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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第十九話 戦いの後で

 ギルド長のガイストの指示の元、冒険者十一人はゴブリン達を追って山中を魔族領方面へと進んでいた。残党が再度村に侵攻してくることのないように、完全に逃走したのかを確認するためである。

 先頭はもちろんシーフのリアナである。時折探知魔法を使い、ゴブリン達の存在を確認していた。その数は八十弱。最初は三百を超える数だったが、人間達の手によって倒され、そこまで激減したのである。

 夕方、日が沈むまで二時間というところだった。まだ明るく、何十体ものゴブリンが進んだ後をたどるのは容易だった。しかし、暗くなってからの追跡は厄介である。明るいうちに撤退を確認しておきたいところだった。

 時折、負傷して脱落したゴブリンがいた。彼らを無事に帰す必要は人間達のどこにもない。

「悪く思うなよ。魔族は生かしておけないんだ」

 人間達は交代で無慈悲にその命を奪った。死体はいずれ土に還り、その土地の養分となるだろう。それを放置して、敗軍の追跡を続ける。

 ガイストが時折地図を広げる。現在位置を確認し、ゴブリンの進行方向を確認する。間違いなく真っ直ぐに魔族領へと向かっている。もう少し後を追ったら、完全に撤退したと判断できるだろう。

 追跡は二時間ほどに及んだ。途中で倒したゴブリンは十二体。ちょうど日が沈もうとする頃で、地図上では魔族領との境目近くまで到達していた。

「これでゴブリン達は完全に撤退したと判断して良さそうだ。俺達もギルドに引き上げよう」

 ここから村までは四時間ほどかかる。かなりの距離だが、この程度で済んだのは幸いだった。夜間に追跡をするよりははるかに良い。

「残ったゴブリンも、結局六十と少しか。敵ながら哀れなことだと思うが、これも攻めてきたことの報いだな」

 ガイストのつぶやきに、一同が黙ってうなずいた。

 十一人は疲れ切っていたが、無事に撃退できたという安心感を覚えつつ、村への道のりをたどっていった。


 彼らがギルドに戻ったのは夜もかなり更けてからである。

「うへえ、風呂に入りたいぜ」

 戦士のダラスがそう言った。それはみな共通の気持ちだったが、この時間では公衆浴場もすでに閉まっている。

 普段食事をしている料理屋も同じだ。さすがに昼食の後から何も食べておらず、みな腹を空かせていた。ガイストがギルドに貯蔵してあった非常食を持ち出し、みなに振る舞った。

「味気ないけど仕方ないか」

「ありがとな、ギルド長」

 そうして十一人で遅い夕食となった。さすがにみな話をする元気もなく、静かな夕食の一時だった。

「じゃあ、俺達はこれで」

 食後、カシム、サムス、ハント、マイクの四人パーティは一声掛けると、ギルドを出て自分達の家へと向かった。彼らは近くの一軒家に間借りしているのである。

 他の面々はギルド長も含め、全員が冒険者ギルドで寝泊まりをしている。それぞれに挨拶を交わすと、みな自室へと引き上げていった。

 アレンも自室へ戻ると、まずは着替えをした。着ていた服はゴブリンの返り血で染まっている。

「この服は洗っても着られないだろうな」

 そう思い、後で燃やそうと別に分けておく。きれいな衣服に着替えると、ようやく気分も落ち着いてきた。

「長い一日だったな」

 ゴブリンの動向を確認することに始まり、その後はゴブリンの大部隊と平原で決戦した。激戦の末、指揮官のジェネラルとキングを討ち取り、残ったゴブリン達が撤退するのを見届けた。それはとても長い時間だった。

 ベッドに入ってからもしばらく寝付けなかった。いろいろなことがありすぎて、まだ気持ちが興奮していた。何よりレベルが大きく上がった。自分の目指す姿に近づけたと、うれしさが湧き出てくる。

