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伝説のスパイは溺愛から逃れたい  作者: 空雨 依里
3章

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26 なぜ

 どうやっても、私を歩かせる気がないようで、レンは私の試みを全部阻止しながら歩く。


(器用だなぁ……)


 もうここまで来ると感心しかない。

 それにしても、なぜこんなに私と接近するのだろう。


 通り過ぎていく景色を見ながら、思案する。

 気づけば恐怖心はなくなって、疑問ばかりが頭を占めていた。


 そもそもの話、スパイの本拠地にどう来れたのか。

 いくらこの国の貴族であり、王家から二番目に立場が上な公爵だとしても、このスパイの本拠地には入れない。



 ──情報がないから



 それが大きな理由の一つ。

 スパイたるもの、存在を公開してしまうと厄介なのだ。

 任務的に。


 だから、ここの本拠地は利用した人から聞いた。縁でたどり着いた。

 あと、王家の中でも限られた人。

 ……最後にボスに関わる人? くらいだ。


 それでも、多いのに、一体なぜここにたどりつけたのか。


「あの」

「ん?」


 前を見たまま答えるレンは全く歩くペースを落とさない。

 ……迷いがない?


 その点に気づいて、ドキっとする。

 きゅんとしたとかじゃなくて、普通にびっくりして。


スパイの本拠地(ここ)の地形が全てわかっている……?)


 ここを通う人でも迷うと言われる本拠地を、地図を見ないで普通の道のように歩いている。


「なぜここに来られたのですか?」


 本拠地は敵に情報を漏らさないように、頑丈に作られているし、侵入に備えて罠も仕掛けてある。それと、迷路みたいに行き止まりだってある。


 そこを我が家のようになぜ歩けているのか。

 疑問のすべてを言外に込める。


「……何を聞きたいのか、だいだいわかる声だなぁ」

「はい?」

「なんでもないよ」


 なにかをぼそっといたレンに聞き返すと、一度だけ私のほうに振り返り、にっこりと微笑んだ。面白がっているのがわかる。


(……?)


 思わず眉を歪めて見返す。


「さあ、なんでだと思う?」


 と歌うように言葉が落とされる。


(答える気はない、ということか……)


 やはりこの人は油断できない。



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