26 なぜ
どうやっても、私を歩かせる気がないようで、レンは私の試みを全部阻止しながら歩く。
(器用だなぁ……)
もうここまで来ると感心しかない。
それにしても、なぜこんなに私と接近するのだろう。
通り過ぎていく景色を見ながら、思案する。
気づけば恐怖心はなくなって、疑問ばかりが頭を占めていた。
そもそもの話、スパイの本拠地にどう来れたのか。
いくらこの国の貴族であり、王家から二番目に立場が上な公爵だとしても、このスパイの本拠地には入れない。
──情報がないから
それが大きな理由の一つ。
スパイたるもの、存在を公開してしまうと厄介なのだ。
任務的に。
だから、ここの本拠地は利用した人から聞いた。縁でたどり着いた。
あと、王家の中でも限られた人。
……最後にボスに関わる人? くらいだ。
それでも、多いのに、一体なぜここにたどりつけたのか。
「あの」
「ん?」
前を見たまま答えるレンは全く歩くペースを落とさない。
……迷いがない?
その点に気づいて、ドキっとする。
きゅんとしたとかじゃなくて、普通にびっくりして。
(スパイの本拠地の地形が全てわかっている……?)
ここを通う人でも迷うと言われる本拠地を、地図を見ないで普通の道のように歩いている。
「なぜここに来られたのですか?」
本拠地は敵に情報を漏らさないように、頑丈に作られているし、侵入に備えて罠も仕掛けてある。それと、迷路みたいに行き止まりだってある。
そこを我が家のようになぜ歩けているのか。
疑問のすべてを言外に込める。
「……何を聞きたいのか、だいだいわかる声だなぁ」
「はい?」
「なんでもないよ」
なにかをぼそっといたレンに聞き返すと、一度だけ私のほうに振り返り、にっこりと微笑んだ。面白がっているのがわかる。
(……?)
思わず眉を歪めて見返す。
「さあ、なんでだと思う?」
と歌うように言葉が落とされる。
(答える気はない、ということか……)
やはりこの人は油断できない。




