第二十話 七日ぶりのダンジョン
支度を終えたアレン達パーティ一行は、早速とばかりダンジョンまで足を延ばしていた。ゴブリン出現以来、七日ぶりのダンジョンである。
中に入り、しばらく進んでから、いつも通りリアナが探知魔法を使う。
「ジャイアントバット三体、ジャイアントスネーク三体、レッサースコーピオン三体、まずはそんなところね」
いつものことながら便利な魔法である。それを聞いてアレンは即座に交戦を決めた。
「今まで倒した相手ばかりですね。今の僕達なら余裕で倒せると思います。まずはその三か所から行きましょう」
そしてまずはジャイアントバットと交戦である。
「いつも通り、ライルさんが一体、リアナさんが一体、僕とクレアで一体倒しましょう」
そして四人が突撃していく。
「クレアは少し下がって待機。まず僕一人で様子を見るから」
「了解。気を付けて」
そしてアレンはジャイアントバット一体と対峙した。
そして違和感に気付く。
「以前と違う。何だろう、敵の動きが手に取るように分かるぞ」
不規則な動きをするジャイアントバットの動きは見切りにくい。しかし、今のアレンにはとてもゆっくり動いているように感じていたのだ。
「これがレベルアップの恩恵なのか。すごいぞ」
そしてアレンは間合いを詰め、わざとバットに襲わせる。
「見える。そこだ!」
アレンが斬撃を放つと、その位置に吸い込まれるようにバットが動いていた。剣先がバットの体を捉え、見事に両断する。そしてバットが魔石を残して霧状になって消えていった。
「お見事。私の出番、なかったね」
クレアがそう賞賛してくれた。
「ライルさんとリアナさんは?」
「ん、俺達も今さっき倒したところだ」
「すごいじゃない。あたしも感心した」
四人が合流する。さすがこの二人はあっさり倒すなと感心しながら、アレンが戦闘後の無事と異常の有無を確認する。もちろん四人全員問題なしだ。
「で、その様子だとレベルアップの実感があったみたいだな」
「あたし達と同じくらい早く倒せたんだし、成長したんだね」
二人に言われて、アレンがうなずく。
「そうみたいです。敵がゆっくりに感じたくらいでした」
これは幸先が良さそうだと、他の三人が軽く笑みを浮かべた。
「じゃあ、次に行きましょう」
アレンもやる気十分である。そして四人で次の場所へと向かった。
次の相手はジャイアントスネーク三体である。以前戦った時は、硬い表皮を避け、カウンターで口の中に突き技を決めて倒した相手である。それが今回は三体もいる。
「さっきと同じく、ライルさんとリアナさんに一体ずつお任せします。僕とクレアで一体。倒したらすぐ他の人の援護に」
「了解。任せとけ」
「あたしもレベル上がったからね。ジャイアントスネークくらい、一人で十分よ」
そして四人は交戦に入った。
「やっぱり動きが分かる。さっきのはまぐれじゃない」
一体のジャイアントスネークと対峙したアレンがつぶやく。滑るような動きで接近してくるスネークの動きを、アレンはしっかりとつかんでいた。
そしてスネークが噛みつきと見せかけて尻尾を振るってきた。その動きをしっかりと見切り、アレンがさっとその攻撃をかわす。
スネークに感情などないはずだが、攻撃を避けられて怒ったようにアレンには見えた。繰り返し、尻尾と噛みつきの攻撃を加えてくる。
アレンは試しに剣を振るってみた。剣先が胴体の一部を斬り裂く。以前はわずかに傷をつける程度だったが、今回はかなり深い傷を与えることに成功していた。
「剣の威力も上がってる。これならいける」
そしてスネークが業を煮やしたかのように、大きく口を開いて噛みつきに来た。
「それを待ってたんだ」
アレンは落ち着いてその攻撃を見切り、噛みつく寸前に剣を思い切り突き出す。剣が口の中に飲み込まれるように突き刺さり、スネークの体を引き裂いていく。そしてスネークが魔石を残して霧状になって消えていく。
