第13話 絶望の戦い
翌朝、
私たちは、宿を出発した。
砂漠の空は、どこまでも青く澄んでいる。
でも、その美しさが、逆に不気味に感じられた。
全員が、緊張していた。
アラン兄様も、サリアも、レオ様も。
みんな、剣に手をかけたまま、窓の外を見つめている。
馬車が、砂漠の中を進む。
車輪が砂を踏む音だけが、静かに響いていた。
沈黙が続き、
誰も、喋らない。
ニーヴも、私の膝の上で、ずっと耳を立てている。
警戒し続けているのだ。
私は、心配になって、ニーヴの頭を撫でながら
「ニーヴ……大丈夫?」と声をかけた。
ニーヴは、窓の外を見つめたまま
「……まだ来ねえな。」と呟いた。
その声には、いつもの傲慢さが感じられなかった。
レオ様も、剣に手をかけたまま、
ずっと、窓の外を見ている。
みんな沈黙していて、
砂漠の風の音だけが聞こえる。
乾いた、冷たい音だ。
正午になったのだろう。
太陽が、真上に来た。
砂漠が、白く輝いている。
その時――
ニーヴが、全身の毛を逆立てて叫んだ。
「来るぞおおおお!」
馬車が急停止した!
御者の悲鳴が聞こえる。
「化け物だ! 化け物の群れだ!」
全員が、馬車から飛び出す。
私も、レオ様に手を引かれて降りる。
そして――
私は、息を呑んだ。
前方、砂漠の地平線から。
黒い影が、湧き出してくる。
20体以上。
人型の影が、砂漠に立っている。
黒い瘴気を纏って。
その瘴気が、砂漠の熱い空気を歪ませている。
アラン兄様が、驚愕の声で
「何だ、あれは……!?」
サリアが剣を抜く。
刀身が、太陽の光を反射する。
「リディア様を守ります!」
ニーヴが、砂の上に降り立つ。
「ほら来た! 俺様の出番だ!」
ニーヴが、飛び出した。
白い体が、砂漠に映える。
黒い影に向かって。
爪を振りかざして、引っ掻く。
でも――
爪が、通らない!
まるで、空気を引っ掻いているように。
ニーヴが驚いて叫んだ!
「え!? 嘘だろ!?」
黒い影が、ニーヴを殴った。
ニーヴが、吹き飛ばされる。
「痛ってええええ!」
砂の中に突っ込む。
砂煙が、大きく上がった。
アラン兄様が、真顔で
「大丈夫か?……後ろに引っ込んでろ!」
砂の中から、ニーヴの声がした。
「うるせえ! まだ本気の本気を出してないだけだ!」
サリアが、黒い影と戦っている。
剣を振るう。
綺麗な軌道。
でも、剣が通らない!
刀身が、影をすり抜ける。
サリアが驚愕の表情を見せる。
「なぜ……!?」
アラン兄様も、剣で斬りかかる。
でも、効かない!
私は、震えた。
でも――
みんなが、私を守るために戦っている。
私も、何かしなきゃ。
私は、手を前に出す。
光の魔法を、集中させる。
金色の光が、私の手のひらに集まる。
「みんな、下がって!」
私は、光を放った。
金色の光が、黒い影たちを包む。
影たちが、怯む。
少しだけ、後退する。
でも――
それだけだった。
影たちは、すぐに体勢を立て直す。
私の光でも、倒せない。
ライリー様が、魔法で応戦する。
火の魔法。
炎が、砂漠の空気を更に熱くする。
黒い影を包む。
でも――
影は、少し怯むだけ。
ルキウス様も、剣で戦っている。
「くそっ……この美しき剣技が通用しないなんて……!」
カトリーナが、私の隣に来る。
「リディア様、下がってください!」
でも、私は首を横に振った。
「いいえ……私も戦います!」
もう一度、光の魔法を放つ。
でも、効果は薄い。
護衛の兵士たちが、次々と倒れていく。
砂の上に、血が滲む。
私は、震えた。
(みんなが……みんなが……!)
