第10話 秘密の共有
部屋のランプが、静かに揺れている。
私は鏡の前に座り、何度目かの髪を整えていた。心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
「レオ様が……来る……」
そう呟いた瞬間、窓がそっと開いた。
月明かりの中、黒髪の青年が静かに部屋に入ってきた。
「レオ様……」
私の声は震えていた。
彼は何も言わず、まっすぐ私のもとへ歩み寄り――そして、抱きしめてくれた。
「会いたかった……ずっと……」
その声が、切なく響く。
「私も…………」
彼の胸に顔を埋めると、涙が溢れてきた。
レオンハルトが優しく私の顎を持ち上げる。金の瞳が、私を見つめている。
「君を愛してる。前世も、今世も」
その言葉と共に、彼の顔が近づいてくる。
私は目を閉じた。
柔らかく、優しく、唇が触れ合う。
涙が止まらない。嬉しくて、愛おしくて、胸が張り裂けそうだった。
レオンハルトが唇を離し、額を合わせる。
「君の涙……嬉しい涙?可愛いな」
「ええ……嬉しくて……」
彼は微笑み、再び唇を重ねた。
今度は深く、情熱的に。
私は無意識に、彼の首に腕を回していた。
レオンハルトが私を抱き上げ、ベッドに座る。私は彼の膝の上に座り、彼の黒髪に指を絡めた。
「リディア……綺麗だ……」
彼が私の髪を梳きながら、再びキスをする。
何度も、何度も。
彼の手が私の背中を優しく撫でる。息が切れて、名前を呼んだ。
「レオ様……」
彼が私の首筋に唇を寄せる。
身体が震えた。熱い。こんな感覚、初めてで――
「君が欲しい……でも……」
レオンハルトが私の顔を見つめる。その瞳は真剣だった。
「今夜は……ここまでにしよう。君を大切にしたい」
「レオ様……」
彼が優しくキスをする。
その瞬間――
「おいおい、ここでイチャイチャすんのかよ! ってか、お前ら、もう少しで最後まで行くところだったぞ!」
窓から白い影が飛び込んできた。
ニーヴだ。
私たちは驚いて離れた。顔が燃えるように熱い。
「……ニーヴ」
レオンハルトが呆れた声を出す。
ニーヴが私たちの間に座り込み、尻尾を振った。
「まあ、お前は悪くねえな。でも、お嬢を泣かせたら許さねえからな」
レオンハルトが笑い出した。
「約束する。リディアを泣かせたりしない」
彼がニーヴの頭を撫でる。
ニーヴが喉を鳴らした。
「ゴロゴロ……まあ、悪くねえ」
三人で笑い合った。
シリアスな雰囲気が一気に和らいだ。ニーヴはすごい。
レオンハルトが私の額にキスをする。
「愛してる……でも続きは結婚してからだ」
私の顔が再び熱くなった。
「レオ様……!」
ニーヴが大きく欠伸をした。
「じゃあ、俺はちょっと外に出てるわ。話したいこともあるんだろ?」
そう言って、窓から飛び出していく。
部屋に再び静寂が戻った。
レオンハルトの表情が、真剣なものに変わる。
「リディア……実は俺も魔王復活のこと……知ってるんだ」
私は息を呑んだ。
「レオ様……!」
彼が私の手を握る。
「俺も、君が即位した日……同じ時刻に、前世の記憶を思い出した」
「本当に……!?」
私は一人であの秘密を抱えていたわけじゃなかった。
重圧やプレッシャーが少し和らいだ気がした。
「ああ。アシュベル王国で、突然激しい頭痛に襲われて……前世の記憶が一気に蘇った」
彼は続けた。
「前世で、七人の王が魔王を封印したこと……千年後に再び復活すること……」
「そして……これから半年後から、七つの国の王族の魔力が必要になること……」
私は泣きながら、彼を見つめた。
「レオ様……知っていたのね……」
レオンハルトが私を抱きしめてくれた。
「ああ。でも、"秘密は女王のみが知る"ことも、前世の記憶でわかっていた」
「だから、君からは言い出せないことも、わかっていた」
私は泣きながら、笑った。
「ありがとう……レオ様……一人じゃないって……わかって……」
どれだけ不安だったか。どれだけ孤独だったか。
でも、もう大丈夫。
彼が優しく囁く。
「君は一人じゃない。俺が一緒に戦う」
「半年後、俺が最初に石に魔力を注入する」
私は頷いた。
「はい……一緒に……世界を救いましょう……」
レオンハルトが続ける。
「そして、前世ではリディアより先に死んでしまって、君を守りきれなかったが……今度こそ、守る。何があっても」
私も彼を見つめた。
「レオ様……今度は、私も貴方を守ります……」
二人で抱き合う。
彼の温もりが、こんなにも安心させてくれる。
「二人で、世界を救おう」
レオンハルトが微笑んだ。
私も微笑み返す。
「はい」
窓の外から、ニーヴの声が聞こえた。
「おい、そろそろ戻っていいか? 外、寒いんだけど」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「ニーヴ、入っていいわよ」
白猫が窓から飛び込んできて、ベッドの上でゴロンと横になる。
「で? イチャイチャは終わったのか?」
「ニーヴ……」
私が呆れた声を出すと、レオンハルトが笑った。
「ニーヴ、リディアを頼む。俺がいない時も、守ってやってくれ」
ニーヴがふんと鼻を鳴らす。
「言われなくてもやってるっての。お嬢は俺の大事な……まあ、その……」
ニーヴが恥ずかしそうに顔を背ける。
可愛い。
「ありがとう、ニーヴ」
私が頭を撫でると、ニーヴが喉を鳴らした。
「……まあ、悪くねえけど」
レオンハルトが立ち上がる。
「そろそろ戻らないと。また明日、会おう」
「はい」
彼が最後にもう一度、優しくキスをしてくれた。
「おやすみ、リディア」
「おやすみなさい、レオ様」
彼が窓から出て行く。
私はベッドに横になり、ニーヴを抱きしめた。
「ニーヴ……私、幸せよ」
「……まあ、よかったな」
ニーヴが小さく呟く。
月明かりが、部屋を優しく照らしていた。
――一人じゃない。
――レオ様と一緒なら、どんな運命も乗り越えられる。
魔王復活まで、残り1年。
これから、本当の戦いが始まる――。