「さすがアレン、見事なカウンターだったね」
またしても出番がなかったクレアがそう賞賛してくれた。
「ありがとう。本当に動きが良く見える。体も良く動くし、文句なしに好調なんだ。これがレベル七かって感じだね」
動きも威力も見切りも、アレンの全てが良くなっていた。クレアだけでなく、ライルとリアナもその変化を感じ取っていた。ゴブリンジェネラルとの激闘を通じて強くなったのは間違いない。そのライルとリアナは、任された通りにあっさりとジャイアントスネークを一体ずつ倒していた。
「いい調子だな。間違いなく強くなってる」
「あたしも安心して見てられる。良かったね、アレン」
ライルとリアナにも言われ、アレンがほっとした。これで二戦、レベルアップで強くなれたことが証明できた。異常の有無を確認し、アレンが言葉を続ける。
「ありがとうございます。では次へ」
そして四人は次の魔物がいる場所へと向かった。
「レッサースコーピオン三体。腕試しにはちょうどいい相手だ」
アレンがやる気満々でそう言った。
そこでクレアが一つ頼みごとをしてきた。
「私もホーリーシールドの威力が上がってるか確かめたいから、しばらくの間、一体は私に押さえさせてほしいんだけど」
なるほど、とアレンは思った。自分ばかりがレベルアップの恩恵を確認していたが、クレアも当然自分の実力を知りたいだろうと思う。
「じゃあ、ライルさん、リアナさんの二人で一体、僕が一体。僕達が戦っている間、残りの一体はクレアに任せよう」
「アレン一人で一体倒せるのか」
ライルの疑問にアレンは自信たっぷりに答えた。
「はい。カシムさん達が使ってた闘気剣、試そうと思います」
ライルとリアナがそれを聞いて納得した。以前は何度も背中を突いて倒した相手だが、闘気剣なら確かに斬れるだろう。
「分かった。無理はするなよ」
「了解です」
「クレアも無理しないで。感触を確かめた頃合いには、あたし達が援護に入るから」
「はい、分かりました」
そして四人は交戦に入った。
早速とばかり、アレンが一体のレッサースコーピオンの元へと突っ込む。
間合いに入ると、即座に尻尾の針での攻撃が飛んできた。アレンが余裕をもってそれをかわす。
そしてアレンはまず通常の斬撃をスコーピオンの頭部に加えた。先の二戦では十分な威力を見せていたが、さすがにスコーピオンは硬く、わずかな傷を与えるだけに留まる。
スコーピオンが反撃の噛みつきをしてきたのを避けて、アレンはいよいよ技を試そうと精神を集中させた。
「行くぞ、闘気剣!」
剣に闘気をまとわせることで威力を底上げする技である。淡い光が剣を包み込み、闘気が伝わっているのが見た目にも分かる。
「さて、どのくらいの威力なのか」
アレンは右に左にとスコーピオンの攻撃をかわし、自分の間合いを保つ。そしてスコーピオンの攻撃直後、隙ができたのを見逃さなかった。
「そこだ!」
アレンの剣が光の弧を描いてスコーピオンに斬りかかる。ざっくりと手ごたえがして、スコーピオンの頭部が大きく斬り裂かれる。
「これが闘気剣か。すごい威力だな」
自分が振るった技に感心しつつ、アレンは攻撃の手を休めない。二撃目、三撃目と剣を振るうたびにスコーピオンを大きく斬り裂き、四撃目で見事に仕留めていた。スコーピオンが魔石を残して霧状になって消えていく。
「よし」
アレンが十分な手ごたえに満足する。
「クレアは大丈夫かな」
そしてアレンは大事な相棒のところへと急ぐ。
クレアの方は自分で言った通りに、魔法の楯を展開し、レッサースコーピオンの攻撃をひたすらに防いでいた。
「あ、アレン。そっちも片付いたのね」
防御しながらでも、そんなことを言う余裕がクレアにはあった。
ライルとリアナもすでに一体倒していて、合流していた。
「楯の強度も持続時間も増しているらしいな」
「クレアのシールドを試すにはちょうど良かったみたい」