「僕達は勝ったんだ」

 その思いが疲れた体中に満足感を与えてくれる。

「でも、そろそろ寝ないとな。明日のこともあるし」

 アレンは目をつぶって息を整えた。心身共に疲れていたので、いつの間にか眠りに落ちていた。


 翌日。井戸端で顔を洗い、水を飲む。そうして目を覚ますと、着替えて朝食を取りに隣の料理屋へと向かう。いつも通り、クレア、ライル、リアナが一緒だ。

 まともな食事は昨日の朝食以来だった。ベーコンエッグにサラダ、スープ、パンと定番の食事だが、実にありがたく感じる。

「普通の食事がこんなにおいしいなんて驚きだよ」

「そうね。食べるのって大事だなって、私も思うわ」

 アレンとクレアが表情を緩めてそんなことを言う。ライルとリアナもそれについては同感だったようで、軽くうなずいていた。

 食後、ギルドに戻ると、やはりまだ依頼書は貼り出されていなかった。ゴブリンとの決戦の翌日なので全員休日とすると、張り紙がしてあった。

「何だ、せっかくレベル上がったから、どのくらい強くなったかダンジョンで試そうと思ってたのに」

 カシム達四人パーティはやや不満そうだった。それを聞いたソロの二人が軽く肩をすくめる。昨日の激戦の直後に元気なことだ、とでも言いたかったらしい。

 そこへガイストが出てきて、冒険者全員に説明を加えた。

「今日は本来なら人手を集めて、ゴブリンとの決戦の後始末をすべきなんだがな。明日には頼んでいた応援も来るし、現場はそのまま残しておこうと思う。それで応援の騎士団の検分が済んだら、彼らと一緒に戦場の後始末をすることになるだろう。済まないが、しばらくは魔物討伐には行けないので、承知して欲しい。もちろん、その間の生活費はギルドが出す」

 実はアレンもカシム達と似たようなことを考えていた。レベルが二から一気に七に上がったのだ。どのくらい変わったのかを確かめたい気持ちがあった。しかし、そういう事情ならば仕方ない。

「ゴブリンの撤退は確認できている。非常招集もないだろうから、のんびり休んでくれて構わない」

「分かったよギルド長。暇になったし、たまには家の掃除でもするか」

「俺達は風呂に入って、酒でも飲んでようか」

 カシムとダラスはそんなことを言っていた。

 はて、暇になったことだし、どうしようか。アレンは特に何もすることがないことに気付き、腕組みをして考え始めていた。

「どうしたのアレン?」

 クレアが不思議そうにそんなアレンを見ていた。

「いや、急に暇ができたから、何をしようかなって」

 なるほどね、とクレアは思った。ここ最近は、強くなりたい一心で日々を魔物討伐で過ごしている。そして昨日の決戦があってと戦い続きだった。だから、戦い以外に何をしたらいいのか分からない不器用さがアレンにはあった。それならばとクレアが口を開く。

「することがないなら、また一緒に村の中でも散歩してみない?」

 その申し出にアレンが少し考え込む。

「散歩かあ。まあクレアが一緒なら悪くないかな」

 他にすることはないし、クレアに付き合っての散歩ならいい暇つぶしになるだろう。アレンはそう結論付けていた。

「アレン一人じゃ暇を持て余すと見て、クレアは誘ってあげたんだろ。本当に二人は仲が良いな。いいことだ」

「そう言うライルはどうするの?」

「俺か。うーん、部屋でゴロゴロでもしてるかなあ」

「何だ、ライルも暇なんじゃない。なら、あたしと一緒に近所の牧場に手伝いに行かない? 動物の世話、楽しいよ」

「そうかなあ。まあせっかくのお誘いだ。ご一緒させてもらうよ」

 そうして四人はそれぞれの休日を過ごすことになった。


「村を救えて良かったね、アレン」

「本当だね。この景色を守れて良かった」

 アレンはクレアと一緒にのんびりと村の中を歩いていた。

 途中、以前お茶をご馳走になった家の前を通った。年配の夫婦がいつものように畑仕事に精を出しているのが見える。

「おお、こないだの冒険者さん達じゃないか」

「本当だ。今日もお休みかい?」

 気軽に声を掛けてくる。そうですと答えると、夫婦は仕事を切り上げ、また二人をお茶に誘ってくれた。

「仕事はいいんですか?」

「なに、慌てなくても、のんびりやってくから大丈夫さね」

「お仕事も順調そうで何よりですね」

「そうじゃな。おかげさまで育ちも良いですわ」

 アレンが茶をすする。前回と同じく、まったりとしたいい味である。そして畑を眺めて、夫婦に尋ねた。

「いろんな野菜を育ててるんですね」

「そうじゃよ。キャベツ、ニンジン、タマネギ、エンドウ、ダイコン、他にもいろいろとな」

「うちの野菜は料理屋さんでも使ってくれてるんだよ」

「僕のうちも農家だったので、大変さは分かります。野菜もみんな元気に育ってて、よく手入れされてるなあって感心してます」

 アレンも田舎育ちだけにそんな話題で話をすることができる。この前知り合って仲良くなれたので、この日はより親密な話ができた。夫婦の方も若い冒険者とのんびり話ができて楽しいようだった。

