第十二話 再びダンジョンへ
「今日もこの二体ですね。ヒュージスパイダーとヒュージマンティス」
翌日、いつものように掲示板を確認し、アレンが仲間にそう言った。
「村周辺に出た魔物は放置できないから、それでいいとして、その後はどうするんだ?」
ライルの問いにアレンが答える。
「またダンジョンに潜りたいです。できる範囲で魔物を倒して、次のレベルアップを目指したいと思ってます」
アレンらしい真っ直ぐな答えだった。昨日、一日村をのんびり見て回って、自分が強くなりたい理由を再確認できたことも大きい。最終的には、どんな魔物が相手でも倒すことができる強さを身に付け、人々を守れる勇者になりたいという希望があった。
クレアもリアナもライルもアレンの言葉にうなずいていた。全員が了承したことでこの日の行動は決まった。
「それじゃあ、行きましょう」
アレンが力強く言って、四人は魔物のいる場所へと出発した。
ヒュージスパイダーは二度も倒した相手だ。アレンも油断はしていないが、負ける気が全くしないのも確かだった。
「前回と同じく、僕とリアナさんで足を斬り落とします。ライルさんは必要があれば魔法の援護を、クレアはシールドの用意をして待機。たぶん二人で倒せます」
かなり強気な作戦指示だった。アレンはかなり自信があるようで、他の三人もその作戦を了承した。
「では、行きます」
そしてアレンとリアナの二人が突撃する。
ヒュージスパイダーが反応して、前足を振るってきた。当たればかなり痛そうだが、二人とも余裕をもってそれをかわしていた。
そして二人が左右に別れ、スパイダーの足を狙う。鋭い斬撃が足の関節部に決まり、一撃で足を斬り落としていた。
スパイダーも反撃してくる。しかし、二人はしっかりとそれを見切り、避けた直後にまた斬撃を加えて足を斬り飛ばす。
「後四本!」
アレンは落ち着いてスパイダーの動きを見て、それに合わせてまた斬撃を加える。そしてまた足を斬り落とす。ちょうど同じタイミングでリアナも足を斬り飛ばしていて、六本の足を失ったスパイダーが前足二本を残して地上に落ちる。
「よし、とどめ!」
二人が今度は頭部に攻撃を集中する。そして短い時間で頭部を斬り裂き、上半身にまで斬撃を加えていた。胸部が斬り裂かれたことによってスパイダーは倒れ、魔石を残して霧状になって消えていった。
アレンは落ち着いて仲間の状態を確認する。異常なしの返答にうなずく。
「倒せましたね。今日は好調みたいです」
他の三人が感心していた。ダンジョンに再挑戦したいと言うだけあって、アレンがとても充実しているのを感じ取っていた。
そして次の場所へと向かう。
ヒュージマンティスも以前倒した相手だ。
「こちらも前回と同じ手順でいいと思います。ライルさんが先制の一撃を入れて、その間に僕とリアナさんでカマを斬り落とします。クレアは悪いけど、今回も待機で」
「了解だ。そうと決まればさっさとやるか」
ライルもアレンのやる気と判断の確かさを信じ、作戦に同意した。クレアとリアナも思いは同じようで、黙ってうなずいている。
「では、行きます」
先程と同じように、アレンとリアナがまず接近する。ヒュージマンティスが反応してカマを振り上げてくる。そこへすかさずライルが魔法を叩き込む。
「ファイアボール」
拳大の火球が宙を飛び、マンティスの顔面を直撃する。高熱がじりじりとその顔面を焼いていく。
「よし、ここだ!」
左右に別れたアレンとリアナが、隙を突いて斬撃を放つ。狙い違わず、関節部を斬り裂き、カマを斬り落とす。
攻撃手段を失えば、後は大した相手ではない。アレンとリアナが先程と同じように頭部から順に斬り裂いていき、マンティスを倒した。マンティスが魔石を残して霧状になって消えていく。
ライルが感心していた。アレンには戦闘のセンスがあるようだ。以前戦った相手を簡単に倒す作戦を立て、それをしっかりと実行する。このまま成長していけば名のある冒険者になれるだろう。その成長を手助けし、見届けるという自分の役割がとても良いものに思えていた。リアナもその点ではライルと似たような考えをしていた。