二人ものんびりとしたものだった。さすがにこの程度の相手に緊張するほどのことはない。
「アレンも来たし、とどめお願いします」
クレアがそう言った。シールドの防御性能が上がったことを確かめられて満足していた。
「あいよ。アイシクルランス」
ライルが氷の槍の魔法を発動させた。その槍がスコーピオンの口の中を見事に貫き、一撃で倒し切っていた。レベルの高いライルの魔法はそれだけ強力なのだった。スコーピオンが魔石を残して霧状になって消えていく。これで当面の魔物はみな片付いたのだった。
全員の無事と異常の有無を確認すると、アレンがふうと息をつく。
「じゃあ、この辺で昼食休憩取りましょう」
四人はその場に座り込むと、昼食のパンと水筒を取り出した。
「レベルが上がるとこれほど強くなるものなんですね」
アレンがしみじみと言う。やはり強くなれたことがうれしいのだ。着実に目指す勇者の姿に近づいているのだと実感でき、心が奮い立つような喜びを感じていたのだった。
「良かったね、アレン。私も強くなれたのはうれしい」
クレアは相変わらずアレンを盛り立ててくれていた。幼い頃はケンカすることもあった二人だが、その分互いを理解し合っていて、気持ちの通じ合う仲であった。
「その様子だと、腕がうずいている感じだな。もう少し骨のある魔物と戦ってみたい、そんな風に聞こえるぞ」
ライルが苦笑と共にそう言った。二人が喜ぶ気持ちは分かるが、まだあまり無茶ができるレベルではないのも事実だ。
「リアナ、この辺でちょうどいい魔物はいるか?」
「ロックゴーレムとかガーゴイルとかなら。少し重いけど」
「僕、ロックゴーレムの硬さにどのくらい通用するか試してみたいです」
この三戦で気を良くしたアレンがそんな要望をしてきた。ロックゴーレムなら最悪温度差で砕けばいい。威力を試すのにはいい相手かも知れない。
「分かった。俺はそれで構わない」
最大の火力をもつライルがそう答えたことで、次の目標は決まった。
四人は昼食を済ませると、ロックゴーレムのところへと向かった。
前回戦った時はまともに傷をつけることもできなかった相手だ。レベルが上がったとは言え、通用するだろうか。そう考え、アレンは最初から最大火力を使うことにした。
「クレア、強化魔法頼む」
「了解。ストレングス!」
まずは身体強化魔法を掛けてもらう。
「闘気剣!」
先程も使った闘気による剣の強化をここでも使う。そしてもう一手。
「魔法剣、ファイア!」
剣に炎をまとわせ、威力をさらに底上げする。
そしてアレンはロックゴーレムに突っ込んでいった。
拳の攻撃をかわして、腰の部分を横薙ぎで斬りつける。前回と違い、多少の破片をまき散らし、腰の部分がそれなりに削れていた。
「よし、威力は間違いなく上がってる!」
それが分かっただけでも大収穫なのだが、アレンはそのままどこまで傷を大きくできるかに挑戦していった。
「ホーリーシールド!」
クレアが魔法の楯でゴーレムの攻撃を防ぐ。アレンが攻撃に集中できるよう、防御を買って出たのである。
「前より受けるのが楽になってる。アレン、今のうちよ」
「分かった。できるだけやってみる」
そしてアレンはひたすらに腰のあたりを斬りつけていった。ライルとリアナはその様子を呆気に取られて眺めていた。これはあくまで腕試しで、まさか力業でゴーレムを倒すなどとは思わなかったのだ。
しかし、アレンの攻撃力は予想の上をいった。斬撃を放つこと三十回を超えただろうか。木を斬り倒すのと同じような具合で、ゴーレムの体を見事に斬り倒したのである。
ゴーレムが魔石を残して霧状になって消えていく。
「無茶もいいとこだな」
ライルはそう言ったが、メイジなしのパーティではこうやって倒すしかないのも確かだ。だとすれば、意味のある一戦と言えるかもしれない。
ロックゴーレムを見事に倒し、アレンは仲間の無事を確認すると、満足げな笑みを浮かべた。




