第十話 強敵ロックゴーレム
「ねえ、ライル、本気なの?」
リアナが驚いた顔のまま尋ねた。レベル二のアレンとクレアには荷が重すぎる相手だ。リアナでも単独での撃破はかなり難しい。
「本気も本気。強さを実感できたところで、ちゃんと俺が片付けるから心配しなさんな」
「まあねえ。ライルの強さなら大丈夫だと思うけど、それってあんまり二人のためにはならないんじゃない?」
「そんなこともないだろ。この魔物が倒せるくらいには強くならないとって、むしろ思うんじゃないかな」
アレンとクレアには二人のやり取りの意味が良く分からない。それほどまでの強敵なのだろうか。
「ダンジョン上層の魔物の中では、一、二を争う頑丈な魔物なんだよ。力も物凄い。メイジなしで倒すのはかなりレベルが上がらないと無理な相手なんだ。そういう魔物もいるんだって、知っておくのは無駄にならない」
そう言うと、リアナに案内を頼んだ。先程の探知魔法で場所は特定できているはずだ。
「ロックゴーレムねえ。分かった、そこまで案内する。最後はライル任せになるけど、それを見るのも経験の内ってことかな」
そして四人はリアナの先導で奥へと進んでいった。
案内された部屋に着くと、中央の大きな岩の塊があった。
「もしかして、あれがロックゴーレムですか?」
「近づけば分かる」
四人はそっと岩の塊に近づいた。
すると、人間の接近を感知して、その岩の塊が動き出した。体が伸び、手が伸び、足が伸び、頭が持ち上がり、人型になる。体高は二メートル半を超えたくらいか。思ったほどには大きくない。
「とりあえず戦ってみな。危なくなったら手を貸す」
ライルの言葉で戦闘開始となる。
「分かりました。クレア、フォロー頼む。リアナさんは援護を」
アレンが剣を抜いて間合いに入る。
するとゴーレムの拳が飛んできた。攻撃は殴る、蹴るだけのようだ。落ち着いてかわせば大丈夫だろうと、アレンがよく見て避ける。
「今だ!」
拳をかわした瞬間、ゴーレムに大きな隙ができていた。それを逃さず、アレンが斬撃を放つ。
「なんだこれっ!」
高らかな金属音がして、剣が弾き返された。わずかにゴーレムの体に傷がついているが、並の魔物なら容易に斬り裂く斬撃が通用しないことに、アレンは驚いた。
リアナも同じように攻撃を加えているが、やはりわずかな傷をつけることしかできない。それほどに硬いのである。
「なら、魔法剣で。魔法剣、ウィンド!」
アレンが剣に風をまとわせる。
「蒼空斬!」
ジャイアントホーネットを間合いの外から斬り裂いた技だ。剣がまとった圧縮空気が刃となって放たれ、ゴーレムの胴体に当たる。しかし、先程の斬撃と同様、わずかな傷をつけただけにとどまった。
「どうすればいいんだ、これ」
アレンが迷ったのはほんの短い時間だったが、その隙にゴーレムの拳がまた迫っていた。
「アレン、危ない! ホーリーシールド!」
クレアがとっさに魔法の楯を展開し、アレンをかばった。そこにゴーレムの拳が激突する。クレアがその衝撃で大きく後ろへと押し込まれる。
「攻撃も防ぐのがやっとだなんて。ここは強化魔法の出番ね」
クレアがわずかな時間考え、即座に魔法を放った。
「ストレングス!」
身体能力を強化する魔法である。それを自分とアレン、リアナに掛けた。魔法の残り回数がかなり減ってしまったが、気にしている場合ではない。
「私が攻撃を防ぐから、アレンとリアナさんは傷を広げて」
そう言ってクレアが前に出る。そしてゴーレムの攻撃をひたすらに耐える。それはかなりの重圧だったが、クレアは一歩も引かなかった。
「分かった。魔法剣、ファイア!」
アレンが魔法剣を切り替え、剣に炎をまとわせた。高熱の方が傷を与えられるだろうと考えたのである。そして、炎の剣で斬撃を加える。一撃ごと正確にゴーレムの腹部を狙い、同じ場所に斬りつけていく。
反対側の胴体にはリアナが攻撃を加えていた。アレンと同様、同じ場所を正確に狙い、傷を広げようと斬撃を繰り返す。
