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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第十一話 パーティの休日

 強敵ロックゴーレムを倒してギルドに戻り、風呂などを済ませて夕食を取っていた時、ライルが明日は休みにしないかと提案してきた。

「休みですか」

「そうそう。アレンとクレア、ノックス村に来てから六日間、全然休みを取ってないだろう」

 こういうところに気を回せるのがライルの良さである。アレンもそれは承知しているが、正直強くなりたい気持ちの方が強く、休みにしようというのにはあまり賛成できなかった。

「僕は毎日魔物討伐でもいいんですけど」

「そう言うと思ったよ。クレアはどう思う?」

 急に話を振られたクレアは、他人事のように話を聞いていて、少し驚きながら返事をした。

「え、あ、そうですね。私も休みはなくても構いませんけど、休むことの大切さも知っているつもりです。ライルさんが勧めてくるからには、たまには休んだ方がいいってことなんですよね」

「さっすがクレア。話が分かるな。魔物と戦わないのんびりした一日を過ごすことで、心身を休めて余裕をもつことも大事なことなんだよ」

 アレンが考え込んだ。確かにその通りかもしれない。これまでの戦いで、何度も攻撃を受けてクレアのヒールに助けられているのは、余裕がなかったせいかもしれない。何よりライルは大先輩、冒険者にも休息が必要なのだと実感しているのだろう。ここは提案に従うのがいいかもしれない。

「分かりました。休みにしましょう」

 アレンがそう心を決めると、気持ちがすっと楽になった気がした。やはり連日の魔物討伐で気が張り詰めていたのかもしれない。

「そしたらさ、アレン、クレア、まだ村の見物してないでしょ。何もない村だけど、のんびり見て回るのがいいんじゃないかな」

 リアナもそう勧めてきた。確かにその通りだとアレンは思った。いざという時、冒険者は村を守る必要がある。なのに村のことを知らないのもどうかという気になった。

「ありがとうございます。そうします」

「じゃあ、私も一緒に行くね。のんびり村の見物しましょ」

 クレアもそう言って同行を申し出てきた。アレンとしてもありがたい。

「田舎村だけど二人でのんびりデートか。いいねえ、若いもんは」

 ライルが茶化してきた。リアナがすかさず突っ込む。

「どこのおっさんだよ、ライルは。全く」

 そして、デートと言われた二人の方は、きょとんとしていた。

「デートって、恋人同士がするものじゃないんですか?」

「アレンはいい相棒だけど、そういう関係とはちょっと違うというか」

 普段息もぴったりであれだけ仲が良いのに、自分達はそういう関係ではないのだと二人とも思っていたのだった。

「若い男女がそんなことでいいのかねえ」

「だから、どこのおっさんだよ。いいじゃないの、仲はいいんだし」

 嘆息したライルに、リアナが苦笑いをしながら答えていた。

 アレンとクレアはそんな様子を不思議そうな目で見ていたのだった。


 そして翌日。

 いつもの冒険者装備と違い、久々に街中を歩くような私服に身を包んだアレンとクレアが、朝食を取りにギルドの隣の料理屋に来ると、同じく私服姿のライルとリアナがすでに来ていた。ここ数日で四人が一緒に食事を取ることが定番となっていた。

「二人共、私服も似合うわね。とってもいい感じ」

 開口一番、リアナが二人をそう言って褒めた。

「リアナさんもライルさんも、私服がお似合いですよ」

 アレンもそう言葉を返す。褒められたら褒め返すのが礼儀だ、みたいな意識をもっていたのだが、実際リアナも十八才、ライルも二十三才で、若々しい服装が良く似合っていたのも事実だ。

「今日はどうするんだ?」

 ライルの問いにアレンが答える。

「とりあえず、一通り村の中を見て回るつもりです。僕達も田舎村の出身なので、共通点が多いのかな、とか。そんな風に見て来ようかと」

「いいわね。クレアと二人、のんびりしてくるといいわ」

 リアナも笑顔で賛成してくれた。

「はい。楽しく見てくるつもりです」

 これはクレアだ。彼女ものんびりした時間を過ごすことに、楽しみを感じていたのだった。

「朝食を取ったら、早速出かけようと思います。風呂までには戻るつもりなので、ご一緒しましょう」

 そうして四人は朝食を食べた後、別行動となったのだった。


「何となく私達の生まれたカルザス村と雰囲気が似てるわね」

 村を回り始めて、最初のクレアの言葉がそれだった。

 基本的に道は未舗装である。村の中心部に、わずかな商店と村役場、学舎や冒険者ギルドなどがあり、その周辺だけ石畳である。

 そんなのどかな通り沿いには、民家がまばらに存在する。周囲の広がるのはほとんど畑か牧場である。まだ朝食が済んだばかりの時間だが、あちこちに人影が見られ、畑仕事に精を出していた。