 そうして茶飲み話をしてしばらく、さすがに長居もどうかと思い、アレンが立ち上がる。

「お茶、ごちそうさまでした。それじゃあ、僕達そろそろ行きますね」

「そうかい。二人共元気でな。また立ち寄っておくれ」

 そしてアレンとクレアは手を振って老夫婦と別れ、再び歩き出した。

「懐かしいね、こういう暮らし。私達もそうだったもんね」

「そうだね。僕もクレアも家の手伝いとかよくやってたもんなあ」

「一緒に遊んでた頃を思い出すね」

「うん。平和だった。そうなんだよね。この村も危ないところだったんだ。繰り返しになっちゃうけど、この村の平和が守れて良かった」

 激戦の後、こうして平和な光景を見るのはすごく気分が良かった。何より自分の努力が報われた気持ちになれる。

「たまには散歩もいいもんだね。ありがとう、クレア」

「どういたしまして。私ものんびり過ごせて良かったよ」

 二人は仲良く村の中を見て回ったのだった。


 のんびりと休日を過ごした翌日、昼になる前に応援の騎士隊百騎が到着した。全員騎乗している。馬にもかなり無理をさせてのギリギリの行軍だったのが分かる。要請に向かったギルド職員のアリサも騎士隊に同行して戻ってきていた。

 ギルド長のガイストが出迎え、騎士隊長に事の経過を報告した。隊長は相当に驚いていたが、ゴブリン撃退の労をねぎらい、応援が遅れたことを謝罪した。

 そして、その日のうちに戦場の検分が行われた。ゴブリンの死体が放置されたままになっている。かなりの激戦だったことを騎士隊長も認め、十一人の冒険者の活躍を賞賛した。

 そしてその後は、村から農具の類を借り出し、大きな穴を掘ってゴブリン達の死体を次々に放り込んでいった。それは気分の悪い作業だったが、さすがに二百に及ぶ死体を放置はできない。十一人の冒険者も参加して、気の重い作業をこなしていった。

 死体が穴の中に積み上がったところで、メイジ三人が炎の魔法でそれを焼いた。三人は何度か魔法を追加して放ち、灰になるまでそれを繰り返した。そして最後にその穴を埋める。後日、ゴブリン達との戦場跡と彫られた碑を置く予定である。

 それから百騎の騎士達は天幕の設営を行った。さすがに村にこの人数が宿泊できる施設はない。村の共同放牧地が提供され、そこに天幕を立てての寝泊まりとなる。唯一の利点は、交代で公衆浴場を利用できたことである。急な行軍だったので、今日まで全員風呂に入ることもできなかったのだ。

 彼らの食事も近隣の住民が提供した。騎士隊の予算から謝礼金が出されている。行軍中は簡素な食事ばかりだったので、騎士達もかなり喜んでいた。

「百騎の騎士かあ。大した規模なんだけど、ゴブリンの軍勢を見た後だと、少なく感じるね」

 とはアレンの感想だが、その百騎の寝泊まりや食事の手配は思った以上に大変そうだったので、軍隊を維持する王国というのは凄いものだと、改めて感心もしていた。

 その騎士達も、翌朝食事を取るとすぐに出発していた。応援としては空振りに終わった形だが、さすがに規律がしっかりしていて、誰からも不満の出ることはなかった。冒険者ギルド長の報告書と戦利品の首飾りを携え、元来た道を騎乗して順に引き上げていく。

「終わった。とにかく無事に終わって良かった。応援の騎士達も戦場の片付けをしてくれたし、これで一段落だな」

 十人の冒険者と一人の職員にギルド長のガイストが防衛戦の終わりを宣言する。ゴブリンが出現したという報を受けてから、撃退して後始末を済ませるまで、長いようで短い数日間であった。

「これでまたいつもの日々に戻れるんだな」

 アレンも安堵の息をついた。

「なら、今日からダンジョンにまた行けるんですね」

 早速とばかりにそんなことを言い出す。

 クレアが苦笑した。ライルは頭をかき、リアナはふうとため息をつく。

「アレンの気持ちは分かったから。まずは支度してからね」

 クレアにそう言われて、アレンも先走り過ぎたことに気付いた。自分も苦笑して、三人の顔を見渡す。

「じゃあ、また今日からよろしくお願いします」

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