そしてゴーレムの反撃が来ると、即座に身を引き、クレアの楯の陰に隠れる。クレアが代わりにシールドでその攻撃を受け止める。
「こうなれば何度でも!」
アレンが気合を入れ直す。隣ではリアナもまだ攻撃をしていた。
二人は何度も魔法の楯からの出入りを繰り返し、ゴーレムの腹部に攻撃を行った。常に同じ場所を狙い、傷を広げようと試みていた。確かにその傷は少しずつ広がっている。しかし、そこまでしても攻撃しないよりはまし、という程度だった。このままではとても倒せそうにない。
「シールドはともかく、私がそろそろ限界」
繰り返し攻撃を受け続けていたクレアがさすがに弱音を吐いた。確かにこれ以上の攻撃を受け続けるのは難しいだろう。もう後がない。アレンはライルに助けを求めた。
「ライルさん、援護頼みます!」
「あいよ。ファイアボール」
ライルが炎の初級魔法を放つ。拳大の火球がゴーレムの胴体に当たり、周囲を高温で熱する。しかし、頑丈なゴーレム相手には通用していない。
「ライルさん!」
アレンが焦って声を掛けるが、当の本人は冷静だった。
「こういう作戦なんだよ。アイシクルランス」
続いてライルは氷の槍の魔法を放った。狙い違わず、先ほど火球が直撃した場所に直撃する。氷の槍でもゴーレムの胴体を貫通することはできなかったが、体に異変が起こっていた。当たった場所が変色していたのである。
「急激な温度差を加えて脆くする方法なんだ。リアナ、とどめ頼む」
「了解。いくわよ、刺突七連!」
リアナはこの方法でゴーレムを倒せるのを知っていた。ライルの求めに応じ、必殺技をゴーレムの胴体に撃ち込む。渾身の突き技を連続で七回叩き込む技だ。
変色して脆くなった場所に全ての刺突が集中した。シーフながらその威力は十分で、短剣で突き刺した場所を一撃ごとに大きく削っていた。そして七発全ての鋭い突きが決まった時、ゴーレムの体に大きな穴が開いた。
そしてゴーレムが地に倒れ、魔石を残して霧状になって消えていく。
アレンが驚きのまま固まっていた。あれほど頑丈だったロックゴーレムを、あっという間に倒した連携の見事さに目を奪われていたのである。
「アレン、確認」
クレアがそんなアレンに声を掛ける。彼女自身も驚いてはいたが、ライルの自信ありげな様子から、簡単に倒せるのだろうと予測していたので、アレンのように自失するほどではなかった。
「えっと、ごめん。みんな異常ないかな」
我に返ったアレンが、仲間の無事と異常の有無を確認する。
ライルとリアナは問題なかったが、クレアが無事ではなかった。
「体中がギシギシ言っている。攻撃を防げたのは良かったけど、かなりきつかった。自分にヒール掛けるわ。それで魔法も残り五回になるから、ちょっと節約した方がいい感じね」
そう言って、自分に回復魔法を掛け、無理をした身体を回復させた。
「ありがとう、それから無理させてごめん、クレア。おかげで助かった」
アレンの言葉にクレアが笑顔を返した。
「このくらい、連携に必要なんだから、当然のことよ」
一段落して、ライルも声を掛けてきた。
「どうだった、ロックゴーレムは」
「はい。硬いし攻撃の威力もあるし、かなりの強敵でした」
「そう思うだろ。でも、数ある魔物の中で、あれでも弱い方だからな」
「はあ、そうなんですか」
アレンがため息をついた。レベルが一つ上がり、前に苦戦した魔物が倒せたからといって、慢心してはいけないことが十分に理解できた。
「そう、常に上には上がいる。高いところを目指すんだろ、アレン」
「ライルの言う通り。あたしだってレベル十でまだまだって思ってるんだから、アレンも諦めずに頑張りなよ」
ライルとリアナに励まされ、アレンは力強くうなずいた。
「分かりました。これからも頑張ります」
そこから四人は引き上げに入った。
帰りがけの駄賃とばかりに、少し離れたところにいたジャイアントバット三体と戦闘することにした。
「僕がクレアと二人で一体何とかします。残り二体、ライルさんとリアナさんにお願いします」
