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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第十八話 ゴブリンジェネラルとゴブリンキング

 人間達とゴブリン達は、三十メートルほど離れて対峙した。

 そこで、ゴブリンキングが声を上げた。ガルルともゴガウとも聞こえる音声で、何を言っているのかは人間には分からない。恐らく、お前達は皆殺しだとでも言っているのだろうと思われた。

 そして、グウオオとキングが咆哮を上げた。それが戦闘開始の合図だったようだ。四体の大型ゴブリンが人間達に迫ってきた。

 ガイストの指示通り、キングの相手はギルド長のガイストとヒーラーのハント。ジェネラルの相手は、アレン、クレア、リアナ、ライルで一体、カシム、サムス、マイクで一体、ダラスとザストで一体である。

「先攻、ファイアボール!」

 小手調べとばかり、メイジのザストが魔法を放った。少しでも動きが鈍れば幸いという牽制の攻撃だったが、一体のジェネラルの顔面を狙っており、直撃すれば大きな隙ができるはずだった。しかし、火球がジェネラルの近くに到達した瞬間、火球が霧散して消えてしまった。

「無効化したぞ。ゴブリンにそんな能力があるのか?」

 ザストが驚くと同時に、他の人間達がみな一瞬驚いていた。魔物の中でもかなり強い種類になると、魔法の無効化能力をもつものもいる。しかし、いくら上位種であっても、ゴブリンにそんな能力があるなどとは誰も聞いたことがなかった。

 ゴブリンジェネラルが笑ったように人間達には見えた。とは言え、その辺の感情が人間と同じなのかどうかは分からない。

 そしてゴブリンジェネラルが棍棒を振りかざし、力強く振り下ろす。

「やらせねえよ」

 ダラスがその棍棒を薙ぎ払った。彼は戦士としてはガイストに次いでレベルが高い。ジェネラルの攻撃をきっちり払いのけていた。

「こっちも反撃だ」

 ダラスが剣を振り、ジェネラルの腕を狙う。しかし、その攻撃は棍棒で防がれてしまった。

 それを皮切りに、人間達と四体の大型ゴブリンとの死闘が始まった。


「ストレングス!」

 クレアが強化魔法をアレンとリアナ、そして自分にも掛ける。この戦いでは出し惜しみはなしだ。レベルの低いアレンとクレアにとって、どう考えても厳しい相手なのだから。

「ホーリーシールド!」

 そしてクレアがジェネラルの攻撃を引き受ける。棍棒の凄まじい打撃が魔法の楯から伝わってくる。歯を食いしばるようにしてそれに耐える。

 リアナがジェネラルの背後に、アレンは右手に回り込む。そしてそれぞれに斬撃を撃ち込む。さすがに三人の人間にまとわりつかれて、ジェネラルも対処しきれないようだった。わずかだが、アレンとリアナはジェネラルに傷を負わせることに成功していた。

「ファイアボール!」

 ライルが魔法を放つ。さっきザストが魔法を撃ち込んだジェネラルとは違う個体だ。魔法が効くかも知れないと思っての攻撃だったが、先程と同じように、ジェネラルの体に届く前に火球が霧散してしまった。

「何で魔法が無効化されるんだ? いくらジェネラルでも、そんな能力があるなんて、聞いたことないぜ」

「そうなんですか。何か僕達の知らない秘密があるのかも知れませんね」

 ライルとアレンはそんな会話をしていた。その間にもクレアが必死に魔法の楯で攻撃を防いでいる。

「戦ってるうちにわかるかもな。今回はアレンが頼みの綱だ。頼むぞ」

「分かりました。頑張ります」

 クレアが必死に耐えることでできた隙に、アレンはリアナと一緒にジェネラルに斬撃を加えていく。しかし、かなり頑丈で、細かな傷こそいくつも付けられたが、致命傷には程遠い。

 ジェネラルの方も、楯役が攻撃してこないことに気付いていた。そこで目標を男の戦士に切り替える。狙われたアレンが慌てて回避をする。

 そこでアレンは気付いた。ゴブリンには不似合いな豪華な首飾りがついていることに。

「ゴブリンにもオシャレをする習慣でもあるのかな」

 戦闘中なのにそんなことを考えてしまった。それが大きな隙となり、ジェネラルの攻撃を避けそこなってしまった。

「させない!」

 そこにクレアが割り込む。魔法の楯に棍棒が当たり、強い衝撃がクレアにかかる。強化魔法なしでは耐えられなかっただろう。

「アレン、何やってんだ」

 思わずライルが文句を言う。アレンは正直に疑念を口にした。

「いや、ゴブリンもオシャレするのかと気になって。ほら、あの首飾り」

 ライルが目を凝らしてジェネラルを見た。確かにゴブリンには不釣り合いな、とても豪華な装飾品だ。何らかの魔法が付与されたアイテムなのかもしれない。そう思った時、ライルの頭に閃くものがあった。

