第十四話 もう一つのパーティ
この日もパーティ四人で掲示板を見ていた。レベル二の二人には荷が重い魔物ばかりだ。いつも通り、無理のない範囲で魔物を選ぶ。
すると、そこに別の四人組がやってきた。全員若い男の冒険者である。このノックス村にいる冒険者はアレンとクレアを含めて十人。そのうちソロが二人。残る四人は一つのパーティを組んでいて、ちょうどこの日、掲示板で一緒になったのだった。
「よお、ルーキー。頑張ってるみたいじゃないか」
若い戦士の男がアレン達に声を掛けてきた。
「二人はアレンとクレアだったよな。まあ、ライルさんとリアナがいれば、大抵の相手は何とかなるだろ。良かったじゃないか」
遠慮なくものを言うタイプの男だった。アレンは丁寧に言葉を返した。
「はい。おかげで助かってます」
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はカシム。このパーティのリーダーで楯戦士。で、こいつがサムス。戦士でアタッカー。それからヒーラーのハント。メイジのマイク。全員レベル十三で年は二十才」
四人全員が屈強の冒険者という感じだった。アレンが軽く頭を下げる。
「魔法戦士のアレンとヒーラーのクレア、十五才です。どうぞよろしく」
「見ての通り、うちは戦闘特化のパーティなんでな。時々、リアナには探知の手伝いをしてもらってたんだよ。そのリアナに文句なしの強さのライルさんがいるんだ。恵まれてるな、二人共」
「はい。僕達もそう思います」
「今日まであまり接点がなかったけど、これからはよろしくな。それで、せっかくの機会だ。うちのパーティの戦いを見てみないか。まだレベル二ならいろいろな戦いを見るのも役に立つだろうし」
カシムが親切でそう言っていることはアレンにも分かった。
「ちょっと仲間と相談してみます」
悪い話ではないので、受けてみようかとアレンは思っていた。
「三人はどう思う?」
アレンが尋ねると、ライルとリアナからはアレンの好きにすればいいという返答がきた。クレアはアレンと同じ意見だった。
「私は他の冒険者の戦いを知らないから、見てみるのはいいことだと思う」
「僕も同じ意見だ。ライルさんとリアナさんには悪いかもだけど、せっかくの機会だから見させてもらうことにするよ」
そして相談がまとまったところで、カシムに返事をする。
「ぜひお願いします」
カシムのパーティ四人がみな笑みを浮かべた。冒険者は基本的に仲間以外に戦いを見てもらえることなどない。ルーキー達に自分達の強さを見せられるのがうれしかったのである。
「よし分かった。それで、そっちは何の依頼を受けるんだ?」
「フロッガーとボーリングビートルです」
「で、その後はダンジョンか。じゃあ、そっちが二体倒した後、こっちの戦いを見るってことで。その後はダンジョンまで一緒だな」
「分かりました。よろしくお願いします」
話はまとまり、総勢八人で一緒に行動することになった。
「ふーん、なかなかやるじゃないか」
アレンとクレアの二人で連携し、二体の魔物を倒した様子を見て、カシムが感心して言った。
「ライルさんとリアナなしでこれだけ戦えれば、レベル二としては十分だと思うぜ。この調子でレベルを上げられるといいな」
「はい。ありがとうございます」
アレンもクレアもしっかり戦えるところを見せられて、格上のパーティリーダーに褒められたことで、良かったとほっとしていた。
「じゃあ、次は俺達の方だな。ちなみに相手はミノタウロスだ」
アレンもクレアも名前だけは聞いたことがある。前にダンジョンに挑んだ時にもいたらしいのだが、二人には強すぎるので接触はしていない。
「まあ、見ててくれ。レベル十三は伊達じゃないってところをな」
カシムに先導されて八人が出現場所へと向かう。
そして森の中のとある場所に、その魔物はいた。
ミノタウロスは頭部が牛の形をした人型の魔物で、全高は三メートルくらい。両手に小型の斧を持っている。強靭な身体から繰り出される攻撃は脅威である。
「ストレングス!」
「エンハンスウェポン!」
ヒーラーのハントとメイジのマイクが、カシムとサムス、二人の戦士に強化魔法を掛ける。なるほど、威力の底上げは大切なのだと、アレンとクレアはうなずきながら見ていた。
「よし行くぞ!」
まずは楯持ちのカシムが先に突っ込む。
ミノタウロスがそれに反応して、両手の斧を振るってきた。見ているだけでも凄まじい威力だということが分かる。しかし、カシムの楯はその攻撃をいとも簡単に防いでいた。
「サムス!」
「あいよ!」