アレンもレベルアップしたことでかなりの自信を付けていた。弱い魔物にはもう負ける気がしない。それは余裕につながり、有効な作戦立案や正確な動作にも生かされていた。
クレアはそんなアレンに頼もしさを感じると同時に、多少の不安を感じていた。余裕をもつのはいいが、自信過剰になってまた負傷したりしないだろうか。回復魔法にも限度がある。重傷を負うようなことになれば、自分の手に余るかもしれない。そんな心配をしていたのだった。
四人がそれぞれの思いを抱いている中、アレンが力強く言った。
「じゃあ、ダンジョンに行きましょう」
そして四人はノックス村北の山中へとやってきた。アレンとクレアにとっては二度目の挑戦である。
今回もリアナ、アレン、クレア、ライルの順に一列で中へと入っていく。
そしてある程度進んだところで、リアナが探知魔法を使う。
「サーチ!」
周辺にいる魔物の種類か数を探知する魔法である。とても便利で、この魔法のあるなしで効率に大きな差が出る。
「ジャイアントワーム三体、ジャイアントバット三体、レッサーコモドドラゴン三体、戦えるのはこの辺かな。インプ一体、ミノタウロス一体っていうのもいるけど、レベル二だと無茶かな」
「分かりました。なら、近いのから順に当たりましょう」
アレンがうなずいて決断する。他の三人にも異論はない。
そして、魔物のいる場所へと移動する。
最初は探知した通り、ジャイアントワームである。体長三メートルほどのムカデに似た形の魔物だ。攻撃は噛みつき、巻きつき、そして体当たりだけである。表皮は虫型らしく硬めで、うまく関節を狙う必要がある。
「僕が相手できるのは一体だけでしょう。後の二体はライルさんとリアナさんにお任せします。クレアはシールドの用意をして待機で」
「了解。二体片付けたら援護する」
「あたしは陽動ね。任せといて」
「私はアレンに付きます。残りはお二人にお任せします」
そして戦闘開始である。
アレンが真っ先に接近し、一体のジャイアントワームを誘導する。
そして剣を振るって頭部に斬撃を加える。しかし、ワームもそれを感知し、するりと避けていた。
一方、リアナもワームに牽制の攻撃を加えていた。しかも、二体同時に相手をしていた。片方の攻撃をかわしては、もう一体に斬撃を加え、そして軽く下がって間合いを取る。そうした動きを繰り返し、うまく二体が重なるように誘導していた。
「リアナ、お見事」
ライルが賞賛し、ここで威力のある魔法を放った。
「フレイムピラー」
炎の中級魔法で、炎の柱を生み出す魔法である。業火が二体のワームを巻き込み、盛大な勢いで燃える。その炎はワーム二体を焼き尽くすのに十分な威力があった。二体のワームが魔石を残して霧状になって消えていく。
「よし、アレン達と合流しよう」
ライルとリアナがすぐに動き出す。
その頃、アレンはワームの硬さに手こずっていた。
「なかなか攻撃が通らない」
アレンもできる範囲の攻撃はしていた。ワームの攻撃を避けつつ、反撃を加えているのだが、関節部に当たらず、硬い表皮に防がれていた。
焦らないよう自分に言い聞かせながら、攻撃をかわし、斬撃を加える。
これで何発目の攻撃だったか、頭部後ろの関節部に一撃入り、傷をつけることに成功した。
「よしいける!」
アレンが踏み込んで追撃を加えようとした瞬間、それが来た。ワームが尻尾を振るって、アレンを薙ぎ払ったのである。
アレンはそれを胸元に食らって吹き飛ばされ、床を転がった。
「ヒール!」
クレアが即座に回復魔法をアレンに掛ける。
ライルとリアナが駆けつけたのは、ちょうどその時だった。
「リアナ、陽動頼む」
「任せて。アレンの様子を確認しといて」
そしてリアナがワームと対峙し、注意を引き付ける。
「クレア、アレンの具合はどうだ」