 もしかすると、あれが魔法を無効化しているのかもしれない。そう思ってリアナに声を掛ける。

「リアナ、ジェネラルの首飾り、斬り落とせるか」

「分かった。難しいけどやってみる」

「アレンとクレアはジェネラルの気を引いてくれ」

「了解です」

「分かりました」

 アレンがジェネラルに思い切り斬りかかる。ジェネラルがその斬撃を棍棒で受け止め、大きく振り払った。アレンが態勢を崩したところに、ジェネラルが棍棒の一撃を見舞う。しかし、クレアのシールドがそれを許さない。

 アレンとクレアがジェネラルの気を引いている間に、リアナがそっと背後に回り込む。そして大きく跳び上がり、ジェネラルの首元を狙う。その一撃が首筋に傷を与えると同時に、首飾りの鎖を断ち切っていた。首飾りが地面に落ちる。

 それを知ったジェネラルが慌てたように見えた。攻撃の手を緩めて、落ちた首飾りを拾おうとしたのである。

「させるか。ファイアボール」

 ライルが魔法を放った。拳大の火球がジェネラルの顔面に直撃する。

「無効化されないぞ。首飾りの効果だったのか。アレン、でかした」

「そうですか。良かったです」

 そう言いながら、アレンが追撃を放ち、ジェネラルの顔面を狙う。首飾りを拾おうとしていたジェネラルが慌ててそれを避け、顔を上げた。

「魔法が効くなら話は別だ。片付けてやる」

 ライルがニヤリと笑った。

「みんな離れろ」

 その声に反応して、三人がジェネラルから離れる。

「ギガバースト!」

 ライルが爆発の上級魔法を発動させた。レベル二十は超えないと使えない魔法である。その魔法により、ゴブリンジェネラルの上半身を起点に激しい爆発が起こった。その一撃はジェネラルの上半身を粉々に打ち砕いた。そして残った下半身から激しい鮮血が噴き出した。

 ジェネラルの下半身が地上に倒れる。強敵をも一撃で葬るほどの魔法を使える。これがライル本来の実力だった。アレンもクレアも、そして知っているはずのリアナでさえ、この魔法の威力に驚いていた。

 しかし、驚いている場合ではない。

「よし、苦戦中の仲間の援護に行くぞ」

 ライルの言葉で我に返り、四人はそれぞれ援護に向かっていった。


 ライルが爆発魔法でジェネラルの上半身を吹き飛ばした様子は、戦場の誰もが見ていた。魔法が無効化されるのは首飾りのためだという情報が共有されて、人間達はがぜん勢いづいた。魔法が通用するならそれほど恐れる敵ではない。

 カシム、サムス、マイクの所にはクレアが駆け付けた。

「首飾りを狙えばいいんだな」

「お願いします。ストレングス!」

 クレアが強化魔法をカシムとサムス、二人の戦士に掛ける。二人の動きが一気に良くなり、ジェネラルの攻撃を軽々といなしていく。

 そしてカシムが楯でジェネラルの攻撃を受け止めた隙に、サムスが背後に回り込んで首筋に一撃を見舞った。見事に首飾りの鎖を断ち切り、地面に落とすことに成功した。

「今だ、エクスプロード!」

 メイジのマイクが待ち兼ねたとばかり爆発魔法を放つ。初級の魔法だが、爆発魔法は難易度も威力も高い。ジェネラルの顔面を起点に激しい爆発が起こり、首から上を一撃で消し飛ばしていた。鮮血が首から噴き出し、ゴブリンジェネラルが地上に倒れる。

 同じ頃、戦士のダラスとメイジのザストの所にはアレンとリアナが駆けつけていた。

「アレンは俺と一緒に攻撃だ。リアナは背後へ」

 ダラスの指示で即座に動き出す。

 そして正面からアレンとダラスが攻撃を加え、ジェネラルの気を引いたところで、リアナが先程と同じように首飾りを斬り落とした。

「リアナ、ありがとな。エクスプロード!」

 ザストが気合を込めて魔法を発動させる。ジェネラルの頭部を起点に激しい爆発が起こり、ここでも一撃で頭を吹き飛ばしていた。首から鮮血が噴き出て、ジェネラルが地上に倒れる。

