「ありがとう、クレア。無事に治ってる」
「どういたしまして。役に立てて良かったわ」
クレアが笑顔を見せた。これで彼女に助けられたのも何度目か。本当に頼りになる相棒だとアレンは思った。
「それにしても強敵でした。まさかこれほどとは思いませんでした」
アレンの言葉に三人がうなずく。
「しかしまあ、レベル七でレッサーデーモンを倒したのは快挙と言っていいぞ。こんなにしぶとい相手、普通は途中で退却するからな」
ライルが褒めてくれたが、アレンは首を振った。
「いや、忠告に従って、無理に戦おうとしない方が良かったですね。三人には余計な負担を掛けました。ここまでの戦いが快勝続きだったから、正直油断していました。でも、三人のおかげで無事に倒せました。本当にありがとうございました」
そう言ってアレンは深々と頭を下げた。
「勝ったんだから気にしないの。良かったでしょ」
クレアが励ましてくれる。
「そうだね。無事に勝てて良かったよ」
アレンもそれに応え、笑顔を見せた。
激しい戦いも終わり、四人は肩の荷を下ろしたように安堵し、ダンジョンの出口へと向かっていった。