カシムが攻撃を引き付けている間に、ミノタウロスの側面に回った戦士のサムスが剣を振るった。その一撃が腹部に入り、大きく傷をつける。
それをうるさがったように、ミノタウロスが斧を振り回す。サムスはバックステップで軽々とそれを避ける。
「ファイアボール!」
その隙にマイクの魔法が放たれた。拳大の火球がミノタウロスの顔面を直撃する。見事な牽制で、ミノタウロスの動きを一瞬止めた。
「そりゃっ!」
そこにカシムが剣を振るった。彼も楯役ばかりではない。攻撃にも参加するのだ。その斬撃がミノタウロスの右腕を大きく傷つけていた。
感情などはないはずの魔物だが、ミノタウロスが怒ったようにカシムに斧を振るってきた。カシムがその一撃を楯で防ぐ。
そこでまた隙ができる。サムスが突進し、鋭い斬撃をミノタウロスに浴びせる。先程傷つけた腹部に斬りつけ、その傷を大きく広げていた。ミノタウロスが大きくバランスを崩す。
「シールドバッシュ!」
そこへカシムがシールドでの打撃を放った。バランスを崩したところに強打を浴びて、ミノタウロスの態勢が崩れる。
「闘気剣!」
ここがチャンスと見て、サムスが必殺技を使う。闘気を武器にまとわせ、威力を高める技である。
「岩斬撃!」
サムスが両手で上段に構えた剣を渾身の力で振り下ろす。その一撃はミノタウロスの体を斬り裂くのに十分な威力があった。
体を二つに斬り裂かれ、ミノタウロスが地に倒れる。そして魔石を残して霧状になって消えていった。
「全員、異常ないな」
リーダーのカシムが確認をする。さすがは高レベルパーティ、基本に忠実である。三人から異常なしと返答があり、カシムがふうと息をつく。
彼らの戦いを見ていたアレンとクレアは驚きに目を丸くしていた。強化魔法に始まり、楯での防御、回避、そして隙を見ての攻撃と、どれもレベルの高さが良く分かったからだ。
「ルーキー二人にいいとこ見せられて良かったぜ」
カシムがそんなことを言って、笑みを浮かべていた。他の三人も誇らしげな表情で二人を見ていた。
「ありがとうございました。凄さが良く分かりました」
アレンがそう返答する。
「これも長年の戦いで身に付けたものなんだと良く分かりました。僕達もみなさんのように強くなりたいと思います」
「そりゃ良かった。戦いを見てもらった甲斐があるな」
カシムが右手を差し出す。アレンは硬くそれを握った。
「よし、じゃあダンジョンまで一緒に行こうか」
「はい。行きましょう」
一戦を終えて、八人はダンジョンへと向かっていった。
「そうですか。カシムさん達も百戦百勝というわけじゃないんですね」
ダンジョンへの道すがら、アレンはいろいろなことをカシムから教わっていた。
「そりゃそうさ。ただな、勝てないと分かった時点で、いかに安全に退却するかってのは案外難しいもんだ。アレン達にはライルさんがいるから、最悪力技で何とかなるだろうけど、もしいなかったらの場合を考えることも、今後は必要だろうさ」
「そうですね。大事なことですね」
先輩戦士のカシムには学ぶことが多い。
「あと、やっぱり場数を踏むのが何より大事だろうな。手数で勝負するのか一撃の威力を上げる方がいいのか、その辺の判断も場数を踏めば分かってくるから、戦士にとっては大事なことだろう」
「分かります。手数より威力が重要な時も、その逆の時も、どちらも確かにありました」
そんな会話をしているうちに、一行はダンジョンへと到着していた。
「アレン、お前さんはいいヤツだな。これからも順調にレベルアップできることを期待してるぞ」
最後にカシムはそう言ってアレン達と別れ、仲間と共に深い階層へと潜っていった。
「じゃあ僕達も行きましょう」
そしてアレン達も魔物の討伐を始める。
最初にリアナが探知魔法を使う。
「ボーリングビートル三体、レッサースコーピオン三体、ジャイアントバット三体、当たれそうなのはそのくらいかな」
探知の結果を聞いてアレンがうなずく。
「分かりました。では順に当たりましょう」
そして四人が先へと進んでいく。
また部屋のようになっている場所で魔物を発見した。探知の通り、ボーリングビートル三体である。
「一体は僕とクレアで引き受けます。残り二体は二人にお願いします」
「いつも通りだな。気を付けろよ、アレン」
ライルの言葉にアレンがうなずく。
「カシムさんに教わって、こういう硬い魔物には威力重視が必要だって分かりましたから。少し工夫してみます」
そして四人は魔物との交戦を始めた。
アレンが最初にクレアに魔法を頼んだ。
「クレア、強化魔法頼む」
「了解。ストレングス!」
何か考えがあるのだろうとクレアがうなずき、強化魔法をアレンに掛ける。アレンはさらに魔法剣を使った。