「回復魔法は効いたはずです。回復しきれたかどうかなんですけど」
すると、当のアレンが痛みに顔をしかめながら立ち上がった。
「大丈夫、です。まだ、やれます」
クレアとライルが、意識があるなら大丈夫だろうと安堵する。
「僕が倒すんだ。こんなところで負けられない」
そしてアレンが、リアナが戦っているところへ駆けつける。
「リアナさん、ありがとうございます。後は僕がやります」
「分かった。なら、アレンがとどめ刺しなさい」
短い時間の戦闘でリアナは細かな傷をワームのあちこちに付けていた。「傷を狙えば倒せるはず。任せたわよ」
そう言って、ワームの攻撃をかわして反撃を加える。またもワームの体に小さな傷をつけていた。
「そこだ!」
ワームの動きが一瞬止まった隙を見逃さず、アレンが全力で突進して突きを放った。ぐさりと手ごたえがして、それが見事にワームの関節部に入る。
「とどめ!」
アレンは突き刺した剣を引き抜くと、上段に振りかぶって渾身の斬撃を放った。勢い良く振り下ろされた剣先が傷口を捉え、斬り裂いていた。体を二つに裂かれて、ワームが倒れる。そして魔石を残して霧状になって消えていく。
「やりました。みなさんは異常ないですよね」
アレンが戦闘後の確認を行う。三人から大丈夫との声が返る。
「また僕だけですね。確認します」
アレンが防具を外して、体に異状がないかを確認する。皮の胸当てに攻撃を受けたため、それほど深いダメージにならず、クレアの回復魔法でしっかり治っていた。それを見て三人がほっとする。
「毎回ご心配かけてすみません」
アレンが頭を下げた。三人がそれぞれ声を掛ける。
「いいの、いいの。私はヒーラーなんだから、役に立てて良かった」
「相手の強さも分かったことだし、次に生かせばいい」
「アレンも互角に渡り合ってたんだし、そこは自信もっていいよ」
優しく頼れる仲間達の言葉をアレンはとてもうれしく思った。
「ありがとう、みんな。次も頑張ります」
そして、次の魔物のところへと向かうのだった。
ジャイアントバットは体長一メートル半ほどの、名前の通りコウモリの形をした魔物である。ひっかきと噛みつき、体当たりくらいしか攻撃方法がなくさほどの脅威ではないが、不規則に飛び回るため倒すのが面倒である。
「僕はまたクレアと一緒に一体倒します。ライルさんとリアナさんは二人で二体お願いします。また面倒かけますが、よろしくお願いします」
先程と作戦は同じである。個人の技量が重要になる。
「いいだろう。こっちが二体だな」
「任されたわ。二人も頑張るのよ」
ライルとリアナは軽く引き受け、それぞれの相手へと向かっていた。
「クレア、今度はシールド頼む」
「任せて。ホーリーシールド!」
そしてクレアの後ろからアレンがついて行く。
ジャイアントバットの一体が、そんなクレアめがけて接近してきた。後足でひっかき攻撃をしてくる。
クレアのシールドがあっさりとそれを防いだ。
「よし、魔法剣、ウィンド!」
一体が相手でも、空中の敵は厄介だ。アレンは前回と同様に惜しまず魔法剣を使った。そして技を放つ。
「蒼空斬!」
圧縮空気の刃で離れている敵でも斬り裂く技である。その一撃が、クレアに攻撃したことで動きの止まったバットに、見事に命中した。大きく切り裂かれたバットが魔石を残して霧状になって消えていく。
残りは一体をライルがウィンドカッターの魔法で、もう一体はリアナがカウンターの斬撃で見事に片付けていた。前回の戦いより、余裕をもって倒すことができたのだった。
「お疲れ様。異常ないですよね」
きちんと戦闘後の確認をする。もちろん四人全員異常はない。
「クレアのシールドのおかげでうまくいきました」
「役に立てたみたいね。ケガもないし、良かったわ」
厄介な相手を片付け、四人は安堵の笑みを浮かべた。
「じゃあ、軽く一休みしましょうか」
アレンが言って、四人は小休止に入るのだった。