アレンも自分の実力をきちんと見極め、そんな提案をしていた。確かに二人でようやく一体倒せるかどうかというところだ。良い傾向だとライルとリアナは思った。
「クレア、大変だけど、またシールド頼む」
「任せて。ホーリーシールド!」
そしてアレン達は二人一組で一体のジャイアントバットと交戦に入った。
「リアナ、囮頼む」
「了解。じゃあ、いくわよ」
ライルとリアナの方も二人一組でジャイアントバット二体と交戦した。
こちらの方はレベルが高いだけあって、リアナが余裕でジャイアントバットの攻撃をかわし、隙を作っている。そしてライルが攻撃魔法を放つ。
「ウィンドカッター」
真空の刃を飛ばす風属性の初級魔法である。それが一体のジャイアントバットに直撃し、その胴体に真っ二つに斬り裂いた。その一体が魔石を残して霧状になって消えていく。
「お見事。もう一体、頼んだわよ」
リアナがそう言ってもう一体を釣り出し、その攻撃をわざと受ける。そして見事な速度でそれを回避する。さすがはシーフ、陽動としてとても優秀なのだった。
「ウィンドカッター」
そして二体目もライルがあっさりと倒している。
そして余裕のできた二人がアレンとクレアの様子を見に行くと、しっかりと善戦していた。
クレアがシールドで攻撃を受け、その隙にアレンが反撃を加える。狙いはジャイアントバットの羽だ。空中を飛び回られていては、剣の攻撃は届かないからである。そこでアレンは一工夫していた。
「魔法剣、ウィンド」
この魔法剣なら剣が届かなくても傷をつけることができる。
アレンとクレアは二人で協力し、ジャイアントバットの羽に対する攻撃を何度も繰り返した。敵の攻撃はクレアがシールドで受ける。どちらか片方ではできない連携だ。さすがは幼馴染同士、息もしっかり合っていて、着実にジャイアントバットの羽に傷をつけていった。
「これで五回目!」
何度も繰り返し攻撃した結果、ジャイアントバットの羽を斬り落とすことに成功していた。
「よし、地上に落ちた。チャンスだ」
アレンが突進する。そしてジャイアントバットの間合いに入った。
必死に抵抗しているのか、バットが腕を振り回した。アレンは落ち着いてそれを見切り、体ごとそれを避けた。そして空振りした腕に斬撃を加えて、その腕を斬り飛ばした。
「これでとどめだ!」
アレンが全力の斬撃をジャイアントバットの頭上に見舞った。
ジャイアントバットの頭部が真っ二つとなり、上半身まで斬り裂いていた。バットが倒れ、魔石を残して霧状になって消えていく。
「全員異常ないですか」
今度はきちんと確認をする。問題なしとの答えにアレンがほっとする。
「ライルさん、リアナさん、二体も倒してくれてありがとうございました。おかげで一体に集中できました。助かりました」
「それが俺達の役目だからいいんだよ。必要な時に仲間の力を頼るのは大切なことだからな」
「そうそう。ライルは何だかんだと強いからね。任せても大丈夫。それよりも、ただ倒すだけじゃなくて、アレンとクレアが経験を積んで強くなるのが一番大切だから。今回のロックゴーレムとジャイアントバットはいい経験になって良かったわね」
リアナの言葉にアレンがうなずく。
仲間に恵まれて良かった。二人の先輩は頼りになるし、相棒のクレアとの連携もしっくりくる。いい戦いができているおかげで、一戦ごとに自分が成長できている実感がする。アレンはそれがうれしかった。
「お、アレン、何笑ってるんだ」
「いえ、仲間に恵まれて良かったなと、そう思ったんです」
「そうですね。私も自分の役割に集中できますし、楯役をするっていういい経験も積めました。良かったです」
クレアも似たようなことを思っていたのだった。
「よし、じゃあ、今日のところは引き上げだな。でも、やっぱりこの程度だとまだ赤字だ。帰りに蟻の巣に寄るようだな」
ライルが苦笑いしながら言った。確かに入手した魔石では四人で分けると銀貨一枚にも満たない。
「分かりました。蟻の巣で狩るのも、僕達が強くなるまでは定番になりそうですね」
そして四人はダンジョンを出て蟻の巣へと向かうのだった。