 三体のジェネラルが倒されたことで、ゴブリンキングが孤立した。これで十一対一である。ゴブリンの感情は人間とは違うのだろうが、キングが焦っている様子に見えた。

 ここでもリアナが活躍した。周囲に気を取られたキングの背後にこっそりと回り込み、同じように首飾りを斬り落としたのである。

「ナイスだ、リアナ」

 冒険者達の目には、キングの焦りがさらに高まったように見えた。そして両手に持った棍棒を激しく振り回し、威嚇してきた。狙いも適当な攻撃などどうということもない。十一人が余裕をもってそれを避けた。

 その直後、キングが踵を返して逃げ出した。手下のゴブリン達がいる方角へと全力で走っていく。

「逃がすか。追撃するぞ」

 ガイスト以下、十人がそれに続く。

 ゴブリンキングは味方の陣に駆け込むと、そこで逃げ終えるのではなく、さらに後方へと逃げ出していた。周囲のゴブリン達も慌てたようにそれに従って逃げ始める。

「ここでとどめだ。いくぞ、フレイムフェニックス!」

 ライルが炎属性の最上級魔法を発動させる。頭上に炎の塊が発生し、それが不死鳥の姿に変わる。この魔法の由来である。その炎の不死鳥が勢い良くゴブリン達の元へと飛んでいく。

 そして炎の不死鳥はゴブリンキングの体に直撃した。その瞬間、凄まじいほどの炎が吹き上がる。非常に高温の炎がキングだけでなく、付近にいたゴブリン達も巻き込んで、勢い良く燃えていく。

 高熱に巻き込まれたキングと周囲のゴブリン達は、ごく短い時間で焼き尽くされていた。後には骨すら残っていない。最上級魔法の凄まじいばかりの威力であった。

 その炎の厄災を免れたゴブリン達は、完全に恐怖に駆られたように逃げ出していた。他の何物にも構わず、とにかく後方へとひた走っていく。

 ゴブリン達にとって、人間達はやはり恐ろしい存在であった。最後尾に追いついた冒険者十人が、逃げ遅れたゴブリン達を次々に仕留めていく。もはや戦う気のないゴブリン達は、必死で逃げるばかりであった。

 追撃してきた冒険者達も、ある程度ゴブリンを倒したところで手を止めていた。ギルド長ガイストの号令で全員が集合する。ついでにゴブリンの指揮官達がつけていた首飾りを回収した。

「よし、追撃はここまでだ。みんな、異常はないか」

 ガイストが戦闘後に必要な確認を行う。激しい戦いの後で全員疲れていたが、特に異常はないと返答が戻る。

「いや、待って下さい。異常ではないんですが、レベルが上がってます」

 アレンが自分の冒険者証を取り出し、確認する。

「レベルが七になってます。異常なんでしょうか」

 たった一戦でそんなことが起こるのだろうかと、アレンが不思議に思っていると、クレアからも同じ答えが返ってきた。

「私もレベル七になってる。アレンだけじゃないみたい」

 クレアの言葉に他の冒険者の様子を見ると、全員が自分の冒険者証を確認しているのが見えた。

「俺も一レベルだが上がってるぞ」

「俺もだ。同じく一レベル上がってる」

「あたしはレベル十二になってるから、二レベルアップね」

 リアナもしっかりレベルが上がっていた。

「ゴブリンとは言え魔族の幹部を倒したんだから、それだけ大きな経験を得られたということだな。全員のレベルが上がったこと、これがこの戦いでの一番の報酬かも知れんな」

 ガイストの言葉にみながうなずく。激しい戦いを勝ち残った甲斐があったものだと、誰もが表情をほころばせていた。

「この戦い、俺達の勝利だ。だが念のため、ゴブリン達が逆襲しに来ないかを確認する必要がある」

 ガイストがそう言って、全員を見回した。

「疲れてるところ済まないが、全員でこのまま魔族領の近くまでゴブリン達を追って、完全に逃走したことを確認する。またリアナの探知魔法が頼りだ。よろしく頼む」

「了解。こればかりは仕方ないですよ」

「なら、さっさと後を追いかけよう」

 戦闘は無事勝利に終わったが、まだ気を抜くわけにはいかない。

 時刻はもう夕方である。

 こうして冒険者達十一人は、激しい戦闘の後だったが、ゴブリン達が完全に逃走したことを確認すべく、山の方へと足を運んだのだった。

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