「魔法剣、ファイア!」
そしてボーリングビートルに真っ直ぐ突っ込んでいく。
魔物の方もその動きに反応して、体当たりを仕掛けてきた。アレンがその一撃をひらりとかわす。
「ここだ!」
アレンはビートルの頭部と胸部の境目にある関節を狙い、渾身の一撃を見舞った。その一撃が見事に決まり、ビートルが真っ二つになる。そして魔石を残して霧状になって消えていく。短期決戦策が的中し、あっさりと倒すことに成功したのだった。
残りの二体はリアナが牽制役、とどめがライルの魔法と、いつものようにあっさりと片付けている。
「全員、異常ないですか?」
アレンの問いに異常なしと三人が返答する。
そしてライルが驚いた表情でアレンに声を掛けた。
「教わったからって、すぐ実戦で使えるものじゃない。硬いボーリングビートル相手に、一撃必殺とは恐れ入った。見事だったな」
アレンが素直に礼を言う。
「ありがとうございます。正確かつ威力重視でっていうのを、教わった通りに生かしただけなんです。ただ、これもクレアの強化魔法のおかげなんですけどね。強くなって独力でも倒せるようになりたいです」
リアナもかなり感心していた。
「あたしでも一撃で倒すのは少し難しいかな。それをレベル二でできちゃうんだから、大したものだと思うよ」
クレアも言う。
「強化魔法一回で十分な成果が出せるんだから、やっぱりアレンも大したものなのよ。それに私も役に立てて良かった」
みなに褒められ、アレンが少し照れたように言った。
「ありがとう。この調子で残りも片付けましょう」
「そうだな。次も頼むぜ、アレン」
そして四人は魔物の討伐を再開した。
そして、四人はレッサースコーピオンも同様にして倒した。
ジャイアントバットも三度目であり、特に苦戦もせず倒していた。
それから稼ぎの足りない分をいつも通り蟻の巣で補充し、四人は冒険者ギルドへと戻った。
風呂などを済ませ、また四人で夕食を共にする。
「今日はカシムさん達のパーティの戦いぶりが見られて、とても良かったです。おかげでいくつか工夫もできましたし、参考になりました。もっと強くなって、あの人達のように、強い魔物とも戦えるようになりたいですね」
夕食を食べながら、アレンが熱を込めて話していた。それだけ彼らの戦いを見て得たものは大きかったのである。それがうれしくて、夕食の時にもその話をしていたのだった。
「それは良かったな。アレンもいい刺激を受けたことだし、戦い方にも幅が出るだろ。今後の成長も楽しみだ」
ライルがそう言ってエールをあおる。アレンとクレアが成長していく様子を見たいという希望は今も変わっていない。
「そうね。でも先ばかり見て、足元もおろそかにしちゃダメよ。自分の力量と相手の強さを冷静に見定めること。それから一人では難しい相手でも仲間と連携すれば勝てるんだから、しっかり必要な時は頼ること。そういう部分も大事にしなさいね」
リアナもライルと同じく、二人の成長を楽しみにしている。だからこそ、こうした忠告も出てくるのだ。気に入った相手にはどこまでも親切になれるものである。
「はい。分かっているつもりです。僕もこれ以上、クレアの負担を増やしたくはないですし」
「そんな、負担なんてほとんどしてないよ。強化魔法も回復も元々私の役割なんだし」
クレアが両手を振った。彼女は自分に魔物を倒す力がなく、アレンに頼っているという意識が強かったのだ。
「でも大変な楯役をしてもらうこともあったよね。おかげで助かったんだけど、それって辛くないのかなって思って」
「いいのよ。それも役割の一つだって思ってる。そうやって頼ってもらえた方が、私としても気分が楽だしね。ちょっとくらいきつくたって、頑張ってこなすから心配しないで」
クレアも一介の冒険者である。魔物と戦うために苦労することなど、初めから覚悟の上なのである。それを聞いてライルが感心した。
「アレンもクレアもしっかりしてるな。俺、レベル低かった時、がむしゃらで周りのことなんてよく見てなかった気がする」
「あたしも。とにかく必死だったことしか印象に残ってないわ」
ライルとリアナからすれば、アレン達も年とレベルの割にはしっかり者に見えるのだった。
「僕もまだまだ何事にも必死ですよ。でも、三人の助けをもらうからにはしっかりしなきゃって思っているだけです」
「私も。どんな時でもみんなの支えになれたらって思ってます」
二人はそう言うと、顔を見合わせて笑みを浮かべた。やはり気が合う二人だけに、考え方も似ていたのだった。
そうしてその日の夜も更けていく。この日も充実した一日だった。