 のんびりと畑を見て回る。春野菜の季節なので、キャベツやニンジン、タマネギ、エンドウ豆などが旬である。もちろん、ダイコンやカブ、セロリ、ジャガイモなどいろいろな種類の野菜も育てられている。

「やあ、そこのお若いの。どちらさん達かな」

 仕事途中で一息付けていた高齢の男性が声を掛けてきた。傍らにはその妻なのだろう、同年代の女性もいる。

「こんにちは。精が出ますね」

「こんにちは。僕達、つい最近来た冒険者なんです」

 クレアとアレンがそう答えると、男性と女性が目を丸くしていた。

「そうかい。魔物と戦う冒険者さんだったんかい」

「若いのに大したもんだねえ。立派なもんさね」

 気のいい二人だった。出会ったばかりなのだが遠慮もない。

「二人も一緒にお茶でも一服していかないかね」

「そんな、急にお邪魔しては悪いですよ」

「ええから、ええから。わしらも一休みするところでな」

「若いもんと話をしたくなるもんなんだよ。遠慮せんでええ」

 アレンとクレアは顔を見合わせ、結局好意に甘えることにした。

 そして四人で畑から老人達の家へと向かう。

 出されたのは緑茶だった。お茶請けは茹でたエンドウ豆である。

「この村では緑茶を飲むんですね」

「そうじゃが、二人はどこから来たんかね」

「カルザス村っていう、王国の端っこです」

「それはそれは、遠いところから良く来たのう」

 話をしながらお茶をすする。紅茶と違い、柔らかく旨味のある味と香りが特徴的だった。

「このエンドウ豆、おいしいですね」

 薄っすら塩味がついている。ただ茹でただけの豆だが実においしい。

「今が旬だからの。して、二人は魔物と戦うんじゃろ。恐くないのかね」

「そのために修行を積んできたんです。まだ弱いですけど、もう何体も倒してきましたよ」

「そうか、そうか。そいつはすごいのう」

 のどかな春の畑をのんびり眺めながら、偶然出会った農家の夫婦とお茶を飲む。これはこれで楽しい出来事だった。

 そうして少しの時間、雑談をしたところで、二人は立ち上がった。

「どうもごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

「それは良かった。またの機会に立ち寄っておくれ」

 二人は頭を下げると農家を後にした。

「いい村だね。ノックス村の人達も親切だなあ」

「そうね。いろいろ話もできたし、楽しかったね」

 二人は軽く笑みを浮かべると、また村を巡りに歩いていった。


 村の外れの方まで来ると、牧草地が広がっていた。牛や豚、羊などがあちこちで放牧されている。

「こういうところもカルザス村に似てるね」

「うん。ちょっと懐かしい感じ」

「僕達、冒険者学院に通っていた頃は王都暮らしだったもんな。三年間で都会暮らしにずいぶん染まってたんだな」

「そうだね。石畳の道に人の往来があって、周りはたくさんの建物で囲まれていて。人通りが多いのにも最後は慣れたもんね」

 二人でそんな会話をしながら、のんびり村の景色を眺めていた。

 牛がのんびりと草を食む。時々好きな場所へと動いていく。空は青く、牧場は緑がまぶしい。実にのんびりとした光景だ。

「この景色を守るため、ここで生活する人達のため、僕達は魔物を倒さなきゃいけないんだよな」

 アレンがつぶやく。クレアがうなずいて言葉を返す。

「そうよ。私達、そのために冒険者になったんだもんね」

 アレンはこの数日、魔物討伐で頭が一杯だったが、初心を思い出すことができた。強くなりたいと願っているのは、どんな魔物でも倒せる力が欲しかったからだ。

「思い出せて良かった。確かにたまには休日も必要だね」

「アレンがそう思えて良かったわ。のんびりするのも大事だね」

 話ながら、二人で並んで歩いていく。春の風が草の香りを運んできて爽やかだ。天候にも恵まれ、気分もいい。

「そろそろ昼食にしようか」

 二人は牧場を眺めながら昼食を取ることにした。ダンジョンに潜る時と同じく、村のパン屋で買ったパンである。

