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【第三章始まりました】「死んだ娘」と捨てられて――皿洗いから始まる逆転人生  作者: 風谷 華
第三章

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第9話 運命の再会

 朝から落ち着かなかった。

 城の廊下を何度往復したか分からない。窓から城門を見つめては、まだかまだかと心臓が早鐘を打つ。


「リディア様、少し落ち着かれては……」

 カトリーナが心配そうに声をかけてくれたが、私は首を横に振った。

「無理よ、カトリーナ。だって……だって今日、レオ様が……」

 その名前を口にしただけで、胸が熱くなる。涙が溢れそうになるのを必死でこらえた。


 サリアが静かに私の肩に手を置く。

「大丈夫です。必ず、来られます」

「うん……ありがとう、サリア」



 そして、夕刻。

 城門の見張り台から、鐘の音が響いた。

「使者が参ります!」

 兵士の声が城中に響き渡る。

 私の心臓が、止まりそうなほど激しく鳴った。

「アシュベル王国、王太子レオンハルト殿下が到着されます!」


 ――来た。

 体が勝手に動いていた。


「リディア様!」

 カトリーナの声も、サリアの制止も、何も聞こえない。私はドレスの裾を掴んで、城門へと駆け出していた。

「リディア!」

 アランの驚いた声が背後から聞こえたが、止まれない。止まりたくない。


 城門の前には、既にエリシアが立っていた。彼女は私を見て、優しく微笑んだ。

「行きなさい、リディア」

「母様……!」

 

 城門がゆっくりと開いていく。

 夕陽が、まばゆいほどの光を放っている。

 

 そして――

 逆光の中、一人の青年が馬から降り立った。

 黒髪。金の瞳。凛とした佇まい。

 レオンハルトだった。

 

 時が、止まったような気がした。

 私たちの視線が、交わった。

 その瞬間――

 脳裏に、鮮明な映像が駆け巡った。

 

 ――前世の庭園。満開の薔薇。

 ――抱き合う二人。

 ――「君だけを愛す」

 ――「私も、永遠に」

 ――引き裂かれた運命。

 ――叫び声。そして、涙。

 

 気がつけば、頬を涙が伝っていた。

 レオンハルトも――彼も、金の瞳に涙を浮かべて、私を見つめている。


「リディア……!」

 彼が駆け出した。

 私も、駆け出していた。

「レオ様……!」

 距離が縮まる。もう何も見えない。ただ彼だけが、世界の全てだった。

 そして――

 私たちは、抱き合った。

 

 彼の温もり。鼓動。香り。全てが懐かしくて、愛おしくて、涙が止まらない。


「リディア……! 君も……覚えているのか……!」

 震える声。彼も泣いている。

「レオ様……! 貴方も……!」

 私たちは泣きながら、笑った。

「前世で……君を守りきれなかった……でも、今度こそ……」

「レオ様……会いたかった……ずっと……!」

 

 レオンハルトが私を抱き上げ、くるりと回す。

 世界が回る。でも怖くない。彼がいるから。


「ああ……愛おしくてたまらない……」

 彼が私を下ろし、両手で私の頬を包んだ。

「もう離さない。何があっても」

 額と額が触れ合う。


「君は、俺のものだ。前世も、今世も、来世も」

 その言葉に、また涙が溢れた。

 そして彼は、私の唇に指を当てる。

「今すぐキスしたい……でも、みんなが見てる……」


 そう言われて初めて、周囲の視線に気づいた。顔が熱くなる。

 レオンハルトが私の耳元に顔を近づけ、囁く。

「今夜、君の部屋に行く。待っていてくれ」


 そして、さらに声を落として――

「話したいこともある……魔王のことも……」

 私は息を呑んだ。

(レオ様も……知っているのね……!)

 私は小さく、頷いた。

 周囲がざわめいている。

「アシュベルの王太子と女王が……!」

「なんてお似合いなんだ!」

 城のみんなの歓声が上がる。


 エリシアが穏やかに微笑んでいる。アランも、いつになく優しい表情で私を見ていた。

「よかったな、リディア」

 サリアとカトリーナは、涙を浮かべている。


「やっと会えたな、お嬢」

 ニーヴの声が、木の上から聞こえた。

 私は思わず笑ってしまった。ニーヴらしい。

 

 その時。

 城門の影に、二つの人影があった。

 レオンハルトの弟ライリーは、悲しげに微笑んでいた。

 

「まあ、俺が一番美しいけどね」

 ヴェルディナの貴族、ルキウスが鏡を取り出して、自分の髪を整えている。


「ルキウス……」

 サリアが呆れた声を出した。

「なに? 事実を述べただけよ? ほら、この完璧な横顔。夕陽に照らされて、まるで天使の降臨……」

「誰もそんなこと聞いてない」

 カトリーナが小声でぼそっと言う。


 ニーヴが木から飛び降りて、ルキウスの頭を叩いた。

「うるせえ! せっかくの感動シーンが台無しだろうが!」

「痛っ! 猫風情が俺の美しい顔に傷をつけたら、どう責任取るつもり……」

「責任? お前の顔なんか誰も見てねえよ!」

 アランが大きくため息をついた。

「……お前ら、少しは空気読め」

「アラン殿、諦めた方が早いですよ」

 ライリーが苦笑する。


 

 私は、レオンハルトを見上げた。

 彼も笑っている。

「……賑やかだな」

「ええ。いつも、こんな感じなの」

「いいな。温かくて」

 彼が再び私を抱きしめる。

「リディア。今夜、必ず君のところへ行く」

「はい……待ってます」

 

 夕陽が、二人を包み込んでいた。

 

 そして私は思った。

 ――やっと、会えた。

 ――前世で果たせなかった約束を、今度こそ。


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