その時――
地面が、揺れた。
砂が、波打つ。
何か、巨大なものが近づいてくる。
黒い影たちが、道を開ける。
まるで、王を迎えるように。
そして――
現れたのは、
巨大な黒い騎士だった。
他の影の、2倍の大きさ。
全身が、黒い鎧で覆われている。
太陽の光すら、吸い込むような黒さ。
大剣を持っている。
その剣は、人の背丈ほどもあった。
黒い騎士が――
喋った。
低く、不気味な声をしていた。
「新女王よ……貴様の命、いただく……」
全員が、恐怖を感じた。
アラン兄様が叫ぶ。
「そうはさせない……!!」
砂の中から、ニーヴが這い出してくる。
砂まみれ。
でも、諦めていない。
「お嬢に手を出すな! 俺様が相手だ!」
ニーヴが、黒い騎士に飛びかかる。
渾身の一撃!
爪を、全力で振り下ろす。
でも――
黒い騎士が、ニーヴを掴んだ。
片手で。
まるで、小さな虫を掴むように。
そして――
投げ飛ばした!
「ぐはああああああ!」
ニーヴが、遠くまで飛ばされる。
砂煙が、大きく上がる。
私は、叫んだ。
「ニーヴ!」
黒い騎士が、レオ様に襲いかかる。
大剣を、振り下ろした!
剣が、空気を切り裂く大きな音がした。
レオ様が、剣で受け止める。
ガキィィィン!
金属がぶつかる、激しい音。
砂漠に響き渡る。
でも――
圧倒的な力の差。
レオ様の剣が、弾かれる。
黒い騎士の拳が、レオ様の腹に。
「ぐはっ!」
レオ様が、吹き飛ばされる。
血を吐く。
砂の上に、赤い染みが広がる。
私は、悲鳴を上げた。
「レオ様ああああ!」
私は、レオ様に駆け寄ろうとする。
でも――
黒い騎士が、私に迫ってくる。
ゆっくりと。
まるで、獲物を楽しむように。
「さあ……死ね……」
アラン兄様が、立ち塞がる。
剣を構えて。
「リディアに……触れるな……!」
アラン兄様が、全力で斬りかかる。
でも――
黒い騎士の一撃。
まるで、虫を払うように。
アラン兄様が、吹き飛ぶ。
「ぐああああ!」
地面に、叩きつけられる。
動かない。
私は、泣き叫んだ。
「お兄様ああああ!」
私は、アラン兄様に駆け寄ろうとする。
でも、黒い騎士が道を塞ぐ。
サリアが叫ぶ。
「アラン様!」
サリアが、黒い騎士に斬りかかる。
でも――
黒い騎士に、蹴り飛ばされる。
サリアも、砂の上に倒れた。
私は、光の魔法を放つ。
「みんなを……傷つけないで!」
金色の光が、黒い騎士を包む。
でも――
騎士は、少し足を止めるだけ。
すぐに、歩き始める。
ライリー様が、火の魔法を放つ。
「これで……!」
炎が、黒い騎士を包む。
でも――
黒い騎士は、少し怯むだけ。
「無駄だ……」
黒い騎士が、ライリー様を殴る。
ライリー様が、倒れた。
砂に血が滲む。
ルキウス様も
「くそっ……!」
全力で、斬りかかる。
でも――
黒い騎士に、弾かれる。
ルキウス様も、倒れる。
カトリーナが、私の前に立つ。
震えている。
でも、退かない。
「リディア様……私が……守ります……」
黒い騎士が
「邪魔だ」
カトリーナを、殴る。
カトリーナが、吹き飛ばされる。
血を流している。
「カトリーナああああ!」
私は、カトリーナに駆け寄る。
抱きかかえる。
「カトリーナ……! カトリーナ!」
カトリーナが、弱々しく
「リディア様……逃げて……」
でも、逃げられない。
全員が、倒れている。
傷だらけ。
血を流している。
砂の上に、赤い染みが点々と広がっている。
私は、絶望の表情で立ち上がる。
涙が、止まらない。
でも――
私は、黒い騎士の前に立つ。
両手を広げて。
「みんなを……これ以上……傷つけないで!」
光の魔法を、必死で集める。
金色の光が、私の体を包む。
でも――
力が、足りない。
黒い騎士が、私を見下ろす。
「無駄だ……」
大剣を、振り上げる。
私は、それでも光を放つ。
でも、騎士は止まらない。
「さあ……新女王よ……死ね……」
私は、涙を流しながら
(ごめんなさい……みんな……)
(私が……弱いせいで……)
(私が……もっと強ければ……)
リディアの頭上に、
黒い騎士の大剣が、振り下ろされようとしていた。