「子供時代を思い出すなあ。友達とみんなで、時々一緒におやつ食べてたよね。クレアとは食事もいつも一緒だけど、外で一緒に食べると、昔のことを思い出す感じで、何か懐かしい感じがするよ」

「同感。外で一緒に食べるのって、何かいいよね」

 二人が懐かしそうな表情を浮かべた。幼い頃から一緒の日々を過ごしてきて、そして今日があるのだと思うと感慨深い。

「やっぱりクレアが一緒で良かった。ノックス村に来て七日、何度も回復してもらって、とても感謝してる。おかげでこうして無事に今日を過ごせるし、明日からも頑張れそうだ」

「私もアレンと一緒で良かったよ。ヒーラーって魔物を倒す力はないから、アレンが私の分まで倒してくれて、すごく助かってるんだよ」

 どこまでも生真面目な二人だった。そんな風に互いを褒め合って、笑みを浮かべる。

 それから二人は爽やかな空気の中、のんびりとパンをかじった。とても気分の良い時間だった。


 その後も二人はのんびりと村の中を見て回った。

 牧場や畑の広がる様子に気持ちがほぐれていく。

 通りすがりの人々も、気さくに挨拶をしてくれる。

「こんにちは。新しく来た冒険者さんだね。魔物退治、頑張っておくれよ」

 アレンとクレアのことを知っている人もいて、気持ちが和む。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、どこから来たの?」

 子供達も遠慮なく話し掛けてくる。

「僕達は王都から来た冒険者なんだよ」

「そうなんだ。すごいね。魔物退治頑張ってね」

 そんなちょっとしたやり取りがうれしい。

 気が付くと、このゆったりした時間と、のどかな風景の村になじんでいる自分を感じていた。

「クレアと二人でのんびりできて良かった。今日もありがとう」

「こちらこそ、ありがとう、アレン。のんびりしたいい時間が過ごせて良かったよ」

 日が傾いてきた頃、二人は公衆浴場に行くために、冒険者ギルドへと戻っていった。


 風呂に入って一息付けた後は、いつも通り夕食である。この日もまた料理屋で四人が一緒になった。

「今日はどうだった、アレン、クレア」

 夕食をつまみにエールを飲みながらライルが尋ねてきた。

「すごくのんびりできましたよ」

「久々に解放感があって、すごくいい気分でした」

 二人が返事をすると、ライルが小難しい顔をした。

「いや、そうじゃなくて。せっかく二人きりだったんだろ。何かこう、特別なことはなかったのか」

「農家の方にお茶をご馳走になりました」

「子供達がうれしそうに声を掛けてくれましたよ」

 アレンとクレアはごく普通に答えたのだが、ライルの予想していたものとは全く違っていた。

 そこにリアナが割って入る。

「だから言ったじゃない。この二人、仲も良くて信頼できる相棒同士だけど、そういう関係じゃないって。これで今日の分はライルの奢りだね」

 アレンとクレアが顔を見合わせた。何かライルの期待と違っていたらしい。しかし、のんびり休日を過ごせたのは事実で、それ以上でもそれ以下でもない。それにしても、ライルとリアナは何に賭けていたのだろうかと、二人で不思議そうな顔をしていた。

「まあ、いい。今回は俺の負けだ。でも、アレンとクレアも、いずれは特別な間柄になるさ。それまで見守るのが年上の役割だな」

 ライルが訳知り顔で言う。アレンとクレアが首を傾げる。

 そしてその場をリアナがまとめた。

「まあ、このおっさんはほっといていいよ。それより、今日は二人でのんびりできて、気力も十分って感じだね。また明日から頑張るわよ」

 リアナが親指を立てる。アレンとクレアも笑みを浮かべてそれに倣った。ライルも気を取り直して親指を立てる。パーティとして互いを信頼し合う四人なのだった